孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中国一帯一路  ネガティブ評価は多々指摘されるも、東南アジアでは高評価 中国が米を逆転

2024-04-06 23:28:58 | 中国

(2019年、パキスタン・フンザ観光で、今回中国人を対象にしたテロのあったベシャム手前、バタグラムを過ぎたあたりのカラコルムハイウェイ沿いで見かけた標識 工事車両運転手も中国人なので、標識も中国語なのでしょう)

【「債務の罠」 ラオスの場合】
ものごとにはすべて表と裏、光と影がありますが、中国・習近平国家主席が提唱する巨大経済圏構想「一帯一路」については日本ではネガティブな側面が強く報じられる傾向があります。

ネガティブな側面の最大の問題は、融資を受けた国が過大な債務に苦しみ、結局中国に重要な権益を譲る結果となるという「債務の罠」の問題。

アジアにおける「一帯一路」の“目玉”事業の一つ、中国・昆明とラオス・ビエンチャンを結ぶ「中国ラオス鉄道」についても、ラオス側の債務増大が問題視されています。

****中国「一帯一路」10年 「中国式」鉄道開通のラオス、過大な債務負担に直面****
中国の習近平国家主席が巨大経済圏構想「一帯一路」を提唱してから今秋で10年となる。途上国のインフラ建設を巨額資金で援助し、自国経済圏に引き込んで影響力拡大につなげた一方で、中国の過剰な融資により途上国が苦しむ「債務の罠(わな)」が国際社会で警戒される。

中国と結ぶ鉄道が開通して1年半超が過ぎた東南アジアのラオスでも、過大な債務負担が懸念されている。

田園に巨大駅舎
中国雲南省昆明とラオスの首都ビエンチャン間の1035キロを約9時間半で結ぶ中国ラオス鉄道は2021年12月に開通した。中国の「ゼロコロナ」政策が撤廃され今年4月からは旅客の直通運行が始まった。アジア最貧国の一つであるラオスで鉄道建設は長年の夢だった。

ラオス側の起点・ビエンチャン駅は、中心部から車で30分超という郊外にある。家畜の牛の姿が目立つ田園風景の中に、不釣り合いな巨大駅舎がそびえており、周辺には「中国・ラオス友好の象徴的プロジェクト」との垂れ幕がある。(中略)

中国メディアによると、9月3日までの累計乗客数は延べ2090万人を突破。中国企業のラオス進出も増えており、街中を走る車は中国の電気自動車(EV)大手、比亜迪(BYD)など中国製が目立つ。現地の経済関係者は「中国企業で働こうと中国語を勉強する若者が増えた。給与が桁違いに高いからだ」と指摘する。

ビエンチャンで小売業を営んで20年になる中国・重慶出身の50代男性は「昔はラオスで中国人への扱いは悪かったが、鉄道ができるなど中国の存在感が増して尊重されるようになった。中国が発展したおかげだ」と笑顔を見せた。

「民間に恩恵ない」
一方、ラオス側には国内で中国が影響力を増すことへの警戒もある。30代のラオス人男性経営者は「政府は中国に助けられているが、民間人は恩恵を感じることができない」と声を潜めた。

ラオスの首都ビエンチャンのワットタイ国際空港近くには巨大な中華街がある。3年前に営業を始めたというホテルの館内は中国語表記が目立ち、警備員の制服も漢字で「保安」と書かれていた。

中華街の一角にある建設現場に掲げられた作業責任者の一覧表を見ると、6人中全員が中国人とみられる名前だった。

一帯一路を巡っては、企業だけでなく資材や労働者まで中国から持ち込む〝ひも付き〟の形がとられ、地元経済への影響が限定的だと指摘される。両国国境近くのラオス・ボーテン駅の周辺では、中国資本のビルやホテルの建設ラッシュで、中国語や人民元の使用が日常化しているという。

深まる中国依存
王毅(おう・き)共産党政治局員兼外相は8月中旬、昆明でラオスの国家副主席と会談し、鉄道開通が「ラオス人民に確かな利益をもたらしている」と強調した。将来はタイ・バンコクやシンガポールまで鉄道網を延伸する構想も取り沙汰されている。

