孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イスラエル  イラン在外公館を挑発的に攻撃 イランの報復は? ガザでは食糧支援NGOへの攻撃

2024-04-03 23:37:37 | イラン
(イラン大使館の隣にある領事部が攻撃され破壊された【4月2日 BBC】)

【武装組織を支援するイラン 親イラン組織ヒズボラへの圧力を強めるイスラエル】
パレスチナ・ガザ地区でイスラエルと戦闘を続ける武装組織ハマスや「イスラム聖戦」の背後にイランの存在があるというのは今更の話です。3月末には両組織の指導者が相次いでイランを訪問しています。

****イスラエル「前例なき孤立」=ハマス指導者がイラン訪問****
パレスチナ自治区ガザでイスラエルと戦闘を続けるイスラム組織ハマスの最高指導者ハニヤ氏が26日、イランの首都テヘランを訪れ、アブドラヒアン外相と会談した。(後略)【3月26日 時事】
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****ガザ武装組織トップと会談=イスラエル・米をけん制―イラン最高指導者****
イランの最高指導者ハメネイ師は28日、首都テヘランで、パレスチナ自治区ガザの武装組織「イスラム聖戦」指導者のナハラ氏と面会した。

イスラム聖戦は、イスラエルと戦闘中のイスラム組織ハマスと共闘している。ハメネイ師は26日にハマス最高指導者ハニヤ氏と会談したばかりで、両組織が交戦中のイスラエルや米国を強くけん制する狙いもあるとみられる。(後略)【3月29日 時事】 
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こうしたパレスチナの武装組織以上にイランと直接的関係があるのがレバノンのヒズボラ。 

ハマスを上回る軍事力を持つヒズボラが本格的にイスラエルとの戦闘状態に入るのか・・・ガザでの戦闘開始以来、国際社会が注目してきましたが、これまでのところ小競り合いは継続していますが、本格的な戦闘にはいたっていません。

ただ、一昨日の4月1日ブログ“イスラエル 人質救出・首相退陣を求める抗議デモ 兵役免除のユダヤ教超正統派への批判”でも取り上げたように政治的苦境にあるイスラエル・ネタニヤフ首相としては、「ヒズボラを戦闘に引きずり込んで、戦争を一気に拡大したいのかも・・・」と思えるほどに、ヒズボラへの圧力を強めています。

****イスラエル軍、レバノン南部を空爆…ネタニヤフ首相「ヒズボラへの対処なしに勝利はあり得ない」****
イスラエル軍は27日、イスラム教シーア派組織ヒズボラが拠点とするレバノン南部を空爆した。ロイター通信によると、レバノン側でヒズボラ戦闘員ら8人、イスラエル北部で1人が死亡した。レバノン南部の戦闘が激化しており、イスラエルは全面的な戦争も辞さない構えだ。
 
空爆の報復で、ヒズボラはイスラエル北部にロケット弾数十発を撃ち込んだ。

イスラエル軍は27日、昨年10月にパレスチナ自治区ガザでイスラム主義組織ハマスとの戦闘が始まった後に凍結した空軍の飛行訓練を数週間前に再開したと明らかにした。ヒズボラとの全面戦争を想定した動きとの見方がある。

イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は27日、「ヒズボラへの対処なしに勝利はあり得ない」と述べた。(後略)【3月28日 読売】
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****シリア空爆で43人死亡か イスラエル攻撃と監視団****
シリア人権監視団(英国)は29日、イスラエルが同日、シリア北部アレッポにあるレバノンの親イラン民兵組織ヒズボラの武器庫を空爆し、43人が死亡したと発表した。死者の多くがシリア軍の兵士でヒズボラの戦闘員も含まれているという。

イスラエル軍とヒズボラは29日もレバノンで交戦した。イスラエル軍はヒズボラのロケット部隊副司令官を殺害したと発表。ヒズボラはアレッポ空爆への報復としてイスラエル軍の施設をミサイルで攻撃したと主張した。

イスラエルは敵対するイランからシリアを経由してヒズボラなどの親イラン組織に武器が密輸されているとみて、シリア領内への攻撃を繰り返している。【3月29日 共同】
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イスラエルとヒズボラの小競り合いが続く状況で、イスラエル・レバノン両国ともに多くの避難民が出ています。
特にレバノン側は政府の支援も期待できない状況。戦争に苦しんでいるのはガザ地区だけではありません。

****レバノン南部の住民も9万人避難、イスラエルとヒズボラの戦闘で「家は壊れ…何もかも失った」****
イスラエル軍とレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラの戦闘に伴い、レバノン南部の住民9万人超が避難生活を続けている。イスラエル軍の攻撃によって自宅を失った人もおり、住民らは「いつ戻れる日が来るのか」と不安を募らせている。(中略)

イスラエルでは、ヒズボラとの戦闘で避難した住民6万人超にホテルの部屋などが提供されている。一方でレバノン政府は放漫財政などで2020年3月にデフォルト(債務不履行)を宣言しており、支援はほぼ皆無だ。(後略)【3月29日 読売】
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【イスラエル シリアのイラン在外公館攻撃 攻撃対象はイランの革命防衛隊司令官】
上記のような武装組織へのイランの支援、ヒズボラとの全面的な戦争も辞さない構えのネタニヤフ首相の思惑などもあるところで起きた、イスラエルによる“一線を越えた”とも思える攻撃が、シリアの首都ダマスカスで1日に起きたイラン大使館に隣接する領事部ビルへのイスラエルによるとみられる空爆。

各地の武装組織を支援・指導するイランの革命防衛隊司令官を対象にした攻撃ですが、本国攻撃にも準じるような在外公館への直接攻撃という異例の事態となっています。

****イラン領事部ミサイル、死者13人に…イスラエルが攻撃認めると米報道****
シリアの首都ダマスカスのイラン大使館に隣接するビル(領事部ビル)に対する1日のミサイル攻撃について、イランの精鋭軍事組織「革命防衛隊」は同日、領事部ビルがイスラエルの攻撃を受けたと主張し、現地司令官ら7人が死亡したと発表した。イランの大使は死者数がシリア人を含め計13人と明らかにした。パレスチナ自治区ガザ情勢で対立する両国間の緊張が高まるのは必至だ。

イスラエル側は、空爆について公式反応を示していないが、米紙ニューヨーク・タイムズは複数のイスラエル当局者が、攻撃を認めたと報じた。イラン最高安全保障委員会は2日、会合を開き「適切な決定を行った」と発表した。対抗措置を議論したとみられる。

イスラエルは、ガザで戦闘を続けるイスラム主義組織ハマスをイランが支援していると指摘。昨年10月のガザでの戦闘開始後、シリア駐在の革命防衛隊隊員を空爆などで殺害してきた。

イランは攻撃を受けるたびに報復を宣言したが、ガザの戦闘への直接介入は一貫して否定。イラン、イスラエルともに慎重姿勢だったが、紛争拡大の懸念が強まっている。国連安全保障理事会は2日午後(日本時間3日未明)、この攻撃について協議する緊急会合を開催する予定だ。【4月2日 読売】
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イスラエルとしてもイランの大使・領事などに被害が出ると国際的に非難の的になるので、大使らの不在を確認したうえでの攻撃とか。

【イラン 報復を宣言するも、全面戦争やアメリカ介入は避けたい 対応には苦慮か】
武装組織を支援するイランの動きを牽制・・・というよりは、イラン側を“挑発”しているようにも思えます。
当然ながらイランは報復を宣言しています。

****イラン最高指導者がイスラエルに報復宣言****
イランの最高指導者ハメネイ師は2日、在シリアのイラン大使館の建物に対する攻撃について、イスラエルの「犯罪」だと糾弾し「罪を犯したことを後悔させる」と報復を誓った。最高指導者事務所が発表した。【4月2日 共同】
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問題は、その「報復」がどのようなものになるのか? ということ。

ネタニヤフ首相としてはイランがイスラエルとの直接戦争に踏み出せば、むしろ歓迎する事態でしょう。そうなれば、このところ関係がギクシャクしているアメリカもイスラエルを支援せざるを得ないでしょうから、この際一気に宿敵イランを叩き、国内的な政治苦境も「大成果」で解決・、アメリカとの関係も改善・・・・・。

逆にイランとしては、さすがに今の時点でそういう直接戦争状態に突入する気はないでしょう。ただ相応の報復をしないと国内強硬派から「弱腰」批判を受けます。

武装組織を使った軍事的攻撃(イスラエルの他、シリア・イラクの駐留米軍も対象)だけでなく、核開発を加速するという手段も可能性としてはありますが、現実的には難しいところも。

