孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イラン  それほど単純でもない「スカーフ着用強制」とか「ロシア支援」といった一般的イメージ

2023-08-11 23:30:35 | イラン

(テヘランの路上を歩く女性たち=7月18日 【8月3日 CNN】)

【スカーフ着用に関する規制強化】
イランでは、昨年9月にスカーフ(ヒジャブ)のかぶり方が不適切だとして当局に拘束された女性が死亡したことを契機に抗議デモが全国に拡大し、単に女性のスカーフだけの問題ではなく、現在のイランの抑圧的な政治体制への不満が噴出する深刻な国内問題になりました。

混乱が沈静化した後も、街ではスカーフを着けない女性の姿が目立つとも報じられていますが、保守派を支持基盤とするライシ政権としては、あくまでもスカーフ着用を女性に求める姿勢です。

****スカーフ着用の監視強化、イラン 街頭のカメラで特定****
イランの保守強硬派ライシ政権は(4月)17日までに、髪を隠すスカーフを着用していない女性を特定するため、街頭でカメラを使って監視強化に乗り出した。地元メディアが伝えた。反スカーフデモを契機に、抗議を示す形として公共の場でスカーフをかぶらない女性が目立っている。

イランでは外国人も例外なく公共の場で女性はスカーフで髪を隠すよう義務付けられている。イラン警察のラダン長官は今月上旬、髪を隠していない行為をカメラで確認した際は初めは警告にとどまるが、繰り返された場合は裁判所に行くことになると強調した。

だが、実効性があるかどうかは不透明だ。【4月17日 共同】
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****イランでスカーフ強化法案 未着用者増で引き締め****
イラン政府は2日までに、女性が髪を隠すスカーフの着用の義務付けを強化する法案を国会に提出した。昨年に全国化した抗議デモ以降、街中でスカーフをかぶらない女性が増えたため、引き締めを図るのが狙い。

法案に対し、イスラム教の教えに厳しい保守強硬派は罰則が不十分と主張。自由拡大を求める改革派の市民は「人権に反する」と非難している。

イランでは外国人も例外なく、女性は公共の場でのスカーフ着用が必須。
法案によると、違反者はショートメッセージサービス(SMS)で警告を受ける。2回目で罰金が科され、3回目からは訴追手続きが取られるとしている。罰金額など詳細は不明。【7月2日 共同】
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法整備に加え、市中での取締りも強化されています。

****イランでスカーフ着用支持の集会 イスラム保守強硬派が主催****
イランの首都テヘランで12日、女性が髪を隠すスカーフの着用を支持する集会が開かれた。昨年9月にスカーフ着用に反対するデモが全土で発生して以降、スカーフをかぶらない女性が若い世代で目立つことに対抗する狙い。

イスラム教の教えに厳格な保守強硬派が主催し、参加者は「スカーフをかぶるべきだ」と訴えた。テヘラン中心部の広場は、全身を黒い布で覆うチャドル姿の女性で埋め尽くされた。(後略)【7月13日 共同】
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****イラン、スカーフ未着用に警告 警察が部隊配備****
イラン警察の報道官は16日、社会秩序を乱す行為に対応するため、警察車両と部隊を国中に配備すると述べた。国営テレビが伝えた。昨年9月に女性が髪を隠すスカーフの着用に反対するデモが全土で発生して以降、スカーフをかぶらない女性が増えたことに対して警告した形。

イランでは国籍を問わず、公共の場で女性は髪をスカーフで隠すことが法的に義務付けられている。当局は監視カメラで着用強化に乗り出しているが、効果が出ていないため、今回の措置に実効性があるかどうかは不透明だ。

報道官は、警察の命令に従わない場合は法的手続きが開始され、裁判所に召喚されると強調した。法的手続きの具体的な内容は不明。【7月16日 共同】
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更に、罰金増額などの規制強化の法案も。

****ヒジャブ不着用の女性に長期刑、AIで監視徹底 イラン政府が厳罰化の法案提出へ****
イラン政府が女性の頭部を覆うヒジャブの着用を厳格に取り締まる新法の制定を検討している。道徳警察に拘束された女性の死を発端とする大規模な抗議デモから間もなく1年。専門家は、前例のない過酷な懲罰が法制化されることになると指摘している。

イラン 70条からなる法案には、ヒジャブ着用を拒んだ女性に対する刑期の大幅な長期化、規則に逆らった有名人や企業に対する厳罰、服装規定違反の女性を見つけることを目的とした人工知能(AI)の利用などが盛り込まれている。 

法案は今年に入って司法当局が政府に提出し、その後議会の法務司法委員会が承認した。政府系のメヘル通信の1日の報道によると、6日に理事会に提出された後、国会本会議で文言の調整を行って、2カ月以内に採決が行われる見通し。(中略)

法案ではヒジャブ不着用の罪を厳罰化し、禁錮5~10年、罰金3億6000万イランリアル(約120万円)以下とした。イラン人人権弁護士によると、これは平均的なイラン国民にとって到底支払える額ではないという。 

別の条項では、新法の執行のために「固定・移動カメラなどのツールを使って違法行為の犯人を特定するAIシステムの開発と増強」を警察に求めている。国営メディアは先に、ヒジャブ法に違反した女性を見つけ出すため、公共の場にそうしたカメラが設置されると伝えていた。 

ヒジャブ着用を徹底させない企業経営者に対する罰金も増額され、事業利益3カ月分に相当する罰金を科される可能性がある。【8月3日 CNN】
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SNSなどでの影響力が大きな著名人がヒジャブなどの着用を怠れば、「全財産の10%分」の罰金を科すといった内容も含まれているとか。

罰金の金額については、罰金の最高額は現行(約1ドル)の160倍となる8千万リアル(同約160ドル)と大幅に引き上げたとする報道もあって定かではありませんが、いずれにしても平均月収が200ドルに満たないとも言われるイランの所得水準を考えると法外な金額です。

法案成立までの過程で、内容修正の可能性もあります。

【支持基盤の保守強硬派をなだめる“ガス抜き”? 実際に厳しい摘発を行えば不満が再度爆発する危険も】
保守強硬派のライシ政権が規制強化に躍起になるのは不思議ではありませんが、これだけ対策が重ねられるということは、逆に言えば、政権の対応にもかかわらず、スカーフ(ヒジャブ)を着用しない女性が相変わらず多いということでしょう。

政府・当局の強硬姿勢にもかかわらず、なぜスカーフを使用しない女性が多いのか・・・当局取締りで多くの女性が拘束されたといった話も聞きません・・・そっちが不思議でした。
そのあたりは、微妙な政治事情があるようです。

支持層の保守派に対しては政権は「やっている」姿勢を見せる必要がある。
ただし、実際に厳しい取締りを行うと昨年9月の混乱を再現しかねないため、現場では手加減も・・・。

****イラン警察が取り締まり強化発表、ヘジャブしない女性は減らず…大量摘発の情報もなし****
イラン警察当局が7月16日、髪を隠すスカーフ「ヘジャブ」をかぶらない女性の取り締まり強化を発表した。ところが、ヘジャブ不着用の女性は減らず、大量摘発の情報もない。

エブラヒム・ライシ政権は、ヘジャブ着用の徹底を求める保守強硬派に配慮する一方、昨年広がったヘジャブ抗議デモの再燃も避けたいジレンマに陥っている。(中略)

保守強硬派のライシ政権の「支持者」でもある(7月13日 保守派のヘジャブ推進集会)参加者が批判の矛先を向けるのは、政府がヘジャブ着用徹底のため5月末に国会に提出した新法案だ。違反者に寛容すぎるとして、超強硬派の不評を買った。

イランでヘジャブ不着用を罰する根拠は1983年制定のイスラム処罰法(当時は74回のむち打ち刑)にある。現行法の罰則は10日〜2月の禁錮もしくは罰金だが、新法案は高額な罰金を科す一方で禁錮刑をなくした。

政府に抗議するため集会に参加したテヘランの主婦アクラム・アハマディさん(40)は「ヘジャブをかぶらない人に当局は行動を起こしていない。今の法律を執行すべきだ」と訴えた。

集会の主催団体によると、参加者は例年、動員をかけても1万人に満たないが、昨年の抗議デモに危機感を抱いたヘジャブ推進者が全国から集まり、今年は2万人を超えたという。主催団体に参画するヘジャブ推進組織「革命女子」のマンスーレ・サラリ副会長は「新法はいらない」と言い切る。

警察による取り締まり強化の発表は、集会の3日後だったが、現時点では保守強硬派のガス抜きの様相が強い。市中では警官の姿は目立たず、地元メディアが数件の摘発を報じるのみだ。

一方、慢性的な高インフレなどで国民に広がる反政府感情を後ろ盾に、体制批判を象徴するヘジャブ不着用の女性の姿は当たり前の光景となっている。ヘジャブ姿の女性も「職場の制服だから。本当は反対派よ」(40歳代会社員)と話す。昨年の抗議デモで摘発された芸術建築家のサハール・タラギカハさん(31)は、「きょうは検察官事務所に出頭したからヘジャブだけど、明日からは脱ぐわ」と臆する様子がない。

不特定多数の女性による静かな抵抗を前に、警察も強硬手段に訴えられないのが実情のようだ。摘発は企業や店舗、影響力のある著名人が主な標的とみられる。

ヘジャブ反対派に甘い対応を続ければ、保守強硬派の突き上げで政権の支持基盤が危うくなる。他方、過度な摘発を行って反対派の不満が爆発すれば、再び体制転覆を求める大規模な抗議デモに発展しかねない。政権は板挟みの状態だ。

改革派のハタミ政権(1997〜2005年)で副大統領や大統領府長官を務めたモハンマド・アブタヒ師は取材に「政権は(取り締まり強化の発表で)支持者を満足させたいのだろう。新たな抗議デモを力で抑え込むのは簡単だが、民衆との対立に勝利するのは難しい」と指摘した。(後略)【8月8日 読売】
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「強権支配」と評されるイランにあっても、現実政治は支持者と不満層の間で微妙なバランスをとる必要があるようです。

【「イランはロシア支援」とされているなかで、ロシアとの不協和音も】
現実はそうそう単純ではない・・・というのは外交面でも同じ。
イランはウクライナ問題ではロシアにドローンを供与するなど「ロシア支持派」ともみなされていますが、ことはそう簡単ではないようです。

イランとしても、ウクライナ支持・反ロシアの欧米に完全に敵対する形でロシアを支持し、今でも厳しい制裁を更に重くするというのは得策ではないでしょう。

****イラン「最高指導部」で内紛、ロシアへ無人機供与で 英MI6****
英対外情報部(MI6)のムーア長官は27日までに、ウクライナの戦争に使われる自爆型ドローン(無人機)をロシアへ提供した決定事項に関連し、イランの「最高指導部」内で「内紛」が起きたことを明らかにした。
チェコの首都プラハで最近開かれた行事で述べた。

この内輪もめは、イランの自爆型ドローンがウクライナの都市空爆に導入され、無差別の破壊をもたらしたことが原因になったという。

長官は「イランは現金を手にすることを選んだ。おそらくは、ロシアを支援する見返りとして何らかの軍事技術を受け取ることを選んだ」」と指摘。イランはロシアの「共犯者」となり、兵器供与を決めたのは「道に外れた」行動であると批判した。

イランはこれまで、ウクライナの戦争に導入されるドローンをロシアへ引き渡したとする非難を否定。ただ、戦争が始まる前にロシアへドローンを送ったことは認めていた。

米国家安全保障会議のカービー戦略広報担当調整官は先月、ロシアはイランの助力を受けて攻撃型ドローンの製造工場を自国内に建設しており、全面的な稼働が来年初期までに実現する可能性があるとの見方を示していた。【7月27日 CNN】
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(諜報機関長官の話なので)肝心の「内紛」の内容がまったく書かれていない、よくわからない記事ですが、ロシアへのドローン供与についてはイラン政権内でもそれほど自明のことではないようです。

ロシアとの関係では、イランが領有権を主張するペルシャ湾の島について、対立の相手側のUAE主張をロシアが認めるような対応を見せたことで、「全てにおいてロシアがイランに賛成してくれると期待してはいけない」(イラン国営通信)と、ロシアへの不満を募らせています。

****イラン国会議長がロシアの姿勢を批判、「我が国の領土保全については妥協不可能」****
イラン国会のガーリーバーフ議長は、GCCペルシャ湾岸協力会議(アラブ首長国連邦(UAE)など6カ国で構成)が先日発表した反イラン的声明にロシアも同調したことを批判し、「我が国の領土保全をめぐる問題は、いかなる方面とも妥協できないものだ」と強調しました。

イルナー通信によりますと、ガーリーバーフ議長は16日日曜、GCC加盟国とロシア外相による第6回戦略協議の最終声明にペルシャ湾にあるイラン領3島の問題が盛り込まれたことを批判し、「当国会は、イラン領3島に関するペルシャ湾岸諸国とロシアの声明にある内容を強く否定する」と述べました。

