孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イラン核合意の本格的交渉再開は未だ 米、事態悪化を防ぐ「クールダウン」のための「静かな外交」展開

2023-06-17 22:33:52 | イラン

(イランの最高指導者ハメネイ師は6月11日、同国の原子力関連施設が現状で維持される条件ならば、2015年の核合意再建は可能だとの見解を示した。【6月12日 ロイター】)

【ハメネイ師発言の真意は? アメリカとのある種の融和に向けて少し扉を開いている・・・】
イランと米欧との核合意再建交渉は行き詰まった状況が続いていますが、イラン最高指導者ハメネイ師が同国の核兵器保有について、西側諸国に「止めることはできない」と述べる一方で、米欧との核合意再建交渉について「われわれの核関連産業の基盤に悪影響を及ぼすのでなければ、問題はない」と語っています。

****核兵器保有、西側は止められず=合意再建協議は継続―イラン最高指導者****
イランの最高指導者ハメネイ師は11日、同国の核兵器保有について、西側諸国に「止めることはできない」と述べた。一方で、「宗教上の信念から(保有を)求めていない」とも語った。ロイター通信がイラン国営メディアを引用する形で伝えた。

イランは最近、濃縮ウランの保有量を大幅に増やしているとされる。発言はイランを脅威とみなすイスラエルなどを一段と刺激しそうだ。

ただ、ハメネイ師は、米欧との核合意再建交渉について「われわれの核関連産業の基盤に悪影響を及ぼすのでなければ、問題はない」と指摘。協議継続の意思を示した。また、国際原子力機関(IAEA)の査察への協力も一定の範囲内で続けるべきだという考えを示した。【6月11日 時事】
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どうも真意が素人にはよくわからない発言ですので、解説記事をもうひとつ。

****イラン原子力施設維持できるなら核合意再建は可能=ハメネイ師****
イランの最高指導者ハメネイ師は11日、同国の原子力関連施設が現状で維持される条件ならば、2015年の核合意再建は可能だとの見解を示した。

米国とイランの核合意再建を巡る間接協議は昨年9月以降停滞が続き、互いに相手方が不当な要求をしていると非難し合っている。数日前には、イラン側が制裁の解除を受ける見返りに、核開発プログラムを制限する形で双方が暫定的な合意に近づいているとの報道を、両国がともに否定した。

こうした中でイラン国営メディアによると、ハメネイ師は「(西側との)合意には何も悪いことなどない。ただしわれわれの原子力産業のインフラには手を付けられるべきではない」と語った。

米国務省の報道官は、ハメネイ師の発言に直接コメントはせず、米国は「決してイランが核兵器を所有するのを認めない決意を持っている」というバイデン政権の方針を繰り返した。

同報道官は、そうした目的達成に最善の方法は外交だと信じるが、大統領はいかなる選択肢も排除しない姿勢を明確にしていると指摘。米国が軍事力行使に含みを持たせていると改めて示唆した。【6月12日 ロイター】
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「イランの核兵器保有を止めることはできない」という部分も含む上記ハメネイ師発言をどのように理解していいのか・・・核合意再建交渉に前向き発言と理解していいのか・・・よくわかりませんが、少なくと交渉を否定するものでもないようです。

ただ「止めることはできない」としながら「求めていない」というイランの論理は理解し難いものがあります。
米欧に指図されて核兵器開発を断念するようなことはないが、そもそもイランは保有を求めていない・・・ということでしょうか。そういうことであれば、交渉に臨むイラン側の面子・建前を述べたものとも理解できます。

もっとも、イスラエルなどは、「求めていない」云々は嘘っぱちで、イランが核兵器開発に邁進していると確信しています。そうであれば「止めることはできない」交渉を続けても無意味で、イランに時間を与えるだけだということにもなります。

イラン国内には、交渉を求める穏健派、妥協を拒否する強硬派、双方がありますので、双方に配慮した発言でしょうか。

後出WSJによれば“2015年の核合意の完全復活には程遠いものの、米国とのある種の融和に向けて少し扉を開いているように思われた”とも。

【アメリカ イランへの反発の強い議会の承認を必要としない形で、状況の“クールダウン”を求め、水面下で模索】
ハメネイ師の真意はよくはわかりませんが、最近、核合意再建交渉に関する動きも報じられています。

****オマーン仲介で米と交渉か=核合意再建巡り―イラン****
イランが2015年に欧米などと締結した核合意の再建交渉に関連し、イラン外務省報道官は12日、中東のオマーンが間に入り、米国と間接的な協議が続いていると明らかにした。報道官は「オマーン当局の努力を歓迎する」とした上で、協議は「秘密ではない」と指摘した。AFP通信が報じた。

報道官はまた「われわれは外交交渉を停止したことはない」と強調した。核合意再建交渉を巡っては、イラン最高指導者ハメネイ師が11日、「(自国の)核関連産業の基盤」を変えるものでなければ合意の可能性はあると述べていた。【6月13日 時事】 
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オマーンでの間接協議は2月頃から継続しているようです。

国内にイランへの妥協を拒否する強硬派を抱える点では、アメリカも同じです。

アメリカもいろいろ水面下で模索しているようですが、アメリカ議会はイランに対する反感が強く、議会承認が必要となる形では、イランとの話がまとまってもアメリカ国内手続きで立ち往生することも予想されます。

****米政府、イラン問題の打開模索 議会承認不要の「相互理解」案も****
米国がイランの核開発問題などを巡りイランと協議をしているもようだ。イランおよび米欧の当局者によると、イランの核開発の制限、イランで拘束されている米国人の解放、海外イラン資産の凍結解除に向けた措置を探っているという。

2015年のイラン核合意の復活交渉が実質的に頓挫し、米国はイランの核開発を阻止する策を検討している。米国内ではイランに対する懐疑論や反発が強いため、議会の承認を必要とする「合意」ではなく、「理解」という形を取ることを想定しているもようだ。

ある西側当局者は、米国家安全保障会議(NSC)の中東政策調整官のブレット・マクガーク氏とイランの核交渉責任者アリ・バゲリ・カニ氏の間接協議が中東オマーンで複数回行われたとし、「これはクールダウンと呼ぶべきものだ」と述べた。

構想されているのが、イランの核問題で全当事者が受け入れ可能な現状維持を形成することで、ウラン濃縮を米欧が越えてはならない一線と見なす90%まで高めず60%で止めることだ。

具体的な手順や、イランが拘束している米国人3人の解放にどのように関連付けるかは不明。米国人の解放については、当局者が以前、資産凍結の解除が条件になるとの見方を示している。

米国の主たる目的は、イランの核を巡る状況の悪化を防ぎ、イスラエルとイランが衝突する事態を回避することだ。「(イランが)誤算を犯し、イスラエルが強く反応する事態は避けたい」と西側当局者は述べた。

米政府は、イランとの合意を模索しているとの一部報道を否定している。ただ国務省のミラー報道官は、米政府はイランに対し、核開発抑制やウクライナに侵攻するロシアへの支援停止、拘束米国人の解放を望んでいると説明。具体的内容に踏み込まず「これら全ての目標を追求するため、引き続き外交的関与を活用する」と述べた。

イラン当局者は「暫定合意、相互理解など、名称は何であれ、双方が事態の深刻化は防ぎたいと考えている」と述べた。【6月16日 ロイター】
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全面的な合意復活への交渉ではなく、事態が悪化するのに歯止めをかける“クールダウン”のための「静かな外交」ということのようです。

****米、イランと静かな外交 緊張緩和なるか****
バイデン政権は囚人解放、イランは資金凍結の解除を求めている

バイデン米政権がイランと水面下で協議を再開していたことが分かった。イランに拘束されている米国人の解放や、核開発に歯止めをかけることが狙いだ。複数の関係者が明らかにした。

米国とイランの当局者によれば、協議が再開される中、イラク政府がイランからの電力・ガスの輸入で25億ユーロ(約3800億円)の支払いを実行することを米政府は承認した。この資金は米国の経済制裁によって凍結されていた。

米当局者は、資金の凍結解除は協議とは無関係だとしている。過去にも凍結が解除されたことがあるが、今回は現地通貨ではなくユーロでの実施となった。

関係者によれば、昨年12月にニューヨークで米国とイラン当局者の協議が始まった後、ホワイトハウス関係者はオマーンを少なくとも3回訪問。オマーン当局者が双方の伝言を仲介した。

ジョー・バイデン大統領は対イラン経済制裁の解除と引き換えに、同国の核開発を制限する核合意への復帰を選挙公約に掲げていた。

新たな外交努力には、イランとの緊張を緩和する狙いがある。バイデン氏にとっては政治的綱渡りだ。イランはウクライナでの戦争に使われる無人機(ドローン)をロシアに提供するほか、ウラン濃縮を推進している。ペルシャ湾岸では石油タンカーを拿捕(だほ)するなど、今年に入り両国の緊張は激化してきた。

イラン政府は囚人解放と核開発制限を受け入れるのと引き換えに、米国の制裁によって国外にとどまっているエネルギー収入の支払いを求めている。イラン当局者は、韓国にとどまっている自国の資金70億ドルへのアクセスと囚人解放とをたびたび結びつけ、イラクで凍結されている石油・ガス代金を利用できるようにすることを要求してきた。

この件に詳しい韓国の前政権の当局者によれば、人道目的でこの資金の凍結を解除する方向でイランおよび米国との協議が継続されている。

バイデン政権は大統領選が迫る中、イランとの交渉を最優先課題とすることを避けたい考え。正式な合意、またはそこにまで至らない合意でさえ、議会の審査を余儀なくされる可能性がある。議会では共和党や民主党の一部がイランとの核合意に強く反対している。

もし夏の間に緊張が落ち着けば、より広範囲に及ぶ協議、場合によっては2015年の核合意を巡る協議の再開にもつながる可能性がある、と関係者は言う。ただ、それが合意復活につながるとの楽観的見方はほとんどない。

西側の当局者は、もしイランに兵器級の核分裂性物質を製造する動きがあれば、外交危機の引き金になると懸念する。イスラエルは、軍事攻撃を引き起こしかねない核の製造レベルだとしている。

「イランによる一部の行動は、われわれを非常に危険な状況に導きかねない。イランも世界もそれを承知している。だから危機を防ぐため、エスカレートした行動を避けるべきだとわれわれは明確にしてきた」。バイデン政権のある高官はそう語った。「同時に、数カ月にわたる状況の悪化を受け、イランに段階的緩和(ディエスカレート)への道を進むよう促してきたことも周知の通りだ」

核合意に関する正式な交渉は、イランが合意から離脱した昨夏以降、行われていない。イランの首都テヘランで抗議デモが弾圧され、ウクライナ戦争でのイランによるロシア支援が拡大する中、米・イラン両政府の接触は縮小していた。

2022年終盤、米国のイラン担当特使であるロバート・マレー氏がニューヨークでイランの国連大使と会談。そこから4月まで続く一連の会合が始まった。これら協議の説明を受けた関係者が明かした。(中略)

拘束された米国人に関する話し合いは、カタールが仲介している。この協議をよく知る関係者はそう語る。(中略)

イランの核開発の成果を展示した会場で11日に演説したハメネイ師は、2015年の核合意の完全復活には程遠いものの、米国とのある種の融和に向けて少し扉を開いているように思われた。

ハメネイ師はイランの現在の核インフラを、何らかの合意の下で排除することがあってはならないと主張。その一方で「いくつかの分野で取引することはあり得る。それは問題ではない」とも述べた。

イランは核開発に関する国際原子力機関(IAEA)への協力姿勢を徐々に示すなど、一部の分野では緩和を思わせる動きをみせている。

またバイデン政権当局者が制裁を実施していると主張する中でも、イランの販売する石油は増え続け、NPO(非営利団体)イラン核装備反対連合(UANI)が集計したタンカー調査のデータによると、5月の輸出量は日量155万バレルに上った。

イランの交渉責任者バゲリ・カニ氏は12日、アラブ首長国連邦(UAE)の首都アブダビで、核合意の交渉を支援したE3(英国、フランス、ドイツ)の高官と会談した。

「米国にせよE3にせよ、ここ数週間に関与を高めた第一の目的は、状況がさらに悪化するのを防ぐことだ」。紛争解決を目的とするシンクタンク、国際危機グループのイランプロジェクト責任者、アリ・バエズ氏はそう指摘する。「それによって核開発などの部分である程度の猶予ができれば、さらなる協議への扉が開かれる可能性がある」【6月15日 WSJ】
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少し扉が開いたなかで“ある種の融和”が成立すれば、本格的合意に向けて“さらなる協議への扉が開かれる可能性がある”・・・・道のりは長いですが、まったくとん挫している訳でもない・・・といったところのようです。
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