孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アフガニスタン  進展が報じられるタリバン・アメリカの和平交渉 和平への期待と不安

2019-07-07 23:05:41 | アフガン・パキスタン

 (不発弾の爆発で片脚、もしくは両脚を失った子どもたち。アフガニスタン東部ナンガルハル州にて(2019430日撮影)【67日 AFP】)

 

【これまでになく進むタリバン・アメリカの和平協議】

イランや中国、北朝鮮をめぐる交渉が派手なパフォーマンスが繰り広げられる一方で、なかなか実質的進展がみられないのに対し、アフガニスタンをめぐるタリバンとアメリカの地道な交渉の方は、かなり進展がみられるような報道もなされています。

 

****タリバンとの7度目の和平協議は「最も建設的」、米特別代表****

カタールの首都ドーハで先月29日に始まった米国とアフガニスタンの旧支配勢力タリバンとの7度目の和平協議について、米国側のザルメイ・ハリルザドアフガニスタン和平担当特別代表は6日、これまでで「最も建設的だ」と語った。

 

タリバンと米国の代表団は、米軍のアフガン撤退の見返りとなるさまざまな保証条件における合意を目指して、ドーハで協議を重ねている。

 

ハリルザド氏は滞在中のカタールで、「基本的に、われわれは協議が始まってから、ずっと4つの事項について話し合ってきた。すなわちテロリズム、外国軍の撤退、タリバンとアフガニスタン政府との交渉、そして停戦だ」と述べ、「われわれは実質的な協議と交渉を行い、4つの事項すべてに進展がみられた。そう言えるのは、これが初めてだと言っていい」と付け加えた。

 

カタールにあるタリバン事務所のスハイル・シャヒーン報道官は、「われわれは進展に満足しており、残りの協議も同様に進むと期待している。これまでのところ、障害は何もない」とツイッターに投稿。タリバン側も米国代表団との協議に満足していることが示された。 【77日 AFP】

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ただ、タリバン側は交渉を有利に進める意図もあって、攻撃の手を緩めてはいません。

 

****アフガン人で戦闘終結議論 タリバンは攻撃で揺さぶり****

アフガニスタンの政治家や女性、反政府武装勢力タリバンらが集まり、アフガン人で同国の戦闘終結を話し合う会合が7日、カタールの首都ドーハで始まった。

 

一方、アフガン東部ガズニ州では7日、自動車が爆発し、タリバンが関与を認めた。タリバンは対話のかたわらで攻撃の手を緩めず、アフガン政府と支援する米国に揺さぶりをかける狙いとみられる。

 

ガズニ州の爆発では、地元メディアによると、少なくとも12人が死亡、150人以上が負傷した。タリバンが情報機関の施設を狙った攻撃だったと犯行声明を出した。

 

会合前にタリバンのメンバーは「和平案を探し出したい」と語った。【77日 共同】

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ドーハで開催されるアフガン人で戦闘終結を話し合う会合については、ドイツとカタールが仲介するもののようですが、その内容はよく知りません。

 

タリバンとアメリカの交渉からは、(タリバンが当事者とはみなしていない)アフガニスタン政府は排除されています。

 

【自らが関与しない形で進む和平協議に、アフガニスタン政府は苛立ちも 米軍撤退後の不安】

交渉が進展しているとは言え、とにかくアフガニスタンから“名誉ある撤退”をしたいアメリカとタリバンの間で話がついても、残されるアフガニスタン政府、アフガニスタン国民はどうなるのか?・・・という基本的な問題も。

 

****米軍撤退協議大詰めか 米とタリバン アフガン治安には不安****

アフガニスタン駐留米軍の撤退に向け、米国とイスラム原理主義勢力タリバンの協議が進んでいる。6月末からの7度目の和平協議では具体的な撤退時期について交渉が行われているもようだ。

 

米国は9月までの合意を目指しており、「米国最長の戦争」であるアフガン戦争に終止符を打ちたい考えだが、撤退後は治安状況のいっそうの不安定化が懸念され、アフガン国内では不安の声も上がる。

 

米軍の撤退をめぐり、米国とタリバンは昨年7月から和平協議を開始。今年1月の協議では「重要な進展があった」(ポンペオ米国務長官)とされ、ロイター通信は合意後、米軍は18カ月以内に撤退する意向と報じた。

 

6月30日からカタールの首都ドーハで始まった第7回協議でも撤退時期をめぐって議論が続いており、米国は合意形成を急ぎたい構えだ。

 

ポンペオ氏は6月25日、「9月1日までに合意に達することを望んでいる」と発言。アフガン政治評論家、ジャバド・カカル氏は「7回の協議で互いに歩み寄っており、9月までに合意に達する可能性は十分にある」と指摘。協議は大詰めを迎えているとの見方を示す。

 

ただ、米国はタリバンにアフガン政府との対話や停戦を求めているが、タリバンは一貫して拒絶しており、まだ曲折も予想される。

 

タリバンは7月1日、首都カブールで国防省関連施設を狙ったテロを実行し、少なくとも6人が死亡した。米国と交渉を進める一方での首都中心部でのテロは、アフガン政府との対話を改めて拒むメッセージとみられる。

 

ドーハでは7、8日にドイツとカタールが仲介して、アフガン人の学識経験者ら政治家らが和平を話し合う会議が行われる。タリバンからも代表が参加する見通しだが、どれほど政府とタリバンの接近に寄与するかは不透明だ。

 

アフガン政府は自らが関与しない形で進む和平協議にいらだちを募らせており、駐留米軍撤退なら「治安への影響は大きい」(国防省幹部)と危機感を強める。

 

カカル氏は「政府軍は脆弱(ぜいじゃく)で、政府とタリバンの対話を欠いたままでの米軍撤退なら、内戦に発展する可能性もある。そうなればアフガン人に待ち構えるのは、さらなる悲劇だ」と警戒している。【76日 産経】

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トランプ大統領は、撤退後のアフガニスタンがアメリカに対するテロの拠点となることを懸念しているようですが、アフガニスタン自体に行く末には言及がなかったようです。

 

****トランプ氏、アフガン拠点とする米国へのテロを懸念 米軍撤退なら****

トランプ米大統領は、アフガニスタンに駐留する米軍を撤退させたいが、米軍不在では同国が米国に対するテロ攻撃の拠点として利用される可能性があることを懸念していると述べた。

1日に放送されたフォックスニュースのインタビューで、アフガンの駐留米軍兵士9000人の撤退に伴う問題は、同国が「テロリストの温床」であることだと指摘。「私はテロリストのハーバードと呼ぶ」と語った。

トランプ氏は米軍当局者らにアフガン撤退の意向を伝えた際の会話に言及。ある当局者はテロリストと米国で戦うよりも当地で戦うほうがよいとトランプ氏に語ったという。

トランプ氏はまた、米軍が撤退したとしても、米国はアフガンで「非常に強力な諜報」のプレゼンスを残すとした。

インタビューは先週末に収録された。1日にはアフガンの首都カブールで爆弾攻撃があり、6人が死亡、105人が負傷した。反政府武装勢力タリバンが犯行声明を出した。【72日 ロイター】

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再選戦略しか念頭にない「アメリカ第一」のトランプ大統領にアフガニスタンの今後を期待しても仕方がないところです。

 

米軍撤退後のアフガニスタンにロシア・中国が強い関心を示していることは、630日ブログ“派手なパフォーマンスの米朝交渉の一方で、地道に続くアフガニスタンをめぐる交渉”でも取り上げました。

 

いつも言うように、腐敗・汚職が蔓延し、非効率的なアフガニスタン政府を擁護するつもりはありませんが、タリバン支配から解放されて現政権のもとで、やっと芽生え始めた女性の権利などの民主的な動き・自由な空気が、米軍撤退後のタリバンの政治復帰で再び潰されてしまうことが残念です。

 

とは言え、戦闘が収まることは当然ながら歓迎すべき話で、アフガニスタン政府もタリバンに対し和平に向けて一定のメッセージは発しているようです。

 

****ガニー大統領の決定によって囚人887人の釈放が開始、タリバンのメンバーも含む****

アフガニスタン大統領府のハル・チャハンスリ報道官はメディアに発言し、タリバンのメンバーも含む囚人887人がガニー大統領の決定によって釈放され始めたと語った。

 

同国の西部にあるヘラート州のジャイラニ・ファルハド知事報道官も、ガニー大統領の決定の結果ヘラート州で収監中のタリバンのメンバー38人が釈放されたことを伝えた。

 

タリバンから出された声明では、ガニー大統領のこの決定を前向きに受け取っていると述べ、当該の囚人たちのうち261人がタリバンのメンバーであると主張した。【611日 TRT】

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【不発弾で両足を失った15歳「タリバンが政府と和平を結んでほしい、そうすれば誰も死んだり傷ついたりしなくなる】

630日ブログでは取り上げることができなかった、戦闘・混乱に翻弄されるアフガニスタンの人々の苦悩に関する記事を2件。

 

****不発弾で脚失った子どもたち、戦争終わらぬアフガニスタンの悲劇****

一家の子どもたち10人が登校中に見つけたのは、不発の迫撃砲弾だった。旧支配勢力タリバンと米国が支援する国軍との激しい戦争が今も続くアフガニスタンでは、ありふれた光景のはずだった──

 

しかし、それが何であるかも、どれほど危険であるかも分からず、好奇心に駆られた子どもたちは不発弾を拾い上げ、おばに見せようと持ち帰った。

 

そして、それは爆発した。

おばと子ども3人が命を落とし、一命を取り留めた7人の子どもたちも片脚、もしくは両脚を失った。

 

東部ナンガルハル州ジャララバードで昨年起きたこの爆発事故は、アフガニスタン全土で人々が苦しんでいる痛ましい出来事の一端を示すものだ。この国では40年もの間、常になんらかの形で戦争状態が続いている。

 

爆発で右脚を失った10歳のラビア・グールさんは、「他の女の子たちが歩いて登校している姿を見ると、とても悲しくなる。私は彼女たちのように歩くことができない」と語った。

「両脚があった時は楽しかった、でも片脚がなくなってしまい、もうこれからの人生は楽しくない」

 

国連によるとアフガニスタンでは昨年、900人以上の子どもを含む民間人3804人が死亡し、7189人が負傷。年間の民間人死者数としては過去最悪だった。

 

数十年にわたる紛争により、アフガニスタンには地雷や不発の迫撃砲弾、ロケット弾や手製爆弾が散乱している。

 

ラビアさんは質素な自宅の外にあるベンチに、他6人の子どもたちと座っていた。子どもたちは6歳から15歳で、失ってしまった脚の断端に布を被せ、何とか義足を装着していた。

 

両脚を失った15歳のシャファキラさんは、「タリバンが政府と和平を結んでほしい、そうすればアフガニスタンの治安も良くなって、誰も死んだり傷ついたりしなくなる」と語った。 【66日 AFP】

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政治的な効果が大きく、資金力がものをいう復興に向けたインフラ支援だけでなく、こうした義足の提供といった戦闘の傷をいやす分野でも、すぐれた技術を持つ日本が貢献できる大きな余地があるのではないでしょうか。

 

【イランに逃れたアフガン人が今度はシリアに 米の対イラン制裁で経済的にも苦境に】

混乱を逃れてイランに向かった人々(300万人以上)もいますが、そこでは新たな苦難が。

 

****イランのアフガン人、苦難 「安全な出稼ぎ先」のはずが…****

イランに住むアフガニスタン人が翻弄(ほんろう)されている。彼らにとっては隣にある安全な出稼ぎ先だったのだが、シリアへの派兵に巻き込まれる例が相次ぎ、イラン通貨のレート下落にも悩まされている。

 

対IS「シリアで戦おう」

「シリアにあるシーア派の聖廟(せいびょう)の守護者にならないかと誘ってきた」

 

2015年夏から不法滞在するアフガン人のホセイン・レザイーさん(32)は振り返る。昨年5月、テヘランの建設現場でブロックを積んでいた時、30歳ぐらいのイラン人男性に声をかけられた。シリアで義勇兵として過激派組織「イスラム国」(IS)との戦闘に加わろうという勧誘。ダマスカス近郊にあるシーア派の聖廟をISから守るのが任務だという。

 

イランの革命防衛隊の訓練を1カ月受け、シリアでの戦闘に参加し、6カ月後にイランに帰国すれば1年の滞在許可を与えられる。しかも約3千万リアル(当時のレートで約480ドル)の月給をもらえる条件だった。

 

建設現場にある12平方メートルほどのプレハブで他のアフガン人6人と暮らし、当時の月給は約100ドル。だがカブール北部の街に残してきた妻(26)と長男(7)の顔が頭をよぎった。

 

シーア派はアフガニスタンでは少数派でISやタリバーンの攻撃対象になっており、それがイランに逃れる動機の一つになっている。

 

「安全なイランに来て稼いでいるのに、危険なシリアには行けない」。悩んだ末に断った。「シーア派であることにつけ込んで誘うのは、アフガン人を軽く見て政治と戦争の道具にしているとしか思えない」とレザイーさんは憤る。

 

イランメディアなどによると、革命防衛隊の訓練を受けシリアに派遣されたアフガン人のうち2千人以上が死亡した。国際人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」は、アフガン難民の10代の少年が前線に送り出され死亡しているとの報告書をまとめている。

 

テヘラン近郊にはシリアでの戦死者らの墓がある。シリア西部ハマで戦死したアフガン人のザビオラ・ゴラミさん(当時24)の父ゴラマリさんは毎週、祈りを捧げに訪れている。「シーア派信者として息子は誇りだが、悲しみは消えない」

 

米経済制裁、帰国する人も

現在のアフガニスタンは治安が悪く失業率も高いため、難民や不法滞在で300万人以上がイランに来ているとされる。仕事を得れば収入は2倍以上と見込まれていた。

 

ところが、核合意から一方的に離脱したトランプ米政権による経済制裁の影響でイランの通貨リアルの価値が下落した。

 

昨年10月にイランに来たミルザさん(21)は、テヘラン市内のマンションで警備員をしていた。月給は2千万リアル。昨年4月なら実勢レートで370ドル相当額だったが、働き始めた頃は170ドルに下がり、今年4月には140ドルにまで目減りした。米国との緊張が高まり、リアル安は当分続くとみられ、「カブールで仕事を探した方がまし」と帰国した。

 

国際移住機関(IOM)によると、18年にはアフガン人の不法滞在者約77万人がイランから帰国(強制送還を含む)。17年に比べて約30万人以上増えた。

 

追い打ちをかけたのがイラン外務省のアラグチ次官の発言だ。地元メディアによると、アラグチ氏は40万人以上のアフガン人の通学コストなどで1人当たり600ユーロかかっていることに触れ、後に否定したものの「制裁でコストを負担できない状況になれば、イランを出て行くようお願いすることもあり得る」と語った。

 

5年前から出稼ぎに来ている溶接工のハメッドさんは「米国のせいでアフガニスタンが危険になったのに、今度はイランの居場所すら奪うのか」と憤った。

 

イランではアフガン人への差別意識も根強い。それでもイランに住み続けることを望む人も多い。

 

テヘラン中心部から車で約1時間行くと、エシュガバッド村がある。れんが造りの平屋が並び、住民のほとんどがシーア派のアフガン人。

 

13年前に移ってきたサミラさん(34)は夫と3人の子と暮らす。「アフガニスタンではシーア派がタリバーンの標的になった。イランでは外国人扱いだが、それでも家族で安全に暮らせるのが一番」と笑顔で話す。【618日 朝日】

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現在進むタリバンとアメリカの交渉が、脚を失った子どもたち、イランで苦闘する人々などの生活を少しでも楽にするものであればいいのですが。

 


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