goo blog サービス終了のお知らせ 

孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

パレスチナ・ガザ地区  ラファ検問所の部分的開放とガザ封鎖の今後

2010-06-11 23:01:09 | 国際情勢

(08年1月、壁が爆破された頃のラファ ガザ住民からの投石を受けるエジプト国境警備部隊 “flickr”より By bullitproofbaby
http://www.flickr.com/photos/13426282@N06/2225718042/)

【エジプト 批判をかわす狙い】
イスラエル軍がパレスチナ・ガザ地区支援船を強襲し死傷者が出た事件は、イスラエルに対する非難を国際的に呼び起こし、イスラエル国内でもガザ経済封鎖の有効性への疑問を惹起していることは、
6月2日ブログ「ガザ地区支援船団強襲事件 強まるイスラエル批判 国内からも批判 ラファ開放」
http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20100602)や、
6月8日ブログ「イラン ガザ地区支援船派遣を発表 問題国イラン・イスラエルの衝突の懸念も」
http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20100608
でも取り上げたところですが、この事件がもたらした大きな変化のひとつが、ガザ地区がイスラエル以外の国とつながる唯一のルートであるラファ検問所をエジプトが開放したことでした。

6月2日ブログでも書いたように、イスラエルによるガザの「封鎖」は2006年1月ハマスが評議会選挙に勝利してから強化され。2007年6月にハマスがガザ地区の治安掌握をして以降は、完全封鎖とも言える状況が続いています。こうしたなか、イスラエルに囲まれたガザ地区唯一のイスラエル以外への出口であるラファについては、エジプトが封鎖しています。

国内に穏健派原理主義のムスリム同胞団(元々は、ハマスの母体でもあります)を抱えるエジプトは、同組織と過激派ハマスとの交流・武器の流入を阻止したい狙いがあり、また、アメリカからの資金援助を伴う強い要請もあってのラファ検問所封鎖ですが、かねてよりアラブ・イスラム世界では、イスラエルに加担する行為として評判が悪く、今回事件でムバラク大統領はラファ検問所を人道目的で開放するよう命じています。
これは、ガザ封鎖に対する非難の矛先がエジプトに向かうのを回避する狙いがあるとみられています。

****エジプト:ガザ地区へのラファ検問所開門 大統領が命じる****
ムバラク・エジプト大統領は1日、ガザ地区へのエジプト側出入り口であるラファ検問所の開門を命じた。人道目的の支援物資や治療を受ける患者などの通過を認めるもので、ガザ支援船団急襲を受けた措置とみられる。エジプトに対しては「イスラエルのガザ封鎖に協力している」との批判がある。【6月1日 毎日】
***************************

【突然の再閉鎖もありうる】
現在のラファ検問所の状況は下記の記事にもあるように、開放はされましたが、まだまだ厳しい制約があるようです。
****ラファ検問所:いつ閉じるか知れぬ狭き門 待ち続ける人々*****
イスラエルの封鎖下にあるパレスチナ自治区ガザ地区とエジプトを結ぶ唯一の公式の接点、ラファ検問所に入った。ガザ国際支援船団をイスラエル軍が急襲した事件を受け急きょ開門された。娘との久しぶりの再会を願う老いた母、外国で働くためビザを取得しようする男性。いつ閉じるか知れない狭き門の前で、多くの人が待ち続けていた。
9日訪れたエジプト側検問所では、30度を超す気温の中、ファトマさん(76)が座り込んでいた。娘と会うためヨルダンから駆けつけたが、「書類不備」で通過拒否。「戻って書類を整えてこいって。この年でそんな元気はない」。1948年のイスラエル建国で生まれ育った土地を追われた。ガザに嫁入りした娘とは4年も会っていない。「顔を見て話したいだけなのに……」
人1人が通れるほどの狭く高い鉄門から約100メートル歩くと体育館ほどの入国管理施設だ。膨らんだ旅行カバンを持った100人ほどが不安げな表情で通過許可を待っていた。(中略)
検問所員によると、1日の開門以来、毎日700人前後がラファを通過。封鎖は07年6月にイスラム原理主義組織ハマスがガザを武力制圧して以来だが、今回はムバラク・エジプト大統領の命令による異例の「無期限開門」だ。だが、突然の再閉鎖もありうる。ある検問所職員は「命令があれば、当然閉める」と淡々と語った。【6月11日 毎日】
***************************

【6月1日 毎日】では“人道目的の支援物資”通過は認めるようになっていますが、そのあたりの状況はよくわかりません。【6月5日 TBS】では“検問所が開放されたといっても物資の運び込みは許可されないままです”と報じられています。

****ガザ、検問所開放も人々の生活は困窮*****
イスラエルが支援船をだ捕するのは「ガザに人道危機はなく、救援物資は必要ない」と主張しているためです。しかし、ガザの人々の生活は封鎖によって困窮を極めています。
ガザとエジプトとの境界・ラファ。検問所が開放されていました。
「エジプトの病院へ行きます。私も妻もやっと治療が受けられる」(市民)
開放のきっかけは、支援船団に対するイスラエル軍の攻撃です。「ガザに人道危機はなく、救援物資は必要ない」とするイスラエルの主張に基づいた行動でしたが、9人の死者が出たことで国際的な非難が高まり、エジプトが検問所を開けると決めたのです。
2007年、イスラム原理主義組織ハマスがガザを実効支配して以来、イスラエルは「武器の流通を阻止するため」などとしてガザを封鎖しています。住民の生活は困窮。セメントなどの建築資材の価格はここ数年で10倍になったといいます。2008年末のイスラエルによる大規模攻撃で家を失ったまま、今もテントで暮らす家族も多い状態です。
「テント生活から抜け出すことが、私や子供たちの小さな願いです」(母親)
「『人道危機はない』というイスラエルのうそを誰が信じるというのか。世界中の人がガザを支援しようとしているではないか」(ハマス・イスマイリ報道官)
今回、検問所が開放されたといっても物資の運び込みは許可されないままです。ガザの人々は救援物資の到着を切実に待ち望んでいます。(05日17:44)
******************************

