孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

トルコ  政府批判を許さないエルドアン政権 “テロ地獄”更に悪化の懸念も

2017-01-07 22:59:39 | 中東情勢

(昨年のクーデター未遂の際に反乱勢力に空爆された国会議事堂の破片が入ったトルコ政府の新年のカード。仏パリで(2017年1月6日撮影)。【1月7日 AFP】)

欧米の批判に不満を募らせるエルドアン大統領
昨年7月のクーデター未遂後、首謀したとされるギュレン派だけでなく、政権に批判的なメディア・野党勢力、クルド系勢力などを対象に大規模な“粛清”を続けるトルコ・エルドアン大統領ですが、欧米諸国が民主的政権に対するクーデター未遂そのものより、その後のエルドアン大統領の強権的手法に批判的なことに、非常に不満を募らせているようです。

****トルコ、クーデター未遂時の議事堂破片入り新年カード 各国へ送付****
トルコ政府は、「民主主義の年」を願う新年のメッセージカードとともに、昨年のクーデター未遂の際に反乱勢力に空爆された国会議事堂の破片を、世界各国の外交官やジャーナリストらに送った。

トルコの首都アンカラの国会議事堂は昨年7月のクーデター未遂の際、反乱勢力によって空爆され、一部が破壊された。
 
フランス・パリのAFPが受け取ったトルコ政府の新年のカードには「民主主義に対するトルコの貢献の象徴として、トルコ大国民議会の壁からはがれ落ちた大理石のかけらを送ります」とあり、さらに「真の意味で民主主義を享受できる新年となるように」と書かれていた。
メッセージの名義は、ビナリ・ユルドゥルム首相の報道官、メフメット・アカルカ氏となっている。
 
レジェプ・タイップ・エルドアン大統領は昨年、クーデター未遂によって自らの政権が脅かされた際、欧米諸国がほとんど連帯を示さなかったことに激怒した。

エルドアン政権は批判勢力からは、強権的な性格を強めているとみなされている。欧州連合(EU)と米国は、トルコのクーデター未遂の後の弾圧で兵士や裁判官、ジャーナリスト、教師など数万人が拘束されている事態について懸念を強めている。
 
トルコ首相府によれば「テロリズムは人道に対する罪だ」などと書かれたカードと国会議事堂の破片は、世界中の外交官やジャーナリスト、大学の学長、自治体の長など4000人に送られた。AFPに届いたベロア製の黒いケースの中には、灰色の角張った破片が入っていた。【1月7日 AFP】
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おそらくエルドアン大統領の発案でしょう。

【「すべてを独裁的に決められる国家」目指し、悪化するメディア統制
エルドアン大統領はご不満ですが、トルコの言論統制は悪化しており、批判を受けるのもやむを得ないところがあります。

****<トルコ銃乱射>強まるメディア規制*****
トルコでは、大きなテロ事件などが起きると報道規制がかけられる。地元メディアによると、2010〜14年だけでも150回以上にのぼる。トルコ政府は批判的な報道機関の幹部を「テロ扇動容疑」などで摘発し、閉鎖に追い込んできた経緯もある。
 
今回の事件でも、一夜明けた2日朝には現場の店付近に国内外メディア数十社の記者らが並んだが、警官隊は接近を禁じた。一時的に規制を解除して撮影を許したのは、政府の支援で最近作られたとされる市民団体「トルコ・デモクラシー・プラットフォーム」が献花のために訪れた際だ。
 
この団体の代表者は「いかなるテロにも抗議する。(テロを助長するような)報道の責任も大きい」とメディアをけん制するような発言もした。
 
一方、店の経営者は地元メディアに「10日ほど前から在トルコ米大使館がテロの注意喚起を出していたのに」と涙ながらに語っていた。当局側の警備の不備を指摘したとも取れる発言だが、大きくは報じられていない。

国内の新聞やテレビなどは、犠牲者を悼む内容や、エルドアン大統領の「対テロへの決意」などを中心に伝えている。
 
地元報道機関で20年以上働く40代の男性記者は取材に対し、報道規制について「具体的な禁止事項が細かく決められているわけではない。ただ『テロを助長するような報道』をしていると政府に判断されると注意を受け、無視すると閉鎖に追い込まれることもある」と説明した。
 
この男性記者によると、トルコでは最近、大規模テロが相次いだことで「国民の不安は確実に高まっているが、政府の対策が悪いと批判が出るのは、最近ではソーシャルメディアぐらい」だという。【1月2日 毎日】
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いまやトルコは、拘束されたジャーナリストが世界で最も多い国となっています。
拘束される前に暗殺される国や、そもそも政権批判的メディアが存在しない国もありますので、これを持って世界最悪とは言えませんが、大きな問題であることは間違いないでしょう。

****<トルコ>「メディア支配」やまず 記者150人超逮捕****
トルコで、政府による「構造的なメディア支配」が進んでいる。昨年7月のクーデター失敗事件を機に発出された非常事態宣言を受け、事件後に裁判もないまま超法規的措置で逮捕された記者は150人以上にのぼる。

さらに政府は記者800人から取材許可証を剥奪。政府に疑義をはさまない報道機関の経営母体には「便宜」を与えるなどして、国内メディアの8割以上を事実上の支配下に収めている。非常事態宣言は4日、議会が再延長を承認した。
 
「これが昨日の新聞。みんなのためにも頑張る、と書いています」。2日、イスタンブールの左派系紙「ジュムフリエト」(トルコ語で「共和国」)で、幹部のアイクト・クチュクカヤ氏(44)が元日紙面を広げて見せた。
 
昨年10月31日、「テロ支援」などを理由に、具体的な容疑の開示もなく編集局長らが一斉に逮捕された。元日付の1面には、拘束中の12人の顔写真と名前を書いた紙を持って並ぶ編集局メンバーの写真を掲載した。
 
同紙は、建国の父で世俗派のムスタファ・ケマル(アタチュルク)初代大統領らによって1924年に創刊されたトルコ最古の新聞社。過去にはイスラム過激派らの襲撃を受け、記者ら6人が殺害されている。

2015年には、トルコ国家情報機構(MIT)のトラックが南部で軍の検問を受けた際に大量の武器が見つかった映像を独占入手し、トルコ政府によるシリア反体制派への「支援」の疑いを特報、世界に転電された。記者2人が「スパイ容疑」などで逮捕され、エルドアン大統領は当時、同紙を提訴し「記者は重い代償を払うだろう」と述べた。
 
「それでも当時はまだ裁判があった。だが今は非常事態宣言の超法規的措置で、何が容疑かも示されないまま逮捕されている」。クチュクカヤ氏によると、12人逮捕の事件は広告減に拍車をかけている。「政府を敵に回す新聞社に広告を出すのは勇気がいるから」。

同紙の発行部数は約4万部で、トルコ紙全体で20位程度。広告や販売収入で経営する同紙のような新聞は全体の2割以下で、8割以上は建設やエネルギー関連の大企業に買収されているという。
 
「政府から許認可などを受けて利益を得ている大企業が、政府の要請を受けてメディアを買収し片手間に経営しているから、政府批判などしない」。元大手メディア記者で野党・共和人民党(CHP)のバリシュ・ヤアルカダシュ議員はそう述べて、報道の自由の危機を訴えた。

「(エルドアン氏が)目指すのは自分を批判するジャーナリズム、議会、裁判を無力化し、すべてを独裁的に決められる国家だ」。エルドアン氏は自らの権力を強化する実権型大統領制の導入を目指し、今春にも国民投票にはかる見通しだ。【1月4日 毎日】
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クーデター未遂事件を受けて全土に出された非常事態宣言が、1月3日、昨年10月に続いて再び延長されたことについて、「人権軽視」との批判もあります。

後述のようなテロ頻発の状況からすると一定にやむを得ない措置にも思われますが、どのように運用するかは別問題です。

国際人権団体は逮捕者が「虐待や拷問を受けている証拠がある」と指摘しています。また、前出のように、政権に批判的な報道機関が法律と同効力の政令で閉鎖されています。

頻発するテロ 更に悪化の懸念も
テロ頻発については、12月17日ブログ“トルコ シリア介入で存在感を強めるものの、国内で相次ぐ爆弾テロ”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20161217でも取り上げたところで、「当分の間はトルコの“テロ地獄”が続くのではないでしょうか」とも書いたのですが、イスラム過激派ISとクルド系反政府勢力PKKの二つを相手にして、まさにテロが続発しています。

****トルコのナイトクラブ襲撃、ISが犯行声明****
トルコの最大都市イスタンブールで、新年を祝うイベントを開催中だったナイトクラブで何者かが銃を乱射し、多数の外国人を含む39人が死亡した事件について、イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」が2日、犯行を認める声明を出した。

ソーシャルメディア上に投稿された声明でISは、高級ナイトクラブ「レイナ(Reina)」での攻撃は、「イスラム国の兵士」の一人が実行したと主張。実行犯は手りゅう弾と銃を用いて攻撃を行ったとしている。
 
