孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

温暖化の「恩恵」を受けるグリーンランド  自治政府が進める空港建設をめぐる米中のせめぎあい

2019-02-12 22:01:22 | 欧州情勢

(夕日を受けて輝くグリーンランドの首都ヌークの集合住宅【2月12日 WSJ】)

【「スイッチが入った」グリーンランド氷床融解 全部融解すれば海面は7m上昇】
北極圏に位置するグリーンランド(デンマーク領)の氷床が温暖化の影響でハイペースで融解していること関する記事はよく目にするところです。

将来的にグリーンランドの氷がすべて解けると、世界の海面が7m上昇するという指摘もあるようですから、日本を含む全世界に与えるその影響は破壊的に甚大です(一部の国は水没して姿を消してしまいます。日本も列島の地図の形が変わるかも。まあ、その前に人口減少で消滅しているかもしれませんが)。

今日は、温暖化自体がテーマではありませんので、「スイッチが入った」最近のグリーンランド氷床の状況に関する記事をひとつだけ。

****未曾有のペースで進む グリーンランド氷床融解****
氷床コアから解析、過去350年間でもありえない速度で融解

2012年7月、北極圏で異例の高温が数日にわたって続き、グリーンランドの氷床(地表を覆う氷の塊で規模の大きいもの)のほぼ全面が解けだした。
 
氷床の端に積もった雪の上には、真っ青な水たまりができた。水たまりはやがて小川となり、溝や割れ目を勢いよく流れ出す。ある川は増水し、古くからある橋が押し流された。2012年、氷床からあふれ出した水は、地球の海面を1ミリ以上上昇させた。
 
当時、このことがいかに異例で、いかに憂慮すべきかを正確に知る者はいなかった。しかし、最新の研究で、2012年の暑い夏は、グリーンランドからの雪解け水の増加し続けた20年間でも未曾有の出来事であったことがわかった。

しかも、この間、気温上昇より速いペースで氷床の融解が進んでいた。そして、今も温暖化は止まらない。

米ローワン大学の研究者ルーク・トラセル氏は、「過去350年間で一番の氷床融解です。融解の期間も、過去起きた期間よりもはるかに長いと考えられます」と説明する。トラセル氏は2018年12月5日付け科学誌「Nature」に発表された論文の主執筆者だ。
 
融解の影響は、決して抽象的なものではない。グリーンランドの氷床は厚さが1.6キロもある。すべての氷床が解けたら、地球の海面は7メートルも上昇するほど大量の氷だ。


極地で融解が起きると、沿岸部に暮らす人々はもちろん、輸出入が盛んな港が使えなくなれば大きな影響は免れない、と科学者たちは警告している。

「スイッチが入った」
科学者たちの間では、グリーンランドの氷床が速いペースで解けていることは既知の事実だった。氷床の面積が縮小していることは、人工衛星からの画像で確認できていたからだ。

ただ、人工衛星の画像データを遡れるのは1990年代前半までだ。このため、氷の融解がどれほど憂慮すべきかを正確に知ることは難しかった。

これほど急速に温暖化が進むことが過去にもあったのか? 人間の活動による地球温暖化が本格化する前と比べて、融解スピードが異常なものと言い切れる情報がなかったのだ。

そこで、トラセル氏らは氷床そのものを調べることにした。氷床コアには、過去数百年分の融解の記録が残されている。そこで、トラセル氏らはグリーンランドの様々な地点から氷床コアを採取。それらをシミュレーション・モデルと比較し、氷床の融解に起因する雪解け水の流出量を計算した。
 
こうしてトラセル氏らは明確なシグナルを発見した。人間活動による気候変動が初めて北極圏を直撃したのは産業革命後の19世紀半ば、氷床の融解と雪解け水の流出がゆっくり増え始めたというシグナルだ。

しかし、劇的な変化が起きるのはこの20年のこと。突然、氷床の融解が激しくなり、産業革命前の6倍近くに達したのだ。

「まさにスイッチが入ったような感じです」と、雪氷学を専門とする米バッファロー大学のビータ・クサソ氏は第三者の立場で表現している。

「汚れた氷の塊」が融解を加速する

気温が上昇するペースに比べて、氷床の融解がより速いペースで進んでいることもわかった。原因は、解けた部分の氷の色の変化だった。

「真っ白なフワフワの雪を思い浮かべてください。一度解けると、空気中のチリなどで汚れますよね。つまり汚れた氷の塊に変わります」とトラセル氏は説明する。

氷床が解けて汚れると、真っ白な雪より太陽の熱を吸収しやすくなる。こうして融解が加速していく。「気温に変化がなくても、融解が止まらなくなるのです」。

北極圏は、地球の中でも急速に気温が上昇している場所だ。このことを考えると、氷床の融解は良い兆候とは言えない。
 
米メイン大学で氷河の研究を行うエリン・エンダーリン氏は第三者の立場で、「今私たちが目撃しているのは前代未聞の出来事です。融解が激しくなっている原因は地球温暖化で、温暖化の原因は、人間が大気中に温室効果ガスを排出していることです」と警告する。「これが地球からのフィードバックであり、人間はそのつけを払うことができなくなっています。今のシステムでは変化に対応できません」【2018年12月8日 NATIONAL GEOGRAPHIC】
******************

【地下資源利用・農業・漁業・観光で経済活性化するグリーンランド】
ただ、全世界に破壊的な影響を与えるグリーンランド氷床融解ですが、グリーンランド自身にとっては氷に覆われた不毛の島からの脱却でもあり、大きな変化をもたらすチャンスでもあります。
(2016年9月23日ブログ“グリーンランド  地球温暖化の「恩恵」で、将来的には独立も”など)

****温暖化によって発展するグリーンランド~これだけの理由****
黒木瞳がパーソナリティを務める番組「あさナビ」(ニッポン放送)に、株式会社ザ・スリービー代表取締役の石田和靖が出演。注目する新興国としてグリーンランドの将来性について語った。

黒木)今週のゲストは株式会社ザ・スリービー代表取締役の石田和靖さんです。海外の経済やビジネスに詳しい石田さんにいろいろと伺っていますが、石田さんが経済的に注目している新興国はどこになりますか?
石田)面白いなと思うのはグリーンランドです。

黒木)どういったところでしょうか?
石田)グリーンランドは2035年にデンマークから独立します。これはほぼ合意が決まっています。

グリーンランドはデンマークの領土なのです。グリーンランド自治政府というのがあって、いまデンマーク政府と話し合っています。

グリーンランドはいままで経済的な自立ができなかったから、デンマーク政府が毎年500億円くらい払って成り立っている島でした。

でもそれが気候変動で氷が融けて資源が採掘できるようになって、その資源は石油、天然ガス、レアメタル、レアアースなどいろいろなものが発見されています。

もう1つはグリーンランド海峡の温度が上がっています。そうすると、メキシコ湾で産卵されたクロマグロがずっと北に上って来ていて、グリーンランドでマグロが釣れる。ツナ缶の加工工場や、中国が投資をしていろいろな食品加工会社ができるようになりました。そして農業です。

黒木)農業もできるのですね!
石田)気候変動で。ジャガイモとか、北海道の寒い地域でも取れるような野菜が採取できるようになりました。

4つ目が、観光です。黒木さんみたいにあちこちに行かれている方は、次にどこ行へこうかなって考えたら、もう最終的にはグリーンランドみたいなところになってしまいます。(中略)

夏場しか観光客が来られないところなので、夏場の飛行機は満席です。僕らもようやくチケットが取れて、夏場に1日だけ行きました。(中略)

黒木)温暖化でいろいろな問題もありますが、グリーンランドはこれから発展していく国に変わるわけですね。
石田)北極海の氷の融け方が早いので、今度はアジアとヨーロッパを繋ぐ航路に北極海航路というものができるのですよ。

いまは日本からヨーロッパと言ったら、シンガポールを通ってスリランカやインドなど南の方を回って、スエズ運河を通って地中海でヨーロッパでしょう。

黒木)地図で言うと上を行けるんだ。
石田)氷が融けると通年運航といって、1年間通じて運行できるようになります。ロシアのプーチンさんが、2020年までに北極海航路を国際航路にすると宣言しています。そうなると距離が南回りの4割削減なのですよ。燃料も4割削減されます。

