(昨年8月4日 首都モガディシオの暫定政府の教育省の建物入り口で起きた自動車爆弾によるテロ現場 70~80人が犠牲になったこのテロについては、イスラム武装組織アルシャバブが犯行声明を出しています。“flickr”より By Pan-African News Wire File Photos http://www.flickr.com/photos/53911892@N00/6213063195/ )
【「改革へ努力しないと国際社会は手を切る」】
実質的無政府状態が続く東アフリカのソマリア情勢については、2月24日ブログ「ソマリア 強化されるアルシャバブ包囲網 安定化に向けて国際会議」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20120224)でも取り上げたように、ソマリアの支援を考える国際会議が2月23日、ロンドンで開かれました。
会議では、今年8月に国連安全保障理事会から与えられた権限が切れる暫定政府について、権限の延長はしないことで合意し、暫定政府を引き継ぐ新政府の設立を目指すことが決められました。
これについては、「改革へ努力しないと国際社会は手を切る」(日本政府関係者)という、成果があがっていない暫定政府への通告との見方もあるそうです。
****ソマリア、今夏に選挙目指す 支援会議、新政府設立促す****
紛争と飢餓に苦しむ東アフリカのソマリアの支援を考える国際会議が23日、ロンドンで開かれた。南部を支配するイスラム武装組織シャバブの掃討強化を確認。今夏までに選挙をし、国を統一できていない暫定政府を引き継ぐ新政府の設立を目指すことを決めた。
欧米やアラブの国々、国連機関などの55カ国・機関の代表が出席した。主催したキャメロン英首相は、シャバブを排除する軍事作戦を強化すると表明。今年8月に国連安全保障理事会から与えられた権限が切れる暫定政府については、権限の延長はしないことで合意したと述べた。
クリントン米国務長官も記者会見で「ソマリア人自身が憲法を起草し、新しい大統領を選挙で選ぶ」と強調。暫定政府のアリ首相は「できるだけ多くのソマリア人社会を巻き込んだ政府を作る」と述べた。ノルウェーなどが出資して、各地方の行政を支援する基金も作る。6月にはトルコ・イスタンブールで国際会議を開き、新政府設立を促す。
日本の山根隆治外務副大臣は、暫定政府の警察官訓練や人道支援に4500万ドル(約36億円)、国際機関の海賊対策に56万ドル(約4500万円)を新たに拠出すると表明した。
1991年に軍事政権が崩壊したソマリアでは混乱が続き、事実上無政府状態になっている。国際社会の国造り支援や紛争停止の取り組みも十分な成果はなく、今回の会議は「改革へ努力しないと国際社会は手を切る」(日本政府関係者)という暫定政府への通告、との見方もある。【2月25日 朝日】
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【暫定政府側が首都周辺で掌握しているのは沿岸部の長さ約20キロ、幅約10キロの範囲にすぎない】
戦況の方は、イスラム武装勢力アルシャバブが首都モガディシオから撤退し、首都・暫定政権を防衛するアフリカ連合(AU)軍が支配エリアをやや広げ、隣国のエチオピア、ケニアが侵攻してシャバブ包囲網を形成してはいますが、まだドラスティックな変化はないようです。
この状況で、「ソマリア人自身が憲法を起草し、新しい大統領を選挙で選ぶ」というのは、あまり現実味がないようにも思えます。
新政府樹立にしても、ソマリアでは多くの部族勢力の思惑・権力争いが絡み合っていますので、指導者の首のすげ替えひとつとっても容易ではなさそうです。
ただ、8月の暫定政府の権限が切れますので、国際社会の後押しで何か対策をとるのでしょう。
****治安回復作戦「アフリカ人で解決する」 ソマリア最前線****
ソマリアの暫定政府側がモガディシオ周辺で掌握しているのは沿岸部の長さ約20キロ、幅約10キロの範囲にすぎない。アフリカ連合(AU)軍に参加するウガンダ軍に同行し、装甲車でバカラ市場の北東10キロ近くの町マスラーへ向かった。戦闘の最前線だという。
■武装勢力掃討、町を確保
(中略)・・・・しかしシャバブは町を撤退後、ゲリラ戦術を敷く。モガディシオでは1日平均5回の爆弾テロが起きている。昨年10月には教育省の入り口で爆発があり、80人以上が死亡。今月14日も大統領府近くで多数の死傷者を出す自爆テロが起きた。戦線の拡大とともに広がった防衛線のすき間から潜入を繰り返しているようだ。
ケニア軍とエチオピア軍もそれぞれ南、西側から進軍しているが、解放地域で治安を守る力は圧倒的に不足している。AU軍は、現要員のほぼ倍の約1万8千人に増強されることが決まった。55の国や機関の代表が2月にロンドンに集まった国際会議でも、シャバブ掃討の軍事作戦強化が申し合わされた。
ソマリアの内戦を巡っては20年前、米軍が主導し、「希望回復作戦」と称して侵攻。だが米軍は市民をも威圧した。その反感から、撃墜された米軍ヘリの乗組員は市民に裸で引き回された。米軍は撤退し、作戦は失敗に終わった。以来、国際社会の関心は急速に薄れ、国際テロ組織の温床化と、海賊の隆盛を許した。
今、戦闘を担うのはアフリカ各国の兵士たちだ。ウガンダ軍トップのロケチ司令官は、米軍はアフリカ人の感情を理解していなかったと指摘した。「我々はソマリア人の気持ちを理解しながらやっている。国際社会の援助を受けながらも、アフリカの問題をアフリカ人が解決する初めてのケースになる」と語った。
シャバブに海賊マネーが流入している可能性にも触れ、「陸地での軍事作戦は海賊問題にも関係する。海賊は海に住んでいるわけではない」と話した。
■避難民キャンプにも流れ弾
「未曽有の人道危機」と国連が呼んだソマリアを襲った飢饉(ききん)から8カ月。モガディシオの避難民キャンプでは、干ばつの解消に伴い帰還する人々がいる半面、暫定政府側とシャバブとの戦闘激化によって故郷を追われた人々が続々と集まっている。
モガディシオ北部にあるキャンプは、今年に入り拡大を続けている。約2カ月前は何もなかった更地に数キロにわたってテント群ができた。多くは首都の北約30キロにあるアフゴエ周辺から逃げて来た人々だ。
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、今年だけで9千世帯、約5万4千人がこのキャンプに逃げてきたという。広がったキャンプは戦線近くにまで達し、流れ弾や迫撃砲が昼夜問わずテントを襲い、死傷者が相次いでいる。記者が訪れた前日にも流れ弾で1人が死亡し、7人が負傷した。
避難民たちは、テントの中を塹壕のように深く掘り、土嚢を積んで自己防衛していた。テント群は小さな防空壕(ごう)の固まりのようだ。穴だけが残る場所もあちこちにある。居住者が死亡し、テントが取り除かれたのだ。
イスマンさん(26)は深夜、寝ていたところ、流れ弾が当たり太ももを貫通した。「いくら深く掘っても落ち着いて寝てられない」
6人の子どもと暮らすラーマさん(30)は、土嚢を高さ1.5メートル以上積んだ。1カ月半前、ロバに家財道具を積み込んでキャンプに来た。街で戦闘が始まると聞き、近所の人たちと逃げてきた。「トイレも水もないが、戻るよりはましだ」
国連は先月、ソマリアで飢饉の脱出を宣言した。しかし、大半の地域では、シャバブが国際機関を敵視しているため、依然として200万人に必要な食糧援助が届いていない。国内避難民と海外へ逃れた難民は計約230万人に上る。
国連安全保障理事会が与えた暫定政府の権限は8月で切れる。ソマリアは正念場を迎えている。【3月25日 朝日】
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【アルシャバブはゲリラ戦術・テロで対抗】
アルシャバブ側は首都撤退後も“戦線の拡大とともに広がった防衛線のすき間から潜入を繰り返している”ということで、首都モガディシオの国立劇場で今月4日にも自爆テロがあり、ソマリア五輪委員会の会長らが殺害されています。犯行現場には暫定政府首相ら閣僚もいましたが、そちらには被害はなかったようです。
****ソマリア国立劇場で女性による自爆攻撃、五輪委トップら4人死亡****
ソマリアの首都モガディシオの国立劇場で4日、爆発物を体に縛り付けた若い女性による自爆テロが起き、ソマリア五輪委員会の会長とソマリア・サッカー連盟の会長を含む4人が死亡した。
現場に居合わせたAFP通信の記者によると、テロ発生当時、劇場ではソマリアの衛星テレビ放送ネットワークの導入1周年を祝う式典が行われており、アブディウェリ・モハメド・アリ暫定政府首相が約200人を前に演説していた。首相と閣僚7人にけがはなかった。
