孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中国を意識したインド・ロシアの関係強化に、パキスタンの対印姿勢硬化

2010-03-14 12:49:56 | 国際情勢

(昨年9月25日 妻の故ブット元首相の遺影を置いて、国連総会で演説するパキスタンのザルダリ大統領  
意外と明確な対インド和平案を持っているようですが、軍に抗して権力維持ができるのか・・・ “flickr”より By United Nations Photo http://www.flickr.com/photos/un_photo/3962422965/

【空母、戦闘機に原子炉も】
ロシアのインドへの武器売却が注目されています。
これまでもインドの兵器の約7割を担ってきたロシアですが、最近のイスラエルやアメリカのインド接近、中国の海軍力増強の動きなどをにらんだ戦略関係強化のようです。

****インド、中国にらみ軍拡 戦闘機などロシアから大量購入*****
インドのシン首相は12日、同国を訪問中のプーチン・ロシア首相と会談し、空母や艦載機の購入をはじめ軍事分野で幅広い合意に達した。インドは、空母建造で遠洋進出を本格化させようとしている中国に対抗。同様に対中警戒感を強めているロシアは、インドへの武器の売り込みを加速させている。

インドにとって、ロシアは兵器の60~70%を供給する最大の調達先。主力戦闘機の供給や巡航ミサイル、原子力潜水艦の開発などで幅広い関係を築いてきた。近年、イスラエルや米国がインドに急接近する中、総額100億ドルとされる巨額合意でロシアが巻き返しを図った。
会談の目玉は、旧ソ連時代の1987年に配備された空母アドミラル・ゴルシコフ(約4万5千トン)の引き渡しだ。2004年に9億7400万ドルで基本契約が結ばれたが、インド側が装備の刷新を求めて価格の調整が難航。今回、23億ドルで妥結し、ロシア側は12年末までの引き渡しを明言したと伝えられている。(中略)
両国間には、ゴルシコフの艦載機ミグ29K戦闘機を16機売買する契約があり、その一部が昨年末、インド側に引き渡された。インドは今回、さらに29機を追加購入することで合意し、国産空母にも配備する方針だ。

インドが海軍力整備を図る背景には、62年に国境紛争を経験した中国への対抗意識がある。中国は2隻の空母の建造を急ぐ一方、パキスタン、スリランカ、ミャンマー(ビルマ)で、インドを取り巻くように港湾を建設。「将来の軍港への布石ではないか」(海軍筋)とインド側は警戒感を募らせていた。
インドは、国防予算を09~10年度に前年度比23.7%増加させ、10~11年度予算案でも同8%増を計上。5年間で300億ドルをかけた軍事力近代化の真っ最中だ。
最近では軍備開発部門のトップが、中国全土を視野に入れた射程5千キロの長距離弾道ミサイルの発射実験を1年以内に実施する方針を表明。ベンガル湾の戦略上の要衝アンダマン諸島で、中国とパキスタンを除く東南アジアなどの13カ国の海軍を招き、合同軍事演習を実施。中国を意識した動きが際立っている。【3月13日 朝日】
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【ロシアの事情】
中国の進出に警戒感を強めるインドですが、ロシアはこれまで中国にも大量の兵器を供給してきました。
しかし、ロシアにとって国境を接して軍事力を急速に増強する中国よりは、国境を接していないインドの方が警戒感が薄いということもあって、中国よりインドを優先するロシアの姿勢がより鮮明になったと見られています。
中国はロシアから購入した兵器をもとに、ライセンスなしに独自生産しているという不信感もあって、ロシアは、中国へは防御用兵器に限り、最新技術を備えた兵器は供与せず、武器売却額は減少傾向にあると言われています。【3月13日 朝日より】

中国など関係国への対応のほか、ロシアには別の事情もあります。
ロシア製兵器は近年、納期の遅れや質の低劣ぶりが露呈しており、インドでは昨年だけでミグやスホイなどロシア製戦闘機8機が非戦闘時に墜落したとの情報もあります。
プーチン首相の今回訪問は、インドの信頼をつなぎ止め、有力な兵器売却先の一つであるインドでの市場確保を目指す狙いとか。「米国は技術的優位性や政治的圧力により、兵器市場からロシアを徐々に締め出している」との指摘もあって、ロシアはベネズエラやベトナムなどで新たな市場開拓に躍起になっているのが実情のようです。 【3月11日 産経より】

プーチン、シン両首相の会談では、軍事関係だけでなく、原子炉16基をインド3か所にロシアが建設することでも合意しています。ロシアは現在、インド南部で原子炉2基を建設中です。
首脳が合意した取引総額は、100億ドル以上に達する見通しと報じられています。

【「極悪な計画を持つ者に・・・」】
中国への警戒を強めるインドに対し、インドの軍事力増強に警戒を強めるのが隣国パキスタンです。
****パキスタン:ミサイル発射実験行い声明 印露協力を警戒*****
パキスタン海軍は12日、アラビア海で対艦ミサイルなどの発射実験を行い、「極悪な計画を持つ者に戦争を抑止させるためのメッセージだ」との声明を発表した。同日、インドとロシアが軍事協力強化などで合意したことに強い警戒感を示したものだ。アフガニスタン戦争の泥沼化でこの地域における米国の影響力が低下する中、印パ関係は98年の核実験以来、最も危険な状態になりつつある。

