(アフガニスタンの首都カブールにある飲食店で働く女性たち(2019年1月30日撮影)【2月6日 AFP】)
【アフガン和平でもアメリカに対抗して主導権を狙うロシア】
アフガニスタンについては、タリバンとアメリカの協議が行われる一方で、ロシアが主導する和平会合もモスクワで開催され、ロシアはアメリカに対抗する形で和平協議の主導権を握り、今後のアフガニスタンにおける影響力確保を目指しています。タリバンの方はアメリカをけん制する狙いでしょう。
****アフガン、米ロ主導権争い ロシアで和平会合 タリバーン参加****
紛争が続くアフガニスタンの和平に向けた国際会合が5日、モスクワで始まった。6日までの予定で、アフガニスタン政界の重鎮らと反政府勢力タリバーンが席を並べる初の機会となる。
仲介役のロシアには、タリバーンとの協議を進展させている米国を牽制(けんせい)しつつ、和平の主導権を握りたい思惑がある。
会合にはタリバーン代表団約10人が出席したほか、アフガニスタンのカルザイ前大統領ら大物政治家30人余りが招かれた。イランやパキスタン、中央アジア諸国などのアフガニスタン移民も参加した。
タリバーンは会合の冒頭で「問題は話し合いで解決できる。米軍が撤退しても権力を独占するつもりはない」と語り、国内各派との和解を進める意向を示した。
ただ、参加したアフガニスタンの政治家は、いずれもガニ大統領率いる現政権に批判的な勢力だ。ガニ氏が再選を目指す7月予定の大統領選を前に、タリバーンとの和平の枠組みに加わることで、対抗勢力としての存在感を内外に示す好機と捉えている。
米国が後押しするガニ政権は参加を見合わせた。米国とタリバーンが1月下旬、アフガン駐留米軍を完全撤退する方針で大筋合意しており、ガニ政権との対話の進め方についても米国主導で調整が始まっているためだ。
シリア情勢や中距離核戦力(INF)全廃条約などをめぐり対立する米ロがアフガン和平でもつばぜり合いを演じている形で、ガニ政権幹部は「タリバーンとの交渉にあたっては各勢力が団結しなければならない」と、ロシアの介入に警戒感を示している。
一方、ロシア外務省は「アフガニスタン人主導で、国際社会も認める和平プロセスを実現する」と強調する。モスクワでタリバーンが参加する会合が開かれるのは昨年11月に続いて2回目。独自の枠組みに多くの勢力を巻き込んで、地域への影響力を保ちたい思惑がのぞく。
アフガニスタンは、ロシアにとって戦略的に重要な位置にある。ロシアの「裏庭」とも言える中央アジアに隣接していて、アフガニスタン情勢は地域全体の安定に直接的な影響を持つ。
特にアフガニスタン東部に拠点を持つ過激派組織「イスラム国」(IS)の流入などにロシアは警戒を強めている。まして米国がさらに影響力を強める事態は避けたいシナリオだ。
ロシアはソ連時代の1979年、アフガニスタンに軍事侵攻した。社会主義を掲げるアフガニスタンの親ソ連政権を支援する名目だったが、米国などが支援したイスラム勢力の激しい抵抗で戦闘は泥沼化し、89年に撤退。権力の空白を突いてパキスタンが支援したタリバーン旧政権、次いで米国が後ろ盾になったカルザイ政権が誕生し、ロシアの影響力は小さくなっていた。(後略)【2月5日 朝日】
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【「権力を独占するつもりはない」とは言うものの・・・】
会議の内容として注目されるのは、タリバンの「権力を独占するつもりはない」という柔軟・協調的姿勢のアピールです。
参加メンバーの面では、アフガニスタン政府(ガニ政権)の不在が目につきます。
****タリバーン「権力独占しない」 和平会合で共同声明 アフガン政府は反発****
アフガニスタンの和平に向けてロシアが仲介して首都モスクワで6日まで開かれた国際会合で、アフガン反政府勢力タリバーンが初めて公式に「権力を独占するつもりはない」と表明した。
仮に政権を握っても、2001年に米軍の攻撃を受けて崩壊したタリバーン政権時代の圧制には戻らないと宣言した形で、和平を前進させたいタリバーンの姿勢が明確になった。
5日から始まった会合でのタリバーン代表の発言を受け、6日に出された共同声明には、多民族国家のアフガニスタンで「全民族が参画する政府」を尊重し、「国民の結束」を目指すとの文言が盛り込まれた。
今回の会合には、最大民族パシュトゥンが主体のタリバーンのほか、パシュトゥンのカルザイ前大統領、タジクやハザラなど他の主要民族を代表する政治家らが出席した。
タリバーンは会合で「権力を独占するつもりはなく、全ての勢力と協議して統治システムを確立したい」と表明した。
タリバーンは政権の座にあった1990年代、少数派の民族を迫害したり女性の人権を制限したりする抑圧政策で批判を浴び、それがいまも国際社会の不信感につながっている。
タリバーン幹部は朝日新聞の取材に「外国から支援を得るためにも強硬姿勢を貫くことは賢明でない」と語る。
6日の共同声明にはタリバーンの主張を受けて、イスラム教を重んじる統治システムの採用やタリバーン幹部の制裁解除、収監中の年老いたタリバーン構成員の釈放などを目指すことも加えられた。近く中東カタールで再会合を開くことも明記された。
一方、アフガニスタンのガニ大統領率いる現政権は会合に参加しなかった。ガニ政権の後ろ盾となってきた米主導の和平の枠組みを優先するためだ。
ガニ氏は今回の会合のさなか、公式ツイッターで「ポンペオ米国務長官と電話会談し、連携を確かめた」と発信。地元テレビのインタビューで「モスクワで誰が何を決めようと現政権の了解なしでは紙切れ同然」と語った。
アフガニスタンでは7月に大統領選が予定されている。モスクワでの会合でタリバーンとの協議にこぎ着けた政界の重鎮たちは、いずれもガニ氏の再選阻止を狙う勢力だ。ガニ氏だけが取り残された形で、今後は米国がタリバーンとガニ氏を引き合わせられるかが課題になる。【2月8日 朝日】
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タリバンの旧政権時代の圧制には戻らないというアピール・・・どうでしょうか?
そうであることを期待しますが、全面的には信用できません。そのたりの話は、またあとで。
【7月20日に予定される大統領選】
参加メンバーにカルザイ前大統領・・・・久しぶりに名前を目にしましたが、7月20日に予定されている大統領選挙には、どのようなスタンスで臨むつもりでしょうか。
****アフガニスタン大統領選18候補、選管が発表****
アフガニスタンの選挙管理委員会は5日、7月20日に予定される大統領選で、資格審査を通った候補者18人を発表した。現職のガニ大統領や首相格のアブドラ行政長官の他、現政権への批判を強める有力者が認められ、混戦が予想される。
最大の争点は治安だ。最大民族パシュトゥン系のガニ大統領は、治安分野に国家予算の約6割を注いできたがテロは収まらず、野党から批判を浴びている。
対抗馬として有力な第2民族タジク系のアブドラ氏は、ガニ氏との利権争いで政治停滞を招き、支持母体のタジク系勢力の一部が離反。第4民族ウズベク系の支持を得て、態勢の立て直しを図っている。
ガニ氏の前顧問で安全保障分野に明るいアトマル元内相も有力候補の一人だ。
過半数を得る候補がいない場合は、上位2人の決選投票となる。【2月7日 朝日】
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大統領選挙はともかくとして、8年ぶりとなった昨年10月の下院選挙は、有権者登録に利用される身分証が偽造されたケースが相次いで報告され、「投票で不正があった」との申し出が相次ぎ、いまだに結果の確定に至っていません。
そうした事情で、大統領選挙も4月の予定が7月に延期されています。
いまだに確定しないということは、要するに選挙が成立しなかったということでしょう。ガニ政権は選挙実施で統治能力をアピールしようとしましたが、結果裏目に、統治能力のなさを明らかにする形になっています。
大統領選挙が延期された背景には、アメリカの意向もあるとか。
“米国は昨年夏以降、2015年以来、途絶えている和平交渉再開への地ならしのため、タリバン代表団と複数回会談している。タリバンとの対話を優先させたい米国が、政治的空白や混乱を生みかねない大統領選の延期を求めたとみられる。”【1月15日 産経】
【アメリカ「合意は7月の大統領選前が望ましい」】
で、そのアメリカ・トランプ政権が進める、米軍撤収で大筋合意したタリバンとの協議です。
****アフガン和平 見通せない米軍撤収 タリバンとアルカイダの関係断絶に壁****
開戦から18年目に入り、米国史上最長の戦争の舞台となっているアフガニスタンで、トランプ政権と旧支配勢力タリバンが駐留米軍の完全撤収を目指すことで大筋合意し、和平を目指す動きが加速している。
だが、米側が撤収条件とするタリバンと国際テロ組織アルカイダとの関係断絶など、容易には越えられない壁もある。双方は今月25日に再協議を予定するが、進展するかは見通せない。(後略)【2月4日 毎日】
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アメリカ側は、7月のアフガニスタン大統領選挙前の合意が望ましいとしています。
“望ましい”のはわかりますが、問題はそんなに簡単に進むのか・・・というところです。また、競技から外されているガニ政権の立場はどうなっているのか・・・という問題もあります。
****アフガン和平合意、7月の大統領選前が望ましい 米特別代表 タリバンに不信感も****
米国のザルメイ・ハリルザドアフガニスタン和平担当特別代表は8日、アフガンで7月に予定されている大統領選前に和平合意を結ぶことが望ましいとの見解を示す一方、長きにわたって敵対していた旧支配勢力タリバンを信用していないと警戒感を示した。
ここ数週間タリバンと協議してきたハリルザド氏は、米軍の撤退は現場の状況次第となり、詳細なスケジュールは何も決まっていないとも強調した。
ドナルド・トランプ米大統領が多数の民間人と軍人が死亡したアフガン紛争の終結を急ぐ中、タリバンとの交渉が進められている。アフガンには今も、約1万4000人の米兵が駐留している。
ハリルザド氏は、米首都ワシントンにあるシンクタンク「米国平和研究所」で行った講演で、「われわれの立場からすると、和平合意のタイミングは早ければ早いほど良い」「和平合意の締結をとりわけ困難にする選挙が行われる。しかし、選挙前に和平合意に至ることができるならば、アフガニスタンにとってその方が良い」との見方を示した。
アフガニスタンの大統領選は当初は4月20日に予定されていたが、和平協議が行われる中、3か月延期された。不正疑惑で混乱した2014年の大統領選で当選したアシュラフ・ガニ大統領は、再選を目指している。
ハリルザド氏は先週、和平合意の「枠組みの草案」を発表する一方、大きな障害が残っていると警告していた。
タリバンが米国の「操り人形」とみなすアフガン政府が参加していないなどの数多くの理由から、和平協議には懐疑的な見方も出ている。
ハリルザド氏は、タリバンとアフガン政府が「テーブルを挟んで向かい合い、合意に達しなければならない」と述べ、米国の「重要な目標」はアフガン国内の交渉だと指摘した。
また、タリバンは外国の過激派をかくまわないと約束してきたが、専門家によると、今もそうした過激派の潜伏を支援しており、信用できないという。 【2月9日 AFP】
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タリバンから当事者扱いをされておらず、自国政府が参加しない場で国の将来が話し合われるという現状に、ガニ政権には苛立ちがあると思われますが、タリバンの政治事務所の開設を許可することで、タリバンとの和平協議にかかわっていこうとする譲歩を示しています。
****事務所開設許可、アフガンが提案 タリバーンに譲歩****
アフガニスタンのガニ大統領は10日、反政府勢力タリバーンに対し、「政治事務所の開設を許可してもいい」と呼びかけた。アフガニスタン政府が反政府勢力に事務所開設を認めるのは異例。政府側から譲歩する姿勢を示すことで、現在は政府との交渉を拒んでいるタリバーンとの和平協議につなげる狙いとみられる。
大統領府によると、ガニ氏は同日、東部ナンガルハル州で演説し、「(首都)カブールか(タリバーンの本拠・南部)カンダハル、もしくは(東部の要衝)ナンガルハルに、タリバーンが事務所を開く場所を提供する用意がある。安全も保証する」と語った。
タリバーンが事務所を開設すれば、隣国パキスタンに潜伏する幹部が事務所を拠点に活動し、政府高官らと接触しやすくなる可能性がある。【2月11日 朝日】
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【旧政権時代のタリバンによる圧政が復活しないのか? 女性の権利は?】
アメリカ主導であれ、ロシア主導であれ、和平協議が進展することは歓迎すべきことですが、先述のようにタリバンの発言をどこまで信用できるのか・・・という基本的な不安がつきまといます。
“イスラム教を重んじる統治システムの採用”を目指しているとのことですが【前出 2月8日 朝日より】、そのことは、旧政権時代の“イスラム主義の強制、少数派民族の迫害、女性の人権否定”再現につながらないのか?
