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孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

空洞化が進む核拡散防止条約(NPT)体制

2010-06-28 23:21:30 | 国際情勢

(インドのシン首相(左)とパキスタンのギラニ首相(右)は4月29日、南アジア地域協力連合(SAARC)首脳会議が開催されたブータンで会談。両首相は、08年11月のムンバイ同時テロ以降、冷却化した両国関係を改善する必要があるとの認識で一致し、中断している包括対話の再開に向けて努力していくことで合意しました。この両国関係が安定しないと、NPTの枠外での核開発競争が止まりません。もっとも、インドが最も意識しているのは中国・・・ということで、歯止めは更に難しそうです。“flickr”より By LovelyBhutan
http://www.flickr.com/photos/lovelybhutan/4564020997/)

【インドの次はパキスタン】
原子力関連技術の輸出管理にあたる原子力供給国グループ(NSG)は08年9月6日に、核拡散防止条約(NPT)未加盟のインドを例外として扱い、原子炉や核燃料の対印輸出を解禁することを、日本など加盟45か国の全会一致で承認しました。
台頭する中国を牽制すべく、インドとの関係を重視し、インドの経済成長を支援するアメリカ・ブッシュ政権がインドと締結した民生用原子力協定を実現するため、インドのみを例外とする「二重基準」に反対する国々を押し切っての承認でした。
米印民生用原子力協定は、対中抑制の他、イラン・パキスタン・インドで計画されていた天然ガス輸送計画からインドを離反させ、イランの孤立化を維持する効果もありました。

その結果、アメリカは中国のライバル・インドとの関係を強化し、イランからインドを引き離すことにもなりましたが、核拡散防止条約(NPT)体制の空洞化が進行しています。
今度は、中国がやはりNPT未加盟国であるパキスタンへの原発輸出計画の承認を求めてアメリカと対立しています。

****パキスタンへの原発輸出計画巡り米中が対立******
原子力供給国グループ(NSG)の年次会合がニュージーランドで開かれ、「NSG非加盟諸国の情勢」を巡る協議を継続するとの方針で合意し、閉幕した。
非加盟国パキスタンへの中国の原発輸出計画を巡り米中が対立し、結論を先送りしたものとみられる。パキスタンと緊張関係にあるインドにのみ例外的に核協力を認める米国とNSGの「二重基準」が露呈し、核拡散防止条約(NPT)体制のほころびが浮き彫りになった形だ。

協議継続の方針は最終日25日の公式声明に記された。中国が輸出を検討するのはパキスタン東部の原発2基。同地には、中国が2004年のNSG加盟前に建設した稼働中の別の1基と、加盟前に計画した建設中の1基があるが、今回の計画は加盟後に表面化した。
NSGのガイドラインは、国際原子力機関(IAEA)の包括的保障措置の適用を輸入国に求めているが、パキスタンはNPT非加盟で同措置の適用も受けていない。このため中国の今回の輸出計画はガイドライン違反の可能性があり、米メディアによると、米国は年次会合前に反対方針を決めた。

ただ、米国自身、ガイドラインの適用が「差別的」(パキスタン紙)との批判を浴びている。対中抑止などのため、NPT非加盟国のインドと原子力協定を結び、08年のNSG会合では対印輸出の解禁を例外的に認めさせたためだ。
インドへの核協力は民生分野に限られているが、インドにとっては核物質の輸入で自国産ウラン全量を軍事用に回せる利点がある。保有核弾頭70~90基とみられるパキスタンと同60~80基とされるインドの軍事均衡を崩す恐れがある。
原発ビジネス拡大を狙うフランスやロシア、カナダなどは続々と対印協力を進めており、日本も25日、対印協定の締結方針を発表した。こうした姿勢は、NPT脱退を宣言した北朝鮮や、IAEAの保障措置協定に違反するイランの核開発にも正当性を与えかねない。【6月27日 読売】
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インドとアメリカの原子力協定が認められ、パキスタンへの中国の原発輸出が認められない・・・というのは、理屈上は説明困難です。「二重基準」の批判が当然起こります。

【NPTとNSG】
現在の核管理体制の根幹をなす核拡散防止条約(NPT)は、68年の締結時に核兵器の保有を5カ国(米英仏露中)に限り、それ以外の国には核兵器保有を禁止する代わりに、原子力の民生利用を認め、核兵器開発を防ぐため国際原子力機関(IAEA)による核施設査察を受け入れることを義務づけました。
しかし、インド、パキスタン、イスラエルの3カ国はNPTに加入せず、北朝鮮は85年にNPTに加入したものの03年1月に脱退を宣言しています。
そして、これらの国は独自の核開発を続行しています。

1974年のインドの核実験によって、原子力発電技術は、簡単に核兵器への技術転用が可能であることが分かりました。
このため、核不拡散条約(NPT)を批准した国家間で、原子力技術およびそれに関連した設備の輸出には何らかの制限が必要であるという認識から原子力供給国グループ(NSG)が生まれ、NPT非加盟国に核技術などを移転しないことで核兵器開発阻止を目指しました。
さらに、02年のイランの秘密核開発計画発覚を機に、IAEAの抜き打ち査察を認める追加議定書を締結しない国には原子力技術などの輸出を認めない強化策も模索されました。
しかし、そのNSGにおいて「二重基準」が問題となっているのが、上記のインド・アメリカ、パキスタン・中国の問題です。

