孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アフガニスタン  タリバンとの和解交渉中心メンバーが殺害  次期大統領目指す女性政治家

2012-05-13 21:58:53 | アフガン・パキスタン

(「男の国」アフガニスタンで次期大統領を目指すフォージア・クーフィ氏(36) “flickr”より By LoveAfghanistan http://www.flickr.com/photos/loveafghanistan/5812989360/
なお、上記写真のコメントとして、彼女の兄弟が麻薬ビジネスを行っている第1副大統領のビジネスパートナーであり、彼女自身もその関連で麻薬の入ったバッグを持って軍用ヘリを使ったことが以前報じられた・・・とあります。

カルザイ大統領親族にも麻薬ビジネスの話はありますので、いかにもありそうな話ではあります。もちろん、真相はわかりません。彼女の存在を快く思わない者の中傷なのか・・・。
ただ、アフガニスタンのような社会で力を行使するためには、日本社会などとは若干異なる価値観も必要になるのかも・・・という感はあります。また、そうした人間でないと、厳しい社会を生き抜くことはできないのだろうとも)

進展しない和解交渉
****対タリバン交渉幹部、射殺される=和解路線に新たな打撃―アフガン****
アフガニスタンの首都カブールで13日、反政府勢力タリバンとの和解交渉を担当するアフガン政府の高等和平評議会幹部、アルサラ・ラフマニ氏が銃で撃たれ、死亡した。治安当局者が明らかにした。カルザイ大統領の和解路線への新たな打撃となるのは必至だ。
 ラフマニ氏はこの日朝、自宅から仕事に向かう途中、車に乗った人物から狙撃された。AFP通信によれば、タリバン報道官は関与を否定した。【5月13日 時事】 
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タリバンとの和平交渉の方針は、10年6月にカルザイ大統領が開催した「国民和平会議」(ピース・ジルガ)で打ち出され、10年10月には「高等和平評議会」(メンバー70人)がスタートしました。
ラフマニ氏は旧タリバン政権の幹部で、政権崩壊後はタリバンを離れていた人物ですが、カルザイ大統領から高等和平評議会メンバーに指名され、評議会中心メンバーとしてタリバンとの交渉を担当していました。

もとより、米軍主導のタリバン掃討作戦が継続中であることなどから、和平実現は困難を極めるとは見られていましたが、11年9月20日、カルザイ政権側の和平交渉責任者ラバニ元大統領がタリバンを名乗る人物の自爆テロにより自宅で殺害されたことで、カルザイ大統領は、タリバンと続けてきた和平交渉を打ち切る考えを示し、タリバンなどの背後にいるパキスタン政府との交渉に専念するとの方針を示していました。

一方、今年1月3日、タリバンのムジャヒド報道官が、アメリカとの和平に向けた交渉を行うための事務所をカタールの首都ドーハに開設することで「基本合意した」と明らかにしたことで、タリバンとアメリカの和平交渉がスタートしました。当面は双方の捕虜交換が議題になると見られていました。

2月21日、カルザイ大統領は、暗礁に乗り上げている旧支配勢力タリバンとの和平交渉について、タリバン指導部に対し、直接交渉に応じるよう求める声明を発表しています。
これには、アフガニスタン政府を蚊帳の外に置いた形でタリバンとアメリカの間で始まった和平プロセスの主導権をアフガニスタン政府が握りたい考えがあると見られています。

しかし、そのカタール・ドーハでのタリバン・アメリカの交渉についても、3月15日、タリバンはインターネット上に声明を出し、アメリカとの交渉を打ち切ると表明しています。
タリバン側はアメリカが和平交渉進展に必要な条件を満たさなかったと強く非難し、交渉の障害は「足元が定まらず、一貫性もなく、はっきりしないアメリカの態度だ」と強調しています。
ただ、クリントン米国務長官は3月21日、タリバンとの和解実現に向け仲介の努力を続ける方針を表明しています。

増大する戦闘犠牲者
タリバン内部には、和平交渉について意見の対立があるとも報じられていますが、上記のように、当初から極めて困難と見られていたタリバンとの和平交渉を、今回事件は更に難しくしたと言えそうです。

和平交渉が進展しないなか、米軍等の戦闘による犠牲者が増大しています。
****アフガン駐留の外国兵死者、3千人に 米民間団体調べ****
アフガニスタンに駐留する米軍など外国部隊兵士の戦闘などによる死者数が、2001年10月の戦争開始以降の累計で3千人を超えた。民間団体「アイカジュアルティーズ」が明らかにした。

同団体のウェブサイトによると、累計死者数は13日現在で3002人。10年に1年当たり最悪の711人を記録、昨年は566人だった。今年はこれまでに155人が死亡した。
国別では米軍が1968人と約65%を占めており、英軍の412人、カナダ軍の158人と続いている。【5月13日 朝日】
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米軍・アフガニスタン軍双方兵士の間の憎悪
更にまずいことには、タリバンに対して共同して戦闘にあたるべきアフガニスタン軍兵士による米兵殺害が増加しており、両者の間の不信感・憎悪の拡大を窺わせています。

****米兵殺害、過去最悪ペース アフガン兵、侮辱への報復****
アフガニスタン軍兵士による米兵らの殺害事件が11日、今年だけで20件に達し、過去最悪ペースとなっている。アフガンの反政府勢力タリバーンが、アフガン兵を利用して殺害するケースのほか、米兵への個人的な怒りを背景とする事件も多いという。

AP通信によると、20件目は、アフガン東部で11日に発生。アフガン兵が国際治安支援部隊(ISAF)に参加する米兵を射殺したという。米国防総省によると、こうした殺害事件は2007年以降に計57件発生。10年は11件、昨年は21件だった。

米軍はこれまで、タリバーンがアフガン兵を脅すなどして、米兵らを殺害させているとみていた。これに対し米国防総省のカービー副報道官は、過半数の事件は「個人的な怒りが原因」と説明。米兵に侮辱を受けたと感じたアフガン兵が、報復として殺害に及ぶケースが、6~7割にのぼるとした。【5月12日 朝日】
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戦闘での犠牲者は増大、和平交渉は進展せず、身内のアフガニスタン軍との関係も悪化・・・ということでは、アメリカにとってはいい話はありません。

ある女性政治家の挑戦 社会には男性優位への逆行も
ところで、アフガニスタンにおいては女性の権利が著しく制約されており、特にタリバンの女性に対する対応には極めて重大な問題があることは、これまでも再三取り上げてきました。
そのため、上記のタリバンとの和平交渉の試みについても、女性の権利に関わる団体などからは警戒する声も出ています。

そんなアフガニスタン・カブールに女性専用ネットカフェが出現したとか。

****女性用ネットカフェ初登場 アフガニスタン*****
アフガニスタンの首都カブールに女性専用のインターネットカフェが登場し、好評だ。アフガンでは、パソコンを持つ人が限られるうえ、女性への偏見が根強い。男性の視線を感じずにネットの世界を楽しめる。悩みを語り、解決方法を探る役割も担う。

カフェは、地元の女性人権団体が3月の「国際女性デー」にあわせて開いた。スタッフによると、1日20~30人が訪れ、利用者は徐々に増えているという。

タリバーン政権の崩壊から10年以上が経つ今も、アフガンでは保守的な考え方が残り、女性への性的嫌がらせや暴力が絶えない。男女共用のネットカフェの利用はためらいがち。利用客で学生のレグウィダ・ニアイッシュさん(17)は「男性の目を気にせず落ち着いて調べ物ができる。手軽で便利だ」と話した。【4月12日 朝日】
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もちろん、そもそも論で言えば、“女性専用”を用意しなければならない現状に大きな問題があることは言うまでもないことです。

そうしたアフガニスタン社会で、カルザイ大統領後の大統領を目指す女性政治家がいるとの報道に驚きました。
非常に心強くも思ったのですが、記事内容を見ると、女性の置かれた現状に暗澹たる思いも感じます。

****男の国」で次期大統領目指す女性政治家、アフガニスタン****
アフガニスタン女性の権利運動の先頭に立ち、作家で国会議員で、いずれは大統領にもと期待されるフォージア・クーフィ氏(36)が語ってくれたエピソードからは、女性として「男の国」に生きるとはどういうことかが垣間見える。

最近、首都カブールの大統領府から歩き出したところで、保守系のある男性議員が近づいて来て言った。「クーフィさん、大統領選にお出になるようですが・・・大統領府にお住まいになりたいのでしたら、大統領となる人物と結婚してはいかがですか?」

議会近くの借家でAFPのインタビューに応じたクーフィ氏の瞳は、数週間経った今でも怒りに燃えていた。「女性が大統領に立候補するのは本人が適格だからではなく、大統領府に住みたいからだと思うのが彼らの見方です」

この男性議員に対しクーフィ氏は、30年間に及ぶアフガニスタンの戦闘の中でうさんくさい過去を抱えた男たちとは違い、自分は大統領府の警備にかくまわれる必要などないと言い返した。「彼らが私に対抗してきたときに嬉しくなることもある。それは、彼らにとって私が無視できない存在で、彼らが私を強い人間だと見なしているからだと思うから。そこで私は、そういった人たちの望みどおりに一撃を加えてあげるの」

