孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

サウジアラビア  繰り返されるアジア人出稼ぎメイドを巡るトラブル 背景に差別意識も

2013-01-10 21:57:25 | 中東情勢

(サウジアラビアで斬首刑にされたスリランカ人出稼ぎメイド、リザナ・ナシカ元死刑囚の姉リフタ ナシカ元死刑囚が通った学校の校長によれば、ナシカは家族・姉妹思いの勇気ある女性だったそうです。
言葉も分からない異国でメイドとして働くことになった17歳の少女に何が起きたのかは、よくわかりません。
姉リフタの服装からすると一家はムスリムのようです。そのこともあってイスラム国家サウジアラビアに向かったのでしょう。
“flickr”より By IPS Inter Press Service http://www.flickr.com/photos/ipsnews/6755674291/)

【「サウジ当局が基本的な人道や法的義務を軽視していることがはっきりした」】
中東の富裕国サウジアラビアでは、東南・南アジア各国から貧困層が出稼ぎ労働者として多く働いていますが、その労働環境・待遇には問題も多く、トラブルが絶えません。
女性の場合はメイドとして働くことが多く、労働現場が家庭内ということもあってトラブルの真相も明らかでないことも多いようです。

また、イスラム諸国の中でも厳しい宗教戒律で知られるサウジアラビアにあっては、斬首刑といった極刑が課されることもあって、国際的な問題ともなります。
今回、斬首刑が執行されたのは、事件当時17歳という未成年だったスリランカ女性です。

****赤ちゃん死なせたスリランカ人メイドを斬首、サウジアラビア****
サウジアラビアで9日、雇用主の赤ちゃんを殺害したとして有罪判決を受けたスリランカ人メイドの斬首刑が執行された。死刑執行の猶予を繰り返し求めていたスリランカ政府は激しく抗議している。

処刑されたリザナ・ナシカ元死刑囚は、事件が発生した2005年当時、まだ17歳だった。未成年の犯罪に対して死刑を科しているのはサウジアラビアのほか世界で2か国しかなく、処刑には各人権団体からも非難の声が上がっている。

国営サウジ通信が伝えた同国内務省の声明によると、ナシカ元死刑囚は雇い主の女性と口論になった後、その子供を窒息死させた罪で死刑判決を受けた。

斬首刑は、スリランカ政府が恩赦を求めるための代表団をサウジアラビアに派遣しようとしていた矢先、首都リヤド近郊で執行された。スリランカのマヒンダ・ラジャパクサ大統領は即座にこの処刑を非難。知らせを受けた同国議会では、議員らが1分間の黙とうを捧げた。

国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチによると、ナシカ元死刑囚は生前、自白は強要されたもので、赤ん坊の死はボトルからミルクを飲んだ際に誤って窒息したことによる事故死だったと訴えていた。
同団体の女性権利担当者は「リザナ・ナシカさんを処刑したことで、サウジ当局が基本的な人道や国際社会で求められる法的義務を無情にも軽視していることがはっきりした」と述べている。【1月10日 AFP】
**********************

スリランカでは海外への出稼ぎ労働は、タミル人武装組織との内戦で疲弊した経済を再建するためのもっとも手っ取り早い方法と考えられています。
実際、年間40億ドル以上が海外出稼ぎによって送金されており、その少なくとも30%を家政婦・メイドとして働く女性が担っています。
経済の生命線を担っているとも言えますが、その対価は決して小さくありません。
適切な職業訓練もせずに若い女性を送り出す斡旋機関の問題もあります。

【「奴隷のよう」 過酷な労働実態
1年半前、インドネシアからの出稼ぎメイドがやはりサウジアラビアで斬首刑となり、インドネシア側の激しい反発を招いた事件がありました。

****インドネシア、出稼ぎメイドの斬首刑でサウジに抗議****
インドネシアのスシロ・バンバン・ユドヨノ大統領は23日、サウジアラビアで雇い主を殺害したとして有罪となったインドネシア人メイド(54)が斬首刑に処せられたことについて、サウジ政府が国際関係上の「規範と礼儀」を破ったと国民に向けたテレビ演説で非難し、「最大限の抗議」を行うと述べた。

一方、国営アンタラ通信がムハイミン・イスカンダル労相の話として伝えたところによると、インドネシア政府は22日、自国民がサウジアラビアへ出稼ぎに行くことを禁止する措置を8月1日から実施することを決めた。この措置は、サウジアラビア政府がインドネシア人労働者の人権保護に関する覚書に署名する日まで有効だという。

インドネシア当局によると、18日に処刑されたこのメイドの女性は、サウジアラビア人の雇い主にインドネシアへの里帰りの許可を求めたが認めてもらえなかったため、雇い主を殺害したと供述していたという。

処刑を受けて、インドネシア政府はサウジアラビア政府に強く抗議。インドネシア議会は21日、人権の保証が確約されない限り自国民を海外に送り出すことを禁止すべきだと政府に提言した。また、インドネシア人労働者が海外で度重なる虐待を受けている問題をめぐって、ユドヨノ内閣の一部閣僚が辞任を余儀なくされている。
サウジ政府は22日、女性の処刑をインドネシア政府に前もって伝えていなかったことを謝罪した。

なお、サウジアラビアでは別のインドネシア人メイドも、2007年12月にイエメン人の雇い主を殺害したとして死刑判決を受けている。このメイドは、レイプされそうになったために殺害した正当防衛だと主張している。
インドネシア当局によると、雇い主の遺族は女性が今年7月までに200万リヤル(約4300万円)の賠償金を支払えば赦免すると述べており、インドネシア政府がこの賠償金を肩代わりするという。【2011年6月23日 AFP】
**********************

メイドは家庭内で暴行・虐待・レイプなどにさらされることも多く、インドネシア民間団体によると、雇用主の暴力が原因と見られるインドネシア人の死者はサウジアラビアだけで少なくとも100人以上にのぼるとも報じられています。
下記記事からは、その劣悪な労働環境が推察されます。

****インドネシア:家政婦遺族ら真相究明を サウジで斬首刑に*****
サウジアラビアで雇用主の女性を殺害したインドネシア人家政婦に斬首刑が執行され、出稼ぎ労働者の過酷な労働実態にインドネシア国内で批判が強まっている。暴力が原因と見られる死亡例も多く、遺族らは真相究明と遺体の早期送還を求めている。

「あんなに元気だった妹がなぜ。真相を知りたい」。イエニさん(35)がサウジで働いていた妹エルナワティさん(18)の訃報を聞いたのは今年2月。
妹は15歳だった08年8月、サウジのハイルに出稼ぎに行った。直後から携帯電話で雇用主の妻による暴力を訴えた。睡眠時間は約3時間。仕事は多く、失敗すると何度もたたかれた。帰国は許されず、雇用主の友人にレイプされそうになったこともある。今年1月、「死んだら両親をよろしく」と携帯電話のメッセージが届いた直後、連絡が途絶えた。外務省に保護を求めたが、対応してもらえなかったという。

一緒に働いていた家政婦によると2月10日、それまで3日間食事を与えられず、逃げようとしたところを雇用主の妻に見つかり、その友人の男性にホースで胸などを何度も強く打たれた。血を吐いて倒れ、病院で息を引き取ったという。病院からは同13日、「自殺した」と連絡があった。大使館に遺体引き取りを依頼したが、「調整中」としていまだに実現せず、同時に求めた実態調査も「地元警察に依頼した」と返答があっただけだ。

民間団体「ミグラント・ケア」によると、雇用主の暴力が原因と見られる死者はサウジだけで少なくとも100人以上。約半数は遺体がインドネシアに返還されていない。同団体のアニス事務局長は「政府は対応が遅すぎる。労働者保護と遺体送還をきちんと定めた覚書を一刻も早く締結すべきだ」と主張する。

インドネシア外務省報道官はエルナワティさんのケースについて「病院の検視が終り次第送還される」と説明。他のケースについては「要望があった際は大使館を通じてサウジ側に送還を依頼してきたが、遺族が望まないことも多い」と話した。【2011年6月28日 毎日】
**********************

サウジアラビアだけでなく、近隣の湾岸諸国でも同様の問題が起きています。

****インドネシア:「奴隷だった」オマーンから帰国の元家政婦*****
サウジアラビアで雇用主を殺害したインドネシア人家政婦が6月中旬、死刑となったのをきっかけに、出稼ぎ労働者に対する虐待への批判が高まるインドネシア。「まさに奴隷だった」。2カ月前に中東オマーンから帰国した元家政婦ルスナニさん(47)は毎日新聞の取材に、その実態を証言した。

サウジ、クウェート、オマーン。ルスナニさんはこれまでに計3回、中東諸国に出稼ぎに行った。「雇用主や家族の暴力は当たり前。サウジで斬首刑になった女性と私の境遇はとてもよく似ている」と打ち明けた。
3人の子供の教育費を稼ぐためだった。夫とは離婚。いずれの国でも、雇用主から虐待を受けたり、給与の不払いを経験した。「何度も復讐(ふくしゅう)したいと思ったが、私は殺さなかった。お金のため、と自分に言い聞かせ、子供のことを考えて耐えた」

09年5月、アラブ首長国連邦のアブダビへ。他の家政婦と一緒に「マネキンのように並べられ、8000サウジリヤル(約17万円)でオマーンの政府高官に買われた」。仕事は炊事、洗濯、掃除に庭の手入れ。睡眠時間は、平均すると約3時間程度。10年4月に雇用主が失業してからは、特にその妻からの虐待が激しくなり「仕事が遅い」と木の棒や素手で殴られ、賃金の支払いも滞った。

「大金を払ったのだから、あんたは私のモノ。何をしてもいいの。政府や法律なんて関係ない」。妻は何度もそう言ったという。手紙を出すことも電話をかけることも許されず、外出もできない。「インドネシアに帰らせて」。そう頼むたびに、暴力を受けた。

4月中旬、キッチンで妻が「新しいナイフはどこ」と尋ねた。思い出せずに探していると、自分で見つけた妻がルスナニさんの首にナイフを突きつけ、「帰ることばかり考えているから忘れるんだ。だったら先に首だけ帰してやる」と叫んで力を込めた。あごが切れ、血が流れた。
翌朝、雇用主から不払い給与13カ月分のうち4カ月分の約520万ルピア(約4万9000円)だけ渡され、そのまま放り出された。

今も棒で殴られた右腕がしびれ、力が入らない。虐待された記憶がよみがえり、恐怖と怒り、悔しさで涙が止まらなくなる。末っ子の長男はまだ高校生。大学生の長女と約束したパソコンは今も買えていない。【2011年7月4日 毎日】 
*********************

差別意識が虐待などを助長
こうした事件・トラブルが後を絶たない背景には、中東諸国におけるアジア人蔑視の風潮があると指摘されています。サウジアラビアなど保守的イスラム国では女性の社会的地位も低いことから、アジア人女性は社会的最下層に位置することになります。

****アジア人への偏見も****
インドネシア大のスリスティオワティ・イリアント教授(女性・ジェンダー学)の話

中東諸国は一般に、渡航手続きの規制が緩い。出稼ぎ労働者の多くは地方の貧困層で、年齢などで規定に満たない場合も少なくない。書類を偽造し、渡航をあっせんするアラブ系移民の業者もあり「行きやすい」ことが背景にある。

一方、インドネシア人の大半はイスラム教徒で「アラブ」は預言者ムハンマドを生んだ聖地であり、雇用主はその末裔(まつえい)と考えることが多い。富裕層への憧れもあり、「アラブ人は豊かで善良」とのイメージも根強い。

だがアラブ社会には、アジア人に対する偏見がある。アラブ人と非アラブ人、富者と貧者を区別し、男尊女卑の文化も色濃く残る。最上位はアラブ人男性で、アジア人女性は最下位に置かれる。同じアジア人でも、フィリピン人の多くは看護師など医療部門で働くが、インドネシア人の女性は家政婦中心で最下層と見なされ、差別意識が虐待などを助長している。【同上】
**********************

何かと欧米社会との軋轢が多いイスラム世界のなかで、特に反米姿勢が強いイランなどが“悪役”としてしばしば取り沙汰されますが、イランの場合、宗教指導者が最高権力を握っているとは言いながらも、大統領・議員を選挙で選出する政治システムが存在しています。(不正選挙云々はありますが)
女性の社会進出も中東ではかなり進んでいます。(今日の【朝日】に、イランで女性の服装・教育への締め付けが厳しくなっている・・・との記事はありましたが)

イランに比べれば、政治システムにおいても、女性の問題においても、はるかに欧米基準から遠い位置にあるサウジアラビアや湾岸諸国ですが、なにぶん世界の石油を牛耳る国でもあります。バーレーンの民主化運動鎮圧の軍事介入を行った際などにも、国際的批判などはあまり聞かれない・・・というのが現実世界です。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする