孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中東情勢、イラン・アメリカの対立に関する動き パレスチナ「世紀の取引」は?

2019-05-29 23:15:17 | 中東情勢

516日、ロシア、中国に続き日本を訪れたイランのザリフ外相(左)と談笑する河野外相。【528日 BUSINESS INSIDER】)

(共通の趣味であるゴルフを楽しむ日米首脳(千葉県茂原カントリークラブ、2019526日)【529日 Newsweek】)

  

【中東情勢に変化の兆し????】

中東情勢については、アメリカとイランの対立を軸に、同様にイランと敵対するサウジアラビア・イスラエルがアメリカと協調してイランに対峙している・・・という構図が続いています。

 

ただ、中東も一枚岩ではなく、カタールとサウジアラビアの対立は収まっておらず、イランやトルコはカタールを支援しています。

 

そうした中にあって、やや意外な感じを受けるニュースも。

 

****サウジがカタールも招集、米イランめぐる緊急会議****

カタール政府は26日、イランと米国の間で高まっている緊張関係について協議する湾岸地域の緊急会議に出席するよう、サウジアラビアから招集があったことを明らかにした。

 

サウジ政府は自国の石油タンカーや採油施設に対する一連のドローン(小型無人機)攻撃を受けて、アラブ連盟と湾岸協力会議に対し、それぞれ会議の開催を呼び掛けていた。

 

今月に入り、サウジのタンカー数隻がペルシャ湾で不可解な攻撃を受け、またサウジの石油パイプラインもドローンによる攻撃を受けた。ドローン攻撃は、イエメンのイスラム教シーア派系反政府武装組織フーシ派が犯行声明を出し、サウジ政府はこれがイランの指示によるものだとしている。

 

サウジのサルマン国王は、今月30日にメッカでアラブ連盟とGCCの二つの首脳会議を行うために加盟国首脳を招集していたが、カタールへの参加呼び掛けの有無については明らかにしていなかった。

 

カタールは、イランとイスラム過激派を支援しているとして、サウジ主導の経済封鎖や外交制裁の対象となっている。今回のカタールへの招集についてはこれまで不明で、カタール政府は当初、招集は受けていないと述べていた。 【527日 AFP】AFPBB News

**************

 

一方、イランの側からも動きが。

 

****イラン、湾岸外交注力 サウジと関係改善視野か****

イランと米国の関係が悪化するなか、イランが中東諸国との外交活動を活発化させている。関係が良好な周辺諸国との対話を通じて敵対するサウジアラビアとの関係改善を目指し、国際世論を味方につける狙いがありそうだ。

 

イランのメディアなどによると、ザリフ外相は26日、訪れたイラクで同国のハキム外相らと会談し、「イランはこれまで、全ての中東湾岸諸国との不可侵条約を提案してきた。今も締結を考えている」と強調した。

 

敵対するサウジを含む周辺諸国に対話を呼びかけた形だ。米軍の展開によって緊張が高まる、ペルシャ湾情勢についても協議した。

 

アラグチ外務次官も26日、オマーンやクウェート、カタールへの外遊を開始。27日にはクウェートで「イランは地域的な対話の枠組みを作るため、全ての湾岸諸国と交渉する用意がある」と語った。【529日 朝日】

*******************

 

イランが言及している「不可侵条約」については、以下のようにも。

 

****イランの湾岸諸国への不可侵条約締結の提案****

(中略)アラビア語メディアはいずれも、ザリフ外相が26日バグダッドのイラク外相との共同記者会見で、イランは近隣諸国に対して(確か外相はパキスタンも訪問しているので、この中にはパキスタンも入る可能性がある)不可侵条約の締結方提案していると語ったと報じています。


不可侵条約の中身等については詳しい報道はありませんが、ザリフ外相はイランは湾岸地域の緊張緩和を真剣に望んでるとし、イランは核合意を破棄していないが、欧州諸国は同合意維持のための機構等について、より真剣に動くべきであると指摘した由。


他方、イラク外相はイラクは米国とイランの仲介に動いていると表明した由(もっとも、報道によってはイラクはイランの立場を支持しているとしたものもある)。(中略)

不可侵条約などと言う大げさな言葉を使うと、ついWW2直前の独ソ不可侵条約などと思い出してしまうが、ここで使われて言葉は、直訳すれば「非敵対条約」に近いもので、果たして不可侵条約などと言う大げさなものか否かは、もう少し詳しい内容がわからないと、断言はできないが取りあえず。【526日 中東の窓】

