孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イラン  不穏な動きが絶えないホルムズ海峡 注目される最高指導者交代時のイラン情勢

2023-07-06 23:00:53 | イラン

(【6月18日 読売】 イラン情勢が緊迫するたびに注目されるホルムズ海峡 日本にとっても重要なシーレーン)

【米・イラン 水面下の「静かな外交」】
イラン核合意復活協議がなかなか進展しないなか、イラン核開発に歯止めをかけたいアメリカとイランの“静かな外交”というか、水面下の交渉については、6月17日ブログ“イラン核合意の本格的交渉再開は未だ 米、事態悪化を防ぐ「クールダウン」のための「静かな外交」展開”でも取り上げたところです。

****強まるハメネイ師健康不安説 米国は革命体制を打倒できるか?*****
(中略)
米国はイランが核開発を制限する代わりに日量100万バレルの原油輸出を認める合意が近づいているという報道が出ていたが、6月8日、米政府はこれを否定した。しかし、バイデン政権が米国人人質とイランの凍結資産の一部解除を取引する何らかの秘密交渉が行われているのは間違いないだろう。

恐らく米側は、イランが捕らえている米国人人質の解放の代償として、「凍結解除は国連の分担金の支払いと新型コロナウイルスワクチンのため」との名目でごく限定的な在米イラン資産の凍結解除の用意があるのであろう。

他方、イランは、この機会に日量100万バレルの原油輸出を認めさせて一気に制裁の事実上の解除を狙っているのではないか。現在、中国が買っているのが日量100万バレルと言われるから、これは制裁の骨抜きに他ならない。

恐らく、イラン側は、経済制裁が続いてもイラン経済は崩壊せず、核開発も進んでいることから自分達の方が優位にあると考えているのであろう。  

なお、その後の6月14日の米ニューヨークタイムズ紙は、バイデン政権が、米国とイランの間の緊張を緩和するためにオマーンで秘密裏にイランと間接交渉を行っていると報じている。

それによれば、イランがウランの濃縮度を60%以上に引き上げず、シリアとイラクで米軍関係者を攻撃せず、さらにIAEAの査察に協力し、ロシアに弾道ミサイルを売却しないこととの引き換えに、米国はこれ以上制裁を強化せず、イラン産原油を積んだ外国タンカーを拿捕せず、国連やIAEAでイランに対して懲罰的な制裁決議を提案しない由である。

さらに、イランが3名の米国人人質を解放する代わりにイランの数十億ドルの凍結資産を解除することも交渉されている。【6月30日 WEDGE】
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【アメリカへの対抗姿勢を強める動き タンカー拿捕が相次ぐホルムズ海峡】
ただ、イラン経済を支える石油輸出への制裁は、何らかの妥協に向けてイランを追い込むまでの効果はあげていないようでもあります。

****イランの5月原油輸出が5年ぶり高水準、増加分は闇市場か****
海運データや関係者などによると、米国の制裁にもかかわらず、イランの5月の原油輸出と生産量が5年ぶり高水準に達した。

イランの原油輸出は、2018年にトランプ前政権下の米国が2015年の核合意から離脱し、対イラン制裁を復活させて以来、制限されている。だが、現在のバイデン政権になってからは輸出が増加している。イランと欧米の当局者によると、米国はイランと協議を行い、核開発計画を制限するための措置を検討している。

データ提供会社ケプラーによると、イランの原油輸出は5月に日量150万バレルを超え、単月としては2018年以来の高水準となった。18年の米国の核合意離脱前は日量250万バレル程度だった。

イランの発表では、5月の原油生産量は日量300万バレル超に増加。これは世界の供給量の約3%に相当し、石油輸出国機構(OPEC)のデータによれば18年以来の高水準だった。

国際エネルギー機関(IEA)が今週発表したイランの5月産油量は日量287万バレルで、イランの公式発表値に近い。(中略)

米国務省の報道官は、全ての対イラン制裁が引き続き有効だとし、制裁回避者に対して措置を講じることを躊躇しないと述べた。米財務省は、コメント要請に応じていない。

アナリストや海運データによると、中国がイラン産原油の最大の輸入国。【6月19日 ロイター】
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こうした懐事情を反映したものか、このところのイランの動きはアメリカへの対抗姿勢を強める方向のものが目立ちます。7月4日の上海協力機構首脳会議(SCO)で中国・ロシアが主導する同機構へのイランの加盟が決定されました。

制裁を続ける米欧に頼れないイランにとって、世界人口の4割を占めるSCOは魅力的な市場です。
また、SCO加盟によって、自国が孤立していないことを国内外にアピールしたい狙いもあるとされています。