国際テロ組織アルカイダと関連のあるイスラム過激派組織アルシャバブが犯行声明を出した。2011年8月にモガディシオ市内の拠点を放棄したアルシャバブはゲリラ戦術に立ち戻り、モガディシオで自爆テロや手りゅう弾による攻撃を繰り返している。【4月5日 AFP】
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【「国際支援がなければ、宝の上の死人になる」、ただし「政治腐敗によって石油は呪いにもなる」】
アルシャバブ包囲網が形成されつつあるとは言え、まだ先が明確ではないなか、欧米企業が早くもソマリアの資源開発に乗り出しているそうです。
紛争があることろには、その火種となる資源がある・・・というのが一般的ですが、ソマリアにも手つかずの石油や天然ガスなどの地下資源が豊富に存在しているとか。
欧米各国も、住民保護、あるいはアルカイダ対策や海賊対策だけでソマリアを支援する訳ではないのが現実です。
「たとえそうであっても、市民の生命が助かるのであればよい。開発は自前ではできない。国際支援がなければ、宝の上の死人になる」(暫定政府の水石油鉱物省ハシ局長)というのももっともですが、「政治腐敗によって石油は呪いにもなる。我々は、国民共通利益のために利用する」(暫定政府のアリ首相)ということには、くれぐれも留意してもらいもです。
「石油の呪い」はナイジェリアなど各地で見られることです。
****ソマリア資源に熱視線 手つかずの宝、欧米が開発打診****
今夏の正式政府樹立を目指し、暫定政府とアフリカ連合(AU)軍によるイスラム武装勢力シャバブとの戦闘が激化するソマリアで、欧米が、同国や近海に埋蔵されている可能性がある地下資源の獲得に乗り出し始めた。
20年以上にわたる内戦で無政府状態が続くソマリアには、手つかずの石油や天然ガスなどの地下資源が豊富にあるとされる。暫定政府の水石油鉱物省によると、油田が近海や北部や南部にあり、天然ガスは南部の沿岸地域にあるという。
内戦前の1985~91年、欧米の大手石油会社が調査を進め、埋蔵の可能性を確認。当時の政府と権利に関する契約を交わしたという。しかし、内戦が始まり撤退した。そんな中、今年に入り、カナダ系の石油会社が北部での掘削を本格的に始めた。その後、暫定政府に欧米の各社から打診が相次いでいるという。
同省のハシ局長は資源の埋蔵量は「アフリカ屈指」という。カナダ系企業による掘削は、1998年に一方的に自治を宣言したプントランド内で行われており、暫定政府の影響が及ばない。「シャバブの存在で、首都から10キロ先にも行けない状態で、その是非は言及できない」とした上で、「シャバブが掃討された後には、話し合いの準備がある」と話した。
さらに「20年前、米国が資源確保のために軍を送ったと指摘する声もあった。たとえそうであっても、市民の生命が助かるのであればよい。開発は自前ではできない。国際支援がなければ、宝の上の死人になる」と述べた。
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■「国民利益のために利用」 暫定政府のアリ首相
ソマリア暫定政府のアリ首相が朝日新聞の単独取材に応じ、石油資源をこれからの復興資金にする方針を示した。
アリ首相は「潜在的な油田を持っているが手つかずだ。開発して国の発展に役立てるのはよいことだ。そのためにも投資に関する法律整備が必要だ」とした。
首相は2月に世界の要人が集まったロンドンでのソマリア支援の会議に出席。「ロンドンでは石油の話は誰ともしていない」と断ったものの、内戦前の欧米企業との契約は尊重されるべきだとの見方を示し、国際企業を歓迎した。一方で、アフリカ各国で石油資源を巡る紛争が絶えないことにも触れ、「政治腐敗によって石油は呪いにもなる。我々は、国民共通利益のために利用する」と話した。
石油資源の開発の前提となる、国内の安定化について、首相は「シャバブとの戦闘は確実に勝利に向かっている。勝つだけでなく解放地域を安定化させなければならない。8月までに安定化させる計画だ」とした。さらに、インド洋の海賊について「問題の根源は無政府状態と貧困だ。シャバブと海賊は互いに協力している可能性もある。全土の安定化が解決の鍵となる」とした。【4月6日 朝日】
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