****イラン、イスラエルへの報復に選択肢 全面戦争は回避へ****
シリアの首都ダマスカスにあるイラン大使館周辺への攻撃を受け、イランの最高指導者ハメネイ師はイスラエルに対する報復を宣言したが、大規模な衝突を引き起こすことなくいかに報復するかという難問に直面する。

イランにはさまざまな選択肢がある。同国が支援する武装組織に中東駐留米軍あるいはイスラエルを直接攻撃させるか、米国やその同盟国が長年抑制を求めてきた核開発を加速させることが可能だ。

米政府当局者らは、イランの支援を受ける武装組織がイラクとシリアに駐留する米軍を攻撃するかどうかを注視していると述べた。

米軍は2月初め、ヨルダンの米軍施設で米兵士が死亡した攻撃への報復として、イラン革命防衛隊や親イラン武装組織に関連するイラクとシリアの施設を空爆。これを受けて中東駐留米軍への攻撃は2月に停止していた。

米政府当局者らは、1日のイラン大使館周辺への攻撃後、親イラン武装組織が駐留米軍を攻撃しようとしていると示唆する情報はまだ入っていないと述べた。イランメディアは、大使館攻撃でイラン革命防衛隊のモハンマドレザ・ザヘディ司令官などが死亡したと報じた。

米国は2日、イランによる報復をけん制。ウッド国連次席大使は「われわれは自国の人員を守ることをためらわない」と言明し、イランや親イラン組織に対しこの状況を利用して米側への攻撃を再開しないよう改めて警告すると述べた。

<全面戦争回避>
ある関係筋は、イランが衝突を望んでいないのは明白で、報復すれば衝突を招き得るという「ジレンマに直面している」と指摘。「即応力はあるが状況悪化は目指さない」立場を示すために行動を調整しようとしているとした。

その上で、イランがイスラエル本国かその大使館、あるいは海外のユダヤ人施設を攻撃する可能性があると分析した。

米政府高官は、イスラエル軍による攻撃の重大性を考慮すると、イランは米軍を狙うのではなく、イスラエルの国益を直接攻撃して報復する以外の選択肢はないかもしれないと述べた。

米シンクタンク「外交問題評議会」の中東専門家、エリオット・エイブラムス氏もまた、イランは全面戦争を望んでいないが、イスラエルの国益を標的にする可能性はあるとの見方を示した。

イランはイスラエルとレバノンの親イラン民兵組織ヒズボラが大規模な戦争を始めることは望んでおらず、ヒズボラが目立った行動を取ることはないとも予想。「他にも報復の方法は数多くある。一つの例を挙げるならイスラエル大使館の爆破を試みることだ」と語った。

イランはまた、核開発を加速させることで対応する可能性もある。トランプ前米大統領が2018年にイラン核合意から離脱して以来、イランは核開発を強化してきた。

しかし、核兵器級の90%のウラン濃縮を行う、あるいは核兵器を実際に設計する作業を再開するという最も劇的な行動を取れば裏目に出て、イスラエルや米国からの攻撃を招く可能性がある。

関係筋はこのような劇的な行動は、核兵器獲得を決定したとイスラエルと米国に見なされるだろうと指摘。「つまり大きなリスクを取ることになる。そのような準備ができているとは思わない」と語った。【4月3日 ロイター】
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イランは(もたらすリスクを考えると)イスラエルとの直接戦闘はもちろん、ヒズボラの本格的戦争参加も望んでいない・・・というのはそうでしょうが、イスラエル側の対応にもよります。

殺害されたイランの革命防衛隊の司令官は、レバノンのヒズボラとの連携を担当する責任者だったとのことです。
また、イスラエル軍はレバノン国境に近いイスラエル北部でかなり大がかりな軍事作戦を準備している兆候があるとの情報も。そうしたことから、近くイスラエル軍がヒズボラ攻撃を激化させるとの予想もあるようです。

イスラエル・ネタニヤフ首相としては、前述のようにヒズボラとイランを刺激して参戦させ、アメリカがイスラエルを支援せざるを得ない状況で一気にケリをつけたい思惑なのかも。

