孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中国・人民元問題  弾力化されたものの、アメリカ側期待とはまだ隔たり

2010-06-29 23:26:32 | 国際情勢

(G20出席のためカナダ・トロントに到着した中国・胡錦濤国家主席 “flickr”より By dfait.maeci
http://www.flickr.com/photos/dfait-maeci/4733571437/)

【G20直前の人民元相場弾力化】
中国人民銀行(中央銀行)が19日に人民元相場の弾力化を発表するまで、人民元相場は08年夏から1ドル=6.8元台でほぼ固定されており、対中国貿易で大幅な赤字となっているアメリカには、“中国が不当に為替相場を低く抑えているためアメリカの赤字が膨らみ、結果としてアメリカ国内の雇用が奪われている”との不満が強くありました。(今でも不満は強いので、“あります”と現在形で言うべきでしょうが)

それまで、中国批判を控えてきたオバマ米大統領は1月に「輸出倍増計画を打ち出し、「世界経済の不均衡是正のためには、市場実勢に基づいた人民元相場の形成が不可欠」と強い調子で人民元切り上げを要求。
これを契機に、米上院で民主、共和両党の議員団が中国を対象とした制裁法案を発表するなど、米議会の対中強硬論は激しさを増し、中国を16年ぶりに「為替操作国」に認定し、強く人民元切り上げを迫るよう米政府に要求するところとなりました。
しかし、外圧に屈する形ではかえって身動きがとれないとする中国側の立場に配慮してか、アメリカ政府は4月、為替操作国の認定作業を延期。以後も表立って人民元切り上げを強く求める行動を控えてきました。
こうした動きは、核開発を進めるイラン追加制裁への中国の協力を取り付けるため・・・とも見られていました。

イラン追加制裁問題が一段落したこともあってか、オバマ米大統領が、26日からカナダ・トロントで開かれた金融サミットを前に、参加する20カ国・地域(G20)の首脳に書簡を送り、中国人民元を念頭に為替改革を求めたことが明らかにされました。
また、バートン大統領副報道官はアメリカ財務省が4月から延期していた外国為替報告書の議会提出をサミット後に行うと述べています。これは、サミットまでに改革を実行しなければ「為替操作国」認定もあり得ると中国に警告したものと見られています。

こうした経緯を受けて、19日、中国人民銀行(中央銀行)が人民元相場の弾力化を発表しました。
発表後1週間が経過した25日の対ドル相場の終値は1ドル=6.7900元と05年7月の人民元改革後の最高値を更新しました。

****人民元:緩やかな上昇、米反発も 弾力化1週間****
・・・主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)を控え、人民元高の実績をアピールし、批判を封印する一方で、大幅な切り上げは容認しない姿勢も示した格好。だが、緩やかな相場上昇に米議会が反発を強める可能性も指摘されており、中国を輸出拠点とする日本企業は「急激な元高は避けてほしい」と警戒感を強めている。(中略)
ただ米国は満足していない。オバマ米大統領は24日、人民元相場の弾力化を「初期の動きとしては評価できる」としつつ、「不均衡是正に十分か、評価を下すのは時期尚早だ」と中国にクギを刺した。背景には、「米国の経常赤字が縮小する水準まで元が切り上がらなければ成果とは言えない」(みずほコーポレート銀行の唐鎌大輔氏)との声が根強いほか、今回の切り上げを「アリバイ作り」と見る強硬論があるためだ。
ただ、こうした見方に対して、中国外務省の報道局長はG20で人民元問題を取り上げ、「政治問題化すべきではない」とけん制。さらに、「人民元が(米中の)貿易不均衡の主因ではない」と強調した。(中略)
 
