孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アメリカ  「決められない政治」を招いている共和党保守派の強硬姿勢

2013-10-02 22:25:36 | アメリカ

(“flickr”より By iamdogsmom http://www.flickr.com/photos/86211532@N00/10042123764/in/photolist-giovwU-gioT5W-gh7JMa-gi9Dyx-gibpXS-giTEiK-ghvtHM-gcot8w)

17年ぶりのシャットダウン
アメリカでは、民主・共和両党の対立、上下院のねじれ状態を背景に「決められない政治」が恒常化し、それによって毎度のように予算案や債務上限引き上げを巡る財政問題が表面化します。

アメリカ国民も、世界も、「またか・・・」といささかうんざりした感もあります。
こうした問題は事前に期限がわかっている案件ですので、期限ぎりぎりになって大騒動するというのも、子供の宿題のようで困ったものです。

そうしたなかで、10月1日から、新会計年度予算の不成立に伴う一部の米連邦政府機関の閉鎖(シャットダウン)に突入したことは周知のところです。

****米国:政府機関の職員80万人一時帰休へ…401カ所閉鎖*****
米政府は1日、10月からの新会計年度予算の不成立に伴い、一部の米連邦政府機関の閉鎖を始めた。閉鎖は1996年以来17年ぶりで、80万人を超える政府職員が同日中に一時帰休(レイオフ)を命じられる見込み。与野党間に予算成立に向けた歩み寄りは依然みられず、いつ閉鎖が解除されるかは不透明な状況だ。

1日朝(日本時間同日夜)から閉鎖されたのは、全米の401カ所の国立公園や博物館などで、ニューヨークの「自由の女神」など著名な観光施設も含まれる。退役軍人向けの相談業務や税の監査、米国立衛生研究所(NIH)の新規患者受け入れなども休止した。

米行政管理予算局(OMB)によると、各政府機関は1日の午前中に一部職員が登庁し、4時間以内に書類整理や備品の返還、業務停止の通知作業などを行う。一方、国境警備や海外の軍事活動、空港での航空管制業務や社会保障給付は通常通り継続している。

国防総省は文民職員の約半数に当たる約40万人を一時帰休とするほか、米航空宇宙局(NASA)や米環境保護局(EPA)は職員の9割以上が対象となる。

野党共和党が多数を占める下院は、オバマ大統領が推進する医療保険改革法の延期や見直しを予算成立の条件としており、民主党は無条件での予算案可決を求め、対立している。上下院で予算案が成立しない限り、政府機関の閉鎖は継続する。

95〜96年に政府機関が閉鎖された際は、2回にわたり閉鎖期間は計26日間に及んだ。【10月2日 毎日】
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自由の女神やスミソニアン博物館が閉鎖されたところで大した問題ではない・・・とも言えますが、約200万人の連邦公務員のうち約80万人が一時帰休を余儀なくされ、そうした状態が長期に続くことになれば、当事者の暮らしへの影響はもちろん、国民生活全般への影響、経済全体への悪影響はやはり無視できないものがあります。

懸念される債務不履行(デフォルト)】
大方が指摘しているように、こうした与野党対立が続けば、10月17日がタイムリミットとされる債務上限引き上げも非常に難しくなります。
債務上限引き上げが認められないと、政府は総歳出の15-20%の削減を余儀なくされる(ムーディーズ試算)とも言われており、その影響はシャットダウンより甚大です。

もしアメリカ国債の利払いもできない・・・という事態、いわゆる債務不履行(デフォルト)ということになれば、世界経済の基軸となっているアメリカへの信頼が大きく揺らぎ、日本を含めた世界規模の混乱も懸念されます。

アメリカのデフォルトで国家の信用が揺らぐということになれば、巨額の債務を抱える日本は大丈夫か?という話にもなります。
経済は期待・予測の産物です。多くの者が不安を抱いてリスク回避に走れば、その不安は現実化します。
日本の巨額債務への不安に火が付くと・・・恐ろしいことです。

もちろん、仮に債務上限引き上げに失敗しても、アメリカも国際的影響が大きい米国債利払い停止は何とか避ける方向でやり繰りするのでしょう。
ただ、市場に不安が広がるだけで、大きな混乱が生じる可能性があります。

相いれない理念 民主主義を機能させるためのルール
諸々の問題の根幹にあるアメリカ政治の機能不全については各紙が指摘しているところです。
日本みたいな国民皆保険制度を当然のこととして受け入れて国からすると、オバマケアに執拗に反対し、予算も人質にとるような共和党強硬派の姿勢は理不尽なものにも思えてしまいます。