黒木)そっちに行きますよね。
石田)二酸化炭素の排出量も減るということで。そうなって来たときに、シンガポールのような寄港地が必要じゃないですか。その立ち位置を狙っているのがグリーンランドです。

黒木)なるほど。
石田)ヨーロッパ側の入り口、出口。世界中の氷河って、1日で2メートル動くのですね。グリーンランドは1日に20メートル動くのです。

グリーンランドの氷河が融けると地球の海水面は7メートル上がります。それだけグリーンランドの氷はものすごい勢いで融けています。僕らが生きているうちにそれが起きることはないだろうけれど……。【1月17日 ニッポン放送】
*******************

【氷床融解で大量の土砂が海中に 砂利輸出の恩恵も】
グリーンランドの地下に“石油、天然ガス、レアメタル、レアアースなどいろいろなもの”が存在していることは上記のとおりですが、グリーンランドの土地そのもの、というか“砂”も大きな経済価値があるようです。

****氷床融解進むグリーンランド、砂輸出で経済活性化も=研究論文****
地球温暖化で広大な氷床が融けて大量の土砂が海中に流出しているグリーンランドについて、建設業界で広く使用されている砂や砂利を採掘し輸出することで経済活性化につなげられる可能性があるとの研究論文が、科学誌ネイチャーに掲載された。実現すれば、気候変動の産物としては異例の「恩恵」になる。

グリーンランドはデンマーク領で、自治権が拡大されてきたが、経済はデンマーク政府の補助金に大きく依存している。

デンマークと米国の科学者チームによる論文は、グリーンランドは「砂を採掘することにより、気候変動に伴う難題から恩恵を受けられる可能性がある」と指摘。一方で、沿岸部の採掘については特に漁業へのリスクを評価する必要があるとした。

グリーンランドの氷床は地球の気温上昇でとけ続けており、すべてとけると世界全体で海面が約7メートル上昇するとされる。また、氷床の融解により、フィヨルドへの土砂の流出も続いている。

2017年における世界の砂需要は約95億5000万トンで、市場価値は995億ドル。2100年には、需要増に加えて供給不足が予想されることから、価値は約4810億ドル近くに達するとみられている。

グリーンランドは欧米の市場から遠距離に位置することが難点との指摘がある一方、同論文の筆頭著者である米コロラド大学極地・高山研究所のメッテ・ベンディクセン氏は、砂はすでに、バンクーバーからロサンゼルスへ、あるいはオーストラリアからドバイへなど長距離を輸送されていると説明した。

研究では、将来的に、グリーンランドの氷床融解を含む現象に伴う海面上昇でリスクにさらされる砂浜や海岸線の補強に砂や砂利が使用される可能性も指摘された。【2月12日 ロイター】
******************

グリーンランド氷床融解による海面上昇に対し、そのグリーンランドから押し出される砂・砂利を使用する・・・奇妙な話です。

砂利に大きな経済的価値があることは、アジア各地の川を船で旅行すると、あちこちで砂利採取していることからもわかります。メコン川など違法採取が大きな問題にもなっています。

そうした環境面への影響だけでなく、氷床の融解が土砂を押し流すということは、冒頭【NATIONAL GEOGRAPHIC】にある「汚れた氷の塊」の問題を加速させそうにも思えます。

【空港建設を巡って米中対立の最前線にも】
上記【1月17日 ニッポン放送】にもある、今後が期待されている北極航路の寄港地としてのグリーンランドですが、これまでデンマーク政府が相手にしなかった空港建設に例によって中国が進出しそうだということで、米中対立の最前線ともなっています。

****中国の野望を阻止、北極圏めぐる攻防の舞台裏****
米国防総省は昨年、北極圏に位置するグリーンランドの空港建設計画に警鐘を鳴らした。中国が計画への融資に関心を示しているというのだ。中国がカナダ沖に軍事拠点を持つことになるかもしれない。
 