ただ、一連のプロジェクトの持続可能性は不透明だ。中国ラオス鉄道は中国側が7割、ラオス側が3割出資した合弁会社が建設と運営を担う。

総工費はラオスの国家予算の2倍弱にあたる約60億ドル(約8900億円)。うち6割に当たる約35億ドルは中国輸出入銀行からの借り入れだ。ラオス側は債務の政府保証を行っていないが、同国の「隠れ債務」になる可能性が指摘される。

ラオスの対外公的債務は22年末時点で105億ドルで、国内総生産(GDP)比84%と既に高レベル。対外債務の半分を占める中国への依存は強まっている。多額の対外債務は通貨安を招いており、外貨建て債務返済負担の増加も懸念される。【2023年10月13日 産経】
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国際通貨基金(IMF)は昨年、ラオスの公的債務残高が国内総生産(GDP)の120%を超えていると推計、「支払い困難で持続不可能」と警告しています。こうした債務状況は中国以外の国がラオスへの融資を行う妨げとなっています。

ラオス・ソンサイ首相は貨物・旅客双方との「大成功している」と評価しています。債務問題については、ラオスにはまだ返済能力があるが、返済条件の見直しや債務免除について債権者(中国)と交渉すると語っています。

なお、「債務の罠」でいつも代表事例と上がるのスリランカ。中国依存を強めた前政権時代の2017年に南部のハンバントタ港の建設費返済ができる見込みがなくなり、中国とスリランカの合弁企業に港の運営権を99年間リースせざるを得なくなりました。

現在、債務の再編を進めている当のスリランカは「一帯一路」から手を引いた訳ではありません。

****「債務の罠」批判あるなか習近平国家主席がスリランカ首相と会談 「一帯一路」推進で一致****
中国の習近平国家主席は27日、北京を訪れたスリランカのグナワルダナ首相と会談し、中国が主導する巨大経済圏構想「一帯一路」を今後も進めていく方針で一致しました。

中国外務省の発表によりますと、会談で習主席は「中国とスリランカとの関係を強化し、発展させることは両国民の利益に沿うものだ」と意義を強調。

そして、巨大経済圏構想「一帯一路」をめぐり、「質の高い建設を実現し、相互の助け合いを引き続き深めていきたい」として最大都市のコロンボなどで行われている港の建設のほか、物流や環境分野での協力を推進していく考えを示しました。

ただ、中国からの融資に頼って港の工事を行ったものの資金の返済に行き詰まり、港の運営権を99年間中国企業に委ねることになってしまうなど、こうした協力は「債務の罠」だという国際社会からの批判もあります。

一方、グナワルダナ首相は会談で「中国はスリランカが困難な時に常に手を差し伸べてくれた」と感謝の意を示したうえで、「プロジェクトはスリランカの経済発展を大いに後押ししてきた」として、引き続き「一帯一路」構想を進める考えを示しました。【3月28日 TBS NEWS DIG】
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【テロの標的とされる中国人・企業 パキスタンの場合】
「一帯一路」のネガティブな側面のもうひとつは、冒頭記事にもあるように“企業だけでなく資材や労働者まで中国から持ち込む〝ひも付き〟の形がとられ、地元経済への影響が限定的”ということで地元住民には不評であると言われていること。

単に“不評”と言うだけでなく、地元住民との衝突が起きたり、また、政府と結託した中国の進出が地元武装勢力のテロの標的となったりすることもしばしば起きています。

ラオスと並んで「一帯一路」事業の最重要拠点がパキスタンでの事業ですが、現地ではしばしば中国人・企業がテロの標的となっています。

****パキスタンで中国人狙った自爆テロか 中国人技術者ら6人死亡****
パキスタン北西部で、ダムの建設現場に向かっていた車列に爆発物を積んだ車が突っ込んで爆発し、中国人技術者5人を含む6人が死亡しました。

警察は中国人を狙った自爆テロとみて捜査を進めています。
パキスタン北西部のカイバル・パクトゥンクワ州で26日午後、山あいの幹線道路を走っていた車両の列に、爆発物を積んだ車が突っ込み爆発が起きました。

警察によりますと、車列には現地で進められているダムの建設作業に当たる技術者やその警備担当者などが乗っていたということで、爆発によって車1台が谷底に落ち、中国人の技術者5人とパキスタン人の運転手1人が死亡したということです。(中略)中国人を狙った自爆テロとみて捜査を進めています。

