孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

トランプ米政権の不法移民対策  メキシコをねじ伏せ、米国内では一斉検挙へ 中米への支援は停止

2019-06-22 22:54:48 | 難民・移民

(米メキシコ国境を流れるリオグランデ川を越え、米国入りを目指す中米からの移民【6月13日 WSJ】)

 

【トランプ大統領「私は移民が大好き」】

トランプ大統領は「壁」や「ゼロ・トレランス(不寛容)」政策に象徴されるように、移民の流入に非常に厳しい姿勢を支持層向けにアピールしていますが、それはあくまでも「不法」移民の話であって、ヒスパニック系でも「(正規の)移民は大好き」だそうです。

 

****「移民大好き」 トランプ氏、ヒスパニック系有権者に猛アピール****

2020年大統領選で2期目を目指すと正式に発表したドナルド・トランプ米大統領は20日、米スペイン語テレビ局「テレムンド」の番組に出演し、「私は移民が大好き」と述べてヒスパニック系有権者にアピールした。

トランプ大統領がスペイン語チャンネルのインタビューに応じるのは、今回が初めて。

 

司会者のホセ・ディアスバラルト氏から、不法移民を厳格に取り締まる「ゼロ・トレランス(不寛容)」政策や、不法移民の親子の引き離し政策、未成年時に親に連れられて不法入国した移民の救済制度「DACA(ダカ)」の打ち切りなどについて質問されたトランプ氏は、「私は移民が大好きだ」と答えた。
 
さらに「あなたの言っているのは、不法移民のことだろう」「私はこれまで移民にはとても親切にしてきたからね」とトランプ氏は発言。

 

「この国は移民によって成り立っている」と述べた上で、工場の人手不足を補うため、移民をいっそう歓迎するとも主張した。トランプ氏は、就任後に米国内の工場労働者の仕事を取り戻したと豪語している。

 

トランプ氏はまた、ヒスパニック系米国人の失業率が史上最も低い水準になったのも自身の任期中だと主張。世論調査ではヒスパニック系の支持率が17ポイント上昇しており、自分はヒスパニック系住民の間で人気があると得意げに語った。

 

その上で、人気の理由は全て、トランプ政権の移民・国境政策のおかげだとコメント。「ヒスパニック系の人々が、厳格な国境管理を求めているからだ」「彼らは、流入してきた人々が職を奪う事態を望まない。犯罪者の流入も望んでいない。彼らは誰よりも国境のことを知っている」などと述べた。 【6月21日 AFP】

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まあ・・・・そういうことのようです。大統領本人が言っていますので。

 

【メキシコに対応を迫るアメリカ 圧力に抗えないメキシコ、国内には「米国はわれわれの国を収容所にしようとしている」との批判も】

アメリカには1000万人超の不法移民がいるそうです。

これだけの数になると、法律上の違反云々の問題を超えて、現実問題としてアメリカ社会を構成する大きな要素になっているとも言えます。

 

また、これだけの不法移民が存在するということは、アメリカ経済・社会がそうした人々を必要としてきたということを示すものでもあるでしょう。

 

これまでの経緯から隣国メキシコからの不法移民が多数を占めてはいますが、近年はメキシコ経済の好調さのため、メキシコ人に関しては流入より帰国の方が多く、メキシコ人割合は半数を割っています。現在の主流は中米からの移民です。

 

****米不法移民人口 、メキシコ人半数割り込む 50年ぶり****

米国に滞在している不法移民のうち、メキシコ人の比率が2017年に50%を割り込んだことが最新の調査で明らかになった。少なくとも1965年以降では初めて。

 

米シンクタンクのピュー研究所が実施した調査では、米南部国境における過去何十年にもわたる状況の変化が浮き彫りになった。暴力や貧困から逃れるためエルサルバドル、グアテマラ、ホンジュラスなどの中米諸国から流入する移民が増える一方、仕事を求めて米国にやってくるメキシコ人が減った。

 

調査によると、2017年に不法に米国内に滞在していた外国人は1050万人と推計される。このうちメキシコ人は490万人で、全体に占める比率は47%となった。米国内に不法滞在するメキシコ出身者数は、ピーク時の2007年の690万人から約200万人減少している。(中略)

 