****イラン、上海協力機構に正式加盟へ ロシア外相****
ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相は6月30日、上海協力機構について、「7月4日の首脳会議で、イランが正式に加盟する」と明らかにした。モスクワのSCO関連施設の開所式で述べた。イラン外務省も、同首脳会議でSCOの張明事務局長から正式発表があるとしている。

イランは、ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカで構成される新興5か国への早期加盟も希望している。

SCOは、中国、ロシア、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、ウズベキスタン、インド、パキスタンの8か国で構成され、事務局は中国・北京にある。【7月1日 AFP】
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また、ホルムズ海峡周辺ではイランの軍艦から航行タンカーへの発砲があり、米軍が拿捕を阻止する事態が起きています。

****イラン海軍がホルムズ海峡周辺でタンカーに発砲か 米軍が拿捕を阻止****
米海軍第5艦隊(司令部・バーレーン)は5日、中東の要衝ホルムズ海峡に近いオマーン沖の公海で、イラン海軍による原油タンカー2隻の拿捕(だほ)を阻止したと発表した。イランの軍艦からタンカーに向けて複数の発砲があり、船体に命中していた。

ホルムズ海峡周辺ではイラン海軍による商用船の拿捕が相次いでおり、米軍などが警戒を強化しているが、原油や天然ガスの輸送の安全性への懸念が高まっている。

米海軍によると、5日午前4時ごろ、オマーンの首都マスカットの沖合約30キロをアラビア海に向けて航行中のバハマ船籍の原油タンカーが米海軍に遭難信号を発した。イラン海軍の艦艇がタンカーの1・6キロ以内に接近し、停止を要求。さらにタンカーに向けて小火器や銃器で複数回発砲した。タンカーの乗組員に被害はなかったが、数発は船体に当たった。

米海軍の誘導ミサイル駆逐艦が現場に急行すると、イラン軍艦はタンカーから離れた。米軍は上空から発砲の様子を捉えたとする映像を公開した。ロイター通信によると、タンカーは米石油大手シェブロンが管理しており、サウジアラビアからシンガポールに向かう途中だった。

発砲事案の約3時間前には、イラン海軍の別の艦艇が、オマーン湾の公海を航行中だったマーシャル諸島船籍の原油タンカーに接近。米軍艦が到着すると、イラン軍艦は現場を離れた。

米中央軍海軍のクーパー司令官(中将)は5日の声明で「非常に重要な海域で航行の権利を守るため、今後も油断せず備えていく」と述べた。

米軍によると、イランは過去2年間、ホルムズ海峡周辺を中心に、少なくとも6隻の商用船を拿捕した。今年4月にはオマーン湾で、イラン海軍の特殊部隊がヘリコプターを使って米国行きの原油タンカーを急襲して拿捕。イラン政府は「イランの船と衝突したために拿捕した」と説明したが、「衝突」の証拠は示さなかった。

5月にはイラン革命防衛隊の艦艇がホルムズ海峡で、アラブ首長国連邦(UAE)に向かっていたパナマ船籍の原油タンカーを拿捕した。イランは「司法当局の命令」としたが、米国が対イラン制裁の一環でイランの原油タンカーを没収したことへの報復だとの見方もあった。

米軍は2019年、ホルムズ海峡周辺で民間船への攻撃が相次いだことから、航行の自由を守る「海洋安全保障イニシアチブ」を発足させ、多国籍連合軍による警戒監視活動を続けている。

自衛隊は独自にアラビア海やオマーン湾で艦船や哨戒機による情報収集活動を実施し、米軍とも情報共有しているが、イランへの刺激を避けるためにホルムズ海峡やペルシャ湾では活動していない。【7月6日 毎日】
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上記のタンカーのうち、バハマ船籍のタンカー(米石油大手シェブロンが管理)については、イランの船舶と衝突したとしてイラン裁判所が拿捕をイラン海軍に命じていたとのこと。

****米海軍阻止のシェブロン船舶拿捕、衝突受けイラン裁判所が命令****
イランの裁判所は、オマーン湾でイランの船舶と衝突した石油タンカーを拿捕するようイラン海軍に命じていた。

このタンカーは米石油大手シェブロンが管理するバハマ船籍の石油タンカー「リッチモンド・ボイジャー」。米海軍は5日、イラン海軍が同タンカーを含む2隻を拿捕しようとしたため、阻止したと発表していた。