パキスタンでは、今月20日にも中国の進める巨大経済圏構想「一帯一路」の重要拠点として知られる、南西部のグワダル港の港湾施設が武装した集団に襲撃されるなど、中国に反発する武装グループによるとみられる攻撃が相次いでいます。【3月27日 NHK】
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中国が一帯一路の重要拠点と位置づけるパキスタンでは、中パ経済回廊(CPEC)やグワダル港整備など全土で総額600億ドル規模のインフラ工事が行われています。工事の大半は中国からの融資でまかなわれおり、ここでもパキスタン側の債務危機が深刻化しています。

一方、中国の進出に反発する勢力が一帯一路の拠点を狙う事件も相次いでおり、パキスタンの反政府勢力「パキスタン・タリバン運動」やバルチスタン州の分離独立派の関与が疑われています。

【履行されない事業も タイ・バンコクから南の高速鉄道、マレーシアは計画中止】
「一帯一路」の大盤振る舞いは中国にとっても負担で、受け入れ国側のもろもろの事情もあって、当初の計画通り進まないことは多々あります。

****「一帯一路」で8.3兆円不履行=中国の対東南アジア援助―豪研究所調査****
中国が巨大経済圏構想「一帯一路」に基づき東南アジア諸国に援助を約束した大規模事業のうち、3分の2近い547億米ドル(約8兆3000億円)が履行されなかったことが分かった。オーストラリアのシンクタンク、ローウィー国際政策研究所が、27日公表の調査報告書で明らかにした。

報告書によると、2015〜21年の東南アジアの大規模インフラ開発事業で、中国は843億米ドル(約12兆8000億円)の支出を約束していた。

だが、実際に支出したのは296億米ドル(約4兆5000億円)で、履行率は35%にとどまる。タイやフィリピンの鉄道建設、マレーシアのパイプライン敷設が中止されたほか、規模が縮小された事業もある。【3月27日 時事】 
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受入国側だけでなく中国にとっても、従来のような大盤振る舞い、結果、債務不履行も・・・といったことは重荷となっており、近年では経済合理性を重視する方向に変化していいます。

なお、上記記事にもある中国ラオス鉄道につながるタイでの高速鉄道建設については、中国側は建設を急ぐようにタイに要請しています。

*****中国外相、タイ首相と会談 高速鉄道の早期建設呼びかけ****
中国の王毅外相は29日、タイのセター首相とバンコクで会談し、ラオス経由で両国を結ぶ高速鉄道の建設を急ぐ必要があるとの認識を示した。 中国外務省が明らかにした。具体的な時期には触れなかった。

タイ政府は現在、同国内の区間(873キロメートル)が2028年に開業するとの見通しを示している。

中国政府は「一帯一路」構想の下、同国南西部の昆明市とシンガポールを結ぶ高速鉄道の建設計画を推進。計画には昆明を起点にミャンマー、タイ、ベトナムを経由し、バンコクで合流する3つのルートが盛り込まれている。

タイ区間は費用負担の問題や新型コロナウイルス流行の影響などで建設が遅れているほか、一部で「財政のわな」に対する懸念も浮上している。

タイ政府によると、バンコクとナコンラチャシマ県を結ぶ第1区間は15%以上完成しており、27年までに開業予定。ラオスと国境を接するノンカイ県とナコンラチャシマ県を結ぶ第2区間は28年までに完成する予定。ラオス経由で中国に接続する計画だ。

バンコクとマレーシア、シンガポールを結ぶ区間は、マレーシア政府が計画を中止しており、先行きが不透明。【1月29日 ロイター】
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【それでも東南アジアでアメリカと逆転した中国への高評価】
ここまでの話、主に「一帯一路」のネガティブな側面を中心にした話は、これまでも再三指摘されている話で、いささか“耳たこ”  
ここまでは前置きで、今日取り上げたかったのは、これまでの話を踏まえたうえでの下記の記事

****東南アジア “米より中国を選択”が初めて上回る 調査結果****
ASEAN=東南アジア諸国連合の国々で、アメリカと中国の選択を迫られた場合、中国を選ぶとする人の割合が初めて上回ったとする調査結果をシンガポールのシンクタンクが発表しました。

