孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ソマリア  アルシャバブ、再統合、そして「カート」

2014-04-02 22:41:39 | ソマリア

(カート宴会(イエメンでしょうか) 床に散らばっている植物がカート 膨らんだ頬にカートの葉っぱをため込んでいます。 “flickr”より By Phil Marion  https://www.flickr.com/photos/phil_marion/2557822440/in/photolist-4U2vuU-9JqkRu-9JHs4S-dAqan-aGdFip-8oAL5z-asgmjs-bvbwiX-8LkLz5-9fbiZA-2QEbmu-8Wv7n9-8Ws4fX-2QzHb8-dqcKHR-dqeDpm-dqefyj-dpLUtt-dqdd42-dqc9AY-dqcmea-dqck5B-dpLF62-dqdoVR-dqd2xD-dqeyMC-dpLDCv-dqdy2H-dqeCin-dqcMK7-dqevRL-dqdfG7-dqed15-dqddbf-dqd9uz-dpLXUE-dqdodh-dqdvv7-dpMjez-dqd4VY-dqcQ57-dpM2Fh-dqdCkR-dqdnoh-dqdt7t-dpM6e3-dqdKyD-dqe3yZ-dqdzmE-dqdFKB

ケニアで進むソマリア難民への締め付け
東アフリカ・ソマリアでは内戦が続き、隣国ケニアには約50万人の難民が流入していると言われています。
当然ながら、難民と同時に、ソマリアで内戦を戦っているイスラム原理主義勢力アルシャバブの影響もケニア国内に及んできます。
特に、ケニアはアルシャバブ掃討のためにソマリアに軍事介入していますので、アルシャバブによるテロ攻撃の標的ともなります。

アルシャバブによるケニア国内でのテロは、昨年9月に首都ナイロビの高級ショッピングモールで起きたものが世界の注目を集めましたが、それ以降もテロが続いています。

3月23日、ケニア南東部モンバサ近郊で武装集団が教会を襲撃して無差別に発砲、同国警察幹部によると4人が死亡、17人が負傷しています。

3月31日、首都ナイロビで3件の連続爆発があり、少なくとも6人が死亡、20人以上が負傷。現場は隣国のソマリア人が多い地区とされています。

こうした治安悪化に対し、ケニア政府はケニア国内のソマリア難民に対する締め付けを強化しています。

****ケニア:ソマリア難民に「キャンプ」帰還令****
ケニア政府が国内の都市部に居住するソマリア難民に対し、指定された難民キャンプに戻るよう命じる緊急令を発した。「緊急的な治安課題」のためとしている。

ケニアでは、隣国ソマリアのイスラム過激派アルシャバブによるテロ攻撃が増加。難民の集まる場所がテロの温床となるのを政府が懸念したとみられるが、人権団体からは批判の声も上がっている。

 ◇都市部テロを懸念
ソマリアは1991年から内戦が続き、ケニアへこれまで約50万人の難民が流入。ソマリア国境近くのダダーブは世界最大の難民キャンプとされる。さらに、首都ナイロビなどにも難民らが集まる大規模なソマリ人地区が形成されている。

一方、ソマリアの過激派アルシャバブが近年、国境を越えてケニアの地域社会に徐々に浸透。アルシャバブ掃討のためケニア軍がソマリアに軍事介入した2011年10月以降、ケニア各地でアルシャバブによる報復テロが頻発している。アルシャバブは昨年9月、ナイロビ随一の高級商業施設「ウエストゲート・モール」を襲撃し、計67人が死亡した。

緊急令は3月25日に発令されたが、ナイロビで3月31日、爆発で6人が死亡した。現場はソマリ系ケニア人やソマリア難民が多く住むイスリー地区で、同地区ではアルシャバブの犯行と疑われる爆弾テロなどがたびたび起きている。

アルシャバブ戦闘員がソマリ人地区に潜伏している疑いもあり、都市部の貧困層地域で若者を勧誘するケースもある。こうしたことを受けた緊急令だが、国際人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」(本部・ニューヨーク)は「過密で整備が不十分なキャンプへの強制的な移住計画は再考すべきだ」と反対している。【4月1日 毎日】
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31日のナイロビでの連続爆発テロを受けてケニア警察は、隣国ソマリアを拠点とするイスラム過激派組織アルシャバブが事件に関わった疑いがあるとして、ソマリア人が多く住む地区で600人以上を拘束したとも報じられています。【4月2日 NHK】

ソマリア大統領 再統合へ期待
ソマリアにおけるアルシャバブ及び内戦の状況はよくわかりません。
アルシャバブは首都モガディシオを追われて、勢力を弱体化させてはいますが、なお、地方での抵抗は続いているようです。

2月21日にはソマリアの首都モガディシオにある大統領府で、自爆テロとみられる大きな爆発があったのに続きアルシャバブと見られる武装集団が敷地内に侵入、警備の治安部隊などと激しい戦闘となりました。
この大統領府襲撃で少なくとも14人が死亡しましたが、モハムド大統領は無事でした。

ソマリア政府側は、こうしたアルシャバブの攻撃は、組織弱体化による焦りだとしています。

****存在感示そうと躍起」=イスラム過激派―ソマリア大統領****
来日したソマリアのモハムド大統領は12日、東京都内の日本記者クラブで記者会見し、イスラム過激派アルシャバーブについて「支援者から資金を得るため存在感を示そうと躍起になっている」と強調した。アルシャバーブは2月、首都モガディシオの空港や大統領府を狙いテロ攻撃を相次いで実行している。

世界各地からのアルシャバーブへの資金提供は「これまでも水面下で行われてきた」と大統領は説明。全貌は今も明らかではない。しかし「資金面で支援が細り弱っている」と述べ、アルシャバーブの最近の弱体化は著しいとみている。

過激派や海賊を構成してきたソマリア人の若者について、バーレ政権崩壊でソマリアが無政府状態になる直前の1990年に5歳だった子供は現在29歳になっていると指摘。「こうした子供たちは全く教育を受ける機会がないまま大人になった」と大統領は訴え、職業訓練をはじめ社会復帰のための支援が必要だと訴えた。【3月12日 時事】 
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かつて、ソマリアについては“実質的無政府状態の”という形容が必ずついていました。
2012年9月に大統領選挙を行いモハムド大統領が選出され、同年11月には新内閣も発足しています。

国際的な認知も進んでおり、2013年1月には、アメリカ政府がアフリカ東部のソマリア政府を正式に承認。アメリカがソマリア政府を正式に承認するのは、1991年に同国が内戦に陥って以来初めてです。【2013年1月18日 CNN】
2013年4月には、IMFもソマリア政府を承認しています。

ただ、ソマリアはイスラム過激派アルシャバブの問題だけでなく、内部的には独立を主張する北部のソマリランド、自治政府を主張するプントランド、そして首都モガディシオのある南部のソマリアに3分割されています。

このうち最も治安が良いのは、その独立は国際的には全く承認されていませんが、北部のソマリランドです。
ソマリア政府は、そのソマリランドと再統合の話を進めているとのことです。

****ソマリア:北西部ソマリランドと再統合を モハムド大統領****
内戦状態が続くアフリカ東部ソマリアのハッサン・シェイク・モハムド大統領(58)が12日、東京都内で毎日新聞のインタビューに応じ、1991年の内戦初期に「独立」を宣言した北西部ソマリランドと再統合に向けて交渉していることを明らかにした。大統領は「時間はかかるが多くの進展がある」と述べ、再統合に期待を示した。

ソマリアは91年に社会主義政権が崩壊してから内戦に突入。2012年に正式政府が発足したが、ソマリランドは一方的に独立を宣言してから分断が続いている。

大統領は「ソマリアの国土は分割できない」と独立を承認する考えがないことを強調。「連邦政府に参加するか、自治区になるのかなどは見えていないが、あらゆる可能性を検討している」と述べた。現在は領空の共同管理など「簡単な問題」から話し合いを始めているという。(後略)【3月12日 毎日】
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混乱状態のソマリア・プントランドと一線を画して良好な統治状態を続けてきたソマリランドからすれば、いまさら内戦状態のソマリアと一緒になっても・・・というところでしょうが、ソマリランド等を含めた形でのソマリア政府の国際認知が進むという時代の流れもあります。

プントランドは海岸が海賊、山岳部がイスラム過激派アルシャバブの基地になっていると言われていますが、1月の“大統領”選挙で、ソマリア暫定政府で2011年から約1年首相を務めたアリ氏が当選しています。
プントランドは自治を認めた連邦制での再統合には賛成しています。

あまり情報がないソマリア、ソマリランドなどについては、「謎の独立国家 ソマリランド」(高野秀行著)が面白く読めますが、ソマリア理解のキーワードは“氏族”のようです。

カート 貧困や食料不足、水危機に汚職などの根っこにある問題
イスラム過激派アルシャバブとの内戦、海賊の跋扈、ソマリランド・プントランドなどの再統合・・・いろんな問題を抱える氏族社会ソマリアですが、もうひとつ問題がありそうです。

高野氏の著書にも頻繁に登場する覚醒作用のある植物“カート”の問題です。
高野氏は、“カート宴会”によって本音でのコミュニケーションがとれると好意的にも評価していますが(http://www.webdoku.jp/column/takano/2012/0924_114318.html)、その副作用も大きそうです。

カートは“新鮮な若葉を噛み潰し、頬の片側に噛みくずを貯めながら、汁を飲み下していく”ことで弱い覚醒作用が得られ、“飲酒の禁じられているイスラム世界のうち、特にケニア、ソマリア、エチオピア、イエメンなどアラビア半島から東アフリカにかけての地域においては、酒などの代用として嗜好品として需要が高いが、イスラム世界のほとんどの国ではその特性のため麻薬として非合法となっている”【ウィキペディア】とのことです。

****カート」、イエメンに影 覚醒効果・多幸感生む葉****
中東の最貧国イエメンで、カートと呼ばれる覚醒効果のある葉の過剰消費が、人々と社会をむしばんでいる。

社交の友として親しまれてきたが、長い独裁と「アラブの春」後の社会不安で一段と広まった。他の作物からの転作も相次ぎ、その影響で水や食料も不足。貧困がさらに深まる悪循環が起きている。

 ■社会不安で消費量増加
首都サヌア中心部の葬儀場。大広間でくつろぐ男たち約150人はみなぷっくりと片ほおを膨らませ、もぐもぐと口を動かしていた。かんでいるのは小枝から摘んだカートの新芽だ。

「人付き合いには欠かせないし、元気が湧く。若い頃は毎日9時間はかんでいた」と元電気技師スリマン・バハリシュさん(61)。

イエメンでは葬儀や結婚式はカート抜きでは始まらない。毎夕、あちこちの民家の客間でカートパーティーが開かれ、旧交を温めたり、人脈を広げたり。社交の潤滑油になってきた。仕事中や運転中に眠気覚ましにかみ続ける人も多い。

かむと青汁や抹茶のような青臭い苦みがある。覚醒剤のアンフェタミンに似た成分が含まれ、覚醒効果や多幸感をもたらすという。

産地や品質によって1回分500リアル(約240円)から1万5千リアル(約7200円)ほどと、イエメンの物価からすれば安くはない。運転手アブド・サレハさん(38)は月給の半分以上をカートに費やすが、「くつろげるし、やめられない」と話す。

カートは、イエメンやエチオピア、ケニアなどで数百年前から愛好されてきた。イエメンでは、サレハ前大統領が政権を握った1970年代以降に急速に浸透し、政府の庁舎内にもカートのための部屋がつくられた。

地元環境団体「持続可能な開発と環境保護組織」によると、12年の市場規模は3570億リアル(約1713億円)で、13年前の8倍に膨らんだ。

カート売りのフォージア・マシュダクさん(30)によれば、「社会問題が起きるほど、売り上げも伸びる」。
サレハ氏が退陣に追い込まれた11年の民主化デモや武力衝突で、治安が悪化し経済は低迷するなかで、カートの売り上げは4割増えた。

飲食店員マンスール・フセインさん(24)は、仕事があまりなく「カート以外やることがない」と話す。世界保健機関(WHO)は、成人男性の9割、女性の5割、12歳以下の児童の2割がカートを毎日かむと推測している。

 ■転作相次ぎ水不足拍車
巨岩に立つ別荘「ロックパレス」がそびえるサヌア郊外ワディ・ダハール。かつてはブドウや桃、ザクロだった緑は、今はほとんどがカートの木だ。カート農家ファワズ・ムニフィさん(36)は「年に5回も収穫できるし、手間もかからない。実入りは3倍以上になった」と話す。

政府情報センターによると、高級品「モカマタリ」で有名な輸出作物コーヒーの栽培面積は08~12年にほぼ横ばいだったが、カートは14%増えた。農業部門の国内総生産(GDP)の3分の1を担う大黒柱だ。

だが副作用も出ている。
「昔は川だったんだ。子どもの頃はよく釣りをした」。カート農家アブドラ・マソディさん(55)は車道に視線を落とした。大量の水を使うカート栽培が広がるにつれて、川は干上がり、40年ほど前は30メートル下からくんでいた地下水も、300メートル掘らないと出なくなった。

イエメンは元々、水資源が乏しい。1人が年間に使ってよい水は120立方メートルで、世界平均の2%。年7%もの人口増が続くサヌアでは水不足の危機が叫ばれてきた。カートは地下水の7割を消費しており、世界食糧計画(WFP)は水資源が枯渇する「主犯」と指摘する。

WFPによると、人口の4割に当たる1千万人以上が食料不足に陥り、慢性的な栄養不良の児童の割合は58%とアフガニスタンに次ぐ高さだ。穀物自給率は2割に満たず、輸入に頼る小麦の価格も高値が続く。

外貨を稼ぐコーヒーや空腹を満たす穀物をよそに、カート生産が増え続け、水がますます不足する――そんな構図だ。食欲減退効果のあるカートで空腹を紛らわす家庭も珍しくないという。

 ■国内は合法、国外も鈍い対応
カートへの過度な依存を減らそうと、政府は輸出入を禁止し、栽培や消費も制限しようとしてきた。この3月にも内務省が勤務中の警察官にカート禁止を厳命した。

ただ、カート関連産業は全雇用の15%を占め、抜本的な対策には踏み込めないのが実情だ。農家に他の作物への転換を促すのは容易ではなく、そもそも武装闘争で政府の統治が及ばない地域も多い。

コカインや覚醒剤など国際的な禁止薬物とは異なり、カートはイエメンでは合法の「嗜好(しこう)品」。英国でも合法、米国では違法と対応もまちまちで、国際社会の対応も鈍い。

地元NGO「反カート基金」代表を務めるサヌア大のアデル・シュガ教授(45)は「貧困や食料不足、水危機に汚職などの根っこにある問題と認識して対応すべきだ」と話している。【4月1日 朝日】
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事情はソマリアも同じでしょう(ソマリアではカートはエチオピアなどからの輸入が多く、常用者はイエメンよりやや少ないようですが)。

酒と同様にコミュニケーションツールとしては有用ですが、外貨を稼ぐコーヒーや空腹を満たす穀物をよそに、カート生産が増え続け、水がますます不足する。国民は収入の多くをカート購入につぎ込んで、いっときのくつろぎを得る・・・ということでは、やはり社会をむしばむ「麻薬」の弊害と見るべきでしょう。

アルシャバブを駆逐しても、社会全体がカートに依存していては、自立も難しいのではないでしょうか。

もっとも、酒もカートもダメ、更に一部のイスラム原理主義のように音楽やDVDなど娯楽もダメ・・・ということでは、人間は生きていけないとも言えますが。

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