孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

日本の津波対策「浮上式津波防波堤」と、イタリア・ベネチアの高潮対策「モーゼ計画」

2013-03-28 23:14:17 | 欧州情勢

(ベネチアのモーゼ計画では、こうした箱状の板78枚が海中から起動して壁を作り高潮を防ぐ仕組みです。
【ハイライフ研究所ホームページ】http://www.hilife.or.jp/wordpress/?p=4559 より)

鋼管が10分程度で海面上約7・5メートルまで上がる
巨大地震などで発生する津波対策として、通常は海中にある鋼管を空気圧で押し上げ防波堤とする世界初の「浮上式津波防波堤」の実験が和歌山で行われているそうです。

****津波の時に浮上する防波堤、和歌山で実証実験****
南海トラフ巨大地震などの津波に備えるため、和歌山県海南市の和歌山下津港で28日、世界初の浮上式津波防波堤を動かす実証実験があった。

防波堤は、水深13・5メートルの海底に2重構造の鋼管(直径約3メートル、長さ約29・5メートル)75本を直立した状態で幅約230メートルにわたって隙間なく埋め、緊急時、内側の鋼管(直径2・8メートル)を海面上へ浮かび上がらせ、巨大な壁のようにして津波を防ぐ仕組み。国土交通省が建設中で、現在3本が設置され、2019年度末までの完成を目指す。

この日の実験は、鋼管が正常に作動するかどうかを確認するために実施。午前11時、同港にある施設から作業員がコンプレッサーで空気を送り込むと、沖合約200メートルで3本の鋼管が徐々に上昇。約10分かけ、海面から高さ約7・5メートルまで突き出した状態になった。【3月28日 読売】
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水の都ベネチアを悩ます「アクア・アルタ」】
形状は異なりますが、似たような発想の計画がイタリアの「水の都」ベネチアでも進んでいます。
巨大地震の津波のように破壊的ではありませんが、ベネチアは絶えず高潮による浸水「アクア・アルタ」に悩まされています。

****悪天候のイタリア、ベネチアではまた「アクアアルタ****
イタリアでは10月31日、各地で悪天候に見舞われ、本土と島々を結ぶ交通に影響が出たほか、シチリア島では予防措置として一部の小中学校が休校になり、トスカーナ地方では前年の洪水で大きな被害を受けた地域の約50人が避難した。

水の都ベネチアでは「アクアアルタ(acqua alta)」が発生し、観光名所のサンマルコ広場が冠水した。午後には水位が1.1メートルに達し、市長は市内の主要通路に木製の渡り台を設置するよう指示した。水位は深夜には1.4メートルに達した。

ベネチアで起きた史上最悪のアクアアルタは、イタリア各地で洪水が発生した1966年11月4日に発生したもので、このときの水位は1.94メートルに達した。

近年、海面上昇の脅威にさらされているベネチアでは、洪水から街を守るため入り江に可動式の堤防を建設するという画期的なプロジェクトが進んでいる。

旧約聖書のなかでユダヤ人たちを率いて水が引いた紅海を渡ってエジプトを脱出した預言者モーゼ(Moses)にちなんで「モーゼ」プロジェクトと名づけられた堤防建設には3000人の人員と54億ユーロ(約5600億円)の費用が投じられた。完成は2014年の予定だ。【2012年11月1日  AFP】
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この「アクア・アルタ」が起きる理由としては、以下のように説明されています。
なお、観光名所サンマルコ広場が水没した光景はしばしばTVなどで目にしますが、このサンマルコ広場はベネチアでも最も低い、つまり水に浸かり易い場所だそうです。

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・・・・「アックア・アルタ」、イタリア語から直訳すれば“高い水”と言う意味であるが、洪水のようなものである。ご存知の通り、ヴェネツィアは水に囲まれた町である。この水かさが増え、町中が水浸しになってしまうことを「アックア・アルタ」とよんでいるのである。

