孤帆の遠影碧空に尽き

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ジョージア  「反スパイ法」にLGBT規制 反ロシア感情の一方で深いロシアとの関係

2024-08-19 22:54:58 | 欧州情勢

(ジョージアの首都トビリシで5月、欧州連合(EU)加盟への悪影響を懸念し、「反スパイ法」に対する抗議デモを行った人々(ロイター)【8月19日 産経】)

【ロシア同様の「反スパイ法」成立】
ロシア系分離独立地域南オセチアとアブハジアを抱え、2008年にはロシアと戦火を交えたこともある旧ソ連のジョージア(以前の国名はグルジア)におけるロシアと同様の“「外国の代理人」に関する法案”強行採決の動向については5月24日ブログ“ジョージア ロシアに宥和的な与党 ロシア同様「外国の代理人(スパイ)」法案可決を強行”で取り上げました。

ジョージアにはロシアは戦火を交えるほどの反ロシア感情がある一方で、両国間には政治・経済・文化的な強いつながりもあるという複雑微妙な関係にありますが、現在の与党「ジョージアの夢」は、表向き“親欧米路線であり、EU加盟を目標とする”とされながらも、ウクライナ侵略後のロシアに融和的な政策をとっています。

問題となっている法案によれば、資金の20%以上を外国から得ている非政府機関、活動家集団、メディアは「外国の代理人」として登録することを求められます。ロシアにおいては、同様の法律により、多くの政治的な反対派が迫害され、メディア、人権団体が閉鎖に追い込まれています。

そのため、この法案は「反スパイ法」あるいは「ロシア法」とも呼ばれています。

その後の動きとしては、議会で強行採決された法案に大統領は拒否権を行使したものの、議会において拒否権は覆され、「反スパイ法」は成立しました。

****ジョージア、「反スパイ法」成立へ 議会が大統領の拒否権却下 欧米と関係悪化確実****
欧州連合(EU)加盟を目指す南カフカス地方の旧ソ連構成国、ジョージア(グルジア)の議会は28日、スパイ活動の抑止を名目とした「外国の影響の透明性に関する法案」に対してズラビシビリ大統領が発動した拒否権を却下することを賛成多数で議決した。タス通信が伝えた。

国民の大規模な抗議デモを引き起こし、EUや米国も反対してきた法案は成立が確実となった。欧米とジョージアの関係悪化は避けられない見通しだ。

議決を受け、法案は署名のためズラビシビリ氏に再び送付された。ただ、同氏が署名を再び拒否した場合でも、パプアシビリ議長の署名で法案は成立する。

首都トビリシでは28日、議決に抗議するデモが起きた。過去1カ月間以上にわたって断続的に起きたデモには計数十万人が参加し、少なくとも計数十人が当局に拘束されたとされる。

タス通信によると、EUのボレル外交安全保障上級代表や米国務省のミラー報道官は28日、議決を非難した。一方、ジョージアのコバヒゼ首相は「法案はジョージアのEU加盟の可能性を高める」と主張した。

法案は、外国から一定の資金提供を受けて活動する団体を事実上のスパイとみなして当局への財務報告を義務付け、違反した場合は罰金を科すとする内容。4月上旬にコバヒゼ政権の与党「ジョージアの夢」が議会に提出していた。

ただ、類似の法律「外国の代理人法」が施行されているロシアでは、プーチン政権が反体制派などを弾圧する道具として同法を活用。

このため、法案に反発するジョージア国民は「コバヒゼ政権がロシアのように法律を恣意(しい)的に運用し、政治弾圧に使う恐れがある」「EU加盟が遠のく」と主張し、抗議デモを続けてきた。EUや米国も「法案は人権侵害や言論弾圧につながる」として可決しないよう求めてきた。

しかし、コバヒゼ政権は「法案は外国勢力の活動を監視するために必要だ」と主張し、今月14日に法案を可決。法案に反対するズラビシビリ氏が18日に拒否権を発動していた。【5月29日 産経】
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6月3日、大統領に代わってパプアシビリ議長が法案に署名し、成立しました。

