孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ロヒンギャ  隔離された難民キャンプ 「ナフ川大虐殺」はAA? バングラから国軍への強制徴用

2024-09-11 22:43:12 | ミャンマー

(【9月11日 増保千尋氏(ジャーナリスト) Newsweek】 後出の記事本文を読まないと理解できない複雑な関係ですが、ARSAにしてもRSOにしても、そのご立派な名称に関わらず、ロヒンギャ住民を代表する組織ではなく単なる犯罪者集団に過ぎないと考えれば、多少は理解しやすくなります。)

【ミャンマー国内のロヒンギャ難民キャンプ 周囲から隔離され、仕事も許されず、国際支援も届かない】
ミャンマー西部ラカイン州に暮らすイスラム系少数民族ロヒンギャの窮状については、このブログでも再三取り上げてきましたが、一口にロヒンギャと言っても、現在の居住地によって生活環境・状況は異なります。

まず、ミャンマー国内の難民キャンプで、国際支援も届かず“隔離状態”に置かれているロヒンギャ。

****【大規模迫害から7年】長期の隔離で「表情がない…」 ロヒンギャを撮り続ける新畑克也氏 クーデター後のミャンマー 世界に黙殺される悲劇****
ミャンマーの少数派イスラム教徒のロヒンギャ。2017年8月25日に大規模な迫害を受けてから7年が経つ。主な居住エリアのミャンマー西部ラカイン州に隣接するバングラデシュ南東部コックスバザール県には100万人規模の難民キャンプが形成されている。(中略)

「いるはずのムスリムがいない」賑わう市場で感じた違和感
ミャンマー西部ラカイン州の州都シットウェ(Sittwe)。人々の日常が垣間見える中央市場の賑わいに心が弾む。

しかしこの町に来る度にいつも大きな気がかりが付きまとう。「仏教国」の印象が強いミャンマーだが、多民族、多宗教国家でもあり最大都市ヤンゴンやマンダレー、モウラミャインやパテインなど大抵の町でイスラム教徒を見かける。

だがムスリムが大多数のバングラデシュに近い地域にも関わらず、この町に本来居るはずのムスリムの姿を見かけない。(中略)

シットウェ市街に「アウンミンガラー地区」と呼ばれる区画がある。ここには2012年から約4,000人のロヒンギャ住民がバリケードで隔離され、移動や外部との接触が禁じられている。(中略)

シットウェ市街から北西に7〜8キロ離れた場所に在る国内避難民キャンプ。2012年のラカイン族住民との衝突から「避難させる」という建前で13万人のロヒンギャ住民が劣悪な環境に隔離・収容されている。中でもこのタントゥレキャンプではWFP等の国際支援も届かず、人々は別のキャンプに物乞いに行かなければ生きていけない状況にあった。ロヒンギャは世界で最もタフな人たちだと思っているが、ここに居る人々はみな憔悴しきっていた。

「仕事をすることも許されていない」
今にも崩れそうなシェルターの前に座り込みうつむく男性。「ここでは仕事をすることも許されていない。1日中ここでこうしていることしかできないんだ」。

幼子を抱える若い母親も疲れ果て表情を失っていた。私が初めてロヒンギャに出逢ったミャウー郊外の村で暮らす人々は移動の制限や差別を受けていても、人々には喜怒哀楽があった。

ロヒンギャが隔離されている国内避難民キャンプ。狭く薄暗い小屋の中で若い女性たちが子供たちにコーランを読み聞かせていた。彼らにとって子どもたちの存在は唯一の希望なのかもしれない。

2012年からロヒンギャ住民が閉じ込められている国内避難民キャンプ。シェルターにはラカイン州政府が管理するためか数字が書かれていた。国内避難民キャンプとは名ばかりの強制収容所だ。

キャンプ内ではお腹を大きく腫らした子どもを多く見かけた。後日写真を医師の知り合いに見てもらうと「寄生虫が原因」とのこと。虫下しを飲めば治るが生活用水の質の悪さや教育がないために、すぐ寄生虫に感染してしまうだろうと。

国際支援のあるバングラデシュの難民キャンプではプロパンガスが配給されているが、ここでは薪もなく牛の糞を竹に巻き付け乾燥させた効率悪く非衛生的な燃料を使わざるを得ない環境だった。

シットウェ郊外のダーペイン国内避難民キャンプ。無邪気な笑顔で歓迎してくれたロヒンギャの少年たち。彼らは町から完全に切り離された世界で生きている。

今年はラカイン族の武装組織アラカン軍(AA)との紛争で劣勢に立たされている国軍がこの地域のロヒンギャ住民を強制的に徴兵し(国籍や市民権が剥奪されているにも関わらず)「人間の盾」として戦地に送られているとの報告もある。彼らが国際社会に助けを求めようとしても、その声はミャンマー国内で根深い差別や無関心でかき消されてしまう。(後略)【8月24日 テレ朝news】
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【バングラデシュとの国境で起きた「ナフ川大虐殺」はアラカン軍(AA)によるものか 差別の重層構造】
次にラカイン州におけるラカイン族武装組織アラカン軍(AA)とミャンマー国軍の戦闘に巻き込まれるロヒンギャ。

****ミャンマーの少数民族ロヒンギャ、ドローン攻撃で200人死亡か****
内戦が続くミャンマーの西部ラカイン州で先週、戦闘から逃れようとする少数民族ロヒンギャの集団がドローン(無人機)攻撃を受け、多数の死者が出たことが分かった。

CNNが位置情報を確認したSNS上の動画には、バングラデシュ国境を流れるナフ川の岸に数十人の遺体が散乱した場面が映っている。

同州マウンドーの西の端に位置する川岸の町で撮影された動画の中では、男性が血痕の残る泥道を歩きながらすすり泣いている。砂や草の上、水たまりなどに男女、子どもらの遺体が横たわり、近くで衣類や家財が一部水につかっている。

目撃者や活動家らがCNNに語ったところによると、ドローン攻撃があったのは5日。ロヒンギャの家族らは川を渡ってバングラデシュ側へ逃げようと、川岸で待機していた。

未確認情報によると、死者は約200人に上った。2021年の軍事クーデター以降続く内戦で民間人が受けた攻撃のなかでも、最大規模の死者数とみられる。

目撃者らはCNNに、国軍と敵対する少数民族の武装勢力「アラカン軍(AA)」による攻撃との見方を示した。マウンドー周辺では数週間前からAAと国軍の戦闘が激化している。

AAは「死者が出たのはわれわれの支配する地域ではない」とする声明を出し、関与を否定した。マウンドー付近で国軍を攻撃し、住民には6月から避難を呼び掛けてきたことを認めたうえで、ロヒンギャ避難民を殺害しているのは国軍側だと主張した。

これに対して国軍は国営メディアを通し、「AAのテロリスト」がラカイン州の町や村を重火器とドローンで攻撃したり、村人たちを拷問したりしていると非難した。

ミャンマーでは軍政による通信、立ち入り制限のため、国内の動向を外部から正確に把握することはほぼ不可能だ。
現地の活動家やメディアによると、ナフ川沿いの村では5日以降も攻撃が続き、AAによる住民殺害、性暴力、民家への放火、強制的な徴兵が横行しているという。

米航空宇宙局(NASA)の遠隔探査データは、マウンドーの中心街で6日未明に火災が起きたことを示している。衛星画像でもマウンドーのロヒンギャ居住地区に火災の跡がみられる。

国際医療組織「国境なき医師団(MSF)」は9日、ロヒンギャ難民キャンプのあるバングラデシュ側のコックスバザールで、ミャンマー側から川を渡ったロヒンギャ39人が迫撃砲や銃撃などで負ったけがを、MSFのチームが手当てしたと発表した。負傷者は4割以上が女性や子どもで、船に乗ろうとする人々が攻撃されるのを見たなどと話したという。

国際人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)」は最新の報告書で、ミャンマー国軍とAAの双方がこの数カ月、ラカイン州でロヒンギャなどの民間人に対する超法規的殺人や放火を繰り返し、「民族浄化」への懸念が強まっていると指摘した。【8月13日 CNN】
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仏教徒「アラカン軍(AA)」も国軍も責任を否定していますが、状況的にはAAによる攻撃の可能性が高く、ドローン使用はAAのラカイン州での作戦の特徴であるともされています。

かつ、オペレーターによって操作された“ドローン攻撃”ということは、自分たちがどういう状況にある誰を攻撃しているのか分かった上での意図的な殺戮だった可能性が高いと言えます。(もちろん、こうした状況に追い込んだ国軍も同罪ではありますが)

従来から、ミャンマー多数派から差別される仏教徒少数民族ラカイン族(アラカン)、そのラカイン族から敵視されるイスラム教徒ロヒンギャという差別の重層構造があります。

****ナフ川大虐殺についてのロヒンギャ団体による共同声明****
(中略)AAとその指導部がこのような攻撃を繰り返し、ロヒンギャに対するヘイトスピーチを使用していることは、ラカイン州の民族的、宗教的マイノリティであるロヒンギャを標的にしようという意図の存在をよりはっきりと示している。

これらの事実を総合すると、自分たちが何を標的にし、その標的がどこにいたかをAAが知っていたという私たちの確信は強まる。

ナフ川大虐殺の置かれる文脈
今回の攻撃は、最近AAがマウンドーの人口密集地区やロヒンギャの村々で行い、数人のロヒンギャ民間人死者を出した、類似するドローン攻撃のパターンを踏襲している。

アラカン軍がマウンドーの町に向けて前進するにつれ、ミャンマー軍は人口密集地域に増援部隊を送った。戦闘が激化することを恐れ、逃げ場を失ったロヒンギャ民間人は、ナフ川の河岸に逃げた。8月5日の攻撃の犠牲者たちは、比較的安全であるバングラデシュに行くために川を渡る方法を見つけようとしていたところ、アラカン軍によって残忍に殺された。

マウンドー郡にいるロヒンギャの民間人は、アラカン軍とミャンマー軍との激しい戦闘によって身動きがとれない状態である。彼らは国際的な保護と人道支援を緊急に必要としている。

アラカン軍は、ブティダウン郡の支配権をめぐって残忍な作戦を行い、その作戦が5月18日に終わってからは隣のマウンドー郡を支配下に置くことに狙いを定めた。この作戦の最中、アラカン軍はロヒンギャの家屋や村に焼き討ちをかけて2,000人以上のロヒンギャを殺しただけでなく、ロヒンギャ民間人に対してその他の重大な人権侵害を行った。

アラカン軍は、火事が起きたのはミャンマー軍による空爆のせいだとしようとしたが、この主張に対しては広く異議が唱えられている。アラカン軍は8月5日の攻撃についても関与を否定している。

数十年にわたり、ロヒンギャはすでにミャンマー軍から様々な形の暴力と抑圧を受けて苦しんできた。最近、ミャンマー軍はアラカン・ロヒンギャ救済軍(ARSA)、アラカン・ロヒンギャ軍(ARA)、ロヒンギャ連帯機構(RSO)など、自らの代理となる犯罪者集団を使ってバングラデシュのキャンプにいるロヒンギャ難民を拉致し、マウンドーでミャンマー軍とともに戦わせている。

これらは犯罪者集団である。私たちはこれらの集団を強く非難し、それらの集団がロヒンギャのコミュニティの代表ではなく、ロヒンギャのコミュニティのために行動しているのでもないことを明言する。私たちは最大限強い言葉で彼らの行動を非難する。

署名団体 28のロヒンギャ団体
共同声明にはアラカン軍(AA)、ロヒンギャのコミュニティ、国民統一政府(NUG)やミャンマー市民社会等、バングラデシュ政府、そして国際社会に対する要求や要望も含まれている。

国際社会に対しては、国連安保理で緊急会合を開くこと、アラカン軍とミャンマー軍に民間人への攻撃を直ちに止めるよう圧力をかけること、難民を受け入れているバングラディシュに際する援助などが求められている。(中略)

共同声明を出したのは英国ビルマ・ロヒンギャ団体ほか28のロヒンギャ団体で、このほかに115の団体(公開59、非公開56)が連帯を表明した。【9月6日 メコン・ウォッチ】
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【バングラデシュのロヒンギャ難民キャンプから難民をミャンマー国軍が強制徴用 その実行部隊はロヒンギャ組織という奇妙な構造 バングラデシュ当局も関与か】
一方、国軍側もロヒンギャを強制徴用してAAとの戦闘に送り込んでいます。そうしたことがあるため、上記のようなAAによるロヒンギャ虐殺もまた起こるとも考えられます。

さらにバングラデシュ側に避難した難民までもが強制徴兵されて戦場で「人間の盾」にされています。しかもそうした強制徴用をバングラデシュ当局は許容し、その実行部隊となっているのがロヒンギャの実質的犯罪者集団であるという奇妙な形になっています。

****ミャンマー内戦に巻き込まれ、強制徴兵までされるロヒンギャの惨****
(中略)
戦場に送り込まれる難民
もう1つロヒンギャを苦しめているのが、強制徴兵だ。ミャンマーでは軍事クーデター以降、民主派や少数民族武装勢力が各地でミャンマー軍と戦っている。この戦線拡大による兵力不足を補うため、ミャンマー軍は今年2月に徴兵制開始を発表した。

ラカイン州でも、州内はおろかバングラデシュの難民キャンプでロヒンギャを無理やり徴兵し、前線に動員。AAの兵士は「ミャンマー軍に加担している」という理由でロヒンギャの村を襲っているという。

