孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イギリス  脱EU論議の幻想  敢えて孤高の道を選択する愚策

2014-06-30 22:20:53 | 欧州情勢

(6月27日 EUサミットの2日目 キャメロン首相 (中央)とリトアニア・ダリア大統領(左)、デンマーク・シュミット首相(右)【6月27日 ブルームバーグ】)

【「夢は現実のものとなった」】
ナポレオンの時代から、イギリスは海の向こうにいて欧州本土に対する独自性を主張してきていますが、現代にあっても統合深化を進めるEUに対して、イギリスは国家主権を制限するようなEUの在り方をに反対しています。
ユーロにも参加していません。

そういう風潮もあって、5月末に行われた欧州議会選挙ではEU離脱を掲げる英国独立党が「歴史的勝利」で第一党となり、キャメロン政権に衝撃を与えました。

****第一党に独立党 英の離脱論勢い****
英国のキャメロン首相は5月26日、欧州議会選でEUからの離脱を主張する英国独立党が第一党となったことを受け、「国民はEUに変化を求めている。英国はEU改革を求めていく」と述べた。

台風の目となった脱EU派が、EU残留・離脱を問う英国での国民投票にも影響を及ぼすことは避けられない情勢だ。

英国での投票では、独立党が前回比約11ポイント増の27.5%を得票、同じく約10ポイント増の野党・労働党の25.4%、約4ポイント減の与党・保守党の23.9%を引き離す形で、「歴史的勝利」(英BBC放送)を収めた。

独立党のナイジェル・ファラージュ党首は25日夜、勝利宣言し、「夢は現実のものとなった」と述べ、保守党、労働党に次ぐ「第3の勢力」として来年の総選挙での勝利に向けて勢力を傾注していく姿勢を示した。

独立党は、保守党と連立与党を組む自由民主党(約7ポイント減の6.9%)の凋落(ちょうらく)につけ込み、政権参画を狙うものとみられる。

今回の連立与党大敗の背景にあるのはロンドンなど中央と地方の格差が拡大する現状への不満であり、来年の総選挙では脱EUが最大の争点にはならないという見方が根強い。

だが、キャメロン首相が2017年末までに実施すると約束したEU残留・離脱を問う国民投票の前倒しを含め、不満勢力への対策が急務だとの声は保守党内にも強い。英政権は、EUの欧州統合政策とは距離を置くとみられる。【5月27日 産経】
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英国独立党の支持拡大の背景には、04年にEUに加盟した東欧8カ国からの移民流入で「職を奪われた」との労働者の不満があるとされています。

反EUの世論を受けて、キャメロン首相は昨年1月、15年総選挙で勝利した場合、17年半ばまでにEU離脱の是非を問う国民投票を実施すると公約していますが、英国独立党躍進に危機感を抱く与党・保守党内部からもキャメロン首相への圧力が強まることが予想されています。

キャメロン首相自身は、EUに対してイギリスの主張をアピールし、何らかのイギリス寄りの改革を実現する、あるいはイギリスの特別な権利を認めさせることで世論をなだめ、イギリスの政治・経済的孤立を招くEU離脱は避けたい意向と思われます。

【「英国のEU離脱が近づいた」】
そうしたキャメロン首相の置かれている政治的状況から、次期欧州委員長の人選において、統合深化を進める立場のユンケル前ルクセンブルク首相に激しい抵抗を示しています。

****欧州委員長・ユンケル氏に反対 英、譲歩せず孤立鮮明****
 ■採決惨敗、「反EU」勢い?
欧州連合(EU)の次期欧州委員長の人選を通じて、英国の孤立が鮮明となった。

27日の首脳会議では前例のない採決が行われ、大半の加盟国がユンケル前ルクセンブルク首相(59)を支持したが、英国は反対を貫いた。

今後、EUの新指導部と他の加盟国は英国の一段の「EU離れ」を食い止める必要に迫られるが、その成否は予断を許さない。英紙タイムズ(電子版)は「英国のEU離脱が近づいた」と報じた。

