
(スウェーデン・ストックホルムで開かれたガザ支援・イスラエル批判の集会
“flickr”より By liftarn
http://www.flickr.com/photos/liftarn/4657440204/)
【「イラン革命防衛隊が護衛し、イスラエルのガザ封鎖を突破する」】
経済封鎖が続くパレスチナ・ガザ地区への支援船団へのイスラエル軍の強襲は、このブログでも取り上げたようにイスラエル国内外に大きな波紋を広げています。今度は、イランが支援船派遣を発表しています。
****イラン、ガザに支援船2隻派遣へ 医師・看護師70人も****
イラン赤新月社(赤十字に相当)は7日、イスラエルが封鎖するパレスチナ自治区ガザへの支援船2隻を今週中に派遣すると明らかにした。イスラエルを敵視するイランが支援船派遣の動きに出たことで、両国の緊張がさらに強まる恐れがある。
イラン赤新月社の声明などによると、船は同社がチャーターする。1隻には食糧や医薬品など約1千トンの支援物資を積み、別の船には医師、看護師ら約70人が乗り込む予定だという。出港地はともにトルコのイスタンブールを予定している。
これとは別に、同社はガザ向けの支援物資約30トンを空路でエジプトに送る計画も進めている。さらに、手術室などを備えた病院船も1カ月以内に送りたいという。
同社は「人道支援が目的だ」と説明するが、イランでは大規模な反政府デモを誘発した大統領選の投票日から12日で1年となる。抗議活動の再燃を恐れる政府としては、この時期に支援船を送ることで、国民の関心を国外にそらす狙いもあるとみられる。
パレスチナ支援船を巡っては5月31日、イスラエル軍が6隻を拿捕(だほ)した際にトルコ人活動家ら9人が死亡。5日には別の支援船1隻も拿捕されている。【6月7日 朝日】
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記事にある“国民の関心を国外にそらす狙い”の他、欧米諸国からは目の敵にされているイランとしては、この機に乗じてアラブ・イスラム世界の支持を得ようという思惑もあるのでは。
物騒なのは、“イランの最高指導者ハメネイ師の側近は6日、「船団は、イラン革命防衛隊が護衛し、イスラエルのガザ封鎖を突破する」と言明、「既にその準備はできている」と語っており、同船団を阻止するとみられるイスラエル軍との間で、衝突が発生する可能性も出てきた。”【6月7日 世界日報】とも報じられていることです。
アハマディネジャド・イラン大統領はかつて、「イスラエルを地図上から抹殺する」と発言、イスラエル及び国際社会から激しい反発を買ったこともあります。
かねてよりイランの核開発阻止を目指しているイスラエルとしては、もしイラン革命防衛隊との衝突といった事態になれば、この際一気にイラン国内の核関連施設爆撃・・・なんてことも考えるのかも。
【イラン追加制裁案採択へ】
イラン、イスラエル両国とも、現在国際的に厳しい立場に立たされています。
イランの方は、核兵器開発疑惑で国連安保理の追加制裁決議が採択される状況になってきています。
****国連:イラン追加制裁案採択へ 安保理、9日にも*****
核開発を続けるイランに対する追加制裁決議案について国連の安全保障理事会は7日、非公式会合を行った。複数の国連外交筋は9日にも制裁決議案が採択されるとの見通しを示した。
先月18日に米国が決議草案を安保理に提出して以来、非公式会合がもたれるのは初めて。専門家レベルでは決議案本文は全理事国が合意に達しており、付属文書の最終的な協議が続いている。
毎日新聞が入手した最終決議案によると、文書の追加部分で、イランの核問題での「交渉に基づく政治的、外交的努力の重要性」を強調し、先月17日にイランと低濃縮ウランの国外移送と燃料棒の交換に合意したブラジル、トルコの努力に留意し、「イランが核問題に取り組む重要性」を強調した。その他は「大きく変わっていない」(国連外交筋)。イラン革命防衛隊を対象とした資産凍結措置などは、草案通り。
この日の非公式協議は、専門家レベルの協議が大詰めを迎え「政治レベルで協議したい」とのブラジルとトルコの要請で開かれた。両国はこの問題で安保理が公開討論を開くよう求めたが結論は出なかった。【6月8日 毎日】
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イラン保有の低濃縮ウランの一部をトルコに搬出するとしたブラジル・トルコ案については、アメリカはこの受け入れを拒否しています。最大の理由は、同案ではイランがウラン濃縮を継続するということにありますが、搬出後にイラン国内に残った低濃縮ウランは、核兵器製造に十分な量となる可能性があることにもアメリカは懸念を表明しています。
追加制裁決議のハードルとされていた拒否権を有する中国については、採択の見通しが云々されるということは、一定にクリアされたのでしょう。ブラジルとトルコの対応が注目されます。
また、国際原子力機関(IAEA)の定例理事会では、天野之弥事務局長が冒頭演説で「イランは核兵器の開発を進めている可能性があり、(ウラン濃縮活動の即時停止など)IAEAの要求に従うべきだ」と述べています。
この演説で天野事務局長は、「イランの核開発計画には、軍事的側面に関連している可能性がある問題も含まれており、特別なケースだ」、「イランは、イラン国内にある全ての核物質が平和的活動に利用されているとIAEAが確認できるために必要な協力を行っていない」と、イランに対して厳しい指摘を行っています。【6月8日 AFPより】
【IAEAでイスラエルの核が議題に】
