「ラシュカレ・タイバ」の創始者で、宗教福祉団体「ジャマートゥル・ダワ」のリーダーであるサイード氏
“flickr”より By lckykhi
http://www.flickr.com/photos/luckykhi/3506974273/)
【「ラシュカレ・タイバ」創始者に無罪判決】
インドにとっては、08年11月におきたムンバイ同時多発テロは9.11にも相当する衝撃を与えました。
その実行犯のうち、唯一の生き残りに対して今月3日、有罪が言い渡されています。
****ムンバイ同時襲撃事件、実行犯に有罪****
インドの裁判所は3日、166人が死亡した08年のムンバイ同時襲撃事件の実行犯として、唯一生存したまま拘束、起訴されたパキスタン人モハメド・アジマル・カサブ被告(22)に対し、インドに対する戦争の罪や殺人罪などで有罪評決を言い渡した。
カサブ被告は86の罪に問われたが、その大半で有罪となった。量刑は4日、最高で死刑の判決が言い渡される。
ムンバイ同時襲撃事件は、高級ホテル3軒とレストラン、ユダヤ教関連施設の入ったビル、ムンバイの主要鉄道駅で、銃で武装した実行犯10人が無差別に銃撃を行った事件。事件は60時間にわたって続いた。【5月3日 AFP】
*****************************
一方、インド・パキスタン関係を悪化させるのではないかと思われるニュースがパキスタンから伝えられています。
****パキスタン:インド同時テロ「首謀者」無罪に*****
パキスタン最高裁は25日、08年11月にインド・ムンバイであった同時多発テロ事件を巡ってインド政府が「首謀組織」と名指ししたパキスタンのイスラム過激派勢力「ラシュカレ・タイバ」のサイード総裁について、「関与の証拠はない」として政府の身柄拘束要求を却下し、事実上の無罪判決を言い渡した。インド側の激しい反発と印パ対話への影響が予想される。【5月25日 毎日】
**************************
「ラシュカレ・タイバ」は、1989年にパキスタン軍統合情報部(ISI)の肝いりで創設、カシミール地方の分離独立を目指し武装闘争を展開しました。ISIはアフガニスタンの旧政権タリバンを支援しており、このため、ラシュカレトイバもアルカイダとの関係は深いと言われています。
「ラシュカレ・タイバ」は、01年にニューデリーで起きたインド国会襲撃事件や06年のムンバイの連続列車爆破テロなど大規模なテロ事件への関与を指摘されてきました。
9.11以後、アメリカやインドの強い要求で、当時のムシャラフ・パキスタン大統領は「ラシュカレ・タイバ」の活動を禁じ、資産を凍結しましたが、インド政府はISIが今もラ「ラシュカレ・タイバ」を支援しているとみています。
なお、「ラシュカレ・タイバ」の活動禁止後、その母体組織「マルカズ」は宗教福祉団体「ジャマートゥル・ダワ」に衣替えし、表面上はそれまでの武装組織とは別組織としての体裁をとりながら、パキスタン国内での募金活動や街頭デモなど公然と行っていました。08年12月には、宗教福祉団体「ジャマートゥル・ダワ」も活動禁止となっています。
昨年9月、パキスタンはそれまでインド側からの再三のサイード氏逮捕の要請を無視していましたが、ニューヨークで開催が見込まれる印パ外相会談を控え、サイード氏に対し反テロ法違反の疑いで捜査を開始する形で歩み寄りを見せていました。
また、パキスタン当局は昨年11月25日、ムンバイの同時テロに関与したとして、過激派組織「ラシュカレ・タイバ」のメンバー7人を、パキスタン・ラワルピンディのテロ特別法廷に起訴しています。これも、インドやアメリカの非難をかわす狙いとみられていました。
パキスタン側の裁判では、インド側の捜査結果も証拠採用されました。
【印パ対話再開に暗雲】
ムンバイのテロによって、もともと犬猿の仲でもあるインド・パキスタン関係は冷却化し、包括対話も中断していましたが、パキスタン側の上記のような歩み寄りの姿勢もあって、先月末、対話再開の方向で合意したばかりでした。
****印パ首相会談 “雪解け”アピール 対話再開努力で合意*****
インドのシン首相とパキスタンのギラニ首相は29日、南アジア地域協力連合(SAARC)首脳会議が開催されているブータンで会談した。両首相は、2008年11月のムンバイ同時テロ以降、冷却化した両国関係を改善する必要があるとの認識で一致し、中断している包括対話の再開に向けて努力していくことで合意した。
両首相は相互に不信感があることを認めた上で、両国外相にそれぞれ、発想を新たにし包括対話再開につながる方法を見いだすよう指示した。
シン首相は「インドはすべての問題について協議する準備があるが、テロ問題がすべての進展を阻んでいる」と指摘し、パキスタンを拠点にインドを攻撃する武装集団の根絶を改めて要請。ギラニ首相は、ムンバイ同時テロに関与したとされる7人を訴追したことなどを伝え、理解を求めた。
両首相の会談は昨年7月以来。会談後、インドのラオ外務次官とパキスタンのクレシ外相はそれぞれ記者会見し、両国関係の“雪解け”をアピールした。印パ関係の安定を求める米国などの意向もあり、前向きな姿勢を打ち出さざるを得なかったとみられる。【4月30日 産経】
*****************************
パキスタン側は、テロへ関与した人物がいることは認めても、大部分の謀議は「インド国内で行われた」という考えであり、「パキスタン黒幕説」は否定しています。
今回の「ラシュカレ・タイバ」サイード総裁への事実上の無罪判決によって、こうした基本姿勢の違いが明らかになっています。
インド・シン首相はパキスタン・ギラニ首相に対し、「(パキスタンを拠点とする)テロはインド国民にとって最大の懸案だ」と指摘しており、パキスタン側の対応は対話に向けたインドの姿勢を硬化させることが懸念されます。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます