孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

フランス  新首相決定も、少数与党 左派「選挙が盗まれた」 極右「新首相は自勢力の監視下にある」

2024-09-08 21:51:10 | 欧州情勢

(【7月9日 共同】)

【6,7月総選挙ではマクロン大統領は極右政権誕生は阻止したものの、政局は左派・中道与党・極右の三すくみ状態】
与党が不人気のなかで国民の反極右に期待してマクロン大統領は総選挙に打って出て「マクロンの賭け」とも言われました。

総選挙結果は周知のように、6月30日の第1回投票でマリーヌ・ルペン氏が実質的に率いる極右政党「国民連合(RN)」が勢いを見せました。ルペン氏は、マクロン大統領が3選禁止で出馬できない次回大統領選挙の有力候補です。

この事態にマクロン大統領は、7月7日の上位候補者による決選投票では、中道・マクロン大統領派と左派連合の選挙協力・候補者調整を進めた結果、極右政党「国民連合(RN)」は失速して第3位に終わっています。

****意外にも極右は143議席****
フランス議会総選挙は2回投票制になっていて、上位2候補による決選投票ではなく、12.5%の得票があれば2回目に残ることができる。

そこで当初は、6月30日の第1回投票で優位に立った極右が、7月7日の第2回投票では過半数289議席に対して250議席(左派が190議席、大統領派が75議席、共和党が40議席)を獲得すると予想された。ことによっては、極右が過半数を獲得することもあり得るとされた。

これに慌てた大統領派と左派が共闘を決め、候補者調整を大胆に進めたので、投票日直前には、極右は第一党にはなるが190議席程度に留まると予想された。

ところが投票が終わると、意外にも極右は143議席しかとれず、左派が180議席で首位、大統領派が158議席で2位、右派は67議席となったのだ。【7月17日 八幡和郎氏 デイリー新潮】
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こうしてマクロン大統領は極右政党の過半数獲得という事態は回避したものの、極右に代わって今度はメランション氏率いる急進左派「不屈のフランス」(第1勢力となった左派連合の中核)という大敵を前にする形となりました。

フランス政局は左派・中道与党・極右の三すくみ状態となり、首相指名・組閣もままならず、首相指名は近づいたパリオリンピック後に先延ばしされました。それまでの間は、辞任した最年少アタル首相が暫定内閣であたることに。

****フランス下院、続く主導権争い 連立なお見通せず 18日開会、内政停滞の危機****
フランスで国民議会(下院)総選挙を受けた各党の連立協議がなお難航している。

どの勢力も過半数を獲得できず、マクロン大統領は自身の与党連合に有利な形での連立を模索しているが、第1勢力となった左派連合はマクロン氏陣営が主導権を握ろうとする動きに対して反発。新議会は18日に開会するが、内政停滞の危機が高まっている。

「勝者はいない。強固な安定多数を築こう!」 マクロン氏は10日に公表した書簡で、安定した大連立政権の樹立を各党に求めた。

下院選では今月7日の決選投票の結果、左派連合「新人民戦線」が最大勢力となり、与党連合は第2勢力、第1回投票で首位だった極右政党「国民連合(RN)」は第3勢力となった。ただ、いずれの勢力も過半数の289議席に届かず、マクロン氏は法案可決に必要な多数派の形成を目指している。

欧州メディアによるとマクロン氏が模索するのは、新人民戦線の切り崩しだ。構成政党のうち、社会党など比較的穏健な左派政党と協力し、与党連合と特に政策面で相いれない中核政党の急進左派「不屈のフランス」の排除を目指す。同時に中道右派の共和党も取り込みたい考えとされる。

ただ、不屈のフランスを率いるメランション氏は「敗北を受け入れろ」と主張し、マクロン氏主導の政権樹立を警戒。社会党も「マクロン氏の政策を受け継ぐ政権は組まない」との姿勢を崩していない。不屈のフランス抜きで左派と連携するのは難しそうだ。

多数派形成の見通しがたたないため、内政を担う新首相の指名も困難な状況。フランスでは、大統領が議会多数派の意向を踏まえて首相を指名する仕組みで、マクロン氏は連立の枠組みが定まるのを待って指名する考えとみられる。