今回の調査報告書は12日に発表された。共同執筆者であるパッセル氏は、「正式な承認を得ていないメキシコ人の入国は依然として続いているが、出国するメキシコ人の方がずっと多い」と指摘した。

パッセル氏によれば、この減少は米国側国境での警備強化とメキシコ国内経済の改善の結果とみられる。

 

パッセル氏は「人々は(米国に行く代わりに)メキシコ国内を移動している」と指摘。近年、農業や製造業での雇用機会が増加していると付け加えた。「メキシコ国内に雇用を提供する多数の工場が存在し、人々は海外へ行く必要がない」という。

 

同報告書によれば、メキシコ人移民が出国して減少した分は、中米、アジア諸国からの移民が取って代わっている。

 

過去8カ月間で中米から何十万人もの移民が家族連れないし子どものみでやって来ているため、国境の米職員に大きな負担がかかっている。

 

トランプ大統領は先週、メキシコを通じて米国に向かう中米出身者の流れを抑制するためにメキシコ当局が対策を強化しなければ、メキシコに追加関税を課すと警告。メキシコ政府は、同国南部の国境に国家警備隊を配置することに同意したほか、米当局が米国の判事による判断を待つ難民申請者をより多くメキシコに送還できるようにすることにも同意した。

 

連邦政府のデータによると、米国の国境では2014年以降、85万1000人を超える中米出身者が不法入国で逮捕されている。そのほぼ全員は、本国に送還されれば安全が脅かされるとして、難民としての保護を求めている。

 

子連れの場合は米国内で釈放され、移民判事が米国での滞在が容認されるかを判断するのを待つことになるが、この手続きが終わるまでには何年もかかる場合がある。

 

ピュー研究所によると、米国に不法滞在する外国人の総数は近年、1050万人前後で横ばいに推移している。

【6月13日 WSJ】

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メキシコ人不法移民は減少しているにしても、「メキシコが中米からの移民を有効に阻止していないから、彼らがアメリカにやってくる」と、トランプ大統領の怒りの矛先はメキシコに向けれており、上記記事にあるような関税圧力をかける形で、メキシコが国境管理を厳格化することなどで一定の合意に達していますが、それがうまくいかないときは・・・という話が合意には含まれているようです。

 

****トランプ氏、文書ちらつかせ合意内容うっかり漏らす メキシコ不法移民対策****

アメリカのドナルド・トランプ大統領は11日、メキシコと7日に合意した不法移民対策の詳細の一部をうっかり漏らした。

 

トランプ大統領は記者団に対し、国内への不法移民の流入に歯止めをかけることを目的とした対策について、「適切な時に」メキシコ側から発表させたい考えだと述べ、詳細は明らかにしなかった。

 

ただ、この時トランプ大統領が手にしていたのは、合意内容の詳細が書かれた1枚の紙だった。これを終始ちらつかせなが取材に応じたため、メディアが撮影した写真によって内容が明らかになった。

 

この合意には、複数のラテンアメリカの国がアメリカによる関税措置を免れるために難民申請手続きを進めることになるとみられる、地域難民計画への言及が含まれていた。

 

メキシコ側の発表

メキシコのマルセロ・エブラルド外相は10日、合意内容の一部をすでに公表しており、同国は「45日後」に移民対策の効果が出ているかを評価するという。

 

メキシコは現在、アメリカを目指す移民の流入を食い止めるため、同国南側のグアテマラ国境に国家警備隊6000人を派遣している。

 

この対策が失敗に終わった場合について、エブラルド外相は、メキシコはアメリカが求める「安全な第3国」に指定されるだろうと述べた。これは、メキシコ領を通過する難民申請者は、アメリカではなくメキシコで申請を行なう必要が生じることを意味する。

 

外相によると、アメリカはこの措置にこだわっており、早急に実施したがっているものの、同国は直ちには応じなかったという。(中略)

 

仮にメキシコが45日以内に移民を食い止められなければ、他の国々もこの問題に引き込まれる。

アメリカを目指す移民が経由地として通過するブラジルやパナマ、グアテマラと、難民申請手続きの負担を分担させられるかどうか、協議が行なわれる見通しだ。

 

