孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アメリカ  大統領選挙に影響しそうな、共和党議員の「まっとうなレイプなら妊娠せず」発言

2012-08-22 23:13:25 | アメリカ

(昨年、強姦などによる妊娠中絶費用の政府補助金削減法案を提出したエイキン下院議員(左)とライアン共和党副大統領候補(中央) “flickr”より By FiredUpMissouri http://www.flickr.com/photos/firedupmissouri/5598026852/

【“legitimate rape”】
アメリカでは11月の大統領選挙及び上下両院選挙に向けた民主・共和党の取組が本格化していますが、下院から上院への鞍替え出馬している共和党のエイキン下院議員(65)の「女性はレイプされた場合なら妊娠することはない」などとの発言が波紋を広げています。

****レイプなら妊娠せず」=共和党議員の暴言に集中砲火―米****
「女性はレイプされた場合なら妊娠することはない」などと語り、人工中絶の全面禁止を主張した米共和党の男性議員が、11月に大統領選などを控えた米国内で集中砲火を浴びている。
オバマ大統領は「不愉快な発言だ」と非難。女性有権者の反発を恐れるロムニー前マサチューセッツ州知事ら共和党側は、火の粉を払うのに懸命だ。

発言の主はミネソタ州(ミズーリ州の誤り:筆者注)選出のトッド・エイキン下院議員(65)。現在6期目で、大統領選と同時に行われる上院選にくら替え出馬する予定。
エイキン氏は19日放映の地元テレビのインタビューに「医者から聞いた話では、『本物のレイプ』だった場合、女性の身体は妊娠を防ぐようにできている」と発言。暴行された結果、女性が望まない妊娠をすることはないので、中絶を全面的に禁じても問題はないとの認識を示した。【8月21日 時事】 
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非科学的なのは言うまでもないですが、“legitimate rape”・・・・“本物のレイプ”“正真正銘のレイプ”“まっとうなレイプ”・・・メディアによって日本語訳は異なりますが、一体何を意味しているのでしょうか?
オバマ氏は20日、「強姦は強姦だ。分類するなど理解できない」と記者会見で断じていますが、当然でしょう。

ロムニー陣営「強姦の場合の中絶には反対しない」】
この発言に慌てているのは共和党のロムニー候補(前マサチューセッツ州知事)です。
ただでさえ女性票でオバマ大統領に水をあけられているのに、今回発言は更に女性の支持を失いかねません。

“キリスト教右派の価値観に基づき、保守派の一部はいかなる中絶も認めないと主張、米ギャラップ社の今年の全米調査でその割合は20%に上る。共和党の副大統領候補に内定のライアン氏もその一人で、強姦などによる妊娠中絶費用の政府補助金削減法案をエイキン氏らと昨年提出した。
それだけに、エイキン氏の発言がライアン氏らと結びつくと大統領選に影響しかねない。共和党大統領候補に内定のロムニー氏は女性支持率がかねて低く、ABCとワシントン・ポスト紙の5月の世論調査では41%と、オバマ氏の52%より低い。ロムニー氏はライアン氏と「強姦の場合の中絶には反対しない」と声明を出すに至り、共和党議員らはエイキン氏の立候補辞退を求めた。”【8月22日 朝日】

エイキン氏、ロムニー候補・共和党内部からの出馬辞退要請を拒否
ロムニー候補・共和党内部からは出馬辞退を求める強い要請がなされましたが、エイキン氏本人はこれを拒否して出馬することになっています。

****レイプは妊娠しない」発言の議員、上院選出馬辞退せず ロムニー氏は撤退を要求****
「まっとうなレイプ」の場合には女性が妊娠することはほとんどないと発言し、猛烈な批判を浴びている米共和党のトッド・エイキン下院議員(ミズーリ州)が21日、上院議員選挙出馬を断念しないと表明したことを受け、共和党大統領候補のミット・ロムニー氏がエイキン氏に出馬辞退を要求した。

エイキン氏は19日、「まっとうなレイプ」に対しては女性の体が生物学的な反応を示すために妊娠することがほとんどないと発言し、米政界に激震を起こした。
大統領選でバラク・オバマ大統領と戦うロムニー氏は、同じ共和党員のこの失言で、これまでの選挙戦でつかんだ女性票を失う危険性があり、そのことを危ぐした共和党の指導者らは即座に結束を固め、エイキン氏に上院選の出馬辞退を事実上命じた。

ロムニー氏は、「トッド・エイキン氏の発言は攻撃的であり正しくもない。エイキン氏は、国益にとって何が最善であるかを真剣に検討するべきだ」と簡潔な声明を発表した。
「本日、エイキン氏のミズーリ州の同僚(元上院議員4人)が、エイキン氏に出馬辞退を要請した。私は、エイキン氏がこの助言に従い、上院選から撤退するべきだと思う」(ミット・ロムニー氏)

