孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中東欧の経済・政治の混迷 政治権力とマフィアのつながり

2013-03-27 22:01:58 | 欧州情勢

(3月3日 ブルガリアの首都ソフィア  貧困・汚職に抗議し、政治支配階層の不正を非難する市民の抗議デモ “flickr”より By AJstream http://www.flickr.com/photos/61221198@N05/8528145809/

貧困問題が深刻化するブルガリアでの慈善活動
普段メディアに取り上げられる機会の少ない東欧・ブルガリアの話題。経済的に苦しい状況のなかで、慈善活動の定着という“いい話”です。

****伊ナポリ発祥の「他人のコーヒー先払い」、ブルガリアに定着****
ブルガリアでは、生活費に苦しみコーヒー代が支払えない人も気にする必要がない。貧困問題が深刻化する同国に、金銭に困っている人にコーヒーを振舞う古いイタリアの伝統が定着しつつあるのだ。

交流サイトのフェイスブック(Facebook)に設置された専用ページによると、イタリアの「カフェ・ソスペーゾ」の伝統をモデルにしたこの慈善活動に参加するカフェはブルガリア全土で150店舗以上に上っている。

イタリア南部のナポリ(Naples)のカフェで生まれたこの伝統は、カフェを訪れた人が他人のコーヒー代金を先払いするというもの。コーヒーを飲みたい人は、「カフェ・ソスペーゾ」があるかどうかを尋ね、先払い分がある場合には無料でコーヒーを飲むことができる。

欧州連合(EU)加盟国で最も貧しい国のブルガリアではこの数か月、貧困に絶望した人が自らに火をつける事件などが起きており、貧困が社会問題化し始めている。数週間に及んだ抗議デモにより、2月20日に右派政権が総辞職する出来事もあった。

「カフェ・ソスペーゾ」運動はテレビで大々的に取り上げられ、この運動に参加を表明したカフェの多くは無料コーヒーに対して発行されたレシートの写真をフェイスブックのページに投稿している。また一部カフェでは、小さなカードや、ビンのふたを使って、先払いされたコーヒーの数を記録している。

さらにはカフェ以外のファストフード店や食料品店もこの運動に参加を表明し、パンや菓子類の先払いを呼びかけている。【3月27日 AFP】
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“いい話”ではありますが、気になるのは“欧州連合(EU)加盟国で最も貧しい国のブルガリアではこの数か月、貧困に絶望した人が自らに火をつける事件などが起きており、貧困が社会問題化し始めている。”という部分です。
ブルガリアでは経済苦境から政治混乱が拡大しています。

****ボリソフ内閣が総辞職へ=電気料金高騰でデモ頻発―ブルガリア****
ブルガリアのボリソフ首相は20日の議会で、電気料金の高騰に対する国民の反発が強まったのを受け、内閣を総辞職すると発表した。これにより、7月に予定される総選挙が早まる可能性もある。

ブルガリア各地では今月上旬から、大規模な抗議デモが頻発。ボリソフ首相はジャンコフ財務相の解任や電気料金の引き下げで国民の不満を和らげようとしたが、デモは19日も続き、警官隊との衝突で負傷者が続出する事態に発展した。【2月20日 時事】
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なお、プレブネリエフ大統領は2月28日、今年7月に予定されていた総選挙を5月12日に前倒しして実施すると発表しています。

経済失策が引き金だが、汚職や不正による政治不信も混乱に拍車
欧州経済全体が経済的に混迷するなかで、経済苦境・政治の不安定化はブルガリアだけでなく中東欧に広がっています。そして中東欧の混迷は欧州全体の混迷へとフィードバックします。

****中・東欧の政治混迷 ブルガリアなど、欧州景気に悪影響の恐れ ****
中・東欧諸国の政権運営が迷走している。ブルガリアで内閣が総辞職したほか、スロベニアでは首相の不信任案が可決された。セルビアでも選挙の足音が近づく。経済失策が引き金だが、汚職や不正による政治不信も混乱に拍車をかけている。成長センターの中・東欧が安定した政策運営を実現できなければ、欧州景気全体に悪影響が及ぶ。

ユーロ圏のスロベニアでは2月27日、議会が保守系のヤンシャ首相に対する不信任案を可決した。不動産バブルが崩壊するなかで首相に汚職疑惑が浮上。連立相手が次々に政権を離脱した。
代わって政策通の野党指導者、ブラトゥシェク氏が中道左派政権の樹立に向けた連立交渉を始めたが、経済政策には危うさがある。銀行の不良債権処理や民営化が急務だが、痛みを伴う政策に二の足を踏む恐れがある。

内閣が総辞職し、5月に議会選を実施する見通しとなったブルガリアでも、必要な改革を実行できるか黄信号がともる。
ほぼ5割の世帯が「貧困層」や「貧困に陥る恐れがある」に区分される。今回は電気料金の値上げ反対のデモが緊縮策への抵抗運動に発展し、倒閣運動に飛び火した。主要政党は、それを意識せざるを得ない。

債務危機に直面し、改革疲れが目立つギリシャやイタリアなど南欧諸国と構図は似ている。これに加え、はびこる汚職が政治不信につながり、政権を不安定にしている。
セルビアでは、昨年就任したばかりのダチッチ首相が麻薬取引を手掛けるマフィア幹部と接点があったと地元紙が報じた。与党は首相辞任を拒否するが、年内に選挙との見方がくすぶる。

だが、政局の混乱が続くと投資が冷え込み、経済運営にはマイナスだ。冷戦崩壊後からの懸案である政官財の癒着を断ち切り、経済改革を断行できるか。そうでなければ欧州内で「2番手グループ」という立場からの脱却は難しい。【3月5日 日経】
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【「この国にマフィアがいるのではなく、マフィアがこの国を所有しているのだ」】
“はびこる汚職が政治不信につながり、政権を不安定にしている”ということで、セルビアのダチッチ首相のマフィア関連スキャンダルが取り上げられていますが、マフィア・犯罪組織と政治の癒着構造はセルビアに限らずこの地域に広く見られることのようです。

一般に旧ユーゴ諸国では政治権力と犯罪組織の結びつきが強く、セルビアではニコリッチ大統領についても犯罪組織とのつながりが指摘されています。

“旧ユーゴの新生独立国で、政治権力とマフィアが結びついたのには、歴史的な背景がある。共産党支配下の治安機関が、犯罪組織やそのボスを「私兵」として使っていた伝統があり、犯罪組織は国家分裂後、そのまま各地のマフィアになった。内戦時には「民兵組織」として、平時には経済マフィアとして、常に政権と結びついていた”

“セルビアのニコリッチは、極右政党「セルビア急進党」の古くからの活動家。同党は、第二次世界大戦時のセルビア人民兵組織「チェトニック」の伝統をくみ、地下社会とのつながりが深い。
ユーゴ内戦では、犯罪組織が「民兵組織」に衣替えして、セルビア人正規軍の別動部隊となって悪名をはせた。前出のセルビア人記者は、「ミロシェビッチ政権崩壊後は、犯罪組織がそのまま権力中枢に入り込んだ。
どのマフィアがどこの政党、指導者と組んでいるかの違いしかない」と言う。セルビアでは過去に首相がマフィアに暗殺されたことがあり、ニコリッチも以前、政敵が雇った犯罪者に命を狙われた。政争はマフィア間の抗争と同じだ。”【2月号 選択】

また、辞職したブルガリア・ボリスフ首相についても
“ボイコ・ボリソフ現首相は、共産党時代には空手の達人として、党要人の警護を務め、共産党崩壊後は警備会社を作って財をなした。その後、首都ソフィアの市長に当選し、さらには首相に上り詰めた特異な経歴の持ち主だ。

ボリソフ首相とブルガリア・マフィアとの緊密な関係は幅広く知られているが、11年11月には、この関係が政界進出の前にさかのぼることが、裁判証言で明らかになった。マフィアの警護担当者だった男によると、警備会社社長だったボリソフを内務省高官に送り込むため、ボスたちが金集めの相談をしたという。ボリソフの出世はまさにマフィアの工作だったというわけだ。あるブルガリアの政治家が「この国にマフィアがいるのではなく、マフィアがこの国を所有しているのだ」と語った通り、首相も政府高官もマフィアの手先でしかないことを示す話だった。

西欧諸国は今になってブルガリアの(EU)加盟を認めたことを悔やみ、同国の国境検問の撤廃を先送りにするなど、ブルガリアを「保護観察下」に置いているが、これは後の祭り。現状でもバルカン・マフィアの跳梁に手を焼いているのだから、旧ユーゴ諸国のEU加盟に道をつければ、苦しむのは西欧諸国だ。「EU拡大は西欧の利益」との判断が、いかに浅慮だったかを思い知ることになるだろう。”【同上】

経済状況は政策次第で改善もできますが、長期的には政治構造の根幹が変わらない限り社会の改善は期待できません。「他人のコーヒー先払い」ではなかなか・・・。

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