シンガポールのシンクタンク、ISEAS=ユソフ・イシャク研究所は、2日ASEAN10か国の研究者や政府当局者などおよそ2000人を対象に行った調査結果を発表しました。

それによりますとアメリカか中国かの選択を迫られた場合、どちらの国を選ぶかという質問では、「アメリカ」が49.5%、「中国」が50.5%と中国を選ぶとする回答がわずかに上回りました。

去年の調査と比べると中国を選んだ割合は11.6ポイント上昇していて、2020年に公表が始まったこの調査項目で、中国がアメリカを上回ったのは今回が初めてです。

中国を選んだ割合が高かった国はマレーシアが75.1%、インドネシアが73.2%、ラオスが70.6%などとなっていて、いずれも去年に比べておよそ20ポイントから30ポイント上昇しています。

調査を行ったシンクタンクはこうした国々について「中国の一帯一路構想や、活発な貿易や投資で大きな恩恵を受けている」と指摘しています。

一方、南シナ海で中国と領有権を争うフィリピンのほか、ベトナムやシンガポールなどはアメリカを選ぶ割合が依然として高く、米中の主導権争いが如実に反映されています。

また「信頼できる国や地域」という調査では日本が58.9%と米中やインド、EU=ヨーロッパ連合を上回り1位でした。【4月3日 NHK】
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“ASEAN加盟国のうち、米国を第一としたのはフィリピン、シンガポール、ベトナムの3カ国のみ。インドネシア、マレーシア、タイ、ラオス、ブルネイ、ミャンマー、カンボジアの7カ国は中国寄りの結果となった。特に中国の「一帯一路」構想や対中貿易から恩恵を受けているマレーシア、インドネシア、ラオスでは中国支持が7割を超えた。”【4月3日 レコードチャイナ】

従来から中国の影響力が強いカンボジア、ラオス、ミャンマーは予想されたところ。
近年中国との関係強化が伝えられるタイも「まあ、そうかも・・・」
インドネシア・マレーシアの結果は意外でした。

ながながとネガティブ評価の前置きを並べてきたのは、「そうは言いつつも、中国「一帯一路」はアジア各国で好意的に評価されているポジティブな面も強いみたい・・・ということです。

だから「一帯一路」を評価すべきとは言いませんが、ものごとは表と裏、光と影、両面を見る必要があるということ。

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【「観光旅行者」としての個人的感想・印象】
以下は、「観光旅行者」としての個人的感想・印象

スリランカの「債務の罠」典型例としていつもあげられる南部のハンバントタ港周辺で、2009年の正月、島の南端に位置する聖地カタラガマに行く途中に車を止めて小休止したことがあります。

行きかう車も少ないのに立派な道路ができており、同行ガイド氏から「大統領が自分の地元に港を作っている」といった話を聞きました。「いくら小さな島国とは言え、中心部からかなり離れたこんなところに港を作って、何に使うのだろうか?」というのがそのときの印象でした。

融資した中国の問題もありますが、一番は採算を無視したスリランカの責任でしょう。

中国人を対象にしたテロのあったパキスタン・ベシャムには、2019年のフンザ観光の際に1泊したことがあります。
周辺道路はいわゆる「カラコルム・ハイウェイ」と呼ばれる険しい山肌を削って作られた道路。
あちこちで道路工事(拡張・補修?)が行われ、発破作業などのために車が停止させられることも何回かありました。

工事は中国主導で行われているようで、あちこちに中国語表記の看板が見られ、道路標識も中国語。さすがに中国語の道路標識には「パキスタンの山奥で中国語かよ・・・」と呆れたことも。

ただ、中国の工事が完了した区間は快適なドライブができますが、工事が済んでいない区間は悪路・悪路の連続。
「中国さんよ、早く工事進めてよ!」というのが本音の感想でした。

同行ガイド氏もさかんに中パ経済回廊(CPEC)に言及しており、中国に対して悪い印象は持っていないようでした。

中国ラオス鉄道とその延伸
中国雲南省昆明周辺、ラオス、タイ・・・それぞれ何回か観光していますが、これらの地域が高速鉄道でつながるのは観光的には大きな魅力。ビザの問題などがクリアされるなら、是非雲南省からラオス、タイへ周遊する旅行をしてみたいと考えています。
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