エブラルド外相は、アメリカ側の交渉担当者がメキシコ国内を通過する「移民をゼロ」にするよう求めてきたが、それは「不可能な任務」だと述べた。【6月12日 BBC】

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“うっかり漏らす”とありますが、文書が写真撮影されることを見越したトランプ大統領による意図的「リーク」でしょう。わざとらしいパフォーマンスです。

 

政治課題をこういうTV番組的な演出レベルに引き下げているところが、トランプ大統領の問題でもあります。

 

メキシコのロペスオブラドール大統領は、トランプ米政権と合意した不法移民対策強化の予算を、大統領専用機の売却などで工面する方針を明らかにしていますが、メキシコに責任を負わせるやり様に、メキシコ国内では反発も強いようです。

 

“メキシコで高まる対米反発、関税見送りも関係悪化”【6月10日 WSJ】

“米と合意の不法移民対策、メキシコ与党内で批判噴出”【6月17日 ロイター】

 

メキシコ内相は「いかなる国家警備隊であっても、2000人や3000人のキャラバンを止めることは不可能だ」とコメントし、グアテマラ国境に配備する国家警備隊の活用に懐疑的な見方を示しています。

 

メキシコ下院議長は、“米国の「安全な第三国」要求を受け入れれば、主権を失うことになるとし、「米国はわれわれの国を収容所にしようとしている」と批判。トランプ氏は「経済テロ」でメキシコに圧力をかけているが、メキシコはそれに屈するべきでない、と主張した。”【6月17日 ロイター】とのこと。

また、メキシコが国境管理を厳しくしても、結局は越境補助をビジネスとする人身売買業者を喜ばすだけとの指摘も。

“米メキシコ合意の不法移民対策、人身売買業者に恩恵か”【6月10日 AFP】

 

トランプ米政権は14日、難民申請中の不法移民をメキシコで待機させる合意に基づき、南部テキサス州エルパソからメキシコ側に約200人の移民を送還しています。これまで1日約100人だった人数枠を倍増させた形で、メキシコ外相は「無制限に受け入れない」と強調していますが、アメリカ側への反発が強まっているメキシコでは今後問題化する可能性もあります。【6月15日 時事より】

 

かなり端折りましたが、この問題に関するメキシコ側の反発は上記のように強く、今後については不透明です。

 

****メキシコ、米国との貿易戦争に勝てる 対立回避すべき=大統領****

メキシコのロペスオブラドール大統領は17日、メキシコは米国との貿易戦争に勝てると述べた。ただ、勝ったとしても割りに合わない勝利で、メキシコはこのような対立は回避した方が良いとの考えを示した。(後略)【6月18日 ロイター】

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要するに、「泣く子とアメリカには勝てない」ということで、大統領専用機の売却まで決意したメキシコ大統領は国内的了解を求めています。

 

短期的には圧倒的な力を拠り所とした強気なトランプ外交の“勝利”とも言えますが、長期的に見た場合、アメリカへの不信感を高めるこういう対応がアメリカの利益になるのかははなはだ疑問です。このあたりは、他の外交懸案事項についても同様です。

 

その点では、南シナ海で「大国」の力を振りかざす中国と“似た者同士”にも。

 

【国外退去命令が出されている不法移民、約2000世帯の一斉検挙へ】

一方、トランプ大統領は、アメリカ国内の不法移民について、明日23日にも一斉検挙に乗り出す予定です。

 

****トランプ氏、不法移民2000世帯の一斉検挙を23日実施と指示か 米報道****

ドナルド・トランプ米大統領は移民税関捜査局に対し、国外退去命令が出されている不法移民、約2000世帯について、早ければ23日に一斉検挙を行うよう指示した。米メディアが21日に報じた。(中略)

 

移民家族の一斉検挙は、テキサス州ヒューストンやシカゴ、ニューヨークやマイアミなどを含む最高10都市で、夜明け前の強制捜査とともに開始されると思われる。

 

CNNによると、ケビン・マカリーナン国土安全保障長官代行は、この作戦に全面的に賛成しているわけではない。ワシントン・ポストによると、同氏はICEに対し、弁護士を雇っていたものの法的手続きを放棄して姿を消してしまった不法移民、約150世帯を中心に対処するよう働き掛けてきた。

 

米国は現在、母国でのギャング組織による暴力と貧困から逃れて来た中米諸国の移民が大量に流入する問題に直面している。トランプ氏は、こうした移民流入を「侵略」と呼び、不法移民との闘いを主要政策に掲げている。 【6月22日 AFP】