欧州委員長は、EUの執行機関である欧州委員会のトップ。ユンケル氏の就任は7月中旬の欧州議会で承認された後、正式決定する。バローゾ現委員長(ポルトガル元首相)の任期は10月末までで、ユンケル氏の任期は11月から5年。

キャメロン英首相は、ブリュッセルで開かれたこの日の首脳会議後、「結果は受け入れねばならない。英国は(次期)委員長と協力する」と厳しい表情で語る一方、「きょうは欧州にとって悪い日だ」と強調した。

今回の欧州委員長の人選をめぐっては、欧州議会の最大会派が推す候補で、欧州統合推進派のユンケル氏を多くの加盟国が支持。国内に有力な反EU政党を抱える英国は反対してきた。

首脳会議では英国が多数決を要求。全会一致で委員長が指名されてきた原則を破る形で、初めて採決に持ち込まれた。

結果、加盟28カ国中、反対したのは英国とハンガリーのみ。来年に総選挙が控える中、キャメロン氏としては、「ユンケル氏反対」が根強い世論を前に、最後まで譲歩姿勢は見せられなかったようだ。

ユンケル氏は、ユーロ圏財務相会合の常任議長として欧州債務危機の対応を担い、「経験豊富で、EUの問題もわかっている」(サマラス・ギリシャ首相)と多くの首脳は期待する。

だが、EUの権限縮小を求める英国にとって、「ユンケル委員長」では逆にEUの権限強化につながりかねない。2017年末までにEU残留か否かの国民投票を実施するキャメロン政権としては、EU残留のための世論対策上も受け入れられなかったといえる。

他の首脳に“勝利感”はない。メルケル独首相は「英国の懸念を真剣に受け止める」とし、首脳会議の総括文書には英国の求めに応じ、委員長の人選手続きを見直す方針を明記。今秋に任期満了となるEU大統領など、他の新体制の人事でも配慮するとみられる。

ただ、今回の惨敗で英国のEU懐疑派が勢いづくとの見方は強い。EU改革で成果が出なければ、総選挙や国民投票に大きな影響を与えるのは必至だ。【6月29日 産経】
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キャメロン首相は負けは覚悟のうえで、一切の妥協に応じず厳しい反対姿勢を見せることで国内反EU世論を懐柔しようというところでしょうが、逆に反EU・脱EUの流れが加速するのでは・・・との懸念もあります。

単に国内の反EU票を取り込みたいというだけの思惑であれば、EU離脱に向けて抜き差しならないところに追い込まれることが懸念されます。

****欧州委員長選出:英首相のオウンゴールに波紋****
27日の欧州連合(EU)首脳会議で行われた次期欧州委員長選出で、敗退するのが分かっていながら多数決の決議にこだわり、26対2で敗れたキャメロン英首相の「オウンゴール」(英紙)が波紋を呼んでいる。

他の加盟国は「真意が分からない」(外交筋)と困惑し切っているが、来年に総選挙を控えたキャメロン氏が、急伸長する国内の反EU派を取り込もうと、あえて負けたとの見方が強まっている。

「戦争に勝つには戦闘で負けた方が良い事もある」。キャメロン氏は記者会見で晴れやかな表情で語った。
キャメロン氏は、次期委員長候補に決まったユンケル前ルクセンブルク首相に「EUに権限が集中する」などと強く反対。オランダなどを巻き込み就任を阻止しようとしたが、最後は周囲が逃げ、孤立した。

外交筋によると27日の会議では、保守系の他の首脳が政策上の条件を付けてユンケル氏を受け入れるようキャメロン氏を説得したが、同氏は一切の妥協を拒否。異例の多数決実施を望み、英、ハンガリーだけが反対した。

キャメロン氏は「英国の決意を示した」と自信たっぷりだ。反EU派が多い所属の英保守党から「殉教」を評価する声も出た。

だが、実情は先月の欧州議会選で反EUの独立党が第1党になった影響が大きい。現政権への批判票が独立党に流れたとみられ、この不満票を取り込むため、反EUカードを切ったとの見方が強まっている。