■女性にとって「最悪の国」で立ち上がる
米ニュースサイト「デーリー・ビースト」の「恐れを知らない女性150人」の1人に今年選ばれたクーフィ氏は、アフガニスタン議会の女性と人権委員会の委員長を務める。夫は亡くなっている。2人の娘に捧げた回顧録『Letters to my Daughters』(娘たちへの手紙)は、女性にとって世界で最悪の国と呼ばれることさえあるアフガニスタンで成長した少女が直面したとてつもない困難と克服の物語だ。

クーフィ氏は産まれた直後、悲観した母親によって太陽が照りつける場所に置き去りにされ、殺されそうになった。母は、23人の子どもがいる夫の7番目の妻だった。自分が産んだ新しい子どもを夫は認めてくれないと分かっていたのだ。

しかし、太陽に焼かれながらほぼ丸1日泣き叫び続けた産まれたばかりのクーフィ氏は後悔した母の元に戻され、愛されながら育つことになった。この時の日焼けの痕は10代になるまで残ったが、その傷も、ましてや心の傷も、イスラム女性の装いに身を包んだエレガントで自信に満ちたクーフィ氏からは感じられない。
 
部屋の壁には2人の男性の写真があった。1人は厳格な表情をしたクーフィ氏の父親だ。政治家だったが、クーフィ氏が3歳の時に殺された。直接話しかけられたことは1度しかない。しかも、向こうへ行っていろという一言だった。

■タリバンに歩み寄るカルザイ大統領、タリバン化逆行への懸念
もう1人の男性は、クーフィ氏と一緒に写っているハミド・カルザイ大統領だ。クーフィ氏は、カルザイ氏のファンではない。それどころか、旧支配勢力タリバンを含む保守派の支持を獲得するために、女性の権利を「差し出そうとしている」として大統領を糾弾している。

タリバン政権下では、女子は学校教育を禁じられ、全身をすっぽりと覆うブルカ以外のものを着た女性は往来でむち打たれ、姦通を疑われた女性は石打ちで死刑にされた。しかし厳しい状況にありながらどうにか良い教育を受けてきたクーフィ氏は、この10年間でアフガニスタンの女性たちには「絶好の機会」が与えられてきたと評価する。

そのクーフィ氏が最も心配するのは、ようやく女性たちが手にしてきたものが、和解のための対話にタリバンを引き込み、2014年の北大西洋条約機構(NATO)軍撤退後にタリバンと政権を共有するために犠牲にされるのではないかという点だ。「妥協はすでに起きている。タリバン化は進行中だ。政府内部の者がすでにタリバン的なイデオロギーや考え方を推進している」

3月、同国のイスラム教の最高権威であるウラマー(イスラム法学者)評議会が出した「男性が基本であり、女性は副次的である」という宗教令にカルザイ大統領は支持を表明している。この宗教令は男女が同じ場所で働くことや、女性だけで旅行することを禁じ、場合によっては妻を殴打することを正当化するなど、タリバン時代に後戻りするような内容だった。

クーフィ氏は憤る。「(カルザイ氏は)これがアフガニスタン国民が求めているものだと言って、公然とこれを認めたのです。でも、これが人々の求めているものだとは、私は思わない。私たちはイスラム教徒ですが、イスラムについての私たちの理解の仕方と、タリバンの理解の仕方は違う」

クーフィ氏はたとえ自分の命を危険にさらすことがあっても、力の限り尽くす決意だ。「アフガニスタンでは、女性が政界にいること、女性が自分の信念のために立ち上がることには常に危険が伴う。私はこれまでに何度も暗殺の標的や誘拐の標的になってきた。けれど、誰かがリスクを負わなければならないと思う」

カルザイ大統領が1期5年を2期までという任期制限に達する2014年の大統領選に、クーフィ氏は立候補する決意を固めている。男性優位社会のこの国では惨敗間違いなしという予測に対しクーフィ氏は、若者や女性、教育を受けたエリート、そして農村部でも、変化を望む強い要望があると反論する。

クーフィ氏の地元は北東部のへき地バダフシャン州だ。「ここの人たちは10年前は女性に強烈に厳しく当たってきた。それが今では私に投票してくれている。そう、変化は可能なのです。世界の友人たちの政治的、精神的支援次第なのです」

インタビューが終わる頃、クーフィ氏はインタビュー最後の写真を撮るため、テニスをしていた12歳と13歳の2人の娘を呼び寄せた。テニスは、わずか10年前にはアフガニスタンの女性が禁じられていた多くのささやかな楽しみの1つだ。【5月8日 AFP】
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クーフィ氏の健闘を祈りますが、今後の戦いは非常に厳しいものがあるでしょう。
せめて、暗殺されるようなことにはならないでほしい・・・という感すらあります。

また、「男性が基本であり、女性は副次的である」といった考えがまかり通る社会の変革が実現することを願いますが、仮に将来タリバンとの和解が成立したとき、女性専用ネットカフェなどは閉鎖に追い込まれるのでは・・・との危惧もあります。

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