孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ケニア  大学襲撃事件後も残る緊張・不安 杜撰な治安態勢 ソマリア難民の本国送還の動きも

2015-04-14 23:00:58 | ソマリア

(ケニアのダダーブ難民キャンプに暮らすソマリア難民 “UNHCR UN Refugee Agency” https://www.flickr.com/photos/unhcr/14454904333/in/photolist-o2kasv-qTeSsz-qALPCR-qT9FY5-qAEKKU-pWrSQ2-pWrUd2-qT51g6-qQW9M7-qT9GVq-qADK3S-qT51HD-qADKpU-pEFwoF-pEKJ4d-pobVUg-pCA22h-poeofC-oHPXSu-pobVUX-poh2dJ-poh2hS-pEFwnt-pCA1ZJ-pof52v-pCA1Zd-pof52a-poeofs-poeocG-poh2iy-pWdZGL-pzU6Fn-pzZC2y-pS9VCH-oVxg2G-oVAnep-qALPvX-qALSjc-qT54ax-pWsBW2-qAFiJy-pWewLE-qQWGmQ-pWsr8i-pWsrSK-qT5xZX-q6mJTd-qQWF3h-pWsCvZ-qABYHo

緊張・不安が引き越すパニック
アフリカ東部・ケニアでは、ケニアでは、今月2日に北東部ガリッサでソマリアのイスラム過激派組織「アル・シャバーブ」が大学を襲撃、148人(147人とする報道も そのほとんどが学生)が死亡する大規模テロがありました。

半日以上大学に立てこもった武装集団は、学生にイスラム教の聖典コーランの一節を暗唱させるなどしてイスラム教徒と確認できた学生は見逃し、暗唱できなかったキリスト教徒の学生らは殺害したと報じられています。【4月3日 読売より】

“「おまえはイスラム教徒かキリスト教徒か」。過激派はこう叫びながら、約800人が暮らす学生寮の部屋のドアをたたいて回り、キリスト教徒を選別して殺害していったという。”【4月3日 産経】とも。

なお、ケニアは人口の8割以上がキリスト教徒で、イスラム教徒は1割程度と少数派です。

事件後も残る緊張・恐怖は、新たな事故をも引き起こしています。

****電気爆発を襲撃と勘違い、学生パニックで150人死傷 ケニア****
ケニアのナイロビ大学で12日未明、電気系統の爆発をスラム過激派による襲撃と勘違いした学生らがパニックに陥り、建物から飛び降りるなどして1人が死亡、約150人がけがをした。

同大学の副総長がAFPに語ったところによると、死亡した学生は宿舎の5階部分から飛び降りた。現場では逃げようとした学生が押し合いになる事態も発生。負傷者の大半は軽傷だが、20人が病院で治療を受けている。(後略)【4月13日 AFP】
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2日に悲惨なテロで“地獄”を経験したばかりですので、爆発音でパニックになるのも無理からぬところです。

【「(助ける努力が)少なすぎるし、遅すぎる」】
ケニアは2011年、国家破綻状態の隣国ソマリアに展開するアフリカ連合(AU)の平和維持部隊に部隊を派遣。アル・シャバーブが占領していた町を奪還するなど、ソマリア政府のアル・シャバーブ掃討作戦に協力しています。

このため、2013年には首都ナイロビの高級ショッピングモールをアル・シャバーブが襲撃して立てこもり、買い物客ら60人以上が死亡するなど、アル・シャバーブによる「報復」テロが相次いでいます。

住民の安全に加えて、観光を基幹産業のひとつとすることもあって、ケニアにとって治安の問題は重要課題となっており、2日のテロの前日に大統領が安全宣言を行ったばかりでした。

****安全」アピール、面目失う=アルシャバーブ、テロ拡大の兆候―ケニア****
ケニア東部ガリッサで大学がソマリアのイスラム過激派アルシャバーブの武装集団に襲撃され147人が死亡した事件は、国内の安全をアピールして観光や投資の回復を目指していたケニヤッタ大統領にとっては面目を完全につぶされる痛打となった。治安維持への甘い姿勢が改めて露呈し、内外の批判が強まりそうだ。

AFP通信によれば、大統領は事件前日の1日、ケニアは「世界のいかなる国と比べても同じぐらい安全だ」と豪語したばかりだった。しかし、実態はその言葉とは程遠かった。

ロイター通信によれば、ソマリア国境から150キロしか離れていないガリッサではテロリストと疑われる不審な人物が目撃されており、大学が近いうちに襲われるのではないかと警告する向きもあったという。

それにもかかわらず、英BBC放送によると、大学を警備していたのは校門にいた武装警官2人だった。その2人も犯行グループに直ちに射殺された。

大統領は事件を受け、治安要員の不足を認め、警察官1万人を徴募する方針を示したが、付け焼き刃の感は否めない。【4月3日 時事】
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“事件当時、大学から避難していた女子学生の話では、「大学内で見知らぬ男たちがいる」との不審情報が先月30日ごろから大学当局に寄せられ、学長の判断で臨時休校の措置が取られた。しかし、学内には学期中で学生たちが残っており、今回の事件に巻き込まれたようだ。”【4月3日 産経】とも。

学生たちが学内に残っていたのは、学生寮に居住している訳ですからやむを得ないところでしょう。
問題は当局の警備態勢・事件対応です。

****ケニア大学襲撃、特殊部隊の到着は7時間後 記者らより遅いと批判****
ケニア北東地域ガリッサ(Garissa)で大学が襲撃され学生ら148人が殺害された事件で、ケニア当局の特殊部隊が現場に到着したのは事件発生から既に7時間が経過した後だったと、地元各紙が5日報じた。政府は対応に問題はなかったと主張している。

主要紙デーリー・ネーションによると、首都ナイロビにある精鋭治安部隊「レキ中隊」の本部では、2日未明にガリッサ大学が襲撃されたとの一報が入ると同時に警報が鳴っていた。

ところが、主要部隊がガリッサ大学に到着したのは間もなく午後2時になろうとする頃だった。報道によれば、ナイロビからガリッサへ向かう飛行機の第一便には、ジョゼフ・ヌカイセリ内相と警察幹部が搭乗していたという。

一方、事件一報を聞いてナイロビから365キロの道のりを車でガリッサまで移動したジャーナリストたちの中には、空路を使った特殊部隊より先に現地に到着した記者が何人もいた。

「もはや犯罪レベルの怠慢だ」とデーリー・ネーション紙は5日の社説で指摘。「襲撃犯らは、ゆっくり時間をかけて明らかに楽しみながら大勢の学生たちを射殺していた」との生存者たちの証言を紹介した。

また、英字紙スタンダードは、特殊部隊の隊員が任務中に居眠りしている風刺画を掲載した。風刺画では、いびきをかいて寝ている隊員が「テロの脅威」と書かれたヘビに噛みつかれて飛び起き、その傍らで犬が「(助ける努力が)少なすぎるし、遅すぎる」とほえる様子が描かれている。

アミナ・モハメド外相は4日、AFPの取材に「テロとの戦いはゴールキーパーのようなものだ。100回シュートを防いでも誰も覚えていないが、たった1回の失敗は忘れない」と述べ、政府の対応を擁護した。【4月6日 AFP】
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アミナ・モハメド外相の発言はもっともではありますが、残念ながら“たった1回の失敗”ではないところに問題があります。

2013年のナイロビ・ショッピングモール襲撃事件でも治安部隊の“お粗末さ”が指摘されています。

****ケニア襲撃事件のお粗末な「真相****
市民61人が犠牲になったショッピングモール襲撃事件、ケニア兵士の恥ずべきパフォーマンス

人質を取って立て籠もった武装勢力の制圧は困難を極めたが、治安部隊が4日目に建物に突入。最大15人ほどのテロリストは市民61人を殺害した後、追い詰められて放火し、建物の一部が崩落した──。

これが先月、ケニアの首都ナイロビのショッピングモールを隣国ソマリアのイスラム過激派アルシャバブが襲撃した事件の「公式」な説明だ。

だが実態はかなり違ったようだ。当局は数カ月前から寄せられていたテロ情報を見逃しており、襲撃犯の数はわずか4人だった可能性もある。正規の治安部隊は何時間も現場に現れず、非番の警官が自警団らと協力して市民の救出に当たった。

