孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

シリア  徹底弾圧に突き進む治安当局、虐殺再現の懸念も

2011-05-05 20:36:36 | 国際情勢

(3月25日 首都ダマスカスでの抗議デモ “flickr” By Ahmad Al Zoughbi http://www.flickr.com/photos/ahmadzog/5558784932/

デモ参加者に「降伏」を迫る最後通告
アサド大統領の退陣を求める民主化要求デモが続くシリアでは、当局側の徹底したデモ鎮圧によって、毎日犠牲者、拘束者が増大する状況となっており、民間人死者は607人、拘束者は最大8000人にものぼっていると報じられています。

****シリア軍、首都郊外で300人以上を拘束****
民主化要求デモが7週間続いているシリアで5日、首都ダマスカス郊外のサクバで軍が大規模な取り締まりを行い、300人以上の身柄を拘束したと、人権活動家がAFPに明らかにした。

匿名を条件にAFPの取材に応じた人権活動家によると、軍と治安要員2000人余りが動員され、多数の聖職者を含む300人以上を拘束。少なくとも1人が治安部隊の発砲で負傷したという。拘束された人びとは別の場所へ連行されたという。
軍部隊は、街の中央広場に掲げられていたプラカードやこれまでの鎮圧で死亡した犠牲者の写真を破り捨てたという。デモが始まった3月15日以降、サクバでは住民7人が死亡している。

シリアのデモ指導者たちは、昼夜問わずの座り込みと、金曜日にデモを実施するよう呼びかけている。サクバでの拘束に先立って指導者らは、バッシャール・アサド(Bashar al-Assad)大統領政権に対する「革命」を継続すると宣言していた。
シリア人権団体Insanによると、民主化要求デモが始まって以来、シリア国内では最大8000人の人びとが拘束されたか、または行方不明になっている。民間人の死者数は607人に上るという。【5月5日 AFP】
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シリア内務省は2日、デモ参加者を「テロリストにだまされている」として「降伏」を迫る最後通告とも言える声明を発表したており、“シリア当局は、デモを止められないことにいら立ちを深め、最後通告を出した模様で、今後は軍のさらなる展開も予想される”【5月3日 毎日】とも。

ダルアー:「我々は破滅に向かっている」】
シリアは4月25日、隣国ヨルダンとの国境を閉鎖、外国メディアは大半が国外退去を命じられており、国内の様子はよくわからない状況ですが、南部ダルアーでは軍による封鎖状態で厳しい弾圧が行われており、水や電気が止められ、男性は外出が禁じられ、女性が早朝だけパンを買い求めるのを許されているとのことです。また、女性らは民家の屋根で「独裁反対」を叫んでいるとも。

****シリア:「政府は国民を虐殺」ダルアー市民が電話で訴え****
「シリア政府は国民を虐殺している。国際社会が止めてくれ」。アサド政権が民主化勢力の武力弾圧を続ける南部ダルアーの男性住民が1日、毎日新聞の電話取材に訴えた。
治安要員が家々を回って人々を拘束したり、無差別発砲で全員が殺害された家族も。水や電気は止まり、燃料や薬品も不足。死亡した住民を埋葬できず、遺体を大型冷蔵庫で保管中だという。「我々は破滅に向かっている」。男性はそう語った。

ダルアーはシリア各地に拡大した民主化要求デモの発火点。国内外のシリア人権活動家によると、政権批判の落書きをした少年らの逮捕・拷問に怒った住民の抗議活動が3月中旬から激化、当局は武力鎮圧を図ったが失敗した。
衛星電話で証言したのは壮年の男性。住民の死者は約200人に達したという。イスラム教徒が礼拝で結集するモスク(礼拝所)は一部を治安要員が占拠。屋上に狙撃手が配置されている。
シリア政府は先月25日に騒乱鎮圧のため国軍を投入。ダルアーには戦車も派遣し、封鎖状態に置いている模様だ。男性によると、展開したのは米政府が人権侵害を理由に経済制裁を発動したマーヘル・アサド氏(アサド大統領の弟)が率いる第4師団。アサド家につながりを持ち治安機関と連携する「シャビーハ(暴漢)」と呼ばれる武装集団も活動中だという。【5月1日 毎日】
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恐怖支配以外の選択肢が現時点ではない政権側
アサド大統領はこれまで、非常事態令解除などデモ隊の要求に一応はこたえる姿勢も示してきましたが、デモが勢いを増す中、権力維持には、徹底弾圧による恐怖支配以外の選択肢が現時点ではないのが実情とみられています。
“リビアやイエメンのケースと同様、多数の市民が殺害されたシリア国民の怒りは大きい。アサド氏としては、この段階で暴力を停止するなどの譲歩姿勢をみせれば、各地の政権転覆を求める声がさらに強まり、自身の首を絞めることにつながりかねない。このため、政権側がデモ拡大の懸念を払拭できるまでは弾圧が続くという見方も出ている”【4月28日 産経】

弾圧の中心にいるのは、ダルアーを封鎖している大統領の弟、マーヘル・アサド氏と見られていますが、“複数の組織が競争するかのように厳しい弾圧を続けている”状況となっています。

