孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イランを追い詰めて得られるものは反米保守強硬派政権と危険な緊張

2018-08-02 23:44:43 | イラン

(次の指導者? 革命防衛隊のスレイマニ司令官は国民に英雄視されている(昨年12月の反米デモでスレイマニの写真を掲げる参加者)【8月7日号 Newsweek日本語版】)

経済制裁再開を前に通貨リアルの暴落が止まらない
トランプ米政権がイラン産原油の輸入停止を各国に呼び掛けていることを受け、イラン・ロウハニ大統領は禁輸が実行された場合にホルムズ海峡を封鎖する可能性を示唆、これに対しトランプ大統領が「米国を二度と脅してはならない」とツイッターで警告するなど、両者の対立は深まっています。

イランの穏健派ロウハニ政権が、トランプ大統領による核合意離脱・制裁再開という圧力によって、窮地に立たされていることは間違いありません。イラン経済は通貨暴落に見舞われ、国民の不満も高まっています。

****イランの穏健派ロウハニ大統領、通貨暴落と米制裁再開で窮地****
<核合意を推進したイランの穏健派大統領ロウハニが苦しい立場に追い込まれている。景気が思ったほど回復しない上、トランプの経済制裁再開を前に通貨リアルの暴落が止まらない>

イランの大都市で生活苦に抗議するデモが続く中、国会はハッサン・ロウハニ大統領を召喚して経済政策の舵取りについて問い質す。

国会招致の日まで、ロウハニには1カ月の期間が与えられた。そこでこれまでの経済政策に対する責任を追及され、通貨リアルの暴落と物価高騰から生じた社会不安への対応策を聞かれることになるだろうと、米出資の自由欧州放送(プラハ)が8月1日に報じた。

リアルは急落を続け、7月28日に1ドル=9万8000リアルだった為替レートは、翌日には11万2000リアルに達した。

イランは2015年、核兵器開発をやめる見返りに経済制裁を解除してもらう核合意(JCPOA)を欧米など6カ国と結んだのに、なぜ経済がほとんど改善しないのか、と国会議員たちは息巻いている。

ドナルド・トランプ米大統領は今年5月、他の締結国や国連の反対を押し切って核合意から離脱したが、イギリス、フランス、ドイツ、中国、ロシアは合意を維持している。

合意から2年が経ったが、イランの銀行は海外の金融機関との取引を制限されたまま。当初ロウハニ政権は、核合意はイラン経済にとって大きな転機になると喧伝し、海外からの投資も激増すると主張していた。

アメリカの制裁再開を8月6日に控え、ロウハニは政治的、社会的にいよいよ厳しい立場に立たされている。

7月31日にはイラン各地に抗議デモが広がり、ソーシャルメディアの投稿を見る限り、翌8月1日にも続いているもようだ。物価高に伴う生活苦と、汚職に対する怒りが相まって、昨年末から首都テヘランや他の都市で大規模デモが続発している。

経済制裁より深刻な問題も
ロウハニ政権は景気対策を打ち出すことでデモの沈静化を図ってきた。7月25日にはイラン中央銀行の総裁を交代させ、通貨リアルの安定を目標に掲げた。

「たとえ最悪の事態になっても、私はイラン国民に対して生活必需品の提供を約束する。砂糖、小麦、食用油は十分に備蓄している。市場介入するのに十分な外貨も確保している」、とロウハニは6月に言った。その際、通貨リアルの急落は「海外メディアのプロパガンダ」のせいだ、と批判した。

米コロンビア大学で教鞭をとるイラン専門家、ゲイリー・シックは7月30日、米政府系の海外向け放送ボイス・オブ・アメリカ(VOA)に出演した際、イランは石油や天然ガスなどの天然資源の管理に失敗し、経済的にマイナスの副作用を引き起こした、と語った。

「天然資源の管理と、(水資源の枯渇といった)環境問題への対策という両面で、イランは深刻な問題を抱えている。過去数十年にわたる失策のツケだ」、とシックは説明した。

アメリカによる経済制裁の再開はイラン経済に悪影響を及ぼすことになるものの、長期的な問題の影響の方がはるかに深刻だという。

だがこうも言う。「経済制裁への恐怖から、イラン経済は確実に悪化した。通貨リアルが急落しているのも驚かない。次に何がイラン経済を待っているのか、誰にも分からないのだから」【8月2日 Newsweek】
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上記記事の最後に出てくる“水資源の枯渇”という問題は、イランよりはチグリス・ユーフラテス川の恵みを受けてきたメソポタミア・イラクが深刻だという話もあるようですが、それはまた別機会に。

