孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

パキスタン  首相失職につながる最高裁判決で政情不安拡大

2012-04-27 21:20:46 | アフガン・パキスタン

(パキスタンのギラニ首相(中央)と国軍トップのキヤニ陸軍参謀長(左) 
昨年10月、「軍事クーデターの可能性がある」として、ザルダリ大統領が「米国の介入」を求めるメモを駐米大使を通じて米軍側に渡していた疑惑“メモゲート”で、ザルダリ政権と軍の緊張が高まりましたが、そうしたなかギラニ首相は昨年12月22日、議会で「選挙で選ばれた政府を終わりにする陰謀が進行中だ」と述べ、軍による民政政権打倒の動きがあるとの異例の軍部批判を公然と行って注目されています。
また、ギラニ首相は今年1月11日、政府と軍との間に対立を生じさせたとして、軍出身のロディ国防次官を解任しました。これは、軍トップのキヤニ陸軍参謀長と軍情報機関ISIのパシャ長官がそれぞれ“メモゲート”の「徹底調査」を求める弁明書を最高裁に提出したことへの報復とも見られています。
写真は“flickr”より By DTN News http://www.flickr.com/photos/dtnnews/6690656005/)

政局の混迷が深まるのは必至
昨日26日、三つの注目される政治家関係裁判の判決がありました。
ひとつは日本で、資金管理団体「陸山会」の土地取引をめぐる小沢民主党元代表への無罪判決。
二つ目は、シエラレオネ国際戦犯法廷における、「血のダイヤモンド」の見返りにシエラレオネ反政府勢力に武器などを提供したなどとして戦争犯罪に問われていたテーラー元リベリア大統領への有罪判決。
三つ目は、パキスタンのギラニ首相に対する法廷侮辱罪での有罪判決。
今日は、三つ目のパキスタンの話です。

****パキスタン:ギラニ首相有罪…法廷侮辱罪 辞任避けられず****
パキスタン最高裁は26日、ザルダリ大統領の汚職問題を巡って「法廷侮辱罪」に問われたユサフ・ギラニ首相(59)に有罪判決を言い渡した。首相は最高裁から「不適格」判断を受けた形となり、辞任は避けられないとみられる。ザルダリ大統領らが率いる与党・人民党にとって大きな打撃で、政局の混迷が深まるのは必至だ。

問題となっているのは、スイス企業との政府調達契約を巡るザルダリ大統領らの汚職事件。最高裁は、ギラニ首相が捜査再開を求める裁判所決定を無視して事件を追及しなかったことが法廷侮辱罪に当たると判断した。禁錮刑は科さなかったが、「実刑」として裁判官が退出するまでギラニ首相に法廷内での「起立」を命じた。「起立」という異例の刑は、首相収監による政治混乱を避けるためとみられる。

1947年に建国されたパキスタンで、現職首相に有罪判決が下されたのは初めて。憲法の規定により、ギラニ首相は議員資格を失う見通し。人民党は後任首相を立てて政権維持を図る考えだが、来年の総選挙・大統領選挙まで持つかは流動的で、選挙の前倒しが現実味を帯びる可能性がある。

ギラニ首相は閉廷後、「不当な判決だ」とコメントした。与党側は判決を受け入れる方針だが、後任首相の承認を巡り、議会が紛糾するのは必至だ。新首相が就任した場合でも、ザルダリ大統領の汚職問題は追及しないとみられ、最高裁との対決が再燃する可能性が高い。

一方で、ギラニ首相が、パキスタン政治に強い影響力を持つ軍と対立を深めてきた事情もある。軍は「親米的」とみなされる人民党政権の早期崩壊を期待しつつ、事態を注意深く見守る方針とみられる。パキスタンでは昨秋、軍のクーデターを恐れる人民党政権が米国に協力を求めたとされるメモの存在が発覚し、軍と政権の亀裂が深まった。【4月26日 毎日】
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ムシャラフ前政権下の07年に出された国民和解令は、ムシャラフ前大統領と海外亡命中の故ブット元首相との連携を視野に入れて、首相時代の汚職容疑などに問われていた故ブット元首相と夫の現大統領ザルダリ氏らを免責としました。これによりザルダリ氏の帰国、その後の大統領就任も可能となっています。

しかし、かねてよりムシャラフ前政権とは対立関係にあった最高裁は09年12月、この国民和解令を違憲・無効とする判決を下し、ザルダリ大統領への捜査再開を政府に求めていました。

これに対し、政府は大統領には免責特権があるとして捜査再開を拒んでおり、このため最高裁は今年2月、ギラニ首相が昨年12月の判決の履行を怠っているとして、法廷侮辱罪で起訴していたものです。

“「実刑」として裁判官が退出するまでギラニ首相に法廷内での「起立」を命じた”というのもユニークですが、ことは「起立」ではおさまりません。
有罪が確定すればギラニ首相は議員資格を失い、首相の座を追われることになります。
ただでさえ政権基盤の弱いザルダリ大統領の地位にも影響してきます。

今回判決で直ちにギラニ首相が失職するものではなく、ギラニ首相の弁護側は異議を申し立てると表明しています。これにより憲法に基づいてギラニ氏の議員資格を剥奪する手続きは、いったん止まることになります。
また、ギラニ首相の議員資格を剥奪する場合、国民議会の議長や選挙管理委員会らも加わるため、手続きが長期化する可能性があるとの指摘もあります。【4月26日 AFPより】

そうした時間稼ぎをしながらも首相失職への流れは動き出すことになり、やはりザルダリ大統領への打撃は避けられないところです。
ただ、大統領側もこうした判決は織り込み済みでしょうから、何らかの対応を考えているとは思われます。
国民の支持率も低く、国軍・司法の支援もない弱体ザルダリ政権はいつ崩壊してもおかしくないとも見えるのですが、その割には粘り腰を見せていることは、2月3日ブログ「パキスタン 公認された米無人機攻撃と国軍タリバン支援 ザルダリ大統領の不思議な長期政権」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20120203)でも取り上げたところです。
改めて粘り腰を見せるのでしょうか。

核保有国パキスタンの政情混乱への懸念
一種の「司法クーデター」のような効果を持つ今回判決ですが、「民政政権崩壊を狙う軍部が背後で最高裁を操っている」との見方も一部にあります。
しかし、“最高裁のチョードリー長官は、ムシャラフ前大統領の軍事政権と対立を繰り返した人物だ。このため「軍の意向と関係なく、長官が独自の判断で動いている」との観測が強い”【2月13日 毎日】とのことです。

いずれにせよ、親米的なザルダリ政権の動揺、パキスタンの政情混乱は、隣国アフガニスタンにおけるアメリカの軍事作戦、パキスタン国軍が支援していると言われるタリバンの動向にも大きく影響します。
また、核保有国インドと対立するパキスタンも核保有国であり、その政権が揺らぎ誰が決定権を持っているのかわからない状態となることは、世界全体にとっても重大な問題です。

なお、判決前日の25日、パキスタン軍は核弾頭を搭載できる中距離弾道ミサイル「シャヒーン1A」の発射実験に成功したと発表しています。

****パキスタン:中距離弾道ミサイルの発射実験に成功****
パキスタン軍は25日、核弾頭を搭載できる中距離弾道ミサイル「シャヒーン1A」の発射実験に成功したと発表した。射程は未公表だが最大3000キロとみられる。隣国インドが19日に行った長距離弾道ミサイル「アグニ5」(射程5000キロ)の発射実験から6日後で、インドが国際社会の強い非難を招かなかったことから、パキスタンも同様の実験で「もう一つの核大国」としての存在感を示す狙いとみられる。

パキスタン軍によると、シャヒーン1Aは配備済みの「シャヒーン1」を長射程化し精度を改善。弾頭はインド洋に落下した。同軍は「シャヒーン2」(2500キロ)など中・短距離核ミサイルも配備し、保有核弾頭は推定90〜110個だ。

インドのアグニ5は、中国への対抗が狙いだったため、パキスタン側は当初反応しなかった。しかし、中国の核軍拡を懸念する欧米諸国がインドの実験を事実上黙認し、今回の実験を誘発した形だ。
インドと同様、核拡散防止条約(NPT)未加盟のパキスタンは、インドの核軍備が国際的に受け入れられるのは容認できない。ただ、パキスタンは北朝鮮に核技術を拡散した過去を持つため、今回の実験は、欧米諸国の反発を招きそうだ。

インドとパキスタンは47年以降、3回の戦争を繰り返したが、この1年間は関係改善のため対話に努めてきた。今回の実験も互いに事前通告しており、関係悪化には直ちにつながらない情勢だ。【4月25日 毎日】
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