孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

スーダン  軍事評議会とデモ指導部、新統治機構の仕組みで歴史的合意に到達

2019-07-06 22:58:11 | 北アフリカ

(スーダンの首都ハルツームで、軍事評議会とデモ隊指導部が新統治機構について歴史的合意を結んだことを祝う人々(201975日撮影)【76日 AFP】) この喜びが失望と混乱に変わらないためには、持続的なこれまで以上の努力が求められます。)

 

【自制的にコントロールされた反政府デモ】

北アフリカ・アルジェリアと並んで、市民の抗議行動によって独裁政権に終止符がうたれたスーダンの状況にについては、これまでも2回ほど取り上げてきました。

 

スーダンでは、バシル大統領失脚後、今後の政治体制をどのようにしていくのかという点で、軍主導の暫定軍事評議会と市民の側で主導権をめぐる対立が起きました。

 

510日ブログ“スーダン バシル失脚後の今も続く軍と市民の緊張 抗議行動の前面に立つ女性たち

 

上記ブログでは、市民の抗議行動が“意外にも”混乱に陥らないように自主的にコントールされていること、また、表題にもあるように、イスラム社会で表に立つことが少ない女性が前面にでるという、これも“意外な”展開になっていることを取り上げました。

 

****【市民によってコントロールされている反政府行動】****

アフリカにおける政変というと、政党間の争いというよりは民族・部族を背景とした争いであることが多かったり、また、「アラブの春」が多くの中東イスラム国家で失敗と混乱に終わっていることもあって、スーダンのバシル大統領失脚・軍と反政府デモの対立という政変についても、個人的にはいささか先行きを懸念するような感じで見ていました。

 

しかし、今後の展開は不透明ながら、現段階における反政府デモは上記のようなイメージとは異なり、市民の手でコントロールされる形で行われているようです。(後略)【510日ブログ】

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そのコントロールの具体例については、以下のようにも。

 

****検問も警備員もボランティア 民主化求めるスーダンの抗議デモの現場は****

(中略)連日抗議デモが続く軍本部前に向かうと、3カ所の検問所があった。運営していたのは、抗議デモの参加者たち。武器などを持った不審者が入らないように、自分たちで警戒しているのだという。

 

現場では、太鼓をたたいたり、国旗を顔にペイントしたりした多くの若者たちが集まっていた。最高気温は42度。強烈な日差しを避けようとテントや給水所も設置され、露天商も繰り出していた。

 

気温が少しだけ下がる夕暮れ時になると、仕事を終えた人たちも加わり、数万人でごった返した。時折、デモ隊と治安部隊との衝突で負傷者は出ていたものの、幼い子どもを連れて来る人もいるなど、平和的な抗議デモが続いているように見えた。(後略)【510日 GLOBE+

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また、女性の活躍については、抗議行動の先頭に立つ22歳女子大生アラ・サッラーが「革命の象徴」、さらには「ヌビアの女王」と呼ばれるようになっていました。

 

****スーダン「市民革命」の象徴は22歳女子大生アラ・サッラー****

スーダン「市民革命」のアイコン
2019
48日、スーダン共和国の首都ハルツームで撮られ、ツイッターにアップされたある写真が世界中で注目されている。

白いトーブに身を包み、金色の大きな耳飾りをつけた若い女性が、乗用車のルーフパネル上に立ち、右手を挙げ、人差し指で天を指している。

この女性の名はアラ・サッラー、ハルツームで建築学を学ぶ22歳の大学生だ。(後略)【418日 クーリエ・ジャポン】

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抗議行動の参加者にも女性が目立ち、“特に女性たちは強権的な前政権から長く抑圧されてきた。紛争で夫や子を失った人も多く、今回の政変で民主化や平等の実現を期待する思いはとりわけ強い。”【430日 朝日】とも。

 

【デモ隊強制排除で、民兵組織の暴力が猛威を振るう場面も】

しかし、なかなか進展しない交渉のなかで、治安部隊によるデモ隊の強制排除が行われ、死者を伴う混乱状態にもなりました。その暗転については

65日ブログ“スーダン  デモ隊強制排除で混乱拡大 「アフリカの天安門事件」とも

 

****スーダン虐殺、暴走する治安部隊 軍事評議会内に確執も 死者113人以上****

「第二のアラブの春」とも言われたバシル前大統領失脚後のスーダンで混迷が深まっている。実権を握る軍事評議会は民政移管を求めるデモ隊を弾圧し、100人以上が死亡する惨事に。

 

民衆の不満を暴力で抑え込む姿勢を鮮明にした。今後の対応を巡り軍事評議会内部での確執も伝えられ、さらなる流血の事態への懸念が高まっている。

 

3日に行われたデモ隊の強制排除。スーダン人記者が元治安当局者の話としてツイートした内容によると、市内を流れるナイル川には、何度も銃撃を受けたり、ナタで首を切られたりして死亡した人々の遺体が次々に投げ込まれた。

 

治安部隊は国防省前で座り込みを続ける群衆に向けて無差別に発砲。事実上の虐殺で、救護テントは焼き払われ、治療に当たっていた女性医師がレイプされたという。

 

首都ハルツームの住民によると、多数の民兵が市内を徘徊(はいかい)し「市民にムチをふるい、略奪を繰り返した」。証拠となる映像の拡散を防ぐため、インターネットは切断された。

 

デモ隊の中心組織の一つ、医師委員会は7日までに各地で少なくとも113人の死亡を確認。40人の遺体がナイル川から収容された。負傷者は500人以上で、死者はさらに増える見通しだという。

 

4月のクーデター後に設置された軍事評議会と民主化勢力は、移行政権を軍人と文民のどちらが主導するかで対立。交渉は手詰まり状態となっていた。

 

評議会トップのブルハン議長は4日、民政移管を巡る合意を破棄し、9カ月以内に総選挙を実施すると表明。ただ、バシル強権体制を支えた勢力の下では公正な選挙は期待できないため、民主化勢力にとっては受け入れがたい内容だった。

 

その後、軍事評議会を支援するサウジアラビアなどからの要請を受け、ブルハン議長は「制限なしに協議する」と態度を軟化させたが、民主化勢力の代表は「市民を虐殺する評議会は信用できない」と対話の再開を拒絶している。

 

一方、事態の対応を巡る評議会内の不協和音も伝えられる。

デモ隊を排除したのは正規軍ではなく、評議会ナンバー2のヘメティ将軍の指揮下にある部隊。もともとジャンジャウィードと呼ばれる民兵組織で、30万人の犠牲者を出した西部ダルフール地方の紛争で戦争犯罪を繰り返してきた。

 

ブルハン議長は民主化勢力と協議する一定の姿勢を見せるが、デモ隊を排除した治安部隊を指揮するヘメティ将軍は、「中にギャングがいた」などと「虐殺」を正当化している。

 

そもそもバシル氏の失脚以降、影響力を強めるヘメティ将軍の強硬路線や民兵の台頭について、軍内では反発も広がっているとされる。「特に若手将校が(ヘメティ将軍に)不満を持っている」として、軍の一部が離反して内戦状態に陥る可能性を指摘する専門家もいる。

 

国連はすでに一部の職員を国外に退避させ、各国も治安の悪化に警戒を強めている。【67日 毎日】

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西部ダルフール地方の紛争で戦争犯罪を繰り返した民兵組織ジャンジャウィードが抗議行動潰しの前面に出てきたことで、今後の更なる悲劇が懸念されました。

 

ただ、こうした混乱状態になったこと自体には正直なところ「やっぱりね・・・スーダンで平和的な交渉というのは無理でしょう」という感想を持ちました。

 

【なんとか踏みとどまり、新統治機構の在り方で合意に】

その後、市民のゼネスト、不服従運動を経て、612日には交渉が再開されることに。

交渉では、アフリカ連合とともに、隣国エリトリアとの和平を実現してノーベル平和賞候補とも目されているエチオピアのアビー・アハメド首相も仲介に努めました。

 

事態は一進一退で、71日には大規模デモに対し民兵組織による発砲があり、死傷者を出す事態にも。

 

****大規模デモで発砲 7人死亡、181人負傷 スーダン首都*****

スーダンの首都ハルツームで6月30日、数万人が参加する大規模なデモが行われ、少なくとも7人が死亡した。

 

スーダンでは6月上旬に民主化を求めるデモに対して強制排除が行われたが、今回のデモは、これ以降で最大規模のものとみられる。

 

地元メディアによれば、保健省はデモの最中に181人が負傷したと明らかにした。保健省幹部によれば、けが人のうち27人が銃によって負傷した。

 

医師グループのCCSDによれば、重体に陥っている負傷者の多くは暫定軍事評議会の民兵の発砲によるものだという。暫定軍事評議会はバシル大統領失脚後、国のかじ取りを担っている。

 

地元メディアによれば、暫定軍事評議会の民兵組織RSFのメンバー3人も撃たれた。RSFの司令官はRSFのメンバーはデモ参加者から銃撃されたと主張している。【71日 CNN

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しかし、軍事評議会とデモ隊側もなんとか踏みとどまることができ、対立が続いていた新たな統治機構のトップについて合意に達しました。

 

****スーダン軍事評議会とデモ指導部が新統治機構で合意、トップを軍民の輪番制に****

スーダンを暫定的に統治している軍事評議会と民政移管を求めるデモ隊の指導部は5日、懸案事項だった新統治機構のトップについて、軍人と文民の輪番制とすることで合意した。

 

両者は3日、隣国エチオピアとアフリカ連合の懸命な仲介を受けて交渉を再開し、4日に新たな統治体制について話し合っていた。

 