また声明は、イスラム教が多数を占めるトルコがキリスト教徒に仕えていると非難しており、近隣のシリアやイラクでISとの戦闘を繰り広げる国々と提携していることを指しているとみられる。【1月2日 AFP】
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****トルコ裁判所前で車爆弾攻撃、2人死亡 銃撃戦も****
トルコ西部イズミルの裁判所前で5日午後、自動車爆弾が爆発し、少なくとも2人が死亡した。現場では直後に銃撃戦も発生。当局は、非合法武装組織「クルド労働者党(PKK)」による犯行とみて捜査を進めている。

 
ベイシ・カイナック副首相は記者団に対し、死亡したのは警察官1人と裁判所職員1人だったと発表。さらにその後、警察と「テロリスト」との間で銃撃戦が起き、武装集団側の2人が殺害されたが、3人目の容疑者が逃走したため現在追跡中だと述べた。(後略)【1月6日 AFP】
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“ISは昨年末に本格的な闘争を宣言。トルコで同様の事件が続く恐れは強い”ということで、今後更に状況は悪化しそうです。

****イスラム国とトルコの対立は新段階に 「闘争宣言」の直後、続発の恐れも****
トルコの最大都市イスタンブールのナイトクラブ襲撃で2日、イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)が事実上の犯行声明を出したことは、ISとトルコの対立がさらに激しい段階に入ったことを示している。

トルコで起きたテロの場合、関与したとみられるケースでもISが犯行を認めることは少なかったが、ISは昨年末に本格的な闘争を宣言。トルコで同様の事件が続く恐れは強い。
 
「(トルコによる)爆撃での流血は、お前らの土地で火に転じる」。ISは声明文で、ナイトクラブ襲撃はトルコによるIS攻撃の報復だと示唆した。
 
ISは、中東や米欧で過激派によるとみられるテロが発生すると、実行犯はISの「戦士」だなどとする声明を出してきた。この種の犯行声明は、ジハード(聖戦)の“総元締め”としての求心力を維持する重要な宣伝材料だからだ。
 
一方、ISは台頭して以来、2015年夏にトルコ南部スルチでの大規模テロに関与したとみられるまで、トルコとの直接対立は避けてきた経緯がある。
 
スルチでのテロを契機にトルコがISとの対決路線に踏み出し、ISによるとみられるテロが相次ぐようになったが、ISは関与を明確にしないのが通例だった。拠点のシリア北部に隣接するトルコとの衝突を極力避ける思惑だったとみられる。
 
しかし、昨年暮れにシリア北部に展開するトルコ軍がISへの攻撃を強めたことを受け、ISはトルコ兵2人の「処刑映像」を公開し報復を宣言。

ナイトクラブ襲撃は、新年に世界の注目を集めることを狙っただけでなく、ISとトルコの関係が新たな段階に入った象徴とも位置付けられる。
 
トルコは現在、ISのほか、少数民族クルド人系武装勢力とも対立。シリア北部のクルド勢力の押さえ込みに向け、シリア情勢では対立関係にあったロシアとも接近しつつある。

こうした動きがロシアを敵視するISなどジハード勢力を刺激していることも確実で、トルコの治安情勢はさらに不安定化する公算が大きい。【1月2日 産経】
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宗教保守的な政権支持層と反政権的な世俗派の国民分裂の懸念も
イスタンブールのナイトクラブで起きた銃乱射事件はIS犯行とされますが、宗教保守的なエルドアン政権支持者ではなく、エルドアン政権に批判的な世俗派が攻撃対象となったことで、微妙な影響も指摘されています。

****イスラム政権、国民分裂を懸念=銃乱射事件から1週間―トルコ****
トルコ最大の都市イスタンブールのナイトクラブで起きた銃乱射事件から8日で1週間。過激派組織「イスラム国」(IS)が犯行を認めたが、実行犯の男は依然逃走中で、当局は男の捜索と関係者の拘束を続けている。

トルコ社会のイスラム化を推し進めてきたエルドアン政権は、世俗派が攻撃対象となった今回のテロで国民の分裂が進むことを懸念している。
 
「テロ組織は私たち国民同士を対立させることはできない」。エルドアン大統領は5日、事件はトルコ社会の分裂が目的だとの認識を示し、国民に団結を訴えた。(中略)
 
ISは事件後、「キリスト教徒が背信的な祝日を祝っていたナイトクラブを英雄的な戦士が攻撃した」との犯行声明を発表。隣国シリアでトルコ軍が続けている軍事作戦への報復だと主張している。
 
トルコは建国以来、政教分離を国是としてきたが、イスラム色を強めるエルドアン政権の下、世俗主義を堅持しようとする人々とイスラム教的価値観を重んじる人々の間で対立が生じている。

今回のテロは、対IS戦で有志連合の一角をなすエルドアン政権に対する打撃を目的としながらも、攻撃対象は同政権に反発してきた世俗