制裁の中核は11月からのイラン経済を支えるイラン石油の輸入禁止でしょう。
世界の2大原油消費国の中国とインドは、イランからの原油輸入を増やしているという話はあるにしても、アメリカが「ドルを介した国際決済」を管理する形で米国内の銀行・金融機関の取引を厳しく監視すれば、そうもいかなくなるのでは。

会談提案で揺さぶりをかけるトランプ大統領 ロウハニ大統領にとっては高いハードル
イランの苦境を見透かすように、トランプ大統領はロウハニ大統領との会談について「彼らが望むならいつでも会う」と“揺さぶり”をかけています。

****トランプ氏、イラン揺さぶる トップ会談に意欲示す****
トランプ米大統領は30日、イランの核開発をめぐって対立する同国のロハニ大統領と前提条件なしで会談する意欲を示した。

8月7日に米国がイランに対する経済制裁を再開させるのを前に、イランを揺さぶる狙いとみられる。イランでは反米を基調とする保守強硬派が勢いを増しており、対外融和を掲げる保守穏健派のロハニ師は厳しいかじ取りを迫られている。
 
トランプ氏は30日、ホワイトハウスで会見し、ロハニ師について「私は誰とでも会う。彼らが望むなら、いつでも好きな時にだ」と述べたうえで、「条件はつけない」と強調した。
 
ただし、「彼らに(会談の)準備ができているかは分からない。今は大変な時だろう」とも指摘した。保守強硬派と保守穏健派の対立が深まるイランの国内事情を見透かし、イランの核開発をめぐる交渉を米国有利に進め、11月の米中間選挙を前に政治的成果を得たい思惑も透ける。
 
トランプ政権は5月、米英仏中ロ独がイランと2015年に結んだ核合意について、イランの核開発規制に期限があるなど「致命的な欠陥がある」として離脱。90日と180日の猶予期間を経て、全ての制裁を再開させると表明した。
 
最初の制裁再開は8月7日の予定で、イランの自動車関連企業との取引やイラン政府による米ドル取得などが対象。

制裁で経済が大打撃を受ける恐れから、イランはすでに物価高になっており、6月には首都テヘランで物価高に抗議するデモも相次いだ。国会では保守強硬派の議員がロハニ師の経済運営に反発し、ロハニ師は中央銀行総裁の更迭に追い込まれた。(中略)
 
11月初旬には、イランの輸出の3分の2を占める原油を対象にする制裁も再開される。この制裁が実施されれば、イラン経済はさらに苦境に追い込まれるのは避けられない。
 
しかし、ロハニ師がトランプ氏との会談に応じるには、ハードルが高いとみられる。会談に応じれば、国政の最終決定権を握る最高指導者ハメネイ師の影響下にある保守強硬派から「米国に屈した」と非難されるのは必至で、政権基盤も揺らぎかねない。

そのため、ロハニ師はトランプ氏に対し、対決姿勢を示さなければならないとみられる。【8月1日 朝日】
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利害だけを考えればトランプ大統領が目論むように、イランとしては交渉に応じるしかない・・・ということになりますが、イラン国内には利害を超えた対米感情があり、上記記事にもあるように“ロウハニ師がトランプ氏との会談に応じるには、ハードルが高い”とも見られています。

****トランプ氏、イランは「近く対話に応じる」 「屈辱的」と反発の声も****
ドナルド・トランプ米大統領は7月31日、緊張が高まっているイランとの関係について「近いうちにイラン側が対話に応じる」と述べ、ハッサン・ロウハニ大統領らイラン指導部との対話開始が目前であるとの考えを示した。

ただ、イラン国内では米国との対話に懐疑的な見方が強く、米国との交渉は「屈辱的」なものになるという意見も出ている。

トランプ氏は米フロリダ州タンパで行われた集会で、「近いうちにイラン側が対話に応じる気がする」「実現しないかもしれないが、それでも構わない」と語った。一方で2015年に米英仏独ロ中の6か国とイランが締結した核合意については「最悪で不公平」と述べ、改めて非難する姿勢を見せた。