人民元相場の切り上げが小幅にとどまっているため、市場では「世界経済に与える影響は、今のところ限定的」(アナリスト)との見方が多い。ユーロ危機に加え、米国経済の先行きにも警戒感が強まる中、中国では労働者の賃上げ要求が相次ぎ、輸出主導の中国経済を取り巻く環境は次第に厳しくなっている。このため、「(基準値比0.44%高となった)初日のような人民元の大幅上昇が続けば、自国の輸出企業から悲鳴が上がる。上げ幅は年率2~3%程度にとどまる」(みずほ証券の上野泰也氏)との見方も出ている。
ただ、今後、人民元相場が大幅に上昇する可能性もある。その場合、「中国国民の購買力が高まり、世界経済に好影響が出る。日本にとっては中国人観光客の消費が増える一方で、中国からの輸入品価格が上がり、デフレ対策にもなる」(JPモルガン証券の菅野雅明氏)と日本にもメリットが及びそうだ。
しかし、中国を輸出拠点とする日本企業の間では、急激な元高への警戒感が強い。(中略)
「世界の工場」とされてきた中国は、富裕層の拡大もあり、人民元高を機に一気に「世界の市場」になる可能性もある。【6月25日 毎日】
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【米中首脳会談は協調ムード】
事実上の期限と位置づけられたG20の約1週間前という「最後のタイミング」(中国関係筋)を狙った弾力化発表によって、サミットで人民元問題はほとんど議論にならなかったようです。
首脳宣言は「いくつかの新興市場の為替相場の一層の柔軟化」を明記したものの、中国の名指しは控えています。
これは、中国政府の弾力化声明をひとまず歓迎し、今後の相場切り上げ努力に期待する意味があるとされていますが、人民元相場は対ドルで「最大40%過小評価されている」という見方が強いアメリカ側との隔たりはまだ大きなものがあります。

****米中首脳会談:人民元相場弾力化 米、「成果見極め」強調****
オバマ米大統領と中国の胡錦濤国家主席が26日、カナダ・トロントで会談した。中国が19日に人民元相場の弾力化を表明してから初のトップ会談だったが、オバマ大統領が一段の上昇を促したのに対し、胡主席は慎重な姿勢を示し、今後に火種を残した。韓国の哨戒艦沈没事件を受けた国連安全保障理事会の北朝鮮非難決議案をめぐっても、オバマ大統領が協力を求めたが、胡主席は慎重な姿勢を崩さず、米中の溝は埋まらなかった。

「具体的に(人民元改革が)どう実行されるかが重要だ」。会談でオバマ大統領は人民元の弾力化方針を歓迎しつつも、今後の相場の動きを見極める姿勢を強調。「世界経済の安定成長に向けて中国の果たすべき役割は多い」と一層の内需拡大などを求めた。
会談は冒頭、両首脳が米中関係の発展を確認し、胡主席がオバマ大統領から出された国賓としての訪米要請を受け入れるなど協調ムードを演出した。主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)直前に発表した人民元弾力化の「実績」を手に会談に臨んだ胡主席の狙い通りの展開だったとも言えるが、オバマ大統領が要求を緩めたわけではなかった。
米国では失業率が高止まりし、米議会などでは「安価な中国製品が大量に流入し、雇用を奪っている」との批判が強い。25日の人民元の対ドル相場は前週末比0.53%高と、緩やかな上昇にとどまっている。秋に中間選挙を控え、雇用に神経をとがらせる米議会では「(弾力化の)効果が出なければ断固行動する」(レビン下院歳入委員長)と対中制裁もちらつかせている。
だが、新華社通信によると、胡主席は会談で「対米貿易黒字を追求するつもりはなく、中国は以前から米国からの輸入を拡大する措置をとっている」と主張し、人民元の切り上げ圧力をけん制する立場を示した。中国側は「輸出依存から内需拡大に向けて経済成長モデルの転換を図っており、今回の為替レートの変化はこれを反映したものだ」(馬欣・国家発展改革委員会外事局長)と自らのペースで相場弾力化を進める姿勢を崩していない。【6月27日 毎日】
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この米中首脳会談では、人民元問題をめぐる激しい応酬はなかった模様です。
中国の弾力化実施で、“正面からの対立はひとまず避けられた。しかし対立の火種はくすぶったままだ。”【6月27日 朝日】といったところです。
“ガイトナー米財務長官は今年4月、中国を「為替操作国」と認定するかどうかが焦点だった外国為替報告書の提出を延期。今回のサミットまでの3カ月間を「猶予期間」とし、中国側の自発的な行動を待った。
実際に中国がサミット直前の19日に人民元の弾力化を発表したことに、米国側は自信を深めた。
米政府高官は朝日新聞の取材に「ガイトナー長官が意図した通りになった。長官にとっての勝利だ」と語る。ただ「あうん」の呼吸で中国の行動を引き出す戦略が奏功しただけに、米政府はいまも中国への配慮をにじませる。”【同上】

