孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イスラエルの東エルサレム新規入植発表に、アメリカも厳しい批判

2010-03-15 21:39:36 | 国際情勢

(東エルサレム モスク隣の建物に掲げられたイスラエル国旗 “flickr”より By Laika slips the lead http://www.flickr.com/photos/slipsthelead/3612167660/)

【クリントン長官の怒り】
イスラエルが9日、東エルサレムでのユダヤ人入植者用住宅1600戸の新規建設を承認したことについては、アメリカが仲介する形での間接交渉を開始しようとした矢先の出来事で、しかもバイデン米副大統領によるイスラエル訪問の最中だったこともあって、さすがにこれまでイスラエルを支えてきたアメリカも、面子をつぶされた形で機嫌をそこねたようです。
クリントン国務長官は、ネタニヤフ首相との電話で、“ほぼ一方的にまくしたてた”とのことです。

****入植者住宅、米国務長官がイスラエルを猛批判*****
クリントン米国務長官は12日、CNNテレビのインタビューで、イスラエルが9日に東エルサレムでのユダヤ人入植者用住宅の新規建設承認を発表したことについて、バイデン米副大統領による訪問の最中だったことから、「無礼だ」と強烈に批判した。
長官は、建設承認は内務省の管轄で首相は決定を知らされていなかったと伝えられることについても、「首相が最終的な責任を負う」と述べ、言い訳にはならないと断じた。
クローリー国務次官補によると、クリントン長官は12日にネタニヤフ首相と電話で協議し、パレスチナが将来の首都とする東エルサレムでの建設承認に直接、抗議した。米メディアによると電話は異例の45分間に及び、長官は「なぜこのようなことが起きたか理解できない」など、ほぼ一方的にまくしたてたという。【3月14日 読売】
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【国際的に認められていない東エルサレム併合】
エルサレムの戦後の歴史は次のとおりです。
第二次世界大戦後の1947年、国連案によって都市は旧市街を含む東エルサレムと、西エルサレムに分断。
東エルサレム(旧市街)には、嘆きの壁、聖墳墓教会、岩のドームといった各宗教ゆかりの施設があって、ユダヤ教・キリスト教・イスラム教それぞれの聖地とされています。
1949年、第一次中東戦争の休戦協定により西エルサレムはイスラエルが、東エルサレムをヨルダンが統治。
1967年の第三次中東戦争で、イスラエルはヨルダン領であった東エルサレムを占領。
1994年に締結したイスラエル・ヨルダン平和条約でヨルダンは東エルサレムの領有を放棄。

こうした経緯で東エルサレムは現在イスラエルの占領下にありますが、イスラエルは東エルサレムとの統合を主張、、1980年には、イスラエル議会により、エルサレムはイスラエルの永遠の首都であるとされています。
しかし、国連総会はイスラエルによる東エルサレムの占領を非難し、その決定の無効を143対1(反対はイスラエルのみ、棄権は米国など4)で決議しています。なお、パレスチナは東エルサレムを独立後の首都とみなしています。

イスラエルは昨年11月、占領地ヨルダン川西岸でのユダヤ人入植活動の一時凍結(入植者住宅の新規建設を10か月間凍結)を発表していますが、「自国領」である東エルサレムは凍結対象外と位置付けています。
しかし、イスラエルによる東エルサレム併合は国際的には認められておらず、国連の潘基文(バンギムン)事務総長は改めて、入植活動が国際法違反であると強調。「和平プロセスを阻害する」と指摘しています。

【「成果を期待しているわけではない」和平交渉】
久しく停滞していた中東和平については、アメリカがイスラエル・パレスチナの仲介に入る形で、間接交渉を始めることで合意したばかりでした。

****パレスチナ和平、米仲介の間接交渉で合意*****
米国のミッチェル中東特使は8日、声明を出し、中断状態が続くイスラエルとパレスチナの和平交渉について、米国が仲介する間接交渉の形で開始することで双方が合意したことを明らかにした。
双方の直接交渉は2008年末のガザ紛争で中断し、その後もヨルダン川西岸へのユダヤ人入植問題でパレスチナ側が反発して再開を拒んでいる。間接交渉方式は1月にミッチェル特使が提案したもので、同特使が6~8日に再び現地入りして合意を取り付けた。交渉期間は4か月間で、まずミッチェル氏が来週、双方の間を往復して交渉を開始する見通し。