スーダンではオマル・ハッサン・アハメド・バシル前大統領に対する抗議デモが拡大した後、4月に軍事クーデターでバシル氏が失脚。実権を握った軍事評議会はデモ隊が要求する民政移管を認めず、政治危機に陥っている。

 

軍事評議会は以前、多数の文民から成る統治機構の設置に同意していたが、トップを文民とするか軍人にするかをめぐってデモ隊指導部と対立。交渉は5月に中断された。

 

63日未明に首都ハルツームの軍本部前で数週間前から座り込みを続けていたデモ隊が強制排除され、多数の死傷者が出たことで、両者の緊張はさらに高まっていた。

 

仲介したエチオピアとAUによると、交渉初日には統治機構のトップを文民とするか軍人にするかという重要課題は議論されなかったが、紛争地域ダルフールの反体制派に属し、デモに参加していた戦闘員235人の釈放を決定。4日に実行した。

 

エチオピアとAUはスーダンの危機解決のため、新たな共同提案を起草。文民が多数派を占める統治機構の設置を求める内容で、AFPが確認した暫定案では、文民8人と軍人7人の構成になっていた。

 

エチオピアのマフムド・ディリール氏によると、新統治機構のトップをどうするかは、両者の間の「唯一の相違点」だった。

 

AUのモハメド・エルハセン・レバット氏は記者らに対し、「双方は軍と文民による輪番(大統領)制の統治評議会を設立することで合意した」と述べ、輪番の間隔は「3年か、もう少し長い期間」になるとした。 【75日 AFPAFPBB News

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輪番制の順番や期間でも合意できているようです。

 

****スーダンのデモ隊、軍事評議会との歴史的合意に歓喜****

スーダンを暫定的に統治している軍事評議会と民政移管を求めるデモ隊の指導部が新統治機構について歴史的な合意を結び、首都ハルツームでは5日、大勢が街頭で祝福した。(中略)

 

昨年12月にオマル・ハッサン・アハメド・バシル前大統領に対する抗議デモを開始し、反政府デモを主導してきたスーダン専門職組合は合意を歓迎。声明で、「きょう、われわれの革命は勝利を収め、われわれの勝利は輝いている」と述べた。

 

ハルツームの街頭では大勢が合意を祝い、「犠牲者が流した血は無駄ではなかった」「民政、民政」とシュプレヒコールを上げた。

 

デモ指導者のアハメド・ラビ氏がAFPに語ったところによると、新統治機構の構成は軍人5人、文民6人になる見通し。文民のうち5人をデモ隊が指名するという。

 

SPAによると、新たな機構の統治期間は3年と3カ月になる見通し。機構のトップは始めの19か月は軍人が、残りの16か月は文民が務めるという。

 

民主化勢力の一派「自由・変革同盟」の指導部は5日、最終合意は来週、各州知事の立ち会いの下で結ばれると発表した。新統治機構のメンバー候補と首相候補について、来週までに指名の用意をするという。

 

国連のアントニオ・グテレス事務総長は、「全ての利害関係者が、時宜にかなった包括的で透明性ある合意の履行を実施し、あらゆる懸案事項を対話によって解決する」ことを呼び掛けた。

 

軍事評議会に賛同していたアラブ首長国連邦とサウジアラビアも、今回の合意を歓迎した。

 

国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは、この合意によりスーダン国民に対して長年行われてきた「恐ろしい犯罪」に終止符が打たれることを期待すると表明した。 【76日 AFP

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喜ばしいことに、「やっぱりね・・・スーダンで平和的な交渉というのは無理でしょう」という私の印象は誤りでした。

 

途中、流血を伴う混乱もありましたが、なんとか踏みとどまることで、歴史的合意が得られました。

 

そうであるにしても、混乱・対立・衝突が多い国際情勢のなかで、ここまで粘り強い交渉を続けてこれたスーダン国民に対し祝意を表したいと思います。

 

【「民政、民政」のシュプレヒコールだけでは済まない今後の統治】

もちろん、軍内部も一枚岩ではなく、市民を殺戮することに躊躇しない民兵組織の存在などもありますので、今後も紆余曲折はあるのかも。

 

更に、もっと根本的なことを言えば、エジプトの「アラブの春」が失敗し、混乱の末に、国民が強権的なシシ大統領を選択することになっているように、民主化ですべてがうまくいく訳でもありません。

 

今は人々は“「民政、民政」とシュプレヒコールを上げた”という熱狂の中にありますが、すべてはこれからです。

民政のもとで成果をだしていくためには、これまで以上に自制された努力が必要になります。

 

それは、一時的な熱狂で強権体制に立ち向かうこと以上に困難な取り組みでもあります。

また、人々が“変化による目に見える成果”を性急に求めがちなことも、新たな統治を困難にもするでしょう。

 

ようやくスタート台に立てたというところすが、今後の新生スーダンが実り多いことを期待します。

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