建物を制圧した治安部隊は店内の商品を略奪し、バーでビールをあおっていた。建物の支柱をロケット弾で破壊して建物を崩壊させたのも彼らだ。瓦礫の下には、行方不明の39人が埋まっているかもしれない。

ケニア政府は犯人グループのうち5人を殺害したとしているが、遺体は見つかっていない。脱出に成功した市民からは、一般人の服を着た襲撃犯が群衆に紛れて逃げたとの証言も出ている。建物の地下駐車場から近くの川に下水管が通じているため、そこから逃亡した可能性もある。【2013年10月15日号 Newsweek】
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襲撃されたショッピングモールにはイスラエル資本が入っており、ナイロビのイスラエル大使館からケニア外務省に対しテロの注意喚起があり、9月が危ないと警告されていたとも、また、複数の閣僚や軍高官が「ナイロビやモンバサで9月にテロが起きる恐れが高まっている」と警告を受けていたとも報じられています。

こうした事前情報についてはすべてに万全を期すことは実際問題としてはむつかしいかとは思いますが、“治安部隊は店内の商品を略奪し、バーでビールをあおっていた”というのは論外でしょう。

過激派がソマリア難民キャンプに浸透・・・副大統領、難民退去を要求
今回4月2日の大学襲撃事件の首謀者が、アル・シャバーブ司令官でソマリア系ケニア人のモハメド・クノ容疑者とされていますが、事件に関与したとして拘束された5人のうち4人はソマリア系ケニア人とみられており、事件はケニア国内のアルシャバブ・ネットワークが主導したとの見方が報じられています。

“ケニア北東部を中心に約250万人のソマリア系ケニア人がおり、多くがスワヒリ語を話す。ソマリアを拠点とするアルシャバブが隣国ケニアのソマリア系にも深く浸透しているとみられる。
アルシャバブはケニア国内で、インド洋沿岸のイスラム教徒が多い地域や首都ナイロビのスラムなどでも戦闘員の勧誘を活発化させている。”【4月5日 毎日】

こうした事情を受けて、国内のソマリア系住民への警戒感が強まっているようです。
度重なる治安当局の失態への批判をそらす狙いでもないでしょうが・・・・。

****ケニア、ソマリア人難民の「退去」要求 3カ月内に****
ケニアのウィリアム・ルト副大統領は11日、国連に対し3カ月内にケニア内にある「ダダーブ難民キャンプ」に身を寄せるソマリア人を本国に移送させることを求めた。

国連が応じなかった場合、ケニアが自力でこの計画を実行するとの強硬姿勢もにじませている。副大統領府の声明は「米国が同時多発テロ後に変わったように、ケニアも東部ガリッサでの大学襲撃テロ後、同様に変わるだろう」などと主張した。

ガリッサで今月2日に発生したテロ事件では計147人が殺害され、隣国ソマリアを拠点とするイスラム過激派「シャバブ」が犯行を認めた。

CNNが入手したケニア政府文書によると、このテロを主謀したシャバブ幹部はケニア内に広範なテロリスト網を築き、同キャンプにも浸透しているとされる。

副大統領によると、ケニア政府はキャンプの今後の処置について国連と協議した。しかし、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)当局者は11日、キャンプ移設についてケニア政府から正式な要請はないと説明した。

UNHCRが運営する同キャンプは世界最大規模の難民受け入れ施設ともされ、ソマリアの内乱の深刻化を受け1991年後半に設置されていた。

UNHCRとケニア、ソマリア両国政府は2013年、ソマリア人難民の本国への移送についてはあくまでも難民自身の自由意思を受けた相互合意や自主的決定を重んじる原則で合意。ルト副大統領の今回の移送計画はこの原則が脱落しているようにもみられる。

難民のソマリア内の移送先も明らかでない。同キャンプには現在、60万人以上が住み、基本的な生活物資の配給も満足すべき状況にないとされる。過去には深刻な干ばつや伝染病などにも襲われていた。

一方でソマリアからキャンプへの移動は容易とされ、CNN記者も過去に抜け道のルートをたどってこれを実証したことがある。同キャンプに忍び込むシャバブ支持者も多いとされる。

ケニア政府はまた、シャバブ構成員の同国への侵入を阻止するため対ソマリア国境で長さ約700キロにわたる壁の建設も進めている。【4月12日 CNN】
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難民キャンプに過激派が入り込む事例は多くありますが、難民を本国へ強制送還するという話になるとまた別の人道問題が生じます。

アル・シャバーブはケニア・エチオピアの軍事介入もあって首都モガディシオから撤退し、次第に勢力を弱めているとは言いますが、未だモガディシオでは日常的にテロが起きています。

今日14日も、首都モガディシオの教育省に、自動車爆弾による大きな爆発の後、武装グループが押し入り、激しい銃撃戦が起きています。警察によると6人が死亡したとのことです。【4月14日 AFPより】

また、地方の中部・南部は依然アル・シャバーブ支配地域になっています。

食糧状態も極めて悪く、多くが飢餓に苦しんでいる国です。
世界最大規模の難民受け入れ施設に暮らす60万人以上の難民をどこへ移送しようというのでしょうか。

ソマリア難民の送還はオランダでも問題になったことがあります。

****オランダで暮らすソマリア難民に忍び寄る危機****
・・・・難民を、強制送還しようという動きがヨーロッパで起きている。デンマーク、ノルウェー、スウェーデン、英国......。とりわけ懸念されるのは、オランダだ。

オランダ政府は、アルカイダと関連があるイスラム武装グループ「アル・シャバブ」が支配する危険地域に、ある一定の人たちは強制送還してもいいという姿勢を打ち出しているのだ。

対象となるのは、最近、その地域からやってきた者だ。アル・シャバブの支配のもとで暮らしてこられたのだから、保護する義務はない、というのが理由だ。

オランダはまた、『ブラック・ホークダウン』の舞台となった首都モガディシュは、もはや暴力のまん延する地域ではないとして、2012年12月に、他国に先駆けてモガディシュへの送還停止を解除した。そして昨年、2件の強制送還を実施した。

そのうちの1人、アーメッド・ セードさん(26歳)は、その3日後に、自爆攻撃に巻き込まれて負傷した。アーメッドさんは20年以上も前に祖国を離れていた。この自爆では、少なくとも6人が亡くなっている。

狙われる市民

特に危険な地域は、アル・シャバブの支配下にある中部や南部だ。アル・シャバブは、新政府軍や他の武装グループ、アル・シャバブ掃討作戦を展開する外国軍との戦闘を繰り広げ、多くの市民が巻き込まれて犠牲となっている。

また、アフリカ連合ソマリア・ミッションの後ろ盾を受けて政府の統制下にあるモガディシュでも、自爆や手榴弾、手製爆弾などで、たびたびゲリラ攻撃を行っている。
さらにアル・シャバブは、スパイ行為を疑って市民そのものを標的とした攻撃も行っている。(中略)

再び襲いかかる飢餓
人道状況も、極めて深刻だ。100万人が飢えで危機的な状況にあり、200万人が食糧支援を必要としている。食糧事情は、干ばつで飢餓に見舞われた2011年より悪化しているが、紛争地では物資が届かない。
そんな国に、帰れというのか。

UNHCRは今年初め、ソマリアにおいて、人びとが迫害される危険性がないと確信できない限り、ソマリア人を強制的に帰還させるべきではないと、ソマリア難民に対する国際的な保護の継続を要請した。

国連事務総長もこの5月、武力紛争から逃れてくるソマリアの人たちを保護しているすべての国に対し、国際法に従って彼らを強制送還しないよう呼びかけた。

国際法は、生命や自由が脅かされかねない場所に難民を追いやることを禁じている。これは、たとえ難民条約に加盟してなくても、すべての国に課された責務だ。生命を危険にさらす強制送還は無責任であるだけでなく、国際法への悪質な違反である。(後略)【2014年11月5日 アムネスティ・インターナショナル日本】
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今回のケニアの場合は、難民の数が桁違いです。その影響も桁違いになります。


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