【「核のアパルトヘイト(差別政策)」】
核に関する「二重基準」としては、NPT加盟国でIAEAの査察も受け入れているイランの核開発が国際社会から厳しく批判されているのに、NPT未加盟のイスラエルの核保有をアメリカなどが黙認しているという問題もあります。
5月の核拡散防止条約(NPT)再検討会議、国際原子力機関(IAEA)の6月理事会で、「中東非核化構想」として、この問題がクローズアップされています。

****IAEA理事会:イスラエル「核」で応酬…アラブVS米欧****
国際原子力機関(IAEA)の10日の定例理事会で、イスラエルの「核能力」が91年以来19年ぶりに議題になった。核問題で防戦一方だったイランや、アラブ諸国は「イスラエルの核こそ国際社会の深刻な懸念」などと非難。一方、米欧はイランの核問題など「喫緊の課題から目をそらさせるのが狙いだ」などとして議題自体に反対した。議論は「入り口論」に終始し、核問題を巡る対立の根深さを改めて浮き彫りにした。

イランやアラブ諸国は、昨年9月のIAEA総会決議や、今年5月の核拡散防止条約(NPT)再検討会議の最終文書などを論拠に、核保有国とみられているイスラエルにNPTへの加入やIAEAの包括的保障措置(査察)への参加を迫った。特に、NPT加盟国でIAEAの査察も受け入れているイランは、米欧の「二重基準」に不満を表明。IAEAがイスラエルへ調査団を派遣するよう改めて要請した。
これに対し米国は「イスラエルはIAEAの義務に従っている」と擁護。イスラエルの核問題を取り上げることが「(反対勢力による)IAEAの政治利用」につながると主張した。欧州連合(EU)も、米欧の反対を押し切る形でイスラエルの核問題が議題になったことに遺憾の意を表明。イスラエルは、イランなどの核問題が焦点になる中で「イスラエルのみを名指しした決議は適当ではない」として、昨年の総会決議自体を改めて拒否した。
【6月11日 毎日】
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5月の核拡散防止条約(NPT)再検討会議においては、“イスラエルの核問題は再検討会議でも最大の難問だった。アラブ諸国など非同盟諸国は中東非核化会議の開催を求め、親イスラエルの米国は2012年開催を受け入れた。最終文書には、非核化会議に対するIAEAの協力を求める条項も盛り込まれた。一方で米国は、同会議を交渉の場と明示しないとの条件を非同盟諸国にのませた。イスラエルの会議参加の道筋も不透明なまま残された。”とのことでしたが、玉虫色の妥協は早くも壁に直面しています。
スンニ派対シーア派という関係で必ずしも利害がイランとは一致しないアラブ世界の地域大国エジプトも、今回はイラン支持に回っています。
中東カタールの衛星テレビ「アル・ジャジーラ」(12日付、電子版)は、イスラエルとイランに対する米欧の核政策の違いを、「核のアパルトヘイト(差別政策)」と批判しています。

もとより、核拡散防止条約(NPT)自体が一部の国に核保有を認める「二重基準」そのものでもある訳ですが、“現実を考えると、そうは言っても・・・”というところで存在する、核拡散へのかろうじての歯止めとしてのNPT体制も、インドやイスラエルへの「二重基準」で空洞化が懸念される状況です。

【「日本だけが違う判断を行うことは困難」】
唯一の被爆国として核軍縮を進める立場にある日本も、現実とのかねあいで微妙です。
菅内閣は25日、インドへ原子力発電の技術や機材を輸出するために必要な「日印原子力協定」の締結交渉入りを決めました。
核不拡散条約(NPT)非加盟で核を保有するインドとの原子力協力にはNPT体制を弱めるとの懸念があり、日本政府は慎重姿勢でしたが、インドに原発を輸出したい産業界などの要請を受け、方針を転換したものです。

****日印原子力協定、受注競争乗り遅れに危機感*****
日本政府がインドと原子力協定を締結する見通しとなったのは、米国などが次々と同協定を締結する中、日本企業がインドでの原子力発電所建設の受注競争に乗り遅れることへの危機感が強まったことが一因だ。
日本政府は、核兵器を保有するインドに核拡散防止条約(NPT)に加盟するよう求めてきた。
岡田外相は25日の記者会見で、「国際社会の方向性が固まった時、日本だけが違う判断を行うことは困難になってきた。非常に苦しい判断だ」と述べた。

政府は日本が持つ原発関連の高い技術力を生かし、海外での日本企業の受注獲得に前向きだ。特にインドは電力需要の増加が見込まれ、最重点国の一つだった。インドの温室効果ガス排出を抑え、地球温暖化対策に貢献できるとの読みに加え、対中国をにらみ、インドとの一層の関係強化が不可欠との判断も後押しした。
他方、インドへの原発関連の技術協力をめぐっては「北朝鮮やイランに核開発を進める口実を与える」といった慎重論も根強い。
民主党も野党時代には「NPT体制の形がい化を招く」と反対してきた経緯もあり、整合性を問われる可能性もある。【6月26日 読売】
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核軍縮の理念と現実の間で、“現実”が優先した形です。
しかし、こうした対応は、インド、更にはイラン・北朝鮮など強引に核開発を進める国を利することにもなり、将来的には別の現実を日本につきつけることにもなります。

コメント
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