******************

 

イランの意図、特に、サウジアラビアとの関係に関する部分については不明ですが、サウジアラビアが(イランと結託しているとして排除してきた)カタールの関係改善に乗り出し、イランがサウジアラビアを含む中東全体の緊張緩和を図る動きに出るのであれば、冒頭の中東全般の構図にやや変化も出るかも。

 

もっとも、湾岸地域の緊急会議はアメリカ主導のイラン包囲網の確認が目的ですので、その点では、これまでと変化もないのかも。

 

【アメリカのイラン敵視政策を煽るボルトン補佐官】

中東問題の核心にあるイランとアメリカの対立ですが、イラン(少なくともロウハニ大統領やハメネイ師など)が破滅的なアメリカとの軍事衝突を本音としては望んでいないのは間違いないでしょう。

 

****イラン大統領、米国が制裁解除・約束履行なら協議可能と示唆*****

イランのロウハニ大統領は29日、米国が制裁を解除し、核合意の下でコミットメントを履行すれば米国との協議は可能かもしれないと述べた。国営テレビが伝えた。

国営プレスTVは「ロウハニ大統領は、米国が制裁を解除し、コミットメントを果たせば(対話の)ドアは閉められない、と語った」と報じた。【529日 ロイター】

*******************

 

トランプ大統領にしても、厳しい制裁で有利なディールに追い込むのが目的で、カネのかかる軍事衝突や中東への深入りは望んでいないと言われています。

 

アメリカ第一、とりわけ、自分の再選第一で、軍事的に事を構えるほど、中東を含む外国のことに関心を持っていないと言うべきか。(逆に言えば、再選に有利に作用するなら、軍事行動も・・・という危うさもありますが)

 

****トランプ氏「イランの政権交代望まない」 米中貿易摩擦にも言及****

訪日中のドナルド・トランプ米大統領は27日、安倍晋三首相との日米首脳会談後の共同記者会見で、米国との間で緊張が続いているイランについて「政権交代は望んでいない」と述べた。

 

トランプ氏はイランについて「米国はイランの政権交代も核兵器も望んでいない」と述べ、イラン政府と何らかの合意ができるとの考えを示した。(後略)【527日 AFP】

*****************

 

しかし、トランプ大統領の傍らには、耳元でイランとの戦争をささやく根っからのイラン嫌い、ボルトン国家安全保障問題担当大統領補佐官が存在しています。

 

****「トランプに戦争をささやく者」集中砲火浴びるボルトン*****

米国がイランに対する圧迫を強め、戦争を懸念する声が上がっている中、黒幕とされるジョン・ボルトン国家安保補佐官に批判の矛先が向けられている。

 

「スーパータカ派」と呼ばれるボルトン補佐官は最近、「有事の際、中東に12万の兵力派兵検討説」など、対イラン軍事圧迫の根源地とされている。

 

ボルトン補佐官は昨年4月にホワイトハウス入りするまで、北朝鮮に対しても先制攻撃すべきだと主張していた。今月初め、ベネズエラのニコラス・マドゥロ政権を追放するため軍事蜂起を進めるべきと主張し、恥をかいたこともあった。

 

CNN15日、「ボルトンはドナルド・トランプ大統領に戦争をささやく者(war whisperer)」という見出しの記事で、「トランプとボルトンは、ベネズエラや北朝鮮政策においては互いに意見の相違があるかもしれないが、二人の立場が同じように見える国がまさにイラン」だと指摘した。

 

また、「ボルトンはイランに対する嫌悪を長いこと抱いている」とし、彼が2015年「イランは交渉で核をなくさないだろう」として爆撃を主張したことを喚起させた。

 

トランプ大統領は、ボルトン補佐官の就任から1カ月後、イラン核協定からの脱退を宣言した。(後略)【517日 ハンギョレ新聞社】

************

 

****戦争したくてしょうがない男 トランプ政権「行く人来る人」列伝7****

2016年、大統領に就任したばかりのトランプが国務長官を決める際、ジョン・ボルトンも候補のひとりとして挙げられていた。だが、側近の見かけを気にするトランプは、ボルトンのチョビ髭が気に入らないとして彼を却下し、面識がなかった(が恰幅の良い白人男性だというので)元エクソンCEO、レックス・ティラーソンを選んだというエピソードがある。

 

そのチョビ髭とは関係なく、ボルトンは長い間、戦争好きを隠さない「超タカ派」として多くの外交筋や国会議員から嫌われてきた。

 

シリアからベネズエラ、そしてイエメン、北朝鮮などで、regime change(政権交代)を目指す、と言えば穏やかな外交政策のようだが、要するにクーデターを起こしたり戦争をしかけたりして、よその国のトップをその座から引きずり落とすために画策するのが信条なのだが、あまりにも無礼で人望がないために、ずっと「副」が付く地位しか与えられてこなかった。

 

(中略)今回ボルトンが国家安全保障問題担当大統領補佐官になれたのは、以前からトランプの大本営放送局のようになっているフォックスTV局で、オバマ大統領が国連やEUと協力して締結にこぎつけたイラン核合意からの離脱をずっと訴え続けていたからだ。

 

トランプはとにかく前任者であるオバマが成し遂げた功績をひとつ残らずひっくり返そうと必死なので、チョビ髭はともかく、自分の政権下で核合意から離脱し、ついでにその外交政策を推し進める者として責任を被ってくれれば都合がいいのである。

 

だが、もともとトランプは戦争をする(軍備を増強する)のはカネの無駄だと思っており、国民の目が「戦争になるかもしれない」と、国内での司法妨害に関する調査から逸れてくれるのはありがたいが、実際にイランと戦争をしたいわけではない。

 

イラク戦争で懲りた下院議会も開戦に賛成する可能性はない。ボルトンの言動は非核化合意に尽力した国々にとって甚だ迷惑なのだ。

 

イランだけでなく、北朝鮮との首脳会談で一方的で急速な非核化を条件として突きつけさせたのもボルトンだし、先月にベネズエラでニコラス・マドゥロ大統領の再選を阻止しようとあれこれ表立って画策したのもボルトンだ。だが、結果を見る通り、成功した試しはないのだが。

 

そして今、非核化への合意から勝手に離脱したアメリカに対し1年間ガマンしてきたイランが、少しずつ核武装を進めても文句を言える立場にはないのに、ありもしないイランからの「脅威」に対して軍艦や戦闘機を配置し、勝手に中東の緊張を高めているのがボルトンなのだ。

 

戦争大好きといっても、ベトナム戦争時代に若者だったボルトンは、戦争肯定派だったものの、1929年に徴兵候補になってからは、州兵軍に入隊したり大学院に行ったりして戦地に行くのを免れているのだが。【521日 大原ケイ氏 Japan In-depth

******************

 

この手の“黒幕論”は“陰謀論”同様に軽々に飛びつくのは問題がありますが、ボルトン氏がイランを敵視する超タカ派で、気まぐれなトランプ大統領のブレーキ役ではなく、アクセル役になっているのは事実でしょう。

 

****UAE沖のタンカー攻撃、「ほぼ確実にイランの機雷」=米大統領補佐官****

ボルトン米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は29日、アラブ首長国連邦(UAE)沖で今月、石油タンカーが攻撃を受けた問題について「ほぼ確実にイランの機雷によるものだ」との見方を示した。

UAE沖では今月、サウジアラビアの石油タンカー2隻を含む4隻が妨害行為を受けたが、UAEは攻撃元を特定していない。

サウジはイランが攻撃を指示したと非難。イランは関与を否定している。

ボルトン補佐官はアブダビで記者団に「ほぼ確実にイランの機雷によるものであることは明らかだと思う」と発言。調査には米国も参加しているが、具体的な点についてはコメントを控えた。(後略)【529日 ロイター】

***************

 

なお、安倍総理が6月にもイランを訪問する、トランプ大統領もこれを支持していると報じられています。

トランプ大統領訪日の直前には、イランのザリフ外相が訪日しています。

 

これまでこういう場面で声がかかることもなかった日本にも期待がかかるほど、アメリカ・イラン双方とも打つ手に苦慮しているということでしょう。(トランプ大統領も、ボルトン補佐官にささやかれるままに戦争に突き進んでいるという訳でもなさそうです)

 

どういう話を携えてイランに行くのでしょうか?単にトランプ大統領の代弁者として行くのであれば、これまでの日本とイランの関係を無駄にしてしまうとの指摘もあります。

 

【パレスチナ「世紀の取引」は再延期?】

中東情勢でこれから大きな転機となる「可能性」があるのが、6月にも発表されると言われているアメリカのパレスチナに関する「世紀の取引」ですが・・・。

 

****米大統領上級顧問ら中東歴訪へ、パレスチナ和平案への支持取り付け****

米ホワイトハウス高官は28日、クシュナー大統領上級顧問が今週、米代表団を率いて中東諸国を訪問すると明らかにした。6月下旬に開催されるパレスチナ支援会合に向け、域内の支持を取り付けたい考えという。