【パレスチナ自治政府の思惑】
なお、これまで続けられたラファ検問所封鎖は、エジプトの国内事情や、ハマスへの武器密輸を防ぎたいイスラエルだけでなく、パレスチナ自治政府からの要請でもありました。
パレスチナ自治政府は、検問所は自治政府の手にゆだねられるべきものとの立場であり、ハマスがガザを実効支配している段階でハマス支配下でラファが開放されることに反対しています。

****パレスチナ自治政府、トルコのハマス支持を憂慮*****
パレスチナ自治政府は、トルコがガザ地区を武力支配中のイスラム根本主義過激派組織ハマスに対する支持を増大させていることを憂慮している。イスラエル紙エルサレム・ポスト電子版が8日、報じた。
トルコの過度のハマス支持は、ハマスのガザ武力支配を認めないパレスチナ自治政府の立場を弱めるからだ。

アッバス・パレスチナ自治政府議長率いるパレスチナ解放機構(PLO)主流派ファタハのヨルダン川西岸地区トップのアッザム・アルアフメド氏は7日、同紙に対し、「パレスチナ指導部は、トルコのハマスに対する政策に不快感を持っている。殊にガザ地区の封鎖を無条件に解くことに対してだ」と語り、封鎖解除以前にハマスがガザ地区の武力支配を停止し、エジプト提案のファタハとの和解案を受け入れる必要があるとの見方を示した。
同氏はさらに、「トルコとエジプト政府は、(イスラエルとの)境界線は、ハマスが2007年に武力支配する以前は自治政府が管理していたことを思い起こしてほしい」と述べ、ラファ検問所が開門される際には、ハマスではなく自治政府との合意によりなされるべきだとの見解を強調した。(後略)【6月8日 世界日報】
******************************

ハマスのガザ支配を認めないというパレスチナ自治政府の立場はわかりますが、ガザ封鎖解除よりもハマスとの権力闘争を優先するようなパレスチナ自治政府の考えは、なかなかパレスチナの人々の間では理解を得るのが難しいのではないでしょうか。
そうした対応が、自治政府への支持低下にもつながっているのでは。

【アメリカの対応 “一部緩和”を求める】
国連の潘基文(パン・キムン)事務総長は2日、イスラエルに対しガザ地区の封鎖をただちに解除するよう強く求めています。
****国連事務総長、「ガザ封鎖の即時解除」求める*****
事務総長は会見で、事件の背景にはイスラエルによる「非生産的、持続不可能で間違った」長期にわたるガザ地区封鎖措置があると指摘。支援物資を運搬していた船団を特殊部隊が攻撃したことについて、イスラエル政府は「子細漏らさず事情を説明しなければならない」と語った。
また、国連安全保障理事会が出した事件の調査を求める声明をめぐり、「迅速で信頼性と透明性がある公平な」調査を実施するため、「さまざまな選択肢」を模索していると述べた。
さらに、国連人権理事会が2日午前、事件に関する独立した国際調査機関を設置したことも明らかにした。(後略)【6月3日 AFP】
**************************

事件後、バイデン米副大統領はアフリカ諸国歴訪を前にエジプト・シナイ半島最南端のリゾート地シャルムエルシェイクを訪問し、7日、当地でムバラク・エジプト大統領と会談しました。この会談で、バイデン副大統領はエジプトに対し、ラファ検問所のさらなる開放を求めて圧力をかけたのではないかとも報じられていますが、これまでラファを閉じてきたのはアメリカの意向もあってのことだったのでは?

オバマ米大統領は、ガザ封鎖の全面解除要求とは距離を置きながらも、ガザ市民の苦境にも配慮して、封鎖に代わってガザ地区への武器流入を阻止する「新たな仕組み」の構築に踏み出すようイスラエルに求めていることを明らかにしています。

****オバマ米大統領:ガザ封鎖、一部緩和を イスラエルに要請*****
オバマ米大統領は9日、アッバス・パレスチナ自治政府議長とホワイトハウスで会談した。国際支援船襲撃事件を受け、国際的な批判を浴びているイスラエルによるパレスチナ自治区・ガザ地区封鎖について、大統領は、一部緩和をイスラエルに求めていることを明らかにした。パレスチナ側に対し、新たに4億ドル(約360億円)の人道支援を行うことも発表した。
アッバス議長は、米国が仲介するイスラエルとの中東和平間接交渉を「あきらめない」と述べ、支持する考えを表明。米国が恐れた交渉中断という最悪の事態は避けられる見通しとなった。
大統領は、ガザ地区を実効支配するイスラム原理主義組織ハマスへの武器密輸を防ぐ必要性を強調する一方、ガザ地区の窮状も指摘。全船舶を止めるのでなく「武器の積み荷に対象を絞り、段階的に物資がガザに入るような方法」を構築すべきだと語った。エジプトなど関係諸国と協議するよう、「イスラエルに促している」という。
【6月10日 毎日】
*******************************


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする