(キーウ上空を飛ぶドローン(17日)
ドローンを迎え撃つ警察官(17日)【10月19日 WSJ】 もちろん、もっと効果的な迎撃も行っているのでしょうが・・・)
【ロシア軍のイラン製ドローン使用 ロシアはコメントなし イランは否定】
ウクライナ情勢については連日多くの報道がなされていますが、ここ数日目立つのはロシアがウクライナ攻撃にイラン製ドローンを使用していること、そのドローン攻撃に対する防衛手段をウクライナが関係国に求めていること、イランの関与について欧米が問題視していることなど、イラン製ドローンをめぐる話題です。
****ウクライナ首都を攻撃、3人死亡=イラン製自爆ドローンか―ロシア軍*****
ウクライナ大統領府高官らによると、首都キーウ(キエフ)で17日、ロシア軍による自爆ドローン攻撃があり、3人が死亡、3人が負傷した。(中略)ドローンは28機飛来し、大半が撃墜されたという。
自爆ドローンはイラン製とみられ、ミサイルが不足するロシア軍が最近、頻繁に使用。ロシア本土とウクライナ南部クリミア半島に架かる橋で今月8日に起きた爆破を受けて、ウクライナ全土に大規模攻撃が行われた際も投入された。ウクライナ側は、ロシアの同盟国ベラルーシ領内から飛来していると非難している。
米紙ワシントン・ポスト(電子版)は16日、米当局者らの話として、イランがドローンに続き、短距離弾道ミサイルをロシアに供与することで水面下で合意したと報道。軍や都市への攻撃に使われる恐れがある。
同紙によれば、イランとロシアは9月に追加の兵器供与で合意。イラン側は射程300キロと700キロの2種類のミサイルの提供を準備しているという。ロシア軍は地上発射型の短距離弾道ミサイル「イスカンデル」の保有数が急減していると指摘されている。(後略)【10月17日 時事】
********************
****ウクライナ軍、イラン無人機223機撃墜 9月中旬以降*****
ウクライナ軍は19日、先月中旬以降、イラン製無人機223機を撃墜したと発表した。ウクライナに対しては今週、「自爆型ドローン」による攻撃が相次いでいる。
軍は声明で、「9月13日にウクライナの領土で初めてイラン製のシャヘド136を撃墜して以降、空軍や他の防衛部隊が同種の無人機223機を撃ち落とした」としている。 【10月19日 AFP】
********************
ウクライナ軍の「戦果」発表は誇大広告的になりがちですから、割り引いて聞く必要はあります。
こうしたドローンを含むロシアの攻撃で、ウクライナの発電所などのインフラが大きな被害を受けています。ゼレンスキー大統領は一連の攻撃について、「重要なインフラ施設を狙ったテロ攻撃だ」と批判しています。
****ウクライナ、空爆で1週間で発電所の3割破壊される=大統領****
ウクライナのゼレンスキー大統領は18日、ロシアの空爆により今月10日以降、国内発電所の30%が破壊されたとツイッターに投稿した。
大統領は攻撃により各地で大規模な停電が発生したと指摘。ロシアのプーチン大統領との「交渉の余地は全く残されていない」と述べた。【10月18日 ロイター】
大統領は攻撃により各地で大規模な停電が発生したと指摘。ロシアのプーチン大統領との「交渉の余地は全く残されていない」と述べた。【10月18日 ロイター】
*********************
イランはドローン供与だけでなく、革命防衛隊の要員をロシア側に派遣し、ドローンの操作方法を指南しているとも報じられています。
****イラン、ロシア側に要員派遣か ドローン操作を指南****
米紙ニューヨーク・タイムズは18日、ロシアがウクライナを攻撃する際にイラン製の自爆用ドローンを使っているとされることを巡り、イランが革命防衛隊の要員をロシア側に派遣し、ドローンの操作方法を指南していると伝えた。機密情報を知る米政府関係者の話としている。
派遣された要員は、クリミア半島のロシア軍基地で活動。人数は明らかでないが、タイムズ紙は「イランが戦争に深く関与していることを示している」とした。
当初はロシアが要員をイランに派遣していたが、ドローンの操作ミスなどのトラブルが相次いだため、イランが要員を派遣することになったという。【10月19日 共同】
*******************
一方、ロシア政府はイラン製ドローンについてはコメントしていませんが、ロシア国営ノーボスチ通信は20日、情報筋の話として、ロシア軍がウクライナで「カミカゼ・ドローン」と呼ばれる自爆型ドローンをすでに数百機使用したと報じていますが、ドローンは自国製と主張しています。
また、イランもロシアへのドローン供与を否定しています。
****ロシアへの無人機供与否定 イラン大統領「根拠なし」****
イランのライシ大統領は19日、ウクライナ侵攻を続けるロシアに同国が無人機を供与しているとの米欧の指摘は「根拠がない」と否定した。ポーランドのドゥダ大統領との電話会談内容をイラン大統領府が発表した。
ライシ師は「イランの決定的な立場は紛争や戦争に反対することだ」と強調した。【10月20日 共同】
*******************
【EUは「証拠がある」としてイランへの追加制裁 アメリカも同見解 ウクライナはイラン断交検討】
しかし、EUはイラン製ドローンをロシアが使用しているとして、イランへの追加制裁で合意しています
****EU、イランからロシアへ無人機提供の「証拠」入手 追加制裁へ****
欧州連合は19日、ロシアがウクライナで使用するドローン(無人機)をイランが供給していることを示す「十分な証拠」を入手したとして、イランに対する追加制裁の適用に向け準備を進めていると明らかにした。(中略)
ウクライナは数週間前から、イランがロシアに弾頭を搭載した攻撃用ドローン「シャヘド136」を供給していると非難し、EUに制裁を適用するよう求めていた。 【10月19日 AFP】
******************
****EU、対イラン追加制裁で合意=自爆ドローン、ロシアに供給****
欧州連合(EU)加盟国は20日、大使級会合を開き、ロシア軍がウクライナへのミサイル攻撃で使用した自爆ドローンをイランが供給したとして、イランに追加制裁を実施することで合意した。対象はドローンの供給に関与した個人3人と1団体で、同日中に発動する。EU議長国チェコがツイッターで明らかにした。
これに先立ち、北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長は20日の記者会見で、自爆ドローンについて「すべての証拠がイランを指している」とイランの関与を認めた。
また、ロシアのウクライナ侵攻を「明らかに国際法違反だ」と改めて強調し、「イランを含めすべての国に対し、違法なロシアの戦争を支援しないよう呼び掛ける」と話した。NATOには多くのEU諸国が加盟している。【10月20日 時事】
*********************
こうしたEUの見解にアメリカも同意しています。
****イランの対ロシア無人機供給、国連決議違反 英仏の見解に米賛同*****
米国務省のパテル副報道官は17日、イランによるロシアへのドローン(小型無人機)供給は国連安全保障理事会決議第2231号に違反するとの英仏の見解に、米政府も賛同すると述べた。(中略)
米当局者によると、ロシア軍が17日にウクライナの首都キーウ(キエフ)に対し行ったについて、米国務省はイラン製ドローンが使用されたとの見方を示している。
ホワイトハウスのジャンピエール報道官は、イランがロシアはウクライナでイラン製ドローンを使用していないとしていることは虚偽と指摘。記者団に対し「ロシアがウクライナの軍事、民間部門の双方の標的に対しイラン製ドローンを使用していることを示す広範な証拠がある」とし、「キーウ中心部への今朝の攻撃にもイラン製ドローンが使用された可能性があると報告が出ている」と述べた。【10月18日ロイター】
米当局者によると、ロシア軍が17日にウクライナの首都キーウ(キエフ)に対し行ったについて、米国務省はイラン製ドローンが使用されたとの見方を示している。
ホワイトハウスのジャンピエール報道官は、イランがロシアはウクライナでイラン製ドローンを使用していないとしていることは虚偽と指摘。記者団に対し「ロシアがウクライナの軍事、民間部門の双方の標的に対しイラン製ドローンを使用していることを示す広範な証拠がある」とし、「キーウ中心部への今朝の攻撃にもイラン製ドローンが使用された可能性があると報告が出ている」と述べた。【10月18日ロイター】
*****************
ウクライナ政府はイランとの断交を検討しています。
****イランとの断交、外相が提案 無人機攻撃、抗議デモも*****
ウクライナのクレバ外相は18日、ゼレンスキー大統領にイランとの断交を提案する考えを示した。ロイター通信が伝えた。ロシアはイラン製の自爆用ドローン(無人機)を使い、ウクライナを攻撃しているとされる。首都キーウ(キエフ)のイラン大使館前では同日、抗議デモがあり、参加者が「われわれを殺すのをやめろ」と声を上げた。
クレバ氏は記者会見で、ウクライナとイランの関係破綻の責任はイラン側にあると述べ「厳しい制裁を科すことが重要だ」と訴えた。また、ウクライナが防空に関してイスラエルに協力を求める可能性があると説明した。イスラエルはイランと敵対関係にある。【10月19日 共同】
********************
【ロシア ミサイルの在庫の減少及び兵器生産能力低下】
イランがロシアに供与しているとされるドローンは、一つは「シャヘド136」という比較的安価な自爆型ドローン、もうひとつはより高度な「モハジェル6」で、トルコ製の『バイラクタルTB2』と大きさや機能が似ているとされています。
イランとトルコは比較的安価な中位レベルのドローン開発で中心的な国です。
一方、兵器生産大国ロシアがイラン製ドローンに頼っているという事実は、ロシアの兵器生産能力の低下を示すものとして注目されます。
*****イラン製無人機投入のロシア、工業力低下を露呈*****
ロシアがウクライナでイラン製のドローン(無人機)を使用していることについて、専門家は、ロシアの工業力の低下と、ドローン市場におけるイランの存在感の高まりが鮮明になったとの見方を示している。
米政府は、イランはロシアに数百機のドローンを提供したとみている。ウクライナ側は、イラン製ドローンが都市やエネルギー関連インフラを標的とする最近の攻撃に投入されていると主張している。
■2種類を特定
これまでのところ、ウクライナ上空に飛来したイラン製ドローンについては、異なる機能を持つ2種類が特定されている。一つは「シャヘド136」という比較的安価な自爆型ドローンで、爆発物を搭載し、全地球測位システムとプログラム機能により目標に向かって自動的に飛ばすことができる。
フランス・パリに拠点を置く研究者ピエール・グラセール氏は、「(シャヘド136は)かなり低空を飛行し、数百キロ圏内の静止目標への攻撃が可能だ」と説明する。 AFP取材班も、17日に首都キーウに飛来したシャヘド136を撮影した。
もう1種類は「モハジェル6」。米陸軍士官学校のビクラム・ミッタル教授は、「トルコ製の『バイラクタルTB2』と大きさや機能が似ている」と述べている。
ロシアの戦車や装甲車へのミサイル攻撃に使われているバイラクタルは、侵攻の初期段階で善戦したウクライナの抵抗のシンボルとなった。バイラクタルをテーマとした歌も登場し、ソーシャルメディアで広く共有された。
モハジェルやバイラクタルは、イラクやアフガニスタンなどに投入された米国の「プレデター」同様、中高度・長時間滞空型のドローンとして知られる。
フランス国際関係研究所のジャンクリストフ・ノエル氏はモハジェルやバイラクタルについて、「武装ドローンや徘徊(はいかい)型兵器同様、敵が防衛や応戦の手段を持っていない場合、極めて効果的だ」と説明する。
ミッタル氏は、初期段階でバイラクタルが戦果を上げた大きな要因は「戦場における新兵器だった」ことにあると解説。「ウクライナはいずれはイラン製ドローンを撃ち落とすか鹵獲(ろかく)して分析し、対抗システムを構築するだろう」と述べた。ただ、それは数か月を要するプロセスになるという。
ウクライナ軍が現時点でドローンを撃ち落とすために使えるのは、日中は肩撃ち式、夜間はレーダー搭載型の対空ミサイルになる。
ウクライナ軍はまた、シャヘド136には衛星誘導なしに標的に到達するためのバックアップ機能がないことから、予定軌道からそらせるためにGPSジャミング(電波妨害)技術の使用を試みる可能性がある。
一方、グラセール氏は、ロシアにとっては、自爆型ドローンを使えば「1発で150万〜200万ドルもする高価で貴重な巡航ミサイルを温存できるため、戦費を節約できる」と説明する。「最大の欠点は静止目標しか攻撃できないことだ」
同氏は「(自爆型ドローンは)戦場に展開する部隊にとっては脅威とはならない。戦況には影響しないだろう」と予想する。
■兵器産業は弱体化か
ロシアは主要な兵器生産国の一角を占めるが、自爆型ドローンに関してはイランに依存せざるを得ない状況に陥っている。
ロシア軍のイーゴリ・イシュチュク大佐は最近、国営タス通信に対し、「国防省はドローンの戦術的、技術的な要件をまとめて提示した。残念ながら、(ロシアの)大半の企業が要件を満たせなかった」とし、「イラン製ドローンの導入は工業力の低下を認めたことになる」との認識を示した。
新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)に伴うサプライチェーン(供給網)の混乱で弱体化していたロシアの工業力は、ウクライナ侵攻に対する西側諸国の制裁で追い打ちをかけられた形だ。
ノエル氏は「(ロシアは)技術的に優れている西側製の部品を入手できず、国内で大量生産を試みたがそれも頓挫した」とみている。
■イラン、トルコ間の競争に
ドローンは必須の軍事アイテムとなりつつある。ミッタル氏は「イランとトルコの間で、市場支配や国家の影響圏拡大に向け、中位レベルの安価なドローンをめぐる兵器開発競争が繰り広げられているようだ」と指摘する。
フランスのドローン専門家マリアンヌ・ルノー氏は、最上位機種の製造企業を擁するのは米国とイスラエルであり、「トルコ製ドローンはそれよりは一段劣るものの、高精度を欠くとみられるイラン製ドローンに比べれば信頼度は高い」と分析している。 【10月20日 AFP】
***********************
ロシアのイラン製ドローンの使用は“「ロシアの懐事情がありそうです。ミサイルの在庫が減ってきているようで、ウクライナ側の分析によると『ロシア軍は保有していた精密誘導ミサイルの3分の2を既に使用した』(ウクライナ国防相)状態です。だとすると、不足を補う必要があります」
「さらにロシアは厳しい経済制裁で兵器に使う電子部品を入手できず、自前のミサイル生産が難しくなっているとも指摘されています。そこでドローンを開発・生産しているイランと手を結んだ可能性があります」”【10月19日 日テレNEWS】というロシア側の“事情”があるとも。
高価な精密誘導ミサイルに比べ、数百万円で作れるドローンは非常に安価で一定の効果が期待でき、今後戦場での主役になっていくとも予想されます。
【ウクライナが迎撃システムを求めるイスラエルの微妙な事情 NATO支援に中東諸国は「ダブルスタンダード」】
ウクライナは防衛手段を関係国に求めていますが、NATOは数日中にウクライナに防空システムを供給すると発表しています。
****NATO、ウクライナにドローン防衛システム供給 数日中に=事務総長****
北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長は18日、ウクライナがロシアによる重要インフラを標的としたドローン(小型無人機)攻撃から防衛できるよう、数日中にウクライナに防空システムを供給すると発表した。(後略)【10月19日 Newsweek】
******************
“数日中”に供与できる防空システム? 肩撃ち式みたいな簡便な兵器でしょうか?電波妨害装置でしょうか?
ウクライナが一番求めているのは、イスラエルのアイアンドームのような本格的迎撃システムでしょう。しかし、イスラエルは慎重姿勢です。
****イスラエル、空爆警報で協力申し出もウクライナはミサイルを要望****
イスラエルは19日、ウクライナに対し、民間人向けの空爆警報システムの開発支援を申し出た。ロシア軍がウクライナで自爆型ドローン(無人機)を使用したことを受け、これまで人道支援に限定するとしていた方針を軟化させた。
しかし、ウクライナ大使は警報システムではなくドローンを迎撃するシステムを要望。これに対しイスラエルのガンツ国防相は、ウクライナへの武器供与は行わないことを確約していると述べた。(中略)
ガンツ国防相はEUの外交官らに対し、「イスラエルは人道的支援と自衛装備の提供を通じてウクライナを支援する方針だ」とした。しかし、「さまざまな運用上の配慮から」兵器システムは提供しない方針だとした。【10月20日 ロイター】
しかし、ウクライナ大使は警報システムではなくドローンを迎撃するシステムを要望。これに対しイスラエルのガンツ国防相は、ウクライナへの武器供与は行わないことを確約していると述べた。(中略)
ガンツ国防相はEUの外交官らに対し、「イスラエルは人道的支援と自衛装備の提供を通じてウクライナを支援する方針だ」とした。しかし、「さまざまな運用上の配慮から」兵器システムは提供しない方針だとした。【10月20日 ロイター】
********************
“サイレンや携帯電話で市民に避難を呼びかけるレーダーネットワーク”みたいなものでしょうか。イスラエル版Jアラート? ウクライナとしてはやはり迎撃システムが欲しいところでしょう。
イスラエルにとってイランは“天敵”ですが、イスラエルはロシアの黙認がなければシリアでイランの標的を攻撃できない状況にあります。
ロシアのドミトリー・メドベージェフ前大統領は、イスラエルによるウクライナへの武器供与は「極めて無謀な行動」とみなされ、「両国(イスラエルとロシア)間の政治関係を破壊するだろう」と警告しています。
なお、“イスラエルは、イラン製ドローンに対抗するのを支援するため、ウクライナに軍事的な情報と分析を提供している。これを知る複数の人物が明らかにした。”【10月19日 WSJ】とも。
NATOのウクライナ支援に関して、かねてよりイラン製ドローンの脅威にさらされている中東諸国の反応も微妙。
********************
外交問題評議会の中東専門家、スティーブン・クック氏によると、北大西洋条約機構(NATO)が先週、ウクライナのドローン対策を支援するために電波妨害装置を供与すると発表したことに中東のイラン敵対国はいら立っているという。
UAEやサウジがイランやイエメンのフーシ派からのドローンおよびミサイル攻撃に対応するための支援に米国は腰が重いためだ。
「サウジとUAEは『われわれへの電波妨害装置はどうなっているんだ?』という思いで、ダブルスタンダードだと考えている」とクック氏は述べる。【同上】
******************
単に、ウクライナ、ロシア、イラン、そして欧米だけでなく、イスラエルや中東諸国にも影響が広がる“イラン製ドローン”です。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます