孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

シリア  都市部若者にはイスラム主義の強いデモ勢力への反発も

2011-05-08 20:33:48 | 国際情勢

(4月16日のアメリカ・ロサンゼルスでのアサド支持の集会 同様のアサド支持集会はシリア国内だけでなく、ロンドンなどでも見られます。 強権支配と見られるアサド政権ですが、その世俗主義的性格への支持もあるようです。 “flickr”より By maryslosson http://www.flickr.com/photos/maryslosson/5625608263/

徹底したデモ鎮圧 増大する犠牲者
中東のパワーバランスのカギともなっているシリアにおける、アサド政権に対する激しい抗議デモ、そして厳しいデモ鎮圧・・・その妥協の余地のない緊張については、5月5日ブログ「シリア 徹底弾圧に突き進む治安当局、虐殺再現の懸念も」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20110505)で取り上げたばかりですが、情況は相変わらずです。今後の推移を左右する軍部の離反も、まだ散発的なようです。

****シリア反体制デモ、死者800人に****
シリアの人権団体は7日、アサド政権の打倒を訴える反体制デモが3月中旬に始まって以来、治安部隊の武力行使による死者は少なくとも800人に達したと明らかにした。
ロイター通信が伝えた。

AFP通信が人権活動家の話として伝えたところによると、北西部バニアスには7日、新たに数十台の戦車や装甲車が投入されており、激しい銃声が聞こえたという。
一方、国営通信は7日、軍兵士と警官計11人が、6日に中部ホムスで「テロ集団」と衝突して死亡したと伝えた。在外シリア人権団体のメンバーはロイター通信に対し、「兵士9人がデモ隊の支援に回った」と述べ、離反兵が軍部隊と衝突した可能性を指摘した。【5月8日 読売】
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【「デモはイスラム主義を加速させたい地方の人たちの運動だ」】
こうした厳しいデモ弾圧は国際的にも批判を呼んでおり、国民の声を心ない政権が力でねじ伏せようとしている・・・というイメージが出来ています。
政権側が強権的にデモを鎮圧していることは事実ですが、ただ、国民の側の政権評価も一様ではないようです。
イスラム主義の強いデモ勢力に対し、世俗主義的な現政権を支持する声もあるとのことです。

****シリア:首都ダマスカスは事実上の厳戒体制 軍が市民監視*****
政府による反政府デモ弾圧が続くシリア情勢が緊迫の度を深めている。デモ隊の死傷者が増加する地方都市だけでなく、首都ダマスカスでも軍や秘密警察が市民の言動に目を光らせ、事実上の厳戒体制が敷かれている。
デモ隊の一角を担うイスラム色の強い住民が独裁反対を訴える一方、極端なイスラム化を警戒し、宗教と距離を置くアサド大統領の路線を支持する若者もいる。政権に対する国際社会の圧力が強まる中、シリアの行方は流動的だ。

商店の店頭からホテルのロビー、ビルの壁まで、ダマスカスはアサド大統領の肖像写真で埋め尽くされている。シリアはイスラム教シーア派の宗教国家イランの友邦だが、両国の宗教と政治・社会の関係は対照的だ。宗教抑圧的なイランに対し、シリアでは長髪をなびかせておしゃれを楽しむ若い女性、手をつなぐ男女が目立ち、街中のバーにはウイスキーが並ぶ。記者が駐在するテヘランに比べ格段に開放的だ。

だが、反政府的な動きに対するシリア当局の監視は厳しい。6日、ダマスカス中心部にバスに分乗した警察官が集結し、迷彩服の兵士らも銃を手にデモ警戒に当たった。外国人旅行客やビジネスマンの姿はまばらだ。同日午後には首都の南部と北部でデモが起き、警察が検問を強化した。(中略)

シリアでは数年前からコメや小麦の価格上昇で国民の不満が募り、アサド大統領一族と企業の癒着も指摘される。外国企業誘致など改革の恩恵にあずかれるのは一部の高学歴者だけで、格差が広がる。来月、妻が出産予定の(市内を案内してくれた反アサド派の煙突職人の)ムハマドさんは「月収1万シリアポンド(約1万6000円)ではやっていけない。腐敗したアサド一族を追放したい」と話す。

一方、アサド大統領への「支持」を表明する市民もいる。露骨な大統領批判がご法度のシリアで市民の本音を聞き出すのは困難だが、ダマスカス大学に通うキャマルさん(26)は「酒を飲みながら歩いても、路上で彼女にキスしても大丈夫だ」と語る。市中心部のカフェにいた男性(30)も「デモはイスラム主義を加速させたい地方の人たちの運動だ」と指摘した。

米国はイラン政府のデモ弾圧には過剰に反応するが、シリア政府に対しては及び腰だ。イランのデモがイスラム支配からの離脱を求めているのに対して、シリアではイスラム色が濃いことも理由とみられる。
チュニジアやエジプトで実現した政権転覆はいずれも首都での若者らによるデモが転換点になった。だが、ダマスカスの若者の間では、反政府デモへの支持、不支持で意見が割れ、政権を倒すうねりに発展するかどうかは定かでない。【5月7日 毎日】
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【「何が正しいかを決めるのは・・・・」】
強権支配的な現政権が転覆したあとにどのような政権が生まれるのか?いままでよりイスラム主義的な色彩の強い勢力が台頭するのではないか?・・・・という不安は、今回の中東の民主化運動に対してアメリカなど欧米諸国が抱く懸念であり、反政府勢力援助へのためらいともなっています。

どのような政治を選択するのかは、その国の国民に委ねるしかありません。
7日に投開票が行われたシンガポール議会(一院制、定数87)総選挙は、1965年の独立以来、政権を維持している与党・人民行動党(PAP)が81議席を獲得して圧勝したものの、野党・労働者党(WP)も過去最多となる6議席を獲得しました。

シンガポール初代首相のリー・クアンユー顧問相(87)はかつて、「何が正しいかを決めるのはわれわれであり、国民がどう思うか気にする必要はない」として、民主主義より管理と統制、開発を優先する「開発独裁」を主導し、東南アジア随一の経済大国を築きました。【5月8日 産経より】

こうした発想は、開発独裁のリー・クアンユーに限らず、民主主義を制限的にとらえる多くの強権支配国家指導者に共通したものでしょう。
これに対し、息子のリー・シェンロン首相(59)は、今回選挙戦で「われわれは国民の奉仕者であり、主人ではない。政策に不備があったのであれば謝罪する」と演説し、国民を驚かせたそうです。

当然ながら、「何が正しいかを決めるのは国民である」との立場から、国内の強権支配、国際的圧力は排除されるべき・・・でしょうが、そうは言っても国民が何を選択するのか気になることも多々あるのが現実です。
できれば、価値観を共有できる政治体制が平和的に成立して欲しい・・・とは思うのですが、そうならないときは?


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