また、彼らの考える“イスラム”の中身がどのようなものなのかが問題です。
****アフガン女性、やっとつかんだ自由どうなる? タリバン復権に広がる懸念****
アフガニスタンの旧支配勢力タリバンが女性の権利に対する考えを改めたと見なすのは単純過ぎる──こう話すのは、首都カブールで飲食店を経営しているライラ・ハイダリさんだ。
ハイダリさんは、教育を受けた多くのアフガン女性と同様に、タリバンと米国との間でいかなる和平協定が結ばれようとも、これまでに苦労して手に入れてきた自由が奪われるのではないかと不安を抱いている。
タリバン政権はかつて、教育および労働の機会を女性に与えなかったが、米国主導の多国籍軍による侵攻を通じて政権が崩壊してからの約20年間で、そのような厳しい制約は徐々に緩和されていった。
「彼らが戻って来たら、女性たちは公共の場から出て行かなければならなくなる」と、ハイダリさんは自身の店でAFPの取材に語った。ここはカブールでも男女が一緒に食事ができる数少ない場所の一つだ。
ハイダリさんは仲間と一緒に、タリバンの権力に引き下がらないようアフガニスタンの女性に呼び掛ける運動「#metooafghanistan(ミートゥー・アフガニスタン)」を立ち上げた。
カタールで6日間の協議を終えた米国とタリバンは、アフガニスタン政府とタリバンとの和平協議を実現するための枠組みをめぐって大筋合意した。
是が非でもアフガニスタンからの完全撤退を目指す米国と、アフガニスタンの広大な地域を実効支配しているタリバン。そうした状況下での和平協定締結がもたらす今後の政権の姿は、現時点ではまだ不明瞭だ。
多くの女性たちが恐れているのは、タリバンの政権への参画だ。2001年に米国が侵攻するまで政権を握っていたタリバンは、5年近くアフガニスタンを統治し、厳格なシャリア(イスラム法)を適用した。
米国の推定では、現在カブールを拠点とする政府が統治しているのはアフガニスタン全体の3分の2足らずで、タリバンが支配していた地域では何も変わっていない。
■締め出しへの懸念
人権団体で女性の権利を専門としているヘザー・バー上級研究員は、アフガニスタン女性には「和平交渉のプロセスから締め出される」ことを憂慮する理由がいくらでもあると話し、これまでも大抵はそうだったと付け加えた。
「女性に対するタリバンの考え方は2001年以降、ほんの少し穏やかになったものの、今なお、アフガニスタン憲法で女性に保障されている平等の権利とはかけ離れている」
タリバンは1日、アフガニスタンで「イスラム体制の樹立」を目指すと宣言した。この中で、ザビフラ・ムジャヒド報道官は、女性が教育を受けることに同組織は反対していないと主張しているが、彼らが目指すイスラム体制がアフガニスタン女性の権利にどのような意味合いを持つかについては言葉を濁した。
国連によれば、アフガニスタンの800万人の児童・生徒のうち女子は250万人。下院では議席の4分の1以上が女性枠とされ、2016年には労働力人口の5分の1近くを女性が占めた。
タリバンを警戒するのは、何もカブールの女性だけではない。地方の女性にとってもこれは同様の不安要素だ。地方では識字率が2%に満たない所もあり、保守的な伝統に縛られて人権がないがしろにされることも少なくない。
■「女性たちは自分の権利をむざむざ奪われることを許しはしない」
それでも、過去20年でアフガニスタンは変化を遂げており、同国の女性らも自らの権利をむざむざ奪われることを許しはしないだろうと、女性人権活動家らはAFPの取材に語る。
「アフガニスタンの女性たちは以前より強くなった。知識と教養を身に付けている。1998年のアフガニスタンに戻ることに賛成する人は誰もいない。これは男性も同じだろう」と、女性と人権に関する議会委員会のフォージア・クーフィ委員長は主張する。
活動家のアティア・メフラバン氏もこの意見にうなずきながら、「平和のためなら何だって許されるわけじゃない」と語っている。 【2月6日 AFP】AFPBB News
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“同国の女性らも自らの権利をむざむざ奪われることを許しはしない”・・・・・そうであって欲しいですが、権力を手にした銃口の前では抵抗は困難です。イスラムを声高に叫ぶ勢力に抵抗するのも困難です。
“1998年のアフガニスタンに戻ることに賛成する人は誰もいない”・・・・・現在の腐敗した非効率的な政治から恩恵を受けていない人々には、タリバンのような勢力による「改革」に期待する声も一定にあるのではないでしょうか?
アメリカ・トランプ政権は、タリバンとの協議にあたって、このようなアフガニスタン女性の不安をどのように反映させているのでしょうか? とにかく泥沼からの撤退しか頭にない、あとは野となれ山となれ・・・では困ります。
アメリカが撤退したあとのアフガニスタン政府には、タリバンの圧力を押し返すような力はないでしょう。
いずれタリバンが完全支配するか、あるいは、かつてのような軍閥・民族が割拠した内戦状態になることが懸念されます。
もう何年も前になりますが、タリバン支配地域でタリバン系地方政府が女性教育に取り組んでいる、タリバンはかつてのタリバンではない・・・といった報道をめにしたこともありますが、そうしたタリバン支配地域での人々・女性の生活は実際のところどうなっているのでしょうか?
タリバンとの協議は、そうした現実を踏まえて進める必要があります。「7月の大統領選挙までに・・・」というのは、いささか前のめりに過ぎるように思えます。
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