孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

タイ  タクシン派と反タクシン派 解消されない根深い対立

2009-07-10 21:18:24 | 世相

(今年4月5日 タクシン元首相と握手するUDDメンバー もちろん元首相は海外亡命中なので“看板”ですが・・・ “flickr”より By adaptorplug
http://www.flickr.com/photos/11401580@N03/3413719303/)

【2億8000万ドル(約260億円)の投資】
海外逃亡中のタイ・タクシン元首相は6日、太平洋の島国フィジーを訪問し、バイニマラマ暫定首相と会談したそうです。豪州からの報道によると、元首相は「身柄の保護」を条件に2億8000万ドル(約260億円)の投資を提案したとのこと。【7月10日 毎日】

所在が明らかにされていなかったタクシン元首相がフィジーにいたというのも初耳ですが、“2億8000万ドル(約260億円)の投資”というのも、まだそんなに動かせる資金を保有しているのかと驚きでした。
06年のクーデター後、07年6月11日には、タクシン元首相らの不正蓄財や汚職を調査している資産調査委員会が、前首相や親族名義の全21銀行口座の凍結を決定しました。
総額は未公表ですが、タクシン氏らの自己申告に基づき中央銀行が委員会に提出した報告では、約529億バーツ(約2000億円)と言われています。【07年6月12日 読売】
さすがに大富豪、あちこちにいろんな資産を保有しているのでしょう。

【対立の構図】
今年4月、バンコク中心部を大混乱させ、東南アジア諸国連合(ASEAN)関連会議を中止に追い込んだタクシン元首相派「反独裁民主戦線」(UDD)による反政府行動では、タクシン元首相はビデオ電話を通して、「戦いの時がきた」と支持者をあおり続け、抗議行動は日ごとに過激化していきました。
また、自らを失脚させたクーデターの黒幕はプミポン国王を補佐する大御所であるプレム元首相だと「暴露」しました。この発言は、“タクシン元首相は、和解はもはやあり得ないと覚悟を決めたのではないか・・・”とも受け止められました。
しかし、過激化する抗議行動で死者も出るに至り、軍の圧力や世論の批判を受け、タクシン元首相派は街頭闘争を中止する事態に追い込まれました。

この4月の騒動で、アピシット首相辞任も、自身の帰国も果たせなかったタクシン元首相の敗北は明白です。
個人的にも、“これでタクシン元首相の復権はもうないかな・・・”とも思いました。
しかし、タクシン、反タクシン双方の対立の構図は温存されたままで、今なおタクシン派の根強い抵抗が続いているようです。

タクシン支持層の中心は、タクシン政権時代の貧困層優遇政策で恩恵を受けた北部や東北部の貧しい農民や、バンコクなど都市部の労働者です。
これに対し民主党・アピシット現政権を支える反タクシン層は、都市部の富裕層や新興中間層が中心で、王室を頂点とした既存の社会構造の維持を強く求めています。地域的には支持基盤は、首都バンコクと南部になります。

タクシン元首相は、首相時代は金権体質や独断専行、身内びいきが目立ち、決して“民主的”とは言いがたい人物でした。
それでも選挙で民意を集めて政権の座を手にしたという点では、クーデター後の政治混乱のなかで、司法介入によりタクシン派与党を強制解党させて誕生したアピシット現政権に比べれば、民主的とも言えます。
現政権は未だに選挙でタクシン派に勝利する自信がなく、選挙もできずにいます。

これに関し、反タクシン派は、選挙の度にタクシン派が勝利するのは票の買収や民度の低さのためだとしています。
“農村部の票は金で買われたものであり、金で動くような愚か者に国会議員を選ぶ資格はない”との発想で、反タクシン派「民主市民連合」(PAD)支持者は、国王による指名議員を含む「新政治」への移行を求めています。

しかし、タクシン派の選挙での勝利は、地方の民衆の要求や不満に注目したことによるものです。
かつてタクシン政権は小規模な商売を始めたがっている村人に対し、少額の融資を提供。やせた土地から得られるわずかな収入でやりくりする農民たちの債務を免除し、より多くの人々が通える初等・中等教育機関を設立しました。
また、「30バーツ医療制度」も導入。国民が一度に30バーツ(約80円)を払えば診察を受けられ入院もできる制度で、おかげで多くの貧しい農民が医療の恩恵に浴せるようになりました。【7月1日 Newsweek】

それぞれの施策については問題もあるでしょうし、バラマキとの批判もありますが、地方農民や都市貧困層を視野に入れた施策であったことは事実です。そのことが、海外亡命生活をするようになった今なお、元首相を強く支持する勢力が存在する理由でもあります。

アピシット現首相は、イギリスで教育を受けた44歳のエリートで、テレビ映りがよく、頭脳明晰で洗練された人物ですが、タクシン元首相にある親しみやすさを持ち合わせていません。
“多くのタイ人の目に、アピシットは過去数十年にわたってこの国を動かしてきた特権階級の代表と映る。政治と経済を支配してきた都会の新興財閥の復権をめざす動きの象徴でもある。” 【7月1日 Newsweek】

【根強いタクシン支持派】
****タイ:タクシン元首相派候補が圧勝 下院補選で*****
タイ東北部サコンナコン県で21日、国会下院(480議席)の補欠選挙(改選数1)が行われ、非公式集計によるとタクシン元首相派の野党「タイ貢献党」候補が、反タクシン派の与党候補を大差で破った。
貧困農民層が多い東北部は、北部と並びタクシン氏の強固な地盤。海外逃亡中のタクシン氏は投票前、支持者に相次いで電話をかけ、「選挙での勝利が私の帰国に結びつく」と訴えたとされる。地元紙によると与党側は選挙後の会見で、タクシン氏の電話攻勢が貢献党の圧勝につながったと認めた。
タクシン氏の帰国、復権は困難とみられているが、補選の圧勝は東北部で依然、同氏が根強い人気を保っていることを証明した形だ。【6月22日 毎日】
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タクシン元首相は依然帰国・復権の望みを捨てていないようで、また、その支持勢力も未だ強固なものがあるようです。

6月27日には、首都バンコクの王宮前広場で、タクシン元首相支持の反政府勢力「反独裁民主戦線」(UDD)メンバーら約4万人が、アピシット連立政権の退陣と総選挙を求める大規模集会を開き、その勢力を誇示しています。
現在、タイで注目されているのは、08年11月の反タクシン元首相派市民団体「民主市民連合」(PAD)によるバンコク国際空港占拠事件に関与したカシット外相の処遇です。

****タイ:警察がカシット外相を事情聴取 政界混乱収まらず*****
タイのプーケットで、26カ国の外相が参加する「ASEAN地域フォーラム」(ARF)など一連の東南アジア諸国連合(ASEAN)関連会議が16日から開かれるのを前に、同国の政界では混乱が続いている。

タイ警察当局は4日、08年11月の反タクシン元首相派市民団体「民主市民連合」(PAD)によるバンコク国際空港占拠事件に関与したとして、カシット外相ら計36人にテロ容疑などで出頭を命じた。カシット氏は6日、これに応じ警察署で事情聴取を受けたが、外相辞任を求める声が強まっている。
カシット氏はASEAN外相会議の議長で、この時期に辞任すれば、4月のASEAN関連首脳会議に続く混乱は避けられず、アピシット首相は対応に苦慮している。
同国の警察内には依然、タクシン元首相の影響力が残っているとされ、今回の外相らへの出頭要請はタクシン派が主導しているとの見方も出ている。
カシット氏はPADが占拠したスワンナプーム国際空港で演説し、元首相を非難。警察の事情聴取で「憲法で認められた権利を行使してタクシン体制に反対しただけで、私はテロリストではない」などと無罪を主張し、帰宅を許された。しかし、その後の世論調査では、回答者の6割が外相辞任を要求。地元紙でも辞任を求める論調が目立ち、風当たりが強まっている。【7月10日 毎日】
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かつて、軍の発砲で多数の死者が出た92年のスチンダ軍事政権と民主化勢力の衝突では、国民の尊敬を集めるプミポン国王が裁定に乗り出し、スチンダ首相が辞任して収束しました。
しかし、昨年来の騒動では、81歳と高齢の国王は動く気配を見せていません。
調停者を欠いたタイの政治対立は、富裕層対貧困層、支配層対被支配層という社会分裂への危機もはらんで進行しています。


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