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“一斉検挙”ということで、かつての“赤狩り”のようなヒステリックなものもイメージしましたが、一応、国外退去命令が出されている不法移民、約2000世帯に限定したもののようです。

 

それでも、1000万人をこえる不法移民社会に与えるインパクトは強烈でしょう。

 

法律違反を犯していると言えばそれまでですが、問題は1000万人をこえる不法移民の多くがアメリカ社会のなかでそれなりの役割を担いながらも、いつ摘発されるかわからないという不安とともに生活しているというあたりです。

 

アメリカのTVドラマ・映画では、制約された権利のもと、そうした不安を抱えて生きる不法移民が、ごく日常的な存在として頻繁に描かれています。

 

不法移民約2000世帯は、拘束後に本国に送還される見通しです。

人道上の理由などから不法移民に寛容な政策を取る「聖域都市」と呼ばれる自治体や人権団体から批判が続出していますので、今後の問題ともなりそうです。

 

メキシコも不法移民対策に乗り出すようですが、こちらはより穏健な方法のようです。

 

****1ドルで母国に帰れます=メキシコの格安航空、中米不法移民に呼び掛け****

メキシコの格安航空会社(LCC)ボラリスは21日、同国内で暮らす中米出身の不法移民に向け、1ドル(約107円)で母国に帰ることができるキャンペーンを発表した。EFE通信が伝えた。同国は米国入りを目指す中米出身者の中継点で、多くの不法移民が滞留している。

 

「家族再会プログラム」と称するボラリス社のキャンペーンは、「現在メキシコで暮らす不法移民のうち、自発的に母国に帰りたい中米人」が対象。身分証明書か出生証明書、旅券があれば1ドルと税金で出身国への航空券を手にすることができる。同社は「不法移民問題の代替的な解決策」と説明している。【6月22日 時事】 

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こんな生ぬるい方法では誰も暴力と貧困がはびこる母国には帰らない・・・という話かもしれませんが。

 

【中米3カ国に対する援助停止を発表 米国内には超党派の異論も】

根本的な問題は、母国に暴力と貧困がはびこっていることで、そこをなんとかしない限り、単に移民を希望する者を母国の檻に閉じ込め、自分たちの社会を壁で守ろうとするだけの話になります。

 

不法移民も好き好んで“不法”に入国している訳でもなく、暴力と貧困がはびこる母国では暮らせない、一方でアメリカは正規にはなかなか入れないというなかでの選択でしょう。

 

しかし、流れは逆光しているようにも。

 

****中米3カ国への援助停止=不法移民対策「不十分」と断定―米政府****

米国務省は17日、エルサルバドル、グアテマラ、ホンジュラスの中米3カ国に対する援助停止を発表した。トランプ大統領はかねて、米国に向かう不法移民の流出阻止で十分な対策を講じていないとして、3カ国への援助停止を通告していた。

 

米メディアによると、停止された援助は2017、18の両年度に議会で承認された総額5億5000万ドル(約600億円)。

 

同省のオルタガス報道官は17日の記者会見で「米国に向かう不法移民を減らすため、3カ国の政府がわれわれの満足できる具体的行動を起こさない限り、援助計画に基づく新たな資金を提供しない」と述べた。【6月13日 時事】 

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この対応には、アメリカ国内の与野党に異論があるようです。

 

****米超党派議員、中米3カ国への援助削減再考を要求 国務長官に書簡****

米下院外交委員会の共和、民主両党のトップはポンペオ国務長官に書簡を送り、中米3カ国への援助を削減する計画を再考するよう訴えた。援助削減は中国の影響力拡大につながると警告している。(中略)

 

外交委のエンゲル委員長(民主党)とマッコール委員(共和党)は23日公表した書簡で「援助は成果を伴っており、改善の余地はあるものの、援助削減は非生産的で、米国に押し寄せる移民の増加につながるとわれわれは考える」と表明。

 

また、援助削減は安定したパートナーとしての米国の信頼性に疑問を生じさせ、中国をはじめとする敵対国が米援助削減の穴埋めを狙うようになると警告した。(後略)【4月24日 ロイター】

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今回の援助停止を発表は、こうした超党派の異論を押し切ってのものです。


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