そもそも、共和党強硬派・ティーパーティーなどの主張の背後にある“連邦政府は必要悪”といった思想と、オバマケアなどの社会保障拡充を目指す考え方では基本的に相いれないものがあります。

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ずいぶん以前、ワシントンで議会などの見学ツアーに参加した。案内役が最初に「米国では連邦政府は必要悪と考えられている」と言ったので驚いた。お上意識の残る日本とは違うな、と

▼当時は米国史の知識がなく、英国からの独立に貢献したトマス・ペインの有名な言葉も知らなかった。〈政府はたとえ最上の状態においてもやむをえない悪にすぎない〉(『コモン・センス』)。自由の国アメリカの中央権力は最小限であるべし。今も少なからぬ国民の思想なのだろう

▼例えば銃を持つ権利に強くこだわる人々はその嫡流(ちゃくりゅう)だろう。政府がわがまま勝手をするなら武装市民がいつでも立ち上がるという論理にもなる。お金の使い方にも厳しい。自分のことはあくまで自分でと考えるから、社会保障の拡大に抵抗する

▼そんな「小さな政府」論に立つ共和党と、オバマ民主党政権との折り合いがつかなかった。医療保険改革法をめぐる対立が新年度予算案の成立を阻み、一部の役所の閉鎖が始まった。17年ぶりの事態だ

▼下院では共和党が多数を握る。「ねじれ議会」を舞台にした泥沼の政争である。ほめられたものではない。ただ、背後には理念の闘いがある。政府の役割はどこまでなのか。根っこのところでの論争だ

▼翻って日本ではどうか。安倍政権は消費増税を決め、法人減税などの経済対策も示した。思惑通りの取り運びだったのかもしれないが、根っこの議論を突き詰めただろうか。企業か、人か。コンクリートか、人か。【10月2日 朝日「天声人語」】
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しかし、「理念の闘い」「根っこのところでの論争」を議会で延々と繰り返すのでは、今回のように現実政治は麻痺します。

日本であれば、議論が行き詰れば“解散・総選挙”で民意を問うことも可能ですが、アメリカ議会は解散がありませんので、そうした方策もとれません。

従って、政治・議会が機能不全に陥らないためには、なんらかのルール・指針が必要です。
よりどころとすべき点は、アメリカは良くも悪くも大統領の判断が最重視される国だということです。

オバマ政権は1期目で医療保険制度改革を実施し、その成果を国民に問う形で再選を果たしました。
再選されたことで、オバマケアについては、少なくと2期目任期中は大統領の意向に沿った形で進めることで国民の審判が下ったと認識すべきでしょう。

オバマケアに反対する議員も議論を尽くすのは結構ですが、最終的にはそうした国民の審判を受け入れて議論の矛を収めるのが“民主主義”を守るルール・指針ではないでしょうか。

野党はもちろん不満でしょうが、その不満は次期大統領選挙で再度国民に問うべきもので、議会を麻痺させるべきものではありません。
現実政治の話をすれば、ティーパーティーのような保守強硬派に引きずられている限り、共和党が国民的勝利を得ることは難しいように思えます。

****共和党政治の衰退と凋落 FT社説****
アメリカという共和国の根幹をなす民主主義の理想を大事にする人なら、連邦議会で起きている事態に当惑し落胆することだろう。まずは、結果があまりに常軌を逸している。
世界唯一の超大国が、特に金がかかりすぎるわけでもない行政サービスを停止させ、まったく無意味な形で自分たちの力を損なったのだ。

それにも増して理解しがたいのは、この結果につながった議論の流れだ。
議論の対象は少なくとも表向きは予算だったはずだが、その予算の詳細はほとんど俎上に載らなかった。
その代わりに激しい争点となったのは、共和党内のティーパーティー勢の主張だった。医療保険改革の実施を延期しない限りはいかなる予算案も、それが暫定予算だろうと、絶対に議会を通させない――それがティーパーティーの強硬な主張だった。この要求が通るはずもなかった。医療保険を改革する「患者保護および支払い可能な医療費法(Patient Protection and Affordable Care Act)」はバラク・オバマ大統領にとってこれぞというが一大成果だ。
それを諦めるなど、できる相談ではなかった。

しかしティーパーティーは、自分たちの主張が空虚であればあるほど盛り上がった。虚しさの極みは、共和党のテッド・クルーズ上院議員による21時間にわたる演説だった。
議事進行妨害のためのいわゆる「フィリバスター」だと銘打たれてはいたが、議会の規則上は議事を妨げる効果さえなかった。それでも議員は21時間の長広舌の中で、子供の絵本の中身を延々と読み上げた。たとえば、アメリカの古典的な児童書「Dr.Seuss」シリーズの「Green Eggs and Ham」などを。
ティーパーティーの主張は非論理的で、要求の内容まで非論理的だ。
オバマ氏の医療改革法は、主義主張を楯に反対して良い代物ではない。良心があるならば。連邦政府はすでにメディケイド(低所得者向け医療保険)とメディケア(高齢者向け医療保険)という形で何百万人に公的医療保険を提供しているし、共和党はこれを廃止しようとはしていない。

オバマ氏の医療保険改革は、政府をいきなり医療提供者にしてしまうのではなく、民間医療の幅広い参加を資金援助するものだ。同じような仕組みをマサチューセッツ州に導入したのは、後に共和党の大統領候補となったミット・ロムニー氏だった。敵対的なティーパーティーは、自分たちこそがアメリカを大事にしているし、自分たちこそがアメリカの価値観を代弁していると主張する。
しかし、そう主張しながら実はティーパーティーは大事なアメリカの価値を裏切っている。これこそティーパーティーのもっとも恥ずべき点だ。

医療保険改革はアメリカの国の法律だ。先頭に立って改革法案を推進した大統領は、法案成立後に改めて再選された。共和党はこれまで40回以上にわたって法律を撤廃させようとしてきたが、そのために憲法に定められている議会手続きは、野党・共和党の思うままにはならない。

民主主義においては、「政府の三権の1つにおける1つの院で、1つの党の1つの派閥」に過ぎないものが、有権者が投票所で示した民意に反して法律を変更するなど許されない。オバマ氏がそう主張するのは正しい。ティーパーティーの無分別な行動による政府閉鎖だが、それが短期的なもので済むなら、さほどの悪影響はもたらさないだろう。
しかしよりひどい事態が待ち受けている。財務省による16兆7000億ドル以上の借り入れは法律で禁止されているのだが、わずか2週間余りでその上限に達してしまうだろうと予想されている。政府の課税・支出計画は、すでに議会通過した法律によって決まっている。政府がこれらの法律を遵守するには、更なる借金が必要だ。
議会が大統領に要求してきたことを実行するため、大統領が改めて議会の許可を得なくてはならないなど、ばかげている。債務の天井はそっくり廃止するべきだ。

けれども債務上限を引き上げるというそれだけのことの見返りに、共和党は原油パイプライン敷設を要求し、石炭灰排出規制の撤廃を要求し、医療保険改革の延期を要求し、その他ティーパーティーがこだわる諸々を受け入れろと要求しているのだ。オバマ氏は揺らいではならない。しかしもしティーパーティーが譲らないなら、リスクは巨大だ。
合意が得られなかった場合、連邦政府が打撃を受けるだけでなく、債務についてテクニカルデフォルトが起きる恐れがある。

もしそうなれば世界の金融システムに動揺が生じる。連邦議会での瀬戸際政策で国際市場が混乱するようなことになれば、アメリカの意を汲んで形成されてきた国際金融秩序がひどい大打撃を受ける。
自分たちの国の信頼性に対する共和党の無頓着ぶりは、実に問題だ。このまま続けられては困る。【10月2日 フィナンシャル・タイムズ】
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共和党内にも与党案賛同の動き
政治的混乱もあってオバマ大統領の支持率も低下していますが、現在の混乱を招いている直接的責任は共和党の強硬姿勢にあるという国民世論が強いようです。

“米CNNテレビによると、世論調査回答者の69%は政府機関閉鎖について共和党の態度を批判しており、「われわれに責任があるかないかは別として、われわれは責任を問われようとしている」(共和党のキング下院議員)と、来年の中間選挙への影響を懸念する声も上がっている。”【10月2日 産経】

さすがに共和党内部にも、こうした国民の声を意識したのか、強硬姿勢に疑問を呈する向きも出ているようです。

****米野党、個別予算の成立模索=与党案に賛同の動きも―政府機関再開めど立たず****
米政府機関の一部が閉鎖された1日、野党共和党は退役軍人や国立公園関連などに限定して支出を認める個別の予算案を下院に提出した。

しかし、必要な票数に達せず、可決には至らなかった。米メディアによると、2日以降も同様の予算案の採決を目指すという。

これに対し、上院の与党民主党は2014会計年度(13年10月~14年9月)暫定予算案を無条件で可決するよう主張。オバマ大統領も個別の案は拒否する方針で、政府機関再開のめどは立っていない。

また報道によると、下院共和党内に大統領や与党案に賛同する動きも出ている。ロイター通信は、こうした議員は100人以上に上り、上院案の受け入れに十分な人数に達したと伝えており、今後の動向が注目される。【10月2日 時事】 
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“下院共和党内に大統領や与党案に賛同する動き”という上記報道のとおりなら、大きな転換も期待できます。


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