また、イランの領土保全が和解できるようなものでないとしながら、「ロシアは、自身が西側とNATO北大西洋条約機構の地政学的拡張主義の犠牲者として現在戦っている最中であり、ペルシャ湾の不安定化を目論む西側の地政学的計画に加担すべきではない」としました。

続けて、「ロシアを含むイランの近隣諸国に対しては、地域の安定維持と経済発展が、我が国の領土保全への尊重を含めた善隣関係の原則遵守に基づいてのみ実現可能であると告げておく」と強調しました。(中略)

その上で、「イランとロシアは今日、地域の2つの大国として、共通の利益に基づき様々な分野で協力計画を進めている。しかし、ロシアはこの協力が、大小トンブおよびブームーサーの3島に対する我が国の主権をはじめとした、越えてはならないレッドラインへの尊重に沿って成り立っていることを知るべきだ」と指摘しました。(後略)【7月16日 ParsToday】
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イランのロシアへの不満の背景には、ロシアの主力戦闘機のイランへの供与が未だに実現していないことなどもあるとの指摘も。

もちろん、イランは国内の原発建設でロシアの協力を受け、シリア内戦でも共にアサド政権を支えるなど、連携は多分野にわたっていますので、上記の揉め事を持って直ちにロシアとの関係が壊れる訳でもありませんが、アメリカという共通の敵に対して一時的に手を組んでいるに過ぎないという側面もあります。

イランは長年の宿敵サウジとも関係正常化しています。

****イランでサウジ大使館再開 地元報道、関係改善進む****
国営イラン通信は9日、イラン外務省関係者の話として、首都テヘランにあるサウジアラビア大使館が6日に再開したと伝えた。中東の覇権を争ったサウジとイランは3月に中国の仲介で外交関係の正常化で合意していた。

6月にはサウジの首都リヤドでイラン大使館が再開しており、両国の関係改善が進んでいる。【8月9日 共同】
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ただ、ロシアとの関係以上に、サウジとの和解は微妙。「和解」したというより、いまは対立を緩和させた方が得策と判断しただけ(イランとしては国際的孤立を避け、サウジのイスラエル接近を邪魔することができる・・・)でしょう。

【敵対するアメリカとの“取引”】
一方で、条件によっては敵対するアメリカと合意することも。

****イラン、拘束中の米国人5人解放の可能性 凍結資産解除など条件****
イランが同国の刑務所で拘束している米国人5人を解放する可能性があると、関係筋が10日明らかにした。韓国で凍結されている60億ドルのイラン資産の解除と米国に収監されているイラン市民釈放が条件という。

拘束されている米国人の弁護士によると、イランは拘束中の米国人4人をテヘランの刑務所から解放し、自宅軟禁下に置くことを許可した。5人目はすでに自宅軟禁下にあるという。

米国家安全保障会議(NSC)のワトソン報道官は、5人が刑務所から移送され、自宅軟禁下に置かれたことを確認した上で、最終的な解放に向けた交渉は継続中で「デリケート」な状況と述べた。

ブリンケン米国務長官は、米国人5人がイランの刑務所から解放されたことは「前向きな一歩」であり、帰国につながるプロセスの始まりだと指摘。国務省が10日に米国人5人と連絡を取ったとした一方、イランに勾留されている他の米国人については分からないとした。

イラン国連代表部は同国の国営メディアに対し、第3国の仲介を通じた米国とイランによる囚人交換の取引の一環と語った。

関係筋はロイターに対し、イランの資産凍結解除後に米国人5人の出国が許される見通しと明らかにした。別の関係筋によると、出国の時期は9月ごろになる可能性があるという。【8月11日 ロイター】
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60億ドル・・・・約8600億円、制裁下のイランにとっては大きな金額です。医薬品や食料など人道物資の購入の支払いに充てることを条件としているとのこと。

核合意再建交渉が進展しないなかバイデン政権は、イランが60%以上にウランの濃縮度を高めない見返りにイランの凍結資産(イラクのイランに対する27.6億ドルの天然ガス輸入代金と電気代金の支払い)を解除する内容の文書化されない「合意」をイランとしたという話もありました。

WSJは、バイデン大統領は議会の批准を回避するために文書化せず、自己の再選がかかっている来年の大統領選挙まで時間稼ぎをしていると批判しています。

イランに大きな見返りを与えるこの種の取引はイラン嫌いのアメリカ国内で議論を呼びそうです。拘束アメリカ人を解放させることで世論にアピールできるとバイデン政権は判断したのでしょうが・・・どうでしょうか。
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