一方、各党の政策が微妙に異なる新人民戦線側も、マクロン氏に提案する首相候補を明確に一本化できていない。

マクロン氏は16日、与党連合の敗北後、慰留していたアタル首相の辞任を受理した。アタル内閣は暫定内閣として当面、職務を続けるが、権限は限られ、下院での法案提出などに支障が生じる可能性がある。【7月17日 産経】
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【2か月の政治空白を経て、中道右派・共和党との連携で最年長新首相がようやく決定】
上記のような経過を受けて首相が決まらない状況が続いていたフランスですが、オリンピックも終了した9月、マクロン大統領は左派穏健派取り込みには失敗したものの、社会党と並んでかつての政権政党でもあった中道右派・共和党との連立でようやく新首相が決まりました。

最年少アタル氏から一転、バルニエ元外相という最年長首相の誕生です。
しかし、新内閣は中道・大統領与党と中道右派・共和党による少数与党となる見込みで、左右からの不信任案なども予想され、政権基盤は脆弱です。

****新首相にバルニエ元外相=政治空白、2カ月で幕―仏****
フランスのマクロン大統領は5日、7月の総選挙後に人選が難航していた新首相に、外相や欧州連合(EU)の要職を歴任した中道右派・共和党のミシェル・バルニエ氏(73)を任命し、組閣を指示した。

左派、中道、極右の3陣営が対立する現在の下院で、最多の支持を得られると判断した。アタル内閣の総辞職から続く政治空白は約2カ月で幕を閉じる。

総選挙で下院の過半数を制した陣営はなく、マクロン氏は当初、大連立内閣の樹立へ幅広い勢力の結集を呼び掛けた。しかし、左派が独自の首相候補を擁立するなど不調に終わり、マクロン氏の中道連合と共和党がバルニエ氏を支える選択肢が浮上した。

マクロン氏は左派のカズヌーブ元首相(61)や右派のベルトラン元保健相(59)の起用も一時検討。いずれも少数内閣は必至だが、バルニエ氏なら就任直後に下院で不信任案が可決されるリスクが比較的小さいとみられており、任命の決め手となった可能性がある。

一方、総選挙で最多議席を獲得した左派連合の主要政党「不屈のフランス」を束ねるメランション氏は「国民が許すとは思えない」とバルニエ氏の任命に反発。7日に行う抗議デモへの参加を支持者らに呼び掛けた。【9月5日 時事】 
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【新首相は強硬な移民対応 極右への忖度は否定】
中道右派とされるバルニエ新首相は、移民政策などでは強硬な立場を示しています。

****バルニエ仏新首相、移民政策に強硬姿勢 大統領の主要政策は堅持****
フランスのバルニエ新首相は6日、マクロン仏大統領の主要政策の一部を擁護する意向を示唆した。政府の移民問題に対する措置は強化するとし、強硬姿勢を示した。

首相指名後初のインタビューに応じたバルニエ氏は、同氏の政権にはマクロン氏率いる中道与党連合の議員らだけでなく保守派も含まれるだろうと発言。「希望する全ての人に門戸を開く必要がある」と述べた。

バルニエ氏は複数の問題を巡って右傾化の兆候を示しており、移民の流入については抑制に向けてより厳格な政策を求めると主張。「わが国の国境はざるのようで、移民の流れは制御されていないという感覚が依然としてある」と述べた。

一方、左派連合は7月の総選挙で最大勢力となったにもかかわらず、マクロン氏が同連合から首相を選出しなかったことに不満を示し、週末にデモを行うよう呼びかけている。【9月7日 ロイター】
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新首相の移民対応は、極右支持層にも受け入れやすいないようですが、今後の政局のカギを握る極右を忖度したものではないとしています。

****新内閣、移民抑制へ=フランス首相、極右忖度は否定****
フランスのバルニエ新首相は6日、民放テレビTF1による就任後初のインタビューで、7月の総選挙で極右・国民連合(RN)に投票した有権者の判断を尊重すると述べた。その上で、今後発足する内閣は、RNも唱える移民抑制策に優先的に取り組むと表明した。