トランプ氏は7月30日、イラン指導部と前提条件なしで「いつでも」会うと表明したが、イラン側はこれまでのところ反応を示していない。

 国が今年5月にイラン核合意からの離脱を表明して以降、イランでは米政府との交渉について想像すらできないという声も上がっており、保守系メディアのファルス通信はイラン議会のアリ・モタハリ副議長の発言として、「イランに対する(トランプ氏の)軽蔑的な発言もあり、交渉という考えは想像も及ばない。交渉は屈辱的なものになるだろう」と伝えている。【8月1日 AFP】
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イランの体制変更は目指していないとするアメリカではあるが・・・・圧力の先にあるのは体制変更ではなく、反米保守強硬派の実権掌握の可能性
一方、アメリカ側は、あくまでも現在アメリカが求めているのは“外交交渉”“イランの政策変更”であって、イランの体制そのものをどうこうしようというものではない・・・というのが表向きの立場です。

****米政権、イランの体制変更・崩壊は望まず=マティス国防長官****
マティス米国防長官は27日、米国はイランの体制の変更、もしくは崩壊は望んでいないと述べた。

マティス長官は、トランプ政権はイランの体制変更、もしくは崩壊に向けた政策を策定したかとの記者団に質問に対し、「何も策定されていない」とし、「イランは軍事力や秘密警察などを利用して及ぼすことのできる数々の脅威を巡る態度を変える必要があると考えている」と述べた。

オーストラリアのメディアは、オーストラリア当局は米国は来月にもイランを爆撃する可能性があるとの見方を示していると報道。マティス長官はこれについて「作り話に過ぎない」とし、「こうしたことは現時点では検討されていない」と述べた。【7月28日 ロイター】
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しかし、ボルトン大統領補佐官がかねてより「イランの行動や目的は変わることはない。よって我々にとって唯一の解決方法は、イランの体制そのものを変えることだ」という主張を繰り返しており、かつては「イランを空爆せよ」とも主張していたことは周知のところです。

大統領補佐官になってからは、そうした強硬論は控えて、「政権転覆は、トランプ政権の方針ではない」とはしていますが、ボルトン補佐官誕生以前から、トランプ政権の対イラン政策には「政権転覆」が含まれているのでは・・・との見方もあります。

イランには現体制の武力打倒を目指すムジャヒディン・ハルク(MEK)といった組織もあって、アメリカやイスラエルがこうした組織支援を通じて、イラン現体制への破壊工作などを画策しているのでは・・・とも。

ただ、MEKのような勢力はイラン国内ではほとんど影響力を持っておらず、そうした面での体制転換は非現実的と思われます。

アメリカがイランを追い詰めた結果生まれるのは、体制転換ではなく、現在の穏健派ロウハニ政権が倒れ、より対米強硬論の保守強硬派(例えば革命防衛隊司令官のスレイマニ氏など)が実権を握り、さらに緊張が高まることではないか・・・と思われます。

****イラン最強硬派が政権を握る悪夢****
核合意を離脱して制裁再開に動くアメリカ 体制転換を見据えるが、その先に待つものは

79年のイラン革命以降、歴代米政権はほぼ例外なくイランの体制転換を望んできた。トランプ政権もしかりだ。対イラン強硬派のジョン・ボルトン大統領補佐官(国家安全保障担当)ら米政権高官は今や、イランの現体制を揺さぶるべく最大限の圧力をかけようとしている。
 
5月8日にイラン核合意から離脱して以来、アメリカは対イラン制裁の再開に向けて動き、イラン産原油の輸入国に全面禁輸を求めてきた。通貨リヤルが市場最安値を更新し、イラン経済がかつてない圧迫にさらされているように見えるなか、アメリカはこの危機に乗じてイランの政治システムに変革をもたらすべきだとの声も上がる。
 
マイク・ポンペオ米国務長官は5月21日に行った演説で対イラン戦略の概略を語り、政権交代に向けた「スケジュールを定める」ようイラン国民に呼び掛けた。さらに1ヵ月後、今度はツイートで「腐敗や不正、指導層の無能力に嫌気が差している」人々への支持を表明した。
 
しかし、イランの現体制は彼らが考えるほど脆弱ではない。仮に圧力で変革が実現するとしても、その先に何か起こるか、トランプ政権は立ち止まって考える必要がある。
 
情勢は不穏であっても、イランの体制は崩壊の瀬戸際にはない。それどころか、2つの事実が生き残りの可能性を示唆している。
 
第1に、現体制は40年近くにわたって、圧力強化にさらされつつも存続している。(中略)

抵抗勢力不在で内戦へ?
第2に、イランではこの数カ月間に生活苫や水不足に抗議するデモが発生したが、これらは経済難や汚職、資源の不適切管理に対する不満の広がりを受けたもの。体制転換を担える組織的な反政府運動の一環ではない。(中略)