ロヒンギャへの強制徴兵の実行部隊となっているのが前出のARSA(武装組織「アラカン・ロヒンギャ救世軍(ARSA)」 17年8月のARSAの武装蜂起を機に、ミャンマー軍やラカイン人の強硬派の仏教徒らが、ロヒンギャの村で大規模な武力弾圧を行い、75万人以上のロヒンギャが隣国バングラデシュに逃れるジェノサイドが起きました)と「ロヒンギャ連帯機構(RSO)」だ。

ARSAは13年頃、サウジアラビア育ちのロヒンギャによって設立され、当初は市民権の回復などを目標に掲げていた。他方、RSOは80年代に結成されたロヒンギャの古参の武装組織だ。

90年代初頭にミャンマー軍の掃討作戦に遭った後、最近までその活動が話題に上ることはほぼなかったが、昨年からバングラデシュの難民キャンプ内でARSAと権力抗争をしている。

両組織はお互いのメンバーだけでなく、キャンプ内のリーダーや教育者などを殺害したり、身代金目当てに難民を誘拐したりといった事件を相次いで起こしており、現在の実態は「ならず者」に近い。ロヒンギャも自分たちを代表する組織とはつゆほどにも思っておらず、むしろ恐れている。

これまで市民権を認めてこなかったロヒンギャを、なぜ自軍の兵としてミャンマー軍は使うのか。敵であるはずのミャンマー軍のために働くARSAやRSOの動きも不可解だ。だがそもそも彼らに道義心はなく、これまでも正当性より実利を取る戦略を取ってきたと、ミャンマー軍内部の事情に詳しい京都大学の中西嘉宏准教授(比較政治学)は指摘する。

「ラカイン州の戦闘で劣勢に立つミャンマー軍は、(これまで差別の対象にしてきた)ロヒンギャを取り込まなければいけないほど、深刻な兵力不足に陥っているとみられる。一方、ARSAとRSOは『敵(ラカイン人のAA)の敵(ミャンマー軍)は味方』の論理によって軍に協力しているのかもしれないが、金銭や武器など何らかの利益を受け取っている可能性もある」

ARSAとRSOの派閥争いによって、もともと悪かったキャンプ内の治安はさらに悪化している。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の統計によれば、23年に誘拐や殺人といった深刻な事件でロヒンギャ難民が保護を必要としたケースは1857件と、前年の2.8倍に増えた。これに加え、ARSA、RSOによる強制徴兵が、難民をさらなる恐怖に陥れている。(中略)

権力者に利用される弱者
ラカイン州ではミャンマー軍に動員されたARSAや難民に加え、AAとの戦闘でロヒンギャ、ラカインの市民双方に犠牲が出ている。AAの発表によれば、5月の時点で、彼らの勢力圏内だけでも50万人以上の国内避難民が発生している。12年と17年を彷彿とさせるような軍事的緊張も高まっている。

中西准教授によれば、少数民族間の潜在的な対立を利用することで、軍による支配を固定化するこうした戦略は、ミャンマーで繰り返し用いられてきたという。

ラカイン州は国内の最貧困地域の1つで、ラカイン人もまた長年、軍の迫害や搾取に苦しんできた。現在のラカイン州で起きているロヒンギャとラカイン人の抗争は既得権益を維持したい権力者に政治利用され、その犠牲となってきた「弱者同士の争い」でもあると、中西准教授は指摘する。

強制徴兵には、バングラデシュ当局の関与も示唆される。地元ジャーナリストは、「バングラデシュ当局は難民キャンプの治安悪化を把握しながら、意図的に野放しにしている。

もともとバングラデシュはロヒンギャの帰還の道筋が見えないことにじれていた。徴兵でロヒンギャがミャンマーに連れて行かれるのを、止める理由はないのだろう」と語る。

バングラデシュとミャンマーの国境付近に潜伏するRSOの司令官(32)に話を聞くと、彼もまたバングラデシュ当局から「支援を受けている」と認めた。

17年の危機の発生当初から、ロヒンギャ難民キャンプを調査する立教大学の日下部尚徳准教授(国際協力論)は、「バングラデシュ警察は、昨年RSOの一部を抱き込んでARSAの幹部を摘発する作戦を行っており、現場レベルで間接的に強制徴兵に関与している可能性が指摘されている。

RSOに比べ、国外とのつながりが強いARSAを当局は警戒している。キャンプがイスラム過激派の根城になることを懸念しているのだろう」と分析する。(後略)【9月11日 増保千尋氏(ジャーナリスト) Newsweek】
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バングラデシュの政変で暫定政権の首席顧問となったムハマド・ユヌス氏は、8月18日、初の主要政策演説を行い、ロヒンギャ難民への支援を継続する意向を示しています。

難問が山積するなかでのロヒンギャへの言及は、この問題を忘れてはいないという意味では歓迎すべきことですが、重要なのは今後の「支援」の中身です。

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