【ロシアと西側の間でねじれたジョージアの立ち位置 ロシアの影 欧米の圧力】
同法案及び最近の与党の対ロシア宥和路線の背後には、与党の黒幕ジナ・イワニシビリ氏の思惑、さらにその背後にはロシア・プーチン大統領の存在があります。

プーチン大統領は03年のジョージアのバラ革命、04年のウクライナのオレンジ革命によって、国境を接する隣国において民衆の街頭行動によって政権が倒され、親西欧の政権が誕生したことに深刻な危機感を抱いており、ウクライナ及びジョージアをNATOなど西側勢力圏に参加させないことを基本戦略としています。ウクライナ軍事進攻もこの戦略に沿ったものです。

****ジョージアはロシアに飲み込まれるのか****
<ロシアとジョージアの関係は、いろいろなことがねじれていて一筋縄ではいかない>

カフカス地方のジョージア(グルジア)で、親ロシアの与党「ジョージアの夢」が、「外国の代理人」法案を採択。親EUの野党「統一国民運動」などが抗議している。

外国から資金を得ている政治団体は当局に届け「外国の代理人」を名乗れ、という趣旨のロビイスト規制法はアメリカにもある。だがロシアは同種の法律を反体制派に圧力をかけるために使っている。「ジョージアもそうだ。10月の総選挙で野党を弾圧する布石だ」というのが、野党の言い分だ。

「統一国民運動」の黒幕は元大統領のミハイル・サーカシビリ。NATO加盟を策して2008年8月、ロシア軍侵入を招き、その後国外に追い出された人物である。21年にジョージアに帰国して当局に拘束され、現在も収監されている。すわ、西側は、彼を復帰させ、この国がロシアにのみ込まれるのを止めようとするのか?

しかし事態はそれほど単純ではない。まず与党「ジョージアの夢」の黒幕、ビジナ・イワニシビリは、イデオロギーより権力と利権に忠実な男。

1991年のソ連崩壊後、ジョージアでは内戦など混乱が続いたが、イワニシビリは10年頃、にわかに台頭。ジョージアのGDPの半分相当とも噂された資産で「ジョージアの夢」を立ち上げ、12年に議会多数を獲得すると、自ら首相に納まった(今は国外にいる)。

彼は当初ロシア寄りと目されていたのだが、08年に武力侵攻したロシアにアブハジア、南オセチア両地方を押さえられ、国民の反ロ機運が支配的という状況下、EUと連合協定を結び、アメリカと共同軍事演習を繰り返すなど、親西側の姿勢を取った。

ロシアとも西側とも関係が必要
しかしジョージアは、ロシアと政治・経済・文化的に深く結び付いている。ジョージア出身のスターリンは言うに及ばず、モスクワで活躍した人物は多い。ロシア在住のジョージア人の仕送りは多く、ワインなどの特産物もロシアが主な輸出先だった。

「ジョージアの夢」は20年頃、ロシアとの関係改善を模索し始める。22年、ウクライナ戦争が始まり、西側がロシアを制裁すると、西側製品はジョージア経由でロシアに輸出されるようになった。

同年9月にプーチンが部分動員令を発すると、100万を超えるロシア人青年が兵役逃れでジョージアに移動。20億ドル以上の資金をもたらした。ジョージア政府はロシアとの直行便再開を策し、西側にねじ込まれる騒ぎとなる。

しかし、ロシアと関係を正常化(平和条約の締結)しようとしても、ロシアがジョージアから分離させようとしているアブハジア、南オセチアの扱いが問題となる。ジョージアをめぐっては、いろいろなことがねじれていて、一筋縄ではいかない。

ジョージアは昔からペルシャ、トルコ、ロシアのはざまで、もまれにもまれてきた。1783年にロシアの保護国となって以来、ロシア帝国に組み込まれたが、現在はアメリカ、EUもジョージアをめぐるパワーゲームに加わっている。