【オバマ大統領「容認できない」】
人民元問題は、サミット、米中首脳会談では比較的穏やかだったような報道でしたが、27日のオバマ大統領の発言は、中国を為替操作国に指定することも辞さない構えを示し、中国に一段の切り上げを強く求めるもので、中国に対しこれまでになく厳しい姿勢を見せています。

****オバマ大統領「人民元まだ割安」…中国反発必至****
オバマ米大統領は27日のG20サミット後の記者会見で、「G20が合意した原則と一致しておらず、(割安な人民元を)容認出来ない」と述べ、人民元問題をめぐる中国の対応を厳しく批判した。
そのうえで、10月に公表予定の為替政策報告書で中国を為替操作国に指定する可能性を示唆し、「3か月後」という期間を明示して対応を求めた。外圧を嫌う中国の反発は必至だ。
中国はG20直前に相場の弾力化を公表したが、1週間の切り上げ幅は0・53%にとどまり、米議会のいらだちが高まっている。11月には中間選挙を控えている。人民元問題を放置しておけば、大統領が、選挙を控えた議員たちから厳しい追及を受けるのは避けられない状況だった。
カナダのハーパー首相によると、G20の首脳宣言に人民元相場の弾力化を「歓迎する」との文言は、中国側の意向で盛り込まれなかったとされる。中国は、人民元問題がG20で議題となること自体に不満が強く、さらなる元高を求める要求に応じる可能性は小さい。
切り上げのペースは、オバマ大統領が「1~2年程度で20%程度の切り上げが望ましい」と考えている可能性がある。これに対し、中国側は、輸出企業への配慮から「1年で3~5%」(政府系シンクタンク研究者)との予想が多く、米中の溝は簡単に埋まりそうもない。【6月28日 読売】
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また、オバマ大統領は、韓国の哨戒艦沈没事件についても、“中国は隣国を見て見ぬふりをするのはやめるべきだ”と、その姿勢を批判しています。
当然、中国は反発しています。
****オバマ大統領に反論=韓国哨戒艦事件の対応で―中国*****
中国外務省の秦剛副報道局長は29日の定例会見で、韓国哨戒艦沈没事件をめぐる中国の対応について、オバマ米大統領が「自制するのと見て見ぬふりをするのは違う」と指摘したことに対し、「中国の立場や(外交)努力は非難しようがなく公正だ」と反論した。
秦副報道局長は、中国が関係国に自制を呼び掛けるのは「朝鮮半島情勢の緊迫化や衝突発生を避けるためだ。火に油を注いだりしない」と主張。さらに「中国は半島に近接しており、この問題に対する感覚は遠く離れた国家とは違う」と述べ、大統領の発言に不快感をあらわにした。【6月29日 時事】
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交渉事は往々にして、交渉相手よりは、身内の強硬派をどうやって納得させるかが問題となります。
アメリカも国内の議会に対中強硬論を抱えています。
中国も、“外圧に屈した”ととられることは、指導層内部の保守派からの批判を浴びます。
オバマ大統領の厳しい発言も、国内世論を意識してのものでしょう。
そして、そうした国内対策で厳しいもの言いをするということも、首脳間では了解ができているのでは・・・とも思えますが、どうでしょうか。


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