だが、断固とした中絶反対派であるエイキン氏は謝罪こそしたものの出馬辞退は拒否。21日夜、エイキン氏が上院選から撤退することが可能な期限は過ぎ、エイキン氏は上院選に残った。

■「ここに大義がある」
共和党のマイク・ハッカビー前アーカンソー州知事が番組ホストを務めるラジオに出演したエイキン氏は、「ここには大義があると私は信じている」と述べ、「市民から多くの支持の声」を受けていると付け加えた。
「まだ生まれていない子どもを守り、いのちに対する深い敬意を払うことは、われわれ人間にとって重要なことであり、逃げ出して良いようなものではない」(トッド・エイキン氏)

フロリダ州タンパで来週開かれる共和党大会は、ゴールデンタイムに放送される。米国のお茶の間に自己紹介をする機会となるため、ロムニー氏と副大統領候補のポール・ライアン氏は党大会へと向けて勢いをつけようと論戦に繰り出していたが、エイキン氏の失言で政策議論は姿を消した。【8月22日 AFP】
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キリスト教右派の価値観を信奉するエイキン氏の信念は固く、「失言だった」と謝罪する一方で、共和党内部からの批判は「過剰反応だ」として、レイプ被害者の中絶反対の姿勢も変えていません。
ロムニー・共和党側にとっては痛手です。州の規定で、今後は本人の意思だけでは出馬辞退はできない仕組みのようです。

****米共和党:失言の下院議員、上院選くら替え出馬断念せず****
・・・・共和党の大統領候補に内定しているミット・ロムニー前マサチューセッツ州知事は同日、「ミズーリの人たちが退くよう求めており、エイキン氏はそれを受け入れ選挙戦から撤退すべきだ」と出馬を断念するよう初めて求めたが、エイキン氏はこの要求を公然と無視した。

同州の規定によると、党予備選を勝ち抜いたエイキン氏が自主的に出馬を辞退できるのは同日夕まで。これ以降に候補者を差し替えるためには、裁判所の判断が必要とされ、簡単にはできない仕組みとなっている。

エイキン氏の発言に対する反発の声は広がっており、女性票獲得への影響はミズーリ上院選にとどまらず、大統領選やほかの連邦議会選挙に出かねない情勢だ。米メディアもこの問題発言を大きく取り上げており、大統領選の報道がかすんでいるほどだ。

大統領選とともに11月に実施される上院選も民主、共和両党の接戦となる見通し。なかでもミズーリは共和党が民主党の議席を奪う可能性が高いとみられてきたが、エイキン氏が続投した場合、民主党現職で女性のマカスキル上院議員が優勢に転じる可能性が高い。【8月22日 毎日】
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大統領選挙のカギを握るのは、若い女性の浮動票
8月4日ブログ「アメリカ 大統領選挙を決める“有権者の4%、91万人”」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20120804)でも取り上げたように、アメリカの大統領選挙は原則として州ごとに勝った方が選挙人を総取りする方式であること、コアな民主・共和党支持層は今後その態度を変える可能性が殆んどないことから、実質的には、接戦となっている東海岸のバージニア州とフロリダ州、中西部のオハイオ州とアイオワ州、南西部のニューメキシコ州とコロラド州の6州の勝敗が大統領選挙の行方を決めると言われています。
しかも、これらの州の勝敗を決めるのは、未だ支持を明らかにしていない全部で91万人程度の有権者であるとも言われています。

この大統領選挙を決める残り僅かな“浮動票”のプロフィールは“世論調査の専門家によれば彼らの大半が女性で、しかも比較的若い。年長の有権者ほど自分のやり方や考えにこだわるが、若者は何事についても説得を受け入れやすい。浮動票層の多くは高卒で、かなりの数のヒスパニック(中南米系)が含まれる。”【7月25日号 Newsweek日本版】とのことです。
“大半が女性で、しかも比較的若い”ということになると、今回のエイキン氏の発言は影響しそうです。

【「ティーパーティー」の要求を丸のみする共和党
個人的には、キリスト教右派の保守的価値観には違和感を感じる部分が多々あります。
“オバマ・ケア”批判で大きな影響力を発揮した保守系草の根運動「ティーパーティー」の勢力とも大きく重なる層です。
ティーパーティーの動員力に依存する共和党は、今月下旬の党全国大会で採択する政策綱領に、「小さな政府」を求める「ティーパーティー」の要求を大幅に取りいれました。