ロシアとイラン、ロシアとアルメニアの交通には不可欠の存在である一方、現在はアゼルバイジャンからジョージアを通ってトルコに抜ける鉄道、原油パイプラインが、西側と中央アジアを結ぶ重要な輸送路にもなっている。


つまり、ジョージアの人たちの生活のためには、ロシア、西側双方との関係が必要なのだ。民主主義の旗を振らせて権力を奪取させるだけでは無責任。民間投資、製品の輸入、出稼ぎ受け入れなど、よほど頑張らないといけない。

そして、ジョージアが民主化しても、アメリカやEUで民主主義が損なわれかねない今の状況は、笑い話にもならない。【6月15日 河東哲夫氏 Newsweek】
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欧米側はジョージアのEU加盟手続きを停止し、資金援助も停止するなどジョージアへの圧力を強めています。

****ジョージアの加盟手続き停止も=外国スパイ法成立で―EU首脳****
欧州連合(EU)加盟国首脳は27日、EU加盟候補国で旧ソ連構成国ジョージア(グルジア)の加盟プロセスが「事実上停止されかねない」と表明した。

同国で、外国から資金提供を受けるNGOなどを実質的に「スパイ」と見なす法律が成立したことが、EUの「価値観と原則」に抵触する恐れがあるとして、撤回を求めた。

EUは首脳会議の採択文書で、ジョージアが「加盟への道を危うくしている」と指摘。外国スパイ法の「意図を明確に」するよう求めた。

ジョージアはロシアによる2022年2月のウクライナ侵攻直後にEU加盟を申請し、昨年12月に加盟候補国と認められた。今年5月、ロシアに融和的な与党の主導で外国スパイ法案を可決。親欧米派のズラビシビリ大統領が拒否権を発動したものの、再可決され同法が成立した。【6月28日 時事】 
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****米、ジョージアへの1億ドル弱の援助停止 外国スパイ法巡り****
米国は、旧ソ連構成国ジョージアに対する9500万ドル超の援助を停止する。両国関係は、米当局が反民主主義的と見なすジョージアの「外国スパイ法」を巡って悪化しており、米の援助停止で拍車が掛かりそうだ。

ブリンケン米国務長官は31日、援助停止について、ビザ制限とともに5月に公表した2国間協力の見直しの結果だと説明した。(中略)

同法を巡っては、ジョージア国内や西側諸国から、反対意見を抑え込むためにロシアが導入した同様の法律に触発されてつくられたとの批判が出ている。ロシアに融和的な与党「ジョージアの夢」は、国家の主権を守るために必要だと主張している。【8月1日 ロイター】
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【10月の議会選を睨んで「反リベラル」政策を推し進めるコバヒゼ政権】
上記のような欧米の圧力がかかるなかでも、ジョージア・コバヒゼ政権は「反スパイ法」だけでなくLGBTなど性的少数者の抑圧といった「反リベラル」政策を推し進めており、欧米との関係が悪化しています。

コバヒゼ政権のこうした「反リベラル」政策の背景には、10月に予定されている議会選があると観られています。

****ジョージアで「反リベラル」化進む 「ロシア法」成立、LGBT抑圧でEU加盟が暗礁に****
欧州連合(EU)加盟を目指してきた南カフカス地方の旧ソ連構成国、ジョージア(グルジア)が言論統制の強化やLGBTなど性的少数者の抑圧といった「反リベラル」政策を推し進め、欧米との関係を悪化させている。

EUは6月末、ジョージアの動きを批判し、加盟手続きと財政支援の一時停止を発表。米国もジョージア高官らに制裁を科し、合同軍事演習を無期延期した。ジョージアのEU入りは暗礁に乗り上げつつある。

「反スパイ法」で国内外から反発
ジョージアは昨年12月、EUから「加盟候補国」の地位を与えられた。そのジョージアの反リベラル化を示した第1の事例は、コバヒゼ政権が今年6月、国外から資金提供を受ける団体やメディアをスパイ扱いして規制する法律を成立させたことだ。(中略)

