孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

コロンビア大統領選挙  世論調査で急浮上したモックス元ボゴタ市長、投票では支持伸びず

2010-06-04 23:02:26 | 国際情勢

(コロンビア大統領選挙に急浮上した「変わり者」モックス元ボゴタ市長でしたが・・・・ “flickr”より By visionshare
http://www.flickr.com/photos/visionshare/4647705975/)

【ウリベ大統領 再々選は断たれる】
左派・反米政権(その程度は様々ですが)一色に染まる南米にあって、今年1月にチリで中道右派野党連合のピニェラ氏が大統領選挙に勝利するまで、唯一の右派・親米政権であったコロンビア・ウリベ政権の後任を決める大統領選挙が行われています。

2002年に就任したウリベ大統領は、コカインの生産拠点であり、コロンビア革命軍などの左翼ゲリラ、右翼民兵、麻薬組織による内戦に明け暮れていたコロンビアにあって、徹底した軍事的強硬策でこれに臨み、一定の治安回復を実現、国民からは高い支持を得ていました。
ただ、右派準軍事組織への対応や人権問題などで、ウリベ大統領の姿勢を批判する向きもあります。

この間、隣国ベネズエラの左派・反米チャベス大統領とは、左翼ゲリラ「コロンビア革命軍(FARC)」との仲介役を務めていたチャベス大統領をコロンビア政府が「解任」した事件、エクアドル領内にあったFARC拠点へのコロンビア軍の越境攻撃などで、国交断絶を含む様々のトラブルもありました。

もともとコロンビア憲法では大統領の再選は禁止されていましたが、高い国民の支持(05年当時の支持率は約70%)を背景に、2005年10月、コロンビア憲法裁判所は、現職の大統領が選挙に出ることを許す憲法修正条項を承認しました。これにより再選が可能となり、ウリベ大統領は06年5月の大統領選挙に勝利し2期目を務めています。

更に再々選を求める下院は、大統領再々選を可能とするための憲法改正のための国民投票法案を昨年9月に承認しましたが、さすがにコロンビア憲法裁判所は、2月26日、この憲法改正国民投票法について、7対2で「違憲」という判断を下しました。これにより、ウリベ大統領の再々選はなくなり、後任大統領選びがスタートしました。

【波乱も予感させた世論調査】
大統領選挙は、ウリベ大統領の後継候補であるサントス前国防相を軸とした展開となりましたが、3月頃はほとんど名前も挙がっていなかったボゴタ大学元学長、哲学者、数学者のモックス元ボゴタ市長(緑の党)が終盤急浮上して、選挙直前の世論調査では本命サントス候補に並ぶほどになりました。

5月19日、インバメル・ギャラップ・コロンビア社の調査結果が発表されましたが、これによると、サントス候補37.5%、モックス候補35.4%、となっていました。いずれの候補も51%以上を取れなかった場合の、6月20日の決選投票ではモックス候補48.5%、サントス候補43.0%とも。
他の調査も、第1回投票でサントス候補にモックス候補が肉薄し、決選投票では逆にモックス候補が優勢という結果が示されており、緑の党・モックス候補の大統領への可能性がにわかに高まっていました。

【脱“既成政治家”】
二期にわたりボゴタ市長として人気を博したモックス候補は数学者、哲学者、ボゴタ国立大学の元学長で、リトアニア系移民の子どもで派手好きの変わり者として知られています。
以前、NHKの番組でも取り上げていましたが、学生集会では注意を引くために尻を丸出しにして見せたこともある人物です。

モックス氏は、高級住宅街とスラム街が隣り合わせ、暴力と犯罪が横行する世界一危険な都市と言われたボゴタの市長選挙のときも、無党派候補として選挙戦終盤で彗星のごとく現れ、一気に人気を高め当選しました。
市長当時は市役所や警察官などで汚職をした人たちを追放し、道路にピエロの恰好をした人たちを送り、パントマイムで、マナーを守った人には白いカードを、守らなかった人にはレッドカードを渡すといった意表を突く方法でマナー・モラル向上を呼び掛けるなどの施策を実行しました。

“力”で治安維持にあたる現職大統領後継のサントス前国防相(ウリベ大統領以上にタカ派とも)と、数学者・哲学者で既成の政治家の概念を打破するモックス元ボゴタ市長(パーキンソン病の初期段階にあるとも)・・・という異色の対決が注目を集めましたが、結果は・・・。

【支持されたウリベ路線】
****コロンビア大統領選、与党の前国防相が首位 決選投票へ *****
任期満了に伴う南米コロンビアの大統領選挙が、30日投開票された。選挙管理当局の開票率約99%時点での集計によると、与党で中道右派、全国統一社会党のサントス前国防相(58)が得票率約47%で首位に立った。ただ当選に必要な過半数には届かず、2位についた緑の党、モックス元ボゴタ市長(58)との間で決選投票が実施される見通し。
モックス候補は小政党の候補ながら、選挙終盤で急速に支持を拡大した。ただ得票率は約21%にとどまっており、6月20日の決選投票での逆転は難しい情勢だ。

コロンビアは2002年に就任した現ウリベ大統領が、強硬な対左翼ゲリラ対策を実施。治安の改善や経済の安定を背景に高い支持率を保っている。サントス候補は憲法の再選禁止規定で立候補できないウリベ大統領に代わり立候補。路線継承や雇用創出を訴えた。
モックス候補は治安や経済政策で現政権の路線踏襲を表明した一方、汚職撲滅などを主張。既存政党に不満を持つ若者や無党派層を取り込んだが、最終的には支持基盤の都市部でも得票が伸び悩んだ。選挙には9人が立候補した。【5月31日 日経】
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第1回投票の結果は、直前世論調査とは異なり、与党の現職後継候補サントス前国防相がダブルスコアでリードし、決選投票での勝利に近づいています。
世論調査は地方部を十分にカバーしておらず、地方部は治安対策の恩恵を最も受けた地域で、左翼ゲリラ「コロンビア革命軍」弱体化に貢献したサントス前国防相の支持者が多い・・・との指摘【6月9日号 Newsweek日本版】もあります。

実際の投票にあたっては、「変革」への期待より、現実的な安定性を国民が選択した・・・ということでしょうか。

コメント
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