これにイランのソルタニエIAEA担当大使は「国際法に違反して支援船を急襲したイスラエルが核兵器を保有していることの方が世界の脅威だ」と反論していますが、今回のIAEA定例理事会では1991年以来初めて事実上の核保有国イスラエルについて議論が行われことになっています。【6月8日 産経より】
“パレスチナ自治区ガザ地区に向かった支援船団をイスラエル軍が急襲、多数の死傷者を出した事件を受け、イスラム諸国を中心に反イスラエル機運が高まっていることもあり、核を巡るイスラエルへの風当たりは一層強まりそうだ。イスラエルの同盟国・米国は、イスラエルの「核能力」について議題とすることに「留保」の姿勢を示したが、議題からの削除は求めなかった。”【6月7日 毎日】
イスラエルは核拡散防止条約(NPT)に加盟しておらず「議論する正当な根拠がない」と、アメリカはイスラエルを擁護しているとも。
【それでもイスラエル支持のアメリカ】
国連安全保障理事会が事件を非難する議長声明を全会一致で採択するなど、イスラエルに対する国際的批判の高まりのなかで、アメリカも従来のようなイスラエル支持を続けることは困難にはなっていますが、中間選挙を控えたオバマ政権にイスラエルによるガザ支援船攻撃を批判する余裕はなく、アメリカのイスラエル支持は大きくは変わらないないようです。
****それでもアメリカはイスラエルの言いなり****
・・・・しかしアメリカに関して言えば、今回の事件によってパレスチナ紛争をめぐる外交姿勢が変わることなど期待できない。今のアメリカの政治情勢、特に今秋に中間選挙を控えていることを考えればありえない話だ。
・・・・イスラエルを批判する左派の人々は民主党の方針転換を望んでいるが、時期が悪い。11月の中間選挙で民主党は上下両院で敗北する可能性がある。まともな選挙参謀だったら、有権者の注目度が高い金融改革や失業対策など「共和党に勝てる」政策課題に集中するよう忠告するだろう。
パレスチナを実効支配するイスラム過激派組織ハマスに味方して、中東で唯一の民主主義国家イスラエルと敵対する。そんな行動を民主党が取るだろうか? それでは、共和党に格好の攻撃材料を与えるだけだ。
共和党に比べて内政問題に強い民主党のこと、中間選挙の年に外交政策の議論などしたくないはずだ。・・・・さらに民主党の有力議員、ニューヨーク州やカリフォルニア州の有力献金元の多くはいわずと知れたイスラエル支持者だ。
今回の事件をめぐるメディアの報道にも、アメリカの親イスラエル政策に反対するような論調はない。議会におけるイスラエル支持は党派を越えており、「共和党対民主党」というお決まりの対立構造は成立しない。
アメリカで活動する親イスラエルのロビー団体は、イスラエルの人権侵害など黙殺している(むしろイスラエル国内の人権団体の方が批判的だ)。これに対抗できるような親パレスチナのロビー団体はないため、世論形成につながるような反イスラエルの意見はどこからも聞こえてこない。・・・・【6月2日 Newsweek】
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【イスラエル国内の批判】
イスラエル・ネタニヤフ首相は強気の姿勢を崩しておらず、潘基文国連事務総長から提案された国際調査委員会の設置を拒否し、イスラエル独自の調査委の設置を検討していいます。
“潘事務総長が提案した国際調査委は、海洋法の専門家であるニュージーランドのパーマー元首相を委員長とし、イスラエル、トルコ、米国の各代表で構成するもの。ネタニヤフ首相はこの提案を拒否し、「イスラエルと軍の権益を保護しつつ、調査について慎重に検討したい」と述べた。”【6月7日 毎日】
“イスラエルと軍の権益を保護しつつ”と言われれば、調査する意味もほとんどないでしょう。
ただ、イスラエル国内でも、ガザ封鎖への国際批判まで高めてしまう“失態”を演じたことへの政府批判、ガザ経済封鎖の有効性への疑問が出てきていることは、以前のブログでも紹介したところです。
****イスラエル軍、ガザ支援船団を急襲 疑われる統治能力 政権の危機*****
・・・・国連安全保障理事会が事件を非難する議長声明を全会一致で採択したほか、国内からも政権の統治能力に懐疑的な見方が出ており、今回の事件が同政権の命運を左右しかねない情勢となっている。
・・・・今回の事件は、多数の死傷者が出たことで、イスラエル国内でも衝撃をもって受け止められた。同国政府は国際的な孤立に直面して、国民の団結を訴えようとしたが、国内メディアはネタニヤフ政権の最近の失敗を指摘し、批判を強めている。イスラム友好国、トルコとの関係が史上最低の水準まで悪化していること、ガザ封鎖は地下トンネルを通じて物資が搬入されており有効に機能していないこと、友好国のフランスやイタリアの支持を失ったことなどだ。
国連安全保障理事会は1日、議長声明で潘基文(バン・キムン)事務総長に対し、事件の「公正で信頼性と透明性のある調査」を要請。イスラエル軍も2日、調査を開始した。イスラエル国内からも、引退した判事を議長とする独立調査委員会の設置を求める声が上がっている。
ネタニヤフ政権を追い打ちするように、同国の対外特務機関モサドのダガン長官は1日、一院制議会クネセトに報告書を提出し、イスラエルは米国から、「友好国というよりも米国の国益の障害と受け止められている」と指摘。イスラエルの行動は、米国がパレスチナとイスラエルを仲介する間接和平交渉の妨げになっているとの認識だ。
イスラエル国内で政権への批判が大きな力を持つまでには数カ月がかかり、ヨルダン川西岸への入植停止の期限が切れる9月末が山場となるだろう。それまでに情勢がいくらか変化する可能性はあるものの、国内論争がどこまで過熱するかが、政権の寿命を決めるとみられる。(6月5日 オックスフォード・アナリティカ)
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