****米大統領選:共和政策綱領「茶会」要求盛る 増税策を回避****
11月の米大統領選に向け、共和党が今月下旬の党全国大会で採択する政策綱領に、「小さな政府」を求める保守系草の根運動「ティーパーティー(茶会運動)」の要求が大幅に反映されることが分かった。
増税策をとらず、温室効果ガスの排出量取引を拒否するなどの茶会側の要求のほとんどを党側が受け入れたためだ。共和党は「茶会色」を前面に打ち出すことで保守派の支持固めを優先する方針だ。

党綱領委員会と全米の茶会運動指導者12人が協議し、20日に合意した。政策綱領は大統領選で共和党が勝利した場合の「政権公約」となる。
協議関係者によると、茶会側は、連邦準備制度理事会(FRB)の監査制度導入や環境保護局(EPA)の規制抑制など12項目を提示。党側は、教育省の廃止、税率を一律にする「フラット税制」導入は「早期の実現は困難」などとして見送ったが、残る10項目を綱領原案に盛り込むことに同意した。

党側が茶会側の要求をほぼ受け入れた背景には、党の副大統領候補に財政保守派の論客で茶会が支持するポール・ライアン下院議員が内定したことがある。協議に参加した茶会運動指導者には、激戦州の中西部オハイオ州、南部フロリダ州からの代表も含まれている。党大統領内定候補のロムニー前マサチューセッツ州知事陣営は激戦州を制するため、動員力がある茶会の地方組織をフル稼働させたい狙いがあるとみられる。

ロムニー氏は20日、北東部ニューハンプシャー州マンチェスターの集会で、「FRBの監査をすべき時期にきているのではないか」と問われ、「答えはイエスだ」と即答、FRBに批判的な茶会に同調する姿勢を示した。茶会側やライアン下院議員は、FRBが行っている金融緩和政策を「効果が明確でない上、ドルの価値を損なう」として強く批判してきた。【8月22日 毎日】
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こうした共和党の姿勢は、民主党サイドから見れば“滑稽”なものにも見えます。

****おバカで結構」米共和党綱領の呆れた中身****
・・・・まずは愛すべきテキサス州から見てみよう。ここはアメリカで最も共和党が勢力を誇る州だ。
選挙で選ばれる州当局のポストに就いている人は、1人残らず共和党員。州下院の定員150人中、101人が共和党議員だ。
テキサス州の共和党勢は「大きな政府」による締め付けを毛嫌いしている。就学前教育の義務化にも、予防接種の義務化にも反対。「義務化」と言えば反対──いわば反「政府」勢力だ。

経済政策のお手本は1932年の綱領
別の言い方をすれば、彼らの主張は「おバカで結構」。
実際、彼らは考えること自体に反対しているのだ。「私たちは高次の思考力、批判的思考、それに類似したプログラムを教えることに反対する」──彼らは綱領でこううたっている。無知が至福なら、テキサス州の共和党の政治家は世界で最も幸せな人たちだ。

テキサス州の共和党勢力は社会保障制度も要らないし、国連も要らないと考えている。もちろん、彼らに言わせればオバマ大統領だって要らない。
しかし、耳を傾けるべき項目もないわけではない。彼らは、人体に個人認証用のICチップを埋め込むことは許されるべきではないと主張する。

テキサス州政界の共和党員たちは経済問題に関して、連邦レベルの共和党綱領を長々と引用している。それも1932年の綱領だ。彼らはフーバー大統領の政策を懐かしがっているのだ。
彼らは最低賃金制の撤廃やFRB(米連邦準備理事会)の廃止、金本位制の復活を目標に掲げている。来年には、ドルを廃止して物々交換に戻るべきだと言いだしてもおかしくない。

「天地創造は事実」と学校で教えるべき
テキサス州だけが例外でないことを示すために、「進歩的」なミネソタ州の人々にも目を向けてみよう。
ミネソタ州の共和党綱領もFRBの廃止をうたっている。だが特筆すべき点は、芸術活動と公営ラジオに対する資金援助の打ち切りを要求していることだ。

彼らは憲法を強く支持している。そして生命は受胎の瞬間に始まり、中絶に関しては女性を妊娠させた男性にも女性と同等の発言権を認めるよう、憲法を改定すべきだと綱領で主張している。女性をレイプした男にも同様の発言権を認めるべきだとは、さすがに書いていないが。

さらに彼らは、神による天地創造は事実だと学校で教え、性教育に関しては禁欲主義のみを取り上げるべきだと主張。テキサス州同様、米軍の同性愛者の受け入れを再び禁止するよう要求している。

共和党の綱領はスティーブン・キングの小説と同じくらい面白い。ただしキングは共和党の政治家と違って、ファンタジーを立法化しようとは考えていないが。【ポール・ベガラ(政治コンサルタント) 8月20日 Newsweek】
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