この現象は昔からヴェネツィアで起こり、主に11月から3月にかけて吹く、アフリカの季節風シロッコが原因とされていた。この南からの暖かい風が、アドリア海の水を押し上げるため、満潮の時間に水位が通常よりも上がってしまうのである。

しかし、1900年代に入ってから、この洪水の回数が一気に増加した。原因の要素がいくつかあるが、まずその一つには、ヴェネツィア本島自体の自然の地盤沈下がある。これは数字にすれば一年に1mmぐらいのもののようである。

次に、1950年代から1960年代にかけて、本土側のマルゲーラ工業地帯が発展し、大量の地下用水の汲上げを行ったため、地盤沈下が起こってしまった。これはすぐに影響が確認されたため、1970年には特別法令が出されて、それ以降、地下水の汲上げは禁止されて行われていない。

そして1990年代になってから、今度は地球温暖化の影響で、世界全体の水位が増加しているため、ヴェネツィアが洪水に見舞われる危険性が高くなってしまった。(中略)

最近は世界的な異常気象で、季節風が季節外にも吹くことがあり、通常では起こらなかった5月や9月に水位が上がることもある。(後略)【ハイライフ研究所ホームページ】http://www.hilife.or.jp/wordpress/?p=4559
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【「最高3メートルの水位上昇までベネチアを守ることができる」】
さて、前出AFP記事にもある「モーゼ計画」ですが、日本の「浮上式津波防波堤」が二重鋼管であるのに対し、こちらは板状の板を空気圧で起こして防潮堤とする仕組みです。

*****沈まないベネチア」、可動式堤防モーゼ・プロジェクト****
洪水の多いイタリア・ベネチアで街を海面上昇から守ろうと、潟の入り口に可動式の堤防を建設する計画が進んでいる。
「モーゼ(Moses)」プロジェクトと呼ばれるこの計画。およそ3000人が携わり、総工費は54億ユーロ(約6500億円)に上る。2014年に完成予定だ。

同プロジェクトに参加する建築家の1人、フラビア・ファッシオリ氏は「ひとたび完成すれば、このシステムは最高3メートルの水位上昇までベネチアを守ることができる」と語った。
海底に設置された基部から、巨大な箱状の板が突き出て堤防となる構造。高潮が来たときは、板の内部に圧縮空気を送り込んで板を立て、潟への水の侵入を防ぎ、高潮が去った後は、板内に水を送り込み、板が海底に戻っていくという仕組みだ。
アドリア海と潟とを結ぶ三つの入り江の計4か所に、合計78枚の稼動式堤防が設置される。

ベネチアのジョバンニ・オルソニ市長は「画期的なプロジェクトだ。イタリアにとってだけでなく世界にとっても最も重要なプロジェクトの1つだ」と語った。
ベネチアは20世紀を通じて23センチ水没した。市民はモーゼプロジェクトに、建造物の保存や洪水防止への期待を寄せている。【2011年5月2日  AFP】
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前出【ハイライフ研究所ホームページ】http://www.hilife.or.jp/wordpress/?p=4559に、「アクア・アルタ」の様子、市民レベルの対応方法などに併せ、このモーゼ計画の概要を説明したYou Tubeが紹介されています。
浸水を防ぐ店先の板などは、日本の洪水多発地域でも使えるのではないでしょうか。

日本の津波対策の方は、程度の差はあれ日本全土どこでも津波に襲われる危険があること、しかし実際にいつ起きるかは予測困難なことなどから、こうしたもをあちこちに建設して有効に稼働させるのは難しいところでしょう。また、数十mにも及ぶと言われる巨大津波にどこまで対応できるのか・・・といった疑問も素人にはあります。

イタリア・ベネチアの場合は、ピンポイントであり、毎年何回も活躍の機会が期待されること、高潮の高さは津波に比べたら遥かに低いことなどから、非常に実用的のように思われます。
完成したらベネチアの新たな観光名所にもなるのかも。

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