ただ、独立党への支持を広げてしまう危険性もあるうえ、国内事情ばかり優先する姿勢は他の加盟国から「信用ならない」(独公共第1テレビ)と思われるなど副作用も大きい。【6月28日 毎日】
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EU側もイギリスをあまり追い詰めないためにも、今回の総括文書では「EUの発展に関する英国の懸念に対応する」との文言を明記し、一定に配慮は示しています。

ただ、今後イギリスに特権的な立場を認めることはないでしょう。
どうしてもイギリスが「それなら出て行く」と言うなら、「どうぞ、ご勝手に」というところでしょう。

外国嫌い、大衆の愚かさ、政治的な無能さという致命的な組み合わせ
金融・財政政策や人の移動をめぐる国家主権とEUの関係は立場によって異論もあるでしょうが、少なくとも今のイギリスがEUから抜けて孤立する形でやっていけるの思うのは幻想でしかないように思えます。

****英国とEU、「半ば離脱」の折衷案が愚策である理由****
英国は欧州の国だ。これまでもそうだったし、今後も常にそうであり続ける。欧州連合(EU)は英国にとって飛び抜けて大きな貿易相手であり、ロンドンは欧州の金融の首都だ。欧州の近隣諸国で起きることは、英国にとって常に重大な関心事になる。

だが、その一方で、英国の歴史は大陸欧州諸国の歴史とは違っている。海に守られた英国は、侵略を防ぐことができた。海の向こうのチャンスを求め、欧州が1人の独裁的支配者の手に落ちないよう全力を注いだ。英国はそれに成功した。

現在、英国はもはや世界的大国ではなく、欧州は平和裏に一体化している。法的には、英国はEUの内側にいる。
心理的には、これまで以上にEUの外側にいる。要するに、英国は半ば分離しているのだ。

その事実は、英国によるユーロの拒絶や英国独立党(UKIP)の台頭、2017年にEU加盟の是非を問う国民投票を行うというデビッド・キャメロン首相の約束に表れている。

英国の選択肢は、内側か外側の二者択一
この国民投票が実施されるかどうかは、来年の総選挙の結果による。野党・労働党の党首、エド・ミリバンド氏は国民投票に熱心ではない。

だが、欧州における英国の立場という問題はなくならない。好き勝手に振る舞いながらEU市場への完全なアクセスを得ることは、英国が持ち得ない選択肢だ。

英国の選択肢はこうだ。独立性を強めて影響力を低下させるか、独立性を弱めて影響力を高めるか、どちらかだ。

欧州改革センター(CER)は6月9日、EU脱退の経済的影響に関する報告書を発表した(筆者はこの報告書を作成した委員会の一員だった)。その結論は厳しい。

考えられる折衷案はどれも、EU内にとどまることから来る独立性の欠如と、その外側にいることから来る影響力の欠如を同時にもたらすというものだ。
選択肢は「内側」か「外側」か、のいずれかだ。この2つのうちでは、前者の方がはるかに良い。

EU残留に代わる折衷案には、(ノルウェーのように)欧州経済地域(EEA)に加盟することや、(トルコのように)関税同盟に加盟すること、あるいは(スイスのように)2国間協定を締結することが含まれるかもしれない。

EEAの一員になったとすれば、英国は単一市場へのアクセスを維持できるが、単一市場のルール策定に対する発言権を持たない。もし関税同盟に加わるとすれば、英国は単一市場へのアクセスを失い、対外共通関税を受け入れなければならない。

2者間協定を締結しようとすれば、英国は、はるかに強力なパートナーに翻弄されることになる。英国は貿易の50%をその他EU諸国と行っているが、その他EU諸国が英国と行っている貿易は全体のわずか10%だからだ。

繰り返しになるが、英国が何らかのEU市場への特権的アクセスを望んでいるとすれば、英国はEUの規制を受け入れなければならない。これはEU懐疑派が毛嫌いしていることだ。