イランとしてはアメリカの介入につながる直接的な攻撃はしたくない・・・武装組織を使ってイスラエルの在外公館などを狙うのか・・・制御された形で行わないとリスクが拡散します。それだけのインテリジェンス・能力があるのか・・・イランは難しい選択を迫られています。

いずれにしても、緊張状態のステージが一段階上がったのは間違いないでしょう。

【食料支援団体職員がイスラエル軍の空爆で死亡 バイデン大統領も“激しい憤り”】
一方、イラン在外公館空爆という“攻めの一手”をうったイスラエル・ネタニヤフ首相にとって誤算は、パレスチナ自治区ガザで支援活動を行う慈善団体「ワールド・セントラル・キッチン(WCK)」の職員7人がイスラエルの空爆で死亡した事件。国際的に激しい批判にさらされており、守勢を余儀なくされています。

****NGO“活動内容を事前連絡も攻撃” イスラエル軍空爆により職員ら7人死亡****
パレスチナ自治区ガザ地区でイスラエル軍の空爆により、外国人NGO職員ら7人が死亡しました。NGOは、活動内容を事前にイスラエル軍に連絡していたにもかかわらず攻撃されたとしています。

国際NGOの「ワールド・セントラル・キッチン」は2日、ガザ地区でイスラエル軍の攻撃によりオーストラリア人、イギリス人、ポーランド人、アメリカとカナダの二重国籍者ら7人が死亡したと明らかにしました。

「ワールド・セントラル・キッチン」は、支援物資の食料をキプロスから海上輸送し、ガザ地区まで運搬する活動を行っていました。イスラエル軍と調整のうえ、NGOのロゴがついた車両で非戦闘地帯を移動していたにもかかわらず、空爆を受けたとしています。

一方、イスラエル軍は、「最高レベルで徹底的な調査を行っている」とする声明を発表しています。【4月2日 日テレNEWS】
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****イスラエル首相、ガザ食料支援団体の攻撃認める*****
パレスチナ自治区ガザ地区で、米国を拠点とする食料支援団体「ワールド・セントラル・キッチン」のスタッフら7人が攻撃を受け死亡した問題で、イスラエルのネタニヤフ首相は2日、「イスラエル軍が意図せずに非戦闘員に危害を加える悲劇があった」と認めた。各国はイスラエルへの批判を強めている。

同団体によると、死亡したスタッフの国籍は英国、オーストラリア、ポーランド、米国など。英国外務省は駐英イスラエル大使に「明白な非難」を伝え、迅速で透明性のある調査と人道支援のアクセス拡大を求めた。米ホワイトハウスも声明で「支援団体のメンバーが亡くなったと知り憤慨している」と非難した。

一方、アラブ首長国連邦(UAE)はロイター通信に対し、イスラエルによる安全の保証と調査が行われるまで、キプロスからガザへの海上回廊を通じた人道支援を一時停止すると明らかにした。ガザで活動する支援団体が治安のリスクから活動を一時停止する動きもあり、ガザの食料危機に拍車をかける可能性がある。【4月3日 毎日】
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犠牲者を出した各国はイスラエルに説明を求めていますが、アメリカ・バイデン大統領も“激しい憤り”を表明する事態に。

****ガザ支援職員死亡に「憤慨」=空爆のイスラエル批判―バイデン米大統領****
バイデン米大統領は2日、パレスチナ自治区ガザで活動していた食料支援団体職員がイスラエル軍の空爆で死亡したことを受けて声明を出し、「憤慨し、心を痛めている」と表明した。また、イスラエルに対し、迅速に調査を進めた上で結果を公表するよう求めた。

バイデン氏は、支援従事者や民間人の保護を「十分にしていない」としてイスラエルを強く批判。職員の死亡は「悲劇だ」と強調した。【4月3日 時事】
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バイデン大統領も、イスラエルへの「やり過ぎ」批判が国内的に、特に民主党支持層で高まる中で、先日明らかになった水面下で進められたイスラエルへの大型爆弾売却に続く事件だけに、イスラエルへの厳しい姿勢をとる必要があるところでしょう。

ネタニヤフ首相は「戦争状態ではよく起こることだ」みたいなことを言っていましたが、ただでさえイスラエルに批判的な国際世論が高まっている時期での出来事だけに痛い失点でしょう。
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