EU加盟手続きは一時停止に
これに欧米は反発した。欧州メディアによると、EUのヘルチンスキ駐ジョージア大使は6月下旬、反スパイ法の制定を理由に「EUはジョージアの加盟手続きを一時停止した」と発表。EUはジョージアへの3000万ユーロ(約50億円)の財政支援も凍結した。

米国もジョージア政府高官や与党議員ら数十人を対象に、ビザ(査証)発給を制限する制裁を発動。さらに7月上旬には、下旬から予定されていたジョージアとの合同軍事演習の無期延期を発表した。

米国はこうした措置の理由について、「米国がジョージアでの政権転覆計画に関与した」とする虚偽の非難をジョージア政府が行ったためだと説明した。

LGBT規制にも突き進む政権
欧米との関係悪化にもかかわらず、コバヒゼ政権は反リベラル政策をさらに推し進める構えだ。

議会では6月下旬、政権与党「ジョージアの夢」の主導により、性的少数者の権利を制限するLGBT規制法案が第1読会(3段階審議の1段階目)で可決された。伝統的価値観と未成年者の保護が法案の名目とされている。

地元メディアによると、法案は、同性婚の禁止▽性的少数者による養子受け入れの禁止▽性別適合手術の禁止▽教育機関やメディアでのLGBTの宣伝の禁止−などを定め、違反すれば罰則を科すとする内容だ。

ロシアが類似のLGBT規制を進めていることを踏まえ、ジョージア国内でLGBT規制法案は反スパイ法に続く「第2のロシア法」と呼ばれているという。

EUはLGBT規制法案に関しても「人権尊重の理念に反する」とし、廃案にするようジョージアに求めている。しかし、コバヒゼ政権は9月にも法案を成立させる構えだと伝えられている。同法が成立すれば、ジョージアとEUのさらなる関係悪化は確実だ。

10月の議会選へ布石を打っているのか
EU加盟を掲げながらコバヒゼ政権が反リベラル政策を強硬に推し進める背景には、10月の議会選があるとの見方が強い。

ジョージア情勢に詳しい消息筋によると、与党「ジョージアの夢」は2012年の政権獲得後、支持率の低下が進んできた。反スパイ法の制定には、議会選を見据えて政権に批判的なNGO(非政府組織)などの活動を抑圧する狙いがある。LGBT規制には保守層からの支持を集める思惑があるとみられるという。

ただ、消息筋は「反スパイ法は不評で、政権支持層にも反発がある」と指摘。EU加盟も国民の大多数が支持しており、EU入りを遠ざけるコバヒゼ政権の一連の施策はかえって与党への支持を低下させることになると予測した。

ジョージアと欧米の関係悪化を背景に、ジョージアとロシアの接近が進む可能性もある。ジョージアは08年にロシアの軍事侵攻を受けて以降、反ロシアを一種の「国是」としてきた。ただ、その後も両国の経済関係や民間交流は維持されてきたのが実情だ。

実際に、コバヒゼ政権は親欧米路線を掲げながら、ロシアとの対立回避も重視。ウクライナ侵略に伴う欧米主導の対露経済制裁にも参加していない。

コバヒゼ政権が進める反リベラル政策は、欧米の価値観に否定的なロシアと親和性が高い。ウクライナ侵略で欧米と決定的に対立したロシアにとって、欧米とジョージアの疎遠化はジョージアをロシア側に引き寄せる好機となる。

ジョージア国内の反露感情を考慮すれば、コバヒゼ政権が欧米と完全に手を切ってロシア側に立つシナリオは考えにくい。ただ、今後、ロシアとジョージアが水面下で協力拡大を模索する可能性もまた否定できない。【8月19日 産経】
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素人考え的には、ジョージアに根強い反ロシア感情、EU加盟への期待を考えると、コバヒゼ政権が進める反リベラル政策が議会選に利するとは考えにくいのですが、現地ではいろいろな事情があるのでしょう。親欧米路線に対する保守派の反発も強いのでしょう。

いずれにしても、10月の議会選で一定の結論が出ます。

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