2017年、グリーンランドの首相は中国を訪問し、3つの民間空港を建設するための融資を複数の国営銀行に要請した。会合に出席した関係者によると、銀行側は中国企業が建設する条件で融資に関心を示したという。
 
昨年初めにこの話を聞いた当時のジム・マティス米国防長官はデンマークを訪問。グリーンランドはデンマークの自治領だが、デンマーク政府は空港建設への融資に消極的だった。
 
関係者によると、マティス氏は5月、ワシントンでデンマークのクラウス・フレデリクセン国防相と会談し、中国にこの地域の軍事化を許してはならないと伝えた。
 
中国が世界各地で次々と建設に乗り出しても、米国と欧州はこれまで傍観していることが多かった。中国の銀行は世界との新たなつながりを求め、道路や鉄道、パイプライン、発電所など何百というプロジェクトに融資を行い、そのほとんどは中国企業が建設を引き受けている。
 
欧米政府はリスクある海外インフラに融資することに消極的だった。しかしインフラ建設で中国から融資を受けた国が財政難に陥り、地政学的な影響が表面化すると、その態度に変化が起き始めた。
 
スリランカがその一つだ。同国は中国から融資を受けたものの利子が支払えず、インド洋の主要海上交通路に近い港を99年間、中国企業に貸与した。
 
慌てた米国は代わりの融資を提案するため同盟国と手を組み始めている。米国などからの融資額は中国の計画と比べるとまだ少ないが、7月には米国、日本、オーストラリアがインド太平洋地域のインフラ整備への投資で連携すると発表した。10月には欧州連合(EU)も同様の計画を発表した。
 
空港建設計画の事業費は5億5500万ドル(約612億円)。国防総省関係者は、財政支援に頼るグリーンランド自治政府が融資の返済に苦労する可能性があるとの懸念を示した。

米国はグリーランドにミサイルを追跡するための空軍基地を設置している。返済が何度か滞れば、中国が滑走路を取得するかもしれない。滑走路があれば戦闘機が離発着できる。北極圏の氷が解けて利用が可能になる新たな海上交通路や資源もグリーンランドに拠点があれば利用しやすい。
 
数カ月後、空港問題で自治政府が倒れ、米国とデンマークの政府高官が立て続けに訪問すると、グリーンランドは首都ヌークの新空港と別の空港をデンマーク政府が保証する借入金で建設すると発表した。3つ目の空港はグリーンランドが資金を出すことになり、中国の参加は予定されていない。
 
米国防総省はグリーンランドの空港インフラに異例の資金協力を申し出ている。
 
米国の政府関係者はグリーンランドのケースについて、世界を目指す中国の野望に対抗する一つのモデルと考えている。中国の台頭で米国の影響力を脅かされつつある地域に対し、同盟国に呼び掛けて関与するというやり方だ。
 
国防総省高官は「このような問題が起きると同盟関係の力が分かる」と語る。
 
中国外務省は空港建設計画についてのコメントの要請には応じなかったが、声明の中でグリーンランド、デンマークとは良好な関係にあると述べた。また、中国政府は国内企業に北極圏の開発を支援するよう奨励しているとも述べた。(後略)【2月12日 WSJ】
*******************

デンマーク政府はそれまでの冷淡な対応を一変し、アメリカに促される形で、中国の進出を阻止するため破格な条件を提示したようです。
「国家安全保障への投資、デンマークが米国と良好な関係を保つための投資だ」(デンマーク海軍の元トップで北極圏の安全保障問題の専門家のニルス・ワング氏)

ただ、“平和主義者らはかつて核ミサイル基地の建設に秘密裡に着手した米軍を今でも信用できないと言い、多くの議員はデンマークの影響力を嫌った。”【同上】というように、“欧米が再び影響力を強めることをグリーンランドの誰もが歓迎しているわけではない”【同上】とも。

いずれにしても、これから大きく変容することが予想されるグリーンランドですが、そのことは温暖化の侵攻とも表裏一体の現象です。


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« アフガニスタン やっとつか... | トップ | ファーウェイ・5G通信網をめ... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

欧州情勢」カテゴリの最新記事