孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

欧州極右  フランス:統一地方選挙で国民戦線(FN)躍進  オランダ:過激発言で極右党首へ批判

2014-04-05 22:10:01 | 欧州情勢

(3月23日 マリーヌ・ルペン党首(中央女性) 統一地方選挙の投票に向かうところではないでしょうか。 “flickr”より By Rédaction Nice-Matin https://www.flickr.com/photos/nice-matin/13352774195/in/photolist-mp8yJF-mn9anE-mnaN5f-mKCf34-moBHBZ-mqeX9n-mkWsyK)

極右政党に世論が「慣れてきた」側面も
先月に行われたフランス統一地方選挙では、支持率が25%という近年の歴代大統領としては最低水準にあるオランド大統領の不人気を反映して、与党・社会党は長年にわたり地盤だった155の自治体で党所属の首長が敗れるという大敗を喫しました。

この結果を受け、オランド大統領は31日にテレビ出演し「国民の不満と失望を理解した」と述べたうえで、「立て直しが不可欠」として新首相に党内右派のバルス氏(51)を任命しました。

“(バルス新首相は)企業の負担軽減など右派的経済政策を加速させる意向だが、党内左派や連立を組む「欧州エコロジー・緑の党」からは反発が出ている”【4月1日 毎日】

左派・社会党の退潮を埋める形で右派・国民運動連合は今回統一地方選挙では善戦しましたが、“2012年の大統領選でサルコジ前大統領が敗れてから、政策の方向性などを巡り党内はばらばらになっている”【3月25日付 英フィナンシャル・タイムズ紙】状態で、とても社会党を追い落とすような勢いはありません。

社会党の敗退は選挙前から予想されていたところですが、もうひとつ予想されていたのがマリーヌ・ルペン党首率いる極右政党・国民戦線の台頭です。

最近の欧州における保守化・極右勢力の台頭という現象の中核にも位置する同党ですが、不人気な社会党、ばらばら状態の国民運動連合という二大政党の低迷の間隙を縫って、予想どおりの躍進を遂げています。

****極右政党をやむなく受け入れるフランス*****
先月30日に決選投票が行われたフランスの統一地方選挙で、極右政党・国民戦線(FN)が歴史的躍進を遂げたことについて専門家らは、仏国民の多くが依然、FNに敵対的でありながらも、やむなくこの反移民政党を主流に受け入れつつあることの表れだと分析している。

約3万6000の自治体の首長と議員を選ぶこの選挙で、FNは計1400議席超を獲得し、少なくとも11の自治体で首長に選出された。南仏のフレジュスには26歳の同党員の首長も誕生した。

かつてない成果で、一時は内部分裂もあり、08年の統一地方選では約60議席しか獲得できなかった同党の今後にとって大きな転換点となるだろう。

■浸透した政党としての存在感
この結果を受けて、FN党員が市長に選出されたボーケール市に対し、ベルギーの都市が即刻、姉妹都市関係を解消するなど、国外では激しい怒りが巻き起こっているが、当のフランス国民はまったくといっていいほどショックを示していない。

日刊紙パリジャンが先月31日に掲載した世論調査では、回答者の60%近くがFNを主流派政党とみなすべきだと考えている一方で、FNから首長や地方議員が選出されることは行き過ぎで「悪いこと」だと62%が考える、矛盾した結果が出た。

極右に詳しい専門家のジャンイブ・カミュ氏は、創始者のジャンマリ・ルペン氏が党首だったころには、ナチス・ドイツによるユダヤ人などの大量虐殺、ホロコーストの存在を繰り返し否定し、人種的憎悪をあらわにするその言動からタブー視されていた同党の「脱邪悪」を、娘のマリーヌ・ルペン現党首が2011年の就任以来うまく進めてきたと指摘する。

さらにカミュ氏は、「仏国民の大半は、FNも政党とみなすべきだと考える一方で、不信感も根強く持っている。仏国民の大多数が当分、FN政権を望んではいないことは明白だ」と語った。

大方の見方では、FNの躍進を招いたのは、フランソワ・オランド大統領の社会党政権に対する世論の不満に加え、高い失業率や低成長、国内治安といった問題を解決する力がないとみなされている既存の主流派政党に対する漠然とした怒りだ。

しかし95年や97年の地方選の際にFNが1200議席を獲得し、4自治体の首長に当選したときの衝撃と比べられるが、今回は過去ほどの驚きは感じられない。

仏国内の衝撃が少ないのは、父親のルペン氏のころとは党のイメージが変わったからだと、仏世論研究所(IFOP)のジェローム・フルケ氏もいう。

その上、当時からは20年が経ち、世論が「慣れてきた」側面もあると指摘する。「日々の積み重ねで受容されてきた感がある。党の横顔も以前よりずっと柔らかく、候補たちも短気ではない」

■「脱邪悪」は本当か?
マリーヌ・ルペン党首になり、FNでは、反ユダヤ的発言や人種差別的発言を捉えられた人物は誰でも徹底的に党から追放してきた。例えば10月には地方議会選候補が、黒人である仏法相をサルにたとえたため、この候補を除外した。

しかし、創始者ジャンマリ・ルペン氏が練り上げた党の方針のうち、最も物議を醸す部分は今も厳然としてある。

南仏ビトロールでは97年に就任したFNの市長が「国籍特恵」を導入しようとした。
これは両親のうち少なくとも1人がフランス国籍を有する場合、その家族に子どもが誕生するたびに770ユーロ(約11万円)を支給する案だった。マリーヌ・ルペン党首はこれは「誤りだった」と認めているが、「国籍特恵」の呼び方を変えた「国籍優先度」は、現在もFNの主要政策の一つだ。

また、フランス国内にいる移民の下に直近の家族が身を寄せることを認める現行法の改定も依然掲げているが、これは国際家族法に反する立場だ。

さらに新たな移民への福祉給付や医療保険の制限も提案しており、主流右派の有力者たちからも賛同を得ている。【4月1日 AFP】
********************

与党・社会党は勢いづく極右・国民戦線(FN)を封じる目的で、決選投票における最大野党・国民運動連合(UMP)との共倒れを避けるため決選投票から撤退する「共和国戦線」と呼ばれる手法も一部自治体でとりましたが、UMPの協力を得られず、大きな効果は出ませんでした。

こうした国民戦線(FN)の躍進については、“過度に警戒する必要はない。今回の地方選の対象となった3万7000の自治体のうち、国民戦線が候補者を擁立したのは600の選挙区にとどまった。国を代表する勢力にはほど遠い。だが、同党は支持基盤である地中海沿岸だけでなく、ほかの自治体でも支持を集めつつあり、5月の欧州議会選での躍進も現実味を帯びてきた。そうなれば、左派と右派からなる既存の二大政党制を打破するというルペン氏の主張が実現することになる。”【3月25日付 英フィナンシャル・タイムズ紙】との評価があります。

“過度に警戒する必要はない”とのことですが、逆に言えば、わずか600の選挙区での候補者擁立だけでこれだけの成果ですから、“反EU”が議論の中心となる5月の欧州議会選では、衝撃的な勝利をおさめることが予想されます。
事前の世論調査では二大政党を抑える勢いを示しています。

更にその先には、2017年の大統領選があります。マリーヌ・ルペン党首は大統領を狙える位置を固めつつあります。

より過激な発言を行うことで、これまでの過激発言がいつのまにか“許容範囲”に
極右勢力が台頭している欧州にあって、フランス・国民戦線(FN)と並んでその中核を形成しているのがオランダの極右政党・自由党です。
両党は13年11月、欧州議会選での共闘を発表しています。

そのオランダの極右政党・自由党のヘールト・ウィルダース党首の方は行き過ぎた“移民憎悪発言”で批判の渦中にあります。

****オランダ極右党首が移民憎悪発言で窮地に****
オランダで支持を拡大している反イスラム主義の極右政治家ヘールト・ウィルダース。
彼が率いる自由党は5月に行われる欧州議会選挙でも議席数の増加が予想されていたが、ちょっと調子に乗り過ぎたようだ。

ウィルダースは先月半ばにパークで反移民集会を開催。集まった支持者たちに向かって、「オランダに住むモロッコ人は多いほうがいいか、少ないほうがいいか」と叫んだ。その問い掛けに「少ないほうだ、少ないほうだ」と繰り返す群衆。すると、ウィルダー・スはにんまりしながら応えた。「心配はいらない。私たちが対処するから」