 

クシュナー氏やグリーンブラット中東特使、イラン担当特別代表らは、モロッコのラバトからアンマン、エルサレムを歴訪し、30日にイスラエル入りする予定。クシュナー氏はその後英ロンドン入りし、国賓として英国を訪問するトランプ大統領と合流する。

 

ホワイトハウス高官によると、今回の中東歴訪の目的は、6月2526日にバーレーンの首都マナマで開催されるパレスチナへの経済支援を巡る会合に向けた下準備となる。クシュナー氏は同会合で、トランプ大統領が進めるイスラエルとパレスチナとの中東和平案の一部を公表する見通し。【529日 ロイター】

*****************

 

中立的立場を放棄してイスラエル寄りを鮮明化しているアメリカ・トランプ政権の打ち出す「世紀の取引」がどんなものになるのか?あまり期待はできない感もあります。内容はともかく、以前から「出す」と言っている案件ですから、「出すなら、早く出せよ!」という感も。

 

もっとも、トランプ大統領がこの問題で盟友とするイスラエル・ネタニヤフ首相が再選挙に追い込まれそうな情勢で、「世紀の取引」発表も再度延期されるのでは・・・とも。

 

****イスラエル政局と「世紀の取引」****

トランプの中東、北朝鮮、経済外交等、総てがころころと代わる(無理はない、何しろ彼にとっては自己の政治的立場を守り…要するに弾劾を防ぐこと・・・次期大統領選の勝利以外には関心がなく、その時々の計算で,ころころと立場を変えるのだから、はた迷惑なことこの上もない)中で、イスラエルに対する支持を中核とした中東紛争の解決のための「世紀の取引」だけは、確固としたものかと思われていましたが、この問題についてもその発表が何度か延期され、このままでいけばうやむやになり、ごみ箱行きになる可能性が出てきました。

 

 

最大の問題は、彼の中東での最大の盟友(ほかにはサウディ皇太子とアブダビの皇太子くらいか)イスラエルのネタニアフ首相の新政府樹立が上手く進んでいないことで、どうやらイスラエル議会の新たな選挙の可能性が出てきたことです。(中略)

 

ここまで「世紀の取引」が延期されてきた最大の理由はイスラエル総選挙だったのだから、仮に再選挙があるとすれば、もう一度延期されると考えるのが普通だろうと思います。

 

更に、「世紀の取引」に不利な状況としては、その前奏として、バハレンでパレスチナの経済発展に関するワークショップが開かれることとなっていて、サウディやUAE等は参加の意向のようですが、多くのアラブ諸国が極めて消極的で、特にパレスチナ暫定政府は、各地へミッションを送り、参加取りやめを働きかけてきた模様です。

 

このため双方の板挟みとなったヨルダンなどは、ごく小規模のレベルの低い実務家レベルのミッションを派遣するとと伝えられます

 

また本日のal qods al arabi net は、中国のパレスチナ大使の言として、中ロが参加しないだろうと伝えています。

 

さらに同ネットの別の記事は、このような動きに自信を持ったか?パレスチナのアッバス議長が、パレスチナ問題は政治問題であり、いわゆる「世紀の取引」は地獄に向かうであろうと語ったと報じています。

 

未だイスラエルの再選挙があると決まった訳でもなく、イランが米国の締め上げに必死で抵抗しているように、矢張り、いくらトランプなどと言うとんでもない大統領を持ちながらも、「腐っても米国」と言うだけの力は持っているので、アッバス議長も、「世紀の取引」は地獄に向かうなどと発言したことを大いに悔やむことがないとは言えません。

 

しかし、どうもこれだけ遅れたうえに、さらに発表が遅れることとなれば、正しくそのモメンタムは失われることとなりそうです。

 

尤も欧州諸国や日本にとっては初めからパレスチナが消極的で、成功の確率も低そうな問題に、トランプの奉加帳が回ってくるよりは、はるかに良いのではないかと言う気がします。

勿論個人的な感触です。【528日 中東の窓】

************

 

“ごみ箱行き”ということもないようにも思うのですが、現実性のない単なる「打ち上げ花火」(あるいは、アメリカ国内支持層向けパフォーマンス)に終わる可能性も。

 


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ドイツ  反ユダヤ主義の拡... | トップ | 日韓関係 凍り付く政治のな... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

中東情勢」カテゴリの最新記事