新内閣はバルニエ氏が所属する中道右派・共和党と、マクロン大統領の中道連合による少数与党となる見込み。下院で不信任を回避できるかは極右の動向にかかっている。

バルニエ氏は以前から移民対策に積極的。インタビューでは「自分にはRNの主張との共通点は何もない」と訴え、極右に対する忖度(そんたく)はないと否定した。【9月7日 時事】 
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【新政権に対し、左派は「盗まれた総選挙」として激しく抗議】
新政権に激しく反発しているのが第1勢力となった左派。
極右阻止の選挙協力によるいささか棚ぼた式の勝利とは言え、1位は1位です。
第1勢力となりながら政権から排除された左派は新首相に反対し、大規模な抗議行動を行っています。

世論調査でも、現段階での新政権への評価は厳しいようです。

****フランス全土でデモ、マクロン氏の首相選出に抗議****
フランスのマクロン大統領が中道右派のベテラン政治家ミシェル・バルニエ氏を首相に指名したことを受けて、フランス全土で7日、抗議デモが行われた。

これに先立ち、左派連合は7月の総選挙で最大勢力となったにもかかわらず、マクロン氏が同連合から首相を選出しなかったとして、デモを呼びかけていた。

総選挙では左派連合、マクロン氏が率いる中道連合、極右「国民連合(RN)」のいずれも過半数議席を獲得できず、マクロン氏が5日、英国の欧州連合(EU)離脱時にEU側の首席交渉官を務めたバルニエ氏を首相に指名した。

左派連合に参加する極左「不屈のフランス」のジャン・リュック・メランション党首は、民主主義では敗北を受け入れる謙虚さが必要だと主張。デモ参加者に「長い戦いに着手する」よう呼びかけた。

主催者側の発表によると、フランス全土で約30万人、うちパリで16万人が平和的なデモを実施した。警察の発表ではパリのデモ参加者は2万6000人となっている。

バルニエ氏は6日、新政権に保守派、中道連合のほか、左派の一部が参加することを望むと述べた。10月初めに議会で政策目標を説明する予定で、不信任案の採決に直面する可能性がある。

同氏が率いる共和党は総選挙で第5勢力にとどまった。左派はバルニエ氏が大幅な歳出削減を進め、移民に強硬な姿勢を示すと警戒している。

抗議デモは国内130カ所で行われた。デモ参加者はマクロン氏が有権者を裏切ったとして、弾劾を求めている。

世論調査機関エラベが6日公表した調査結果によると、有権者の74%はマクロン氏が選挙結果を無視したと回答。選挙が「盗まれた」との回答は55%だった。【9月8日 ロイター】
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【極右は倒閣には同調しないという余裕・様子見の姿勢 「新首相バルニエ氏は極右RNの監視下にある」】
一方、左派主導の内閣不信任成立に決定的影響力を持つ極右「国民連合(RN)」は、倒閣には同調しないと余裕というか様子見の対応です。

****フランスの極右、倒閣に同調せず=左派は抗議デモ****
フランスの極右政党・国民連合(RN)のバルデラ党首は7日、「民主主義の混乱にくみしたくない」と述べ、バルニエ新内閣の発足後直ちに倒閣を目指す構えの左派に同調しない考えを示した。

新内閣は中道と中道右派による少数与党となる見込みで、不信任を回避できるかは極右に懸かっている。

民放テレビTF1のインタビューで語った。バルデラ氏は、RNが唱える治安強化や移民抑制などの政策が「尊重されることを望む」とした上で、5日に首相に任命されたバルニエ氏に「マクロン大統領の政治を続ければ、新内閣は頓挫する」と警告した。

7月の総選挙では左派4党連合が下院の最大勢力となったが、政党単位ではRNが初の第1党に躍り出た。バルデラ氏は7日、記者団に「バルニエ氏はRNの監視下にある。(マクロン政権は)われわれなしでは何もできない」と訴えた。
バルニエ氏はこれに対し「私は全国民の監視下にある」と指摘。極右が新内閣に及ぼす影響力は限定的だと反論した。

一方、左派を率いる急進政党「不屈のフランス」は7日、政権批判の抗議行動を各地で展開し、支持者や学生運動の活動家らが参加。内務省によればデモ隊は約11万人(主催者発表30万人)に上った。【9月8日 時事】
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全国的抗議行動を展開する左派、「バルニエ氏はRNの監視下にある。(マクロン政権は)われわれなしでは何もできない」と豪語する極右・・・どうみても今後の政権運営は左右両方からの圧力で難しそうです。

マクロン大統領も極右・ルペン氏も、最終目標である2027年次期大統領選挙を見据えながらの政治闘争になります。
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