この様子がYouTubeで流れると、すぐにドイツのメディアはナチスのプロパガンダ集会と同じだと批判。ウィルダースの支持率は急落し、自由党の幹部たちは離党届を提出した。
その中には、欧州議会で自由党の代表を務める議員もいる。

オランダの移民は、モロッコをはじめトルコやインドネシアの出身者がその大多数を占める。移民の反発を買ったウィルダースは、すべてのモロッコ人のことを言ったのではない、犯罪歴がある人たちだけだと、苦しい言い訳を並べた。【4月8日号 Newsweek日本版】
*******************

問題発言があった集会は、デン・ハーグ市とアルメール市の市議会選後に行われたもので、両選挙で上々の結果を出したウィルダース党首は上機嫌でした。

移民排斥的な主張が強いイメージがあるウィルダース党首ですから、“モロッコ人は出ていけ”ぐらいの発言は普通に行っているのでは・・・とも思ったのですが、これまではさすがにそこまでは公言していなかったようです。

****ウィルダース議員に対する被害届で警察署に行列*****
オランダ東部にあるナイメーヘン市では今朝数百人のモロッコ系オランダ人、そして市長や市議会議員が警察へ被害届を出すために行列した。

被害届は先の市議会選挙で「オランダからモロッコ人を減らそう」という趣旨のスピーチを行った極右政治家PVV党のウィルダース氏に対するもの。

被害届運動の先頭に立ったのは、市長を始めナイメーヘン大学の教職員たちである。呼びかけはフェイスブックを通して行われた。「世の中には見てみないふりをできないことがある。ウィルダースのヘイトスピーチはまさにそれである。」と、ブルルス市長は群衆の前で演説し喝采を浴びた。

さらにナイメーヘン大学のグループは検察に対し、今後全国的に被害届が出されるはずなので、何らかの措置をとるべき」と要求している。(後略)http://www.portfolio.nl/bazaar/home/show/372*********************

自由党離脱者も出るなかで、ウィルダース党首は「全く後悔はしていない。発言を撤回するつもりはないし、詫びるつもりもない」と声明を出しています。

苦境にある・・・と報じられているウィルダース党首ですが、まったく異なる見方もあります。

“ヘルト・ウィルダース論争 3  2014/03/23 by studiofrog”(http://polderpress.com/2014/03/23/%e3%83%98%e3%83%ab%e3%83%88%e3%83%bb%e3%82%a6%e3%82%a3%e3%83%ab%e3%83%80%e3%83%bc%e3%82%b9%e8%ab%96%e4%ba%89%e3%80%80%ef%bc%93/)に、そのあたりが論じられています。

以下のような内容です。

***********
ウィルダース党首の過激発言は毎度のことで、世間の注目を集め、存在を主張するためのものである。その意味で、今回騒動は彼の狙いどおりになっている。

また、より過激な発言を行うことで、これまでの過激発言がいつのまにか“許容範囲”と見なされる現象も見られる。

今回、「犯罪を犯すモロッコ系は出て行けというならまだしも、ウィルダースは今、モロッコ人全般を攻撃している」と反論する人が大勢出てきているが、そもそも「犯罪を犯すモロッコ系は出て行けという」という発言も、これまでは社会的には認められていなかったものである。
************

より過激な発言を行うことで、これまでの過激発言がいつのまにか“許容範囲”と見なされるというのは、興味深いところです。
一連の過激発言が世論の本音に近いところがあるため、繰り返されているうちに本音をむき出しにすることへの抵抗感が薄れていくのでしょう。

しかし、むき出しの本音とはエゴであり、エゴだけでいいのか?という問題もあります。苦しくても堅持すべき建前や理想もあるのではないでしょうか?

フランスでは、マリーヌ・ルペン党首は過激な極右的言動を抑制することで、よりソフトに“世論が(極右政党・国民戦線(FN)に対して)「慣れてきた」側面”を引き出しています。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ウクライナ  「国家存亡の... | トップ | ルワンダ大虐殺から20年 今... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

欧州情勢」カテゴリの最新記事