ただ、双方の不信感は根強く、間接交渉が成果を生むかは不透明だ。
イスラエル、パレスチナ双方は、米国への配慮で間接交渉に合意したが、真意は「(交渉を)相手方こそが『和平の阻害者』だと非難するためで、成果を期待しているわけではない」(パレスチナ事情通)との見方が強い。
間接交渉が始まっても紛糾必至なのが、将来のパレスチナ国家の国境画定だ。パレスチナ側は、第3次中東戦争(1967年)以前の停戦ライン(東エルサレムを含む西岸、ガザ地区とイスラエルの境界)を、イスラエルとの国境とするよう迫る方針。しかし、ネタニヤフ首相は、「エルサレムは永久不可分のイスラエルの首都」との立場を崩していない。【3月10日 読売】
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こうした動きを受けて、バイデン米副大統領がイスラエルを訪問、イスラエルの安全保障に対する米国の全面的な支援を表明するとともに、イスラエルが「間接交渉」に合意したことを称賛したのですが・・・。
****米副大統領、イスラエルの安全保障に全面支援を約束****
イスラエルを訪問中のジョゼフ・バイデン米副大統領は9日、エルサレムでイスラエル首相との会談後に会見し、イスラエルの安全保障に対する米国の全面的な支援を表明するとともに、中東和平交渉の再開にむけて自身のあらゆる影響力を行使すると述べた。
タカ派のベンヤミン・ネタニヤフ首相との会談後、バイデン副大統領は「イスラエルの安全保障に対する米国の絶対的、全面的、そして率直な支援が(米イスラエル)関係の土台にある」「米国とイスラエルの関係が一分の隙もないほど密接な時に、中東和平には進展が生まれる。ことイスラエルの安全保障に関しては、両国の間に隔たりはない」と述べた。(中略)
またバイデン副大統領はイスラエルとパレスチナが米国を仲介役とする「間接交渉」に合意したことを称賛した。しかし同副大統領の訪問と前後してイスラエル政府は、占領を続けているパレスチナ自治区ヨルダン川西岸のユダヤ人入植地に新たな住宅112棟の建設を許可し、入植の完全凍結を要求しているパレスチナ人は強く反発しており、間接交渉の成功は難しいとの声もあがっている。(後略)【3月9日 AFP】
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イスラエル側は、今回の入植計画が3年前からあり、「バイデン副大統領の訪問とは関係ない」と釈明していますが、現地入りしているバイデン米副大統領は顔に泥を塗られた格好となり、「(建設計画の)発表内容もタイミングも間接交渉に必要な信頼を損なうものだ」と痛烈に批判しています。

当然ながら、パレスチナ自治政府は反発しており、アッバス議長はアラブ連盟に対し、イスラエルが占領地東エルサレムに計画中のユダヤ人入植者用住宅1600戸の建設を撤回しない限り、米政府の仲介によるイスラエルとの間接和平交渉には応じない意向を伝えています。

アメリカ仲介の間接交渉はスタートと同時に暗礁に乗り上げていますが、前出読売記事にあるように、「(交渉を)相手方こそが『和平の阻害者』だと非難するためで、成果を期待しているわけではない」というイスラエル・パレスチナ双方の交渉合意の真意が露呈した形にもなっています。

なお、今回入植発表については、イスラエル政府内にも異論はあったようです。
“入植地計画は、ベンヤミン・ネタニヤフ首相の右派政党が率いるイスラエルの連立政権内でも、主要な連立相手である中道左派の労働党が中止すべきだと主張し、あつれきが生じている。新たな入植地計画を承認したことが「誤りだった」と認める閣僚によると、ネタニヤフ首相は計画を発表したエリ・イシャイ内相と長時間の協議を行ったという。”【3月11日 AFP】

【頑ななイスラエルの姿勢】
イスラエルのネタニヤフ首相は先月21日にも、パレスチナ自治区ヨルダン川西岸ヘブロンにあるイブラヒム・モスク(マクペラ洞穴)と、ベツレヘムに近い「ラヘル(レイチェル)の墓」の、イスラム教にとっても重要な聖地2カ所を「ユダヤ人ゆかりの文化遺産修復計画」の対象にすると発表、ユダヤ側に都合よく現状改変されることを警戒するパレスチナやアラブ側が強く反発しています。

****イスラエル、西岸モスクなど修復計画 「聖地」新たな火種****
イスラエル政府による文化遺産修復計画は約150カ所が対象となっているが、地元紙の報道では、ネタニヤフ首相は連立する極右政党の突き上げで、この2カ所を対象に含めた。
しかし、パレスチナ側は激しく反発。22日にはヘブロン市内でパレスチナ人とイスラエル軍の衝突が発生し、カタールの衛星放送アルジャジーラによると、24日もパレスチナの若者と軍の衝突が起きている。
パレスチナのイスラム原理主義組織ハマス指導者のハニヤ氏は23日、「イスラム教徒の歴史を守れ」とガザ地区からげきを飛ばし、パレスチナ自治政府のアッバス議長は「イスラエルのやり方は宗教戦争を引き起こす挑発だ」と非難した。また、イスラエルと外交関係を持つ穏健アラブのエジプト、ヨルダンも「和平交渉再開の障害となる」などとして計画の見直しを求めている。【2月25日 産経】
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アラブ首長国連邦(UAE)のドバイで起きたパレスチナのイスラム原理主義組織ハマスの武装部門司令官暗殺事件といい、今回の東エルサレム新規入植といい、あるいは上記宗教施設修復といい、イスラエルの頑なな姿勢が目立ちます。バイデン米副大統領はイスラエルの安全保障に対する米国の全面的な支援を表明していますが、イスラエルのこうした姿勢が続く限り、敵意に囲まれたイスラエルの状況も続きます。


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