現在の社会不安がイランの体制崩壊につながると仮定したところで、反体制派武装組織モジヤーヘディーネ・ハルグ(MEK)など、ボルトンら体制転換論者が指導者に据えたいと望む勢力が新体制の舵を取る可能性は極めて低い。
 
MEKはイラン国内に組織的な支持基盤を持たない。80年代にイラン・イラク戦争中にイラクのフセイン政権に協力し、イラン国内でテロを行った過去から裏切り者と見なされてきた。

イランの世俗派や体制に批判的な若者層からは、現政府を率いる宗教指導者よりも原理主義的だと嫌われている。
つまり数十年に及ぶ外国からの支援にもかかわらず、アメリカの対イラン強硬派が「抵抗勢力」としてたたえるMEKはイラン国民の支持を得ていない。現指導部に取って代われる有力な選択肢とは到底言えない。
 
となると、想定可能な1つ目の事態は内戦の勃発だ。そうなればイランのみならず、地域全体の安定が破滅的な影響を受けることになりかねない。

イラクやアフガニスタン、シリアで深まる泥沼は欧米にとって最悪のシナリオの象徴。イラン国民にとっては、近隣国のように不安定化と内戦に陥ることへの懸念が、政府への抵抗を自重する大きな要因になっている。(中略)

たとえ今の生活が苦しくても、抜け出す道がシリアやイラクと同じ混乱につながるのならば、国民は安全と安定と秩序を選択するはずだ。

クーデターが起きたら
想定できる2つ目の事態で、体制崩壊の結果として起こる可能性がより高そうなのが、秩序回復をうたう軍による権力掌握だ。

クーデターを率いる可能性が最も高いのは、米政権内の対イラン強硬派が最も恐れる男。イラン革命防衛隊の精鋭で、対外軍事行動や特殊作戦を担うクッズ部隊のカッサム・スレイマニ司令官だ。
 
スレイマニは次の指導者の最有力候補だ。シリアとイラクにおけるテロ組織ISIS(自称イスラム国)掃討戦で果たした役割を受けて、国民の間で英雄視する動きが高まっている。(中略)公式な指導者には就任しなくても、スレイマニがイランの事実上のリーダーになる見込みは十分ある。
 
状況を考え合わせると、最大限の圧力に踏み切ろうとする米政権の政策は、結果的にアメリカに悪夢をもたらしかねない。

イランの体制転換を主張する者たちは、不安定化と混乱を招く前によく考えてみるべきだ。転換後の新たな体制は、米政府にとって今以上に厄介な存在になりかねないのだから。【8月7日号 Newsweek日本語版】
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別に“クーデター”という形でなくても、現在の穏健派が国民支持を失い、保守強硬派にとって代わられるということは十分にあり得る可能性でしょう。

改革派のムサビ元首相らの軟禁解除の意味合いは?】
アメリカと国内保守強硬派によって追い詰められつつある・・・・という感の穏健派ロウハニ政権ですが、意外だったのは、7年前から自宅軟禁下にある改革派野党指導者のミルホセイン・ムサビ元首相とメフディ・カルビ元国会議長が軟禁解除されるという動きです。

****イラン、改革派のムサビ元首相らの軟禁を解除 家族証言****
2009年のイラン大統領選後に起きた大規模な抗議デモを主導したとして7年前から自宅軟禁下にある野党指導者のミルホセイン・ムサビ元首相とメフディ・カルビ元国会議長について、同国の最高安全保障委員会が2人の軟禁解除を承認していたことが分かった。家族が地元メディアに明らかにした。
 
現地ニュースサイトは、カルビ氏の息子が「自宅軟禁解除の決定がSNSCに認められたと聞いた」と語ったと報道。最終的に最高指導者アリ・ハメネイ師の承認をもって両氏の軟禁解除が決定するという。
 
現在のところ両氏の軟禁解除に関する公式な発表は出ていないが、米国からの圧力と経済悪化に直面するイラン政権幹部は保守派と改革派を一致団結させようと躍起になっている。(中略)
 
ロウハニ氏は2013年、2017年の大統領選でムサビ氏とカルビ氏の釈放を公約として掲げ、SNSCの議長も務めているが、これまで2人の釈放に向けた動きはみられていなかった。【7月29日 AFP】
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保守強硬派が歓迎する動きとも思われませんが、こうした動きの意味合いが“保守派と改革派を一致団結させよう”というものなのか、それ以外のところにあるのか・・・・よく知りません。国民の支持をつなぎとめようとする動きでしょうか。

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