印パ両国とも定期的に海上でミサイル発射実験を行ってきたが、今回のような挑発的な声明は極めて異例。インドのチダムバラム内相は声明後、「(08年11月のインド・ムンバイ同時多発テロ事件と)同じテロを再びインドで起こせば、今度は容赦しない」と軍事行動を示唆し、パキスタンをけん制した。
インドとの過去3回の戦争でいずれも劣勢に立たされたパキスタンにとって、後背地のアフガンとインド洋へのインドの影響力拡大は最大の脅威だ。
米同時多発テロ(01年9月)後、パキスタンでは米国からの圧力で自国内のテロ対策に重点を移し、対印脅威論は下火になった。米国の下、パキスタンとインドは「対テロ同盟国」となり、和平対話にもつながった。
しかし、ムンバイテロ事件で対立が再燃。インドが治安部隊の訓練などでアフガンへの関与を強めていることから、パキスタンでは対印強硬派が勢いを増している。今回のパキスタン側の声明は、こうした地域の安全保障環境の変化を反映したもので、印パ関係の一層の悪化につながる恐れがある。【3月13日 毎日】
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インドとパキスタンの関係正常化に向けた「包括的対話」は08年11月のムンバイ同時テロで中断していましたが、2月25日、両国の外務次官級協議が「包括的対話」再開に向けて行われました。
しかし、両国の主張は平行線をたどり次回の日程さえ確定できずに終わっています。

****印パ ムンバイテロ後初の公式協議 次回日程決まらず****
今回の協議は、「包括的対話」の再開につながる場となるかが焦点だった。だが、両国の主張は平行線をたどり次回の日程さえ確定できず、冷却化した印パ関係の難しさを改めて露呈した。
今回の協議はインド側がパキスタン側にもちかけたもの。だが、協議前からテーマをめぐって温度差が露呈するなど、実質的な進展への期待感は低かった。

印パ両外務次官は、協議後、それぞれ記者会見を開き、今回の協議が「有用なものだった」と語った。だが、協議では、主要テーマはテロ問題だとするインド側に対し、パキスタン側は、両国が領有権を主張するカシミール問題だとして譲らず、いずれのテーマも突っ込んだ協議には至らなかったようだ。
インドのラオ次官は「ムンバイ同時テロは大きな問題の一つの兆候だ」として、パキスタンを拠点としてインドにテロ攻撃をしかけるイスラム過激派組織に対し、早急に厳格な措置を取ることなどを求めた。
これに対しパキスタンのバシール外務次官は協議後の記者会見で、「パキスタンはテロとの戦いではどの国よりもやるべきことをやっている」と反論、テロ問題に固執し、両国関係の全体の進展を妨げるべきではないとインドを批判した。【2月26日 産経】
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【ザルダリ大統領のインド和平案】
パキスタン内部でも、ザルダリ大統領と国軍の間では意見の違いがあるようです。
従来同様、インドの脅威を強調し、カシミール問題解決を声高に主張しているパキスタン軍上層部ですが、ザルダリ大統領は、一貫して“パキスタンを安定させるのはカシミール問題の解決ではなく、貿易自由化をはじめとするインドとの経済協力である”という主張をしています。

膨張する軍事費によって経済発展に予算が回らず、結果として生じる経済不安がイスラム過激派に付け入る隙を与えてきた。インドとの経済協力で、これまでよりはるかに安く輸入でき、輸出産業も市場を得ることができる。カシミール問題はしばらく保留しておけば、経済交流が盛んになるにつれ、政治的緊張は次第に和らいでいく・・・という考えです。

ザルダリ大統領はインドに関して、「カシミールのインド支配に抵抗するイスラム過激派はテロリストだ」「パキスタンから先にインドに核兵器を使用することはないと断言する」と発言しています。さらに、ムンバイ同時テロ後の関係冷却の中にあって、「パキスタンはインドの脅威を受けていない。インドは成熟した民主国家であり、民主国家は他国の民主国家を攻撃したりはしない」と明言しています。

ザルダリ大統領の主張は正論です。しかし、インドとの緊張が緩和すると国における軍の特権的地位が危うくなります。また、アメリカから支援を受ける莫大な軍事費を正当化する口実が失われます。ひいては、軍関連のさまざまな企業を経営する将軍たちの資産にも・・・という訳で、軍上層部の理解が得られないとか。
ムンバイ同時テロについても、大統領のインド和平案をつぶすためにパキスタン軍が仕組んだのでは・・・とも見方もあるとか。【3月17日号 Newsweek日本版】

かつて“ミスター10%”などと揶揄されてきたザルダリ大統領ですが(実際脛に傷がある身ですが)、なかなかしっかりっした主張を持たれているようです。ただ、いかんせん権力基盤が脆弱です。軍に対してはもちろん、党内においてさえ危うい状況です。
インドのロシアとの関係強化・軍事力増強は、パキスタン軍・保守派の強硬意見に有利に働きます。
ザルダリ大統領のインドとの和平案が実現するのか、あるいは軍事クーデターなどで失脚するのか・・・アメリカがどこまで大統領を支援できるかにもかかっているとか。
アフガニスタンの泥沼に足をとられ、パキスタン軍の協力を得たいアメリカがどこまで指導力を発揮できるか・・・。


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