さらに、英国がEEAへの加盟を選択するとしても、英国はまだ人の移動の自由に関するルールに縛られることになる。

EEAにさえ参加しない場合、英国は人の移動に関する監督権は取り戻せるかもしれないが、それも市場アクセスに関する2者間協議の結果次第だ。

離脱後に見込めるEU予算への純額ベースの拠出金の節約(現在は国内総生産=GDP=の0.5%)でさえ、非現実的である可能性がある。

離脱後もまだ特権的な条件でのEU市場へのアクセスを希望していれば、英国はノルウェーやスイスがやっているように、財政的な貢献をしなければならないからだ。
現在、ノルウェーの1人当たりの拠出金は英国とほぼ同じだ。

完全なEU脱退は少なくとも正直だが・・・
英国により大きな独立性を与える唯一の方法は、EU市場に対するあらゆる形の特権的アクセスを断念し、世界貿易機関(WTO)の加盟に全面依存することだ。

だが、その場合にも英国は大国間の新たな多国間協定でほとんど発言権を与えられず、金融サービスの輸出に対するごくわずかな保護しか得られず、多国籍企業の対EU輸出拠点としての魅力が損なわれ、ユーロ圏がユーロ建て資産の取引をロンドンから移転するのを認めざるを得なくなるだろう。

確かに、EUから完全に脱退すれば、英国は自国の規制に関するより大きな自由を与えられる。だが、経済協力開発機構(OECD)が示したように、英国の製品・労働市場の規制は、EUに加盟しているにもかかわらず、先進国の中で最も非制限的な部類に入る。

夢想家の中には、英国がEUから脱退すれば、これらの規制が撤廃されると想像する者もいる。その時は英国人が労働・製品・環境規制をほとんどすべて撤廃するのを認めるだろうという考えは、正気の沙汰ではない。

思い出してほしい。経済的に最も大きな打撃を与えている英国の規制――土地の使用に関するもの――は、悲しいかな、完全に国内で作られたものだ。

外国嫌い、大衆の愚かさ、政治的な無能さという致命的な組み合わせが、次の議会の任期中に英国のEU脱退につながることは十分にあり得る。

だが、EU脱退の影響について明確にしておこう。EUの外側にいながら何らかの形のEU市場への特権的アクセスを維持するどんな試みも、他のあらゆる不利な状況に単に屈辱を加えるだけになるだろう。

完全な離脱は、少なくとも正直な選択だ。だが、それは極めて愚かな選択でもある。間違いなく多大なコストを発生させる一方で、重要な経済的恩恵は何ももたらさないだろう。

英国民は、自分たちの現在の立場が気に入らないかもしれない。だが、それはあらゆる選択肢の中でずば抜けて最善のものだ。国民投票では、英国民がこの分別ある結論に達することを期待する。【6月13日付 英フィナンシャル・タイムズ紙】
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先ほどの中国・李克強首相の訪英に際し、キャメロン首相は中国の人権問題を封印して経済的成果を引き出すことに終始しましたが、中国からは「英国の中でも気高さを重視する人々にとって受け入れがたい事実だろうが、英国の国力は今や、中国と同列に並べることができない」「英国人はこれ以上ないほど狭量になっている」と揶揄されています。

****中国は「落ち目の」英国抜き去った、国営紙が社説****
・・・・李首相とキャメロン首相は、チベット問題をめぐる論争で傷ついた両国間関係の修復に努めている。

しかし先週、英紙タイムズが、エリザベス英女王との会見を李氏が訪英の条件とし、かなわない場合は訪英中止をちらつかせたと報じ、両国関係の改善ムードに冷や水を浴びせた。

この報道について環球時報は「英国メディア、ひいては英国社会全体の偏狭さを反映する役割しか果たさない」ような「誇大な」報道であるとし、「かつて強大だった大英帝国は今では自分のプライドを示すために、このような策略に訴えざるを得ない」と論じた上で、「中国国民は英国の複雑な感情を許すべきだろう。成長国家は、古い落ち目の帝国の当惑と、時にその当惑を隠すために取られるおかしな行動を理解しなければならない」と続けた。【6月18日 AFP】
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もちろん、鼻持ちならない中国の尊大な姿勢が良識を欠いていることは言うまでもないことですが、イギリスも脱EU論議においては現在の政治的・経済的状況を直視して賢明な判断をする必要があります。もはや大英帝国の時代ではありません。


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