イラン南部ホルモズガーン州の海洋捜索救助センターが国内メディアのIRINNに明らかにしたところによると、リッチモンド・ボイジャーは乗組員7人が乗ったイラン船と衝突。イラン船の5人が負傷し、船内に浸水したが、リッチモンド・ボイジャーは事故後も停船しなかった。その後、イラン船の船主がタンカーの拿捕を要求したという。

シェブロンは、リッチモンド・ボイジャーの乗組員は無事で通常通り航行しているとコメントした。

米海軍によると、イランは約1カ月前、1週間で石油タンカー2隻を拿捕している。【7月6日 ロイター】
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詳細はわかりませんが、緊張した状況が続いているのは確かなようです。

なお、イラン革命防衛隊による2020年1月のウクライナ旅客機撃墜を巡り、ウクライナ、カナダ、英国、スウェーデン4ヶ国が国際司法裁判所(ICJ)に提訴したとも。

****旅客機撃墜でイラン提訴 国際司法裁判所に、カナダなど****
ウクライナ、カナダ、英国、スウェーデンは5日、イラン革命防衛隊による2020年1月のウクライナ旅客機撃墜を巡り、イランに4カ国の犠牲者遺族への謝罪と賠償などを求め、国際司法裁判所(ICJ)に提訴した。AP通信が伝えた。

ウクライナの旅客機は、イランの首都テヘランの空港を離陸した直後に撃墜され、乗客乗員計176人全員が死亡。犠牲者には4カ国の国民が含まれていた。

イランの裁判所は今年4月、ミサイルを誤射したとして革命防衛隊の防空システム担当官に禁錮13年の判決を言い渡すなどしたが、4カ国は「見せかけの裁判」だと指摘。「公平な犯罪捜査を怠った」と批判した。【7月6日 共同】
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イラン側の反発が今後あるのか・・・。

【今後のイラン政治の転換点として注目される最高指導者交代】
一方、イラン国内では体制引き締めを図る動きも報じられています。

****イランでスカーフ強化法案 未着用者増で引き締め****
イラン政府は2日までに、女性が髪を隠すスカーフの着用の義務付けを強化する法案を国会に提出した。昨年に全国化した抗議デモ以降、街中でスカーフをかぶらない女性が増えたため、引き締めを図るのが狙い。

法案に対し、イスラム教の教えに厳しい保守強硬派は罰則が不十分と主張。自由拡大を求める改革派の市民は「人権に反する」と非難している。

イランでは外国人も例外なく、女性は公共の場でのスカーフ着用が必須。
法案によると、違反者はショートメッセージサービス(SMS)で警告を受ける。2回目で罰金が科され、3回目からは訴追手続きが取られるとしている。罰金額など詳細は不明。【7月2日 共同】
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引き締めを図る・・・ということは、それだけ国民の体制への不満が強いということの裏返しでもあります。

そこで体制存続に関して問題となるのが次期最高指導者に誰がなるのか・・・
ハメネイ最高指導者は84歳と高齢で、健康不安説がしばしば流れる状態。

****イランの次の最高指導者は誰に? カギ握る革命防衛隊****
英エコノミスト誌5月25日号の解説記事‘Who will be Iran’s next leader’は、いずれイランの最高指導者の交代があるだろうが、革命防衛隊が実質的な権力を握って専制政治を敷くであろう、とする予測を示している。要旨は次の通り。

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誰が最高指導者ハメネイ師の後継者となるのか、果たして中東の最後の神権政治が生き残れるのか誰も分からない。信心深いイラン人ですら神権政治に対する信頼を失い始めている。

ハメネイ師の後継者としてハメネイ師よりさらに宗教的権威が劣る2人の有力候補がいる。一人は、保守強硬派で現大統領のライシ師、もう一人は、ハメネイ最高指導者の次男のモジュタバ師である。

1989年にハメネイ師を最高指導者に任命した時と大きな違いは、革命防衛隊が大きな力を持っていることである。革命防衛隊は、聖職者より優位にいる。過去30年間、ハメネイ最高指導者は、革命防衛隊を利用して宗教界のライバルを押しのけ、民衆の抗議デモを排除して権力を掌握してきた。

今後、革命防衛隊は最高指導者をお飾りにしてしまうように思われる。その意味で、ライシ師は革命防衛隊にとりピッタリの人物と言える。恐らく革命防衛隊は権力を掌握し、「聖職者による支配」を有名無実化するが、今と同様な専制政治体制を敷くだろう。しかし、体制に対して不満な中産階級をこれ以上刺激しないだろう。

対外政策は強硬なままで、核武装に走るだろうが、ペルシャ湾地域での米国のプレゼンスに反対しつつも、「大悪魔(米国)」と協議することにはより柔軟だと思われる。

一部の専門家は、革命防衛隊は服装や飲酒に対する自由をより認める新たな社会契約を国民と結ぼうとするのではないかと考えている。国民はこのような社会契約を喜ぶであろうが、しかし、政治的な自由はこれまで以上に制限されるであろう。

ハタミ元大統領やムサヴィ元首相といった真の改革派は、革命防衛隊や聖職者が支配する体制ではなく、非宗教的な市民社会を実現しようとするであろう。
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これは大変良い分析である。ホメイニ師のようなカリスマと宗教的な権威に欠けるハメネイ最高指導者が宗教界を抑え、権力を掌握するために革命防衛隊を利用した結果、革命防衛隊の力が強くなり過ぎ、次期最高指導者は、お飾りとなり、実権を革命防衛隊が握って、専制政治を行うというシナリオは説得力がある。

革命防衛隊のメンバーの国会議員の占有率は約4分の1であるのに対して、聖職者の比率は11%である由である。1980年には、それぞれ6%と52%だったのが大きく逆転している。これは、革命防衛隊の聖職者に対して優位に立ったことをよく表している。イラン経済についても、その30%を革命防衛隊が支配しているといわれている。

革命防衛隊が権力を握れば、国内的には、服装や飲酒の規制を緩めてイラン国民を惹きつけるだろう。対外政策は強硬で、特に「核武装しない」とのハメネイ師のファトワ(宗教指導者の命令)を廃止して核武装を進めるが、その一方で米国とも交渉することがあり得るかもしれない。

もっとも、現実には、革命防衛隊内には筋金入りの強硬派が少なくないと思われ、革命防衛隊にそのような現実的な対応ができるかどうかは、革命防衛隊内部の統制がどれだけ取れているかに掛かっているのではないか。しかし、革命防衛隊の内部は部外者にはブラックボックスであり、部外者には皆目分からない。

とはいえ革命防衛隊も不人気
一つ付け加えると、イスラム革命から40年以上が経過し、イラン国民が「聖職者による支配」に飽きているのと同様に、革命防衛隊も国民の間で不人気なのは間違いない。

去年のスカーフ・デモが典型だが、国内で反政府デモが起きると鎮圧の先頭に立つのは革命防衛隊だ。そして、イスラム革命体制下で聖職者と革命防衛隊は様々な特権を有しているのにも関わらず両方ともリクルートに苦労しており、国民の間での不人気ぶりを物語っている。  

なお、改革派について言及があるが、今となっては、改革派が勢力を盛り返すチャンスは、ほとんどない。革命防衛隊が権力を掌握し、服装や飲酒の規制を緩めれば、大多数の国民はそれで満足してしまうからである。【6月23日 WEDGE】
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この最高指導者交代は欧米側にとっては、イラン体制転換を図る好機ダ・・・との指摘も。

****強まるハメネイ師健康不安説 米国は革命体制を打倒できるか?****
トランプ政権時の国家安全保障問題担当補佐官であったジョン・ボルトンが、6月6日付の米ウォールストリート・ジャーナル紙掲載の論説‘Iran Exploits Biden’s Fecklessness’で、バイデン政権下でイランに対する制裁は形骸化しており、米国は湾岸のアラブ産油国やイスラエルを見捨てているが、手遅れになる前にイランのイスラム革命体制を崩壊させなければならず、高齢のハメネイ最高指導者の死去がそのチャンスであり、米国は今から準備すべきである、と論じている。(中略)

米国がイランの核武装を阻止する明白な決意を欠いていることから、イスラエルによるイランの核施設に対する武力行使の可能性が高まっている。

それを止めるためには、イランの神権政治体制を崩壊させるしかない。米国政府は、最低限、84歳のハメネイ最高指導者が死去する際に起きる内政の混乱に注目するべきである。最高指導者の死去は、イラン国民がイスラム革命体制を倒し、抑圧を終わらせる好機となろう。(後略)【6月30日 WEDGE】
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英エコノミスト誌が指摘するような、神権政治から実質的に革命防衛隊による統治への権力転換が実現し、国民は“ささやかな”自由を与えられることと引きかえにそれを容認するのか・・・、あるいはボルトン氏が指摘するように、体制への不満が噴出して混乱が広がる状況でアメリカなどがつけ入る隙ができるのか・・・

これまでのイラン政治を思えば、最高指導者交代に伴う多少の政治混乱はあったとしても、アメリカも軍事的に介入することもできませんので、結局は体制に力で封じ込まれ、革命防衛隊だか何だかによる新たな支配体制が確立する・・・というのが一番ありそうなシナリオに思えます。
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