****シリア:大統領、統制力に疑問の声も*****
シリアで民主化要求デモ弾圧の前線に立つ治安関係組織は、バッシャール・アサド大統領の父、ハフェズ・アサド前大統領の時代から強い権限を与えられ、恐怖による統治を敷いてきた。複数の組織が競争するかのように厳しい弾圧を続けており、一時は「改革者」とも評された大統領が統制できているのか、専門家から疑問の声も出ている。

シリアの人権活動家らによると、強硬な対応の背景にいるとみられているのは大統領の弟、マーヘル・アサド氏だ。大統領直属の精鋭部隊である共和国護衛隊と、対イスラエル防衛の前衛である第4師団を率いる。民主化騒乱の発火点である南部ダルアーにも同師団が派遣されたといわれる。米政府は29日、マーヘル氏に対する経済制裁を発動した。

今回シリア当局は、デモを「保守的イスラム勢力の武装蜂起」と断言し、戦車や狙撃手まで投入して抑え込みを図っている。父ハフェズ氏は82年、中部ハマで起きたイスラム主義者の反乱を徹底弾圧し、1万人以上ともいわれる死者を出した。ハフェズ氏の後継者とみなされていた時代もあったマーヘル氏についてシリア国内では、「軍の力を背景に次の大統領を狙う意図を持つ」とのうわさが絶えない。マーヘル氏は05年のハリリ元レバノン首相爆殺事件への関与が国連の調査で指摘されたが、シリア側は否定した。

弾圧には「シャビーハ」と呼ばれる武装集団も関与している模様だ。アラビア語で「暴漢」を意味し、アサド家や、ハフェズ氏の婚家マフルーフ家の関係者、支配階層のイスラム教アラウィ派が構成しているとみられる。西部ラタキアを拠点に騒乱以前から地元住民の恐喝や薬物の密輸に関わってきたという。シリアの報道関係者は「法を超越する存在。止められるのは大統領だけかもしれない」と言う。

既存の国家治安機関も、超法規的な活動を許されているとの指摘がある。国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチ(本部・ニューヨーク)によると、大統領令で、治安機関関係者は原則として「任務遂行上の場合は犯罪から免責される」ことになっているという。こうした複数の組織が法の制約を受けずに活動する状況を「広域暴力団が国家になったようなもの」と指摘する現地専門家もいる。

弾圧には国軍も投入されているが、シリア人権活動家によると、自国民への発砲を命じられて離反者が出ているという。「長期化すれば軍が分裂する可能性がある」(現地の軍事専門家)との指摘もある。【4月30日 毎日】
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抵抗する住民側にしても、ここで抵抗を止めると徹底した粛清が待ち構えているとも言え、妥協の余地がない、当局側、住民側双方とも引くに引けない、どちらかが息の根を止めるまで続く泥沼の様相を呈しています。

軍の離反・分裂は?】
アメリカは4月29日、民主化要求デモへの弾圧を続けるシリアのアサド政権関係者・組織に対し、経済制裁の第1弾を発動しています。また、EUも29日に大使級協議を開き、シリアへの武器禁輸で大筋合意しています。
更に、国連人権理事会も29日、シリア政府の反政府デモ弾圧を巡って特別会合を開き、武力弾圧の即時停止と通信・報道の自由を求める決議案を賛成多数で採択しています。

しかし、4月23日ブログ「シリア 抗議行動激化、犠牲者増大 揺らぐアサド政権に関係国の思惑」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20110423)でも取り上げたように、シリアは現在の中東情勢の枠組みを維持するうえで、各勢力の“結節点”ともなっているカギを握る国だけに、アメリカなどもアサド政権の転覆による力の空白が生まれる事態は望んでいないと思われます。
現実問題としても、リビア1国を持て余している状況で、更にシリアへの介入といったことは想定されません。

国際的な介入が想定されていない状況で、住民側が望みうるのは軍の離反です。
“軍の一部は市民への発砲を拒否。アサド大統領の弟マーヘル中佐率いる部隊と交戦になるなど、軍が分裂しているとの情報がある”【4月29日 毎日】といった報道もありますが、今のところそれ以上の情報はありません。
中東専門家の間では、チュニジアやエジプトと違いシリアでは軍部の政権に対する忠誠心は固いとの見方もあるようです。

【“ハマー虐殺”】
シリアでは、アサド現大統領の父ハーフェズ・アル=アサド大統領が統治していた1982年2月、2万人以上の死者を出したと言われる“ハマー虐殺”の歴史があります。

“保守的なスンニ派の多いハマーでムスリム同胞団が決起しハマーを「解放区」とした。
2月2日、大統領の弟リファート・アル=アサドに率いられたシリア軍は35万人の市民のいるハマーを包囲し降伏を勧告した後に砲撃を開始した。爆撃機が市街を空爆し、破壊された狭い通りに戦車が突入して数週間にわたり戦闘を行ったが、この際に戦闘員以外に逃げ惑う市民多数が巻き込まれ、2万人以上の死者(3万から4万に上ると見る推計もある)が出る惨事となった。犠牲者のほとんどは女性や子供だった。また同胞団メンバーとその支持者と見られた市民多数が連行され拷問・処刑された。”【ウィキペディア】

ダルアーの状況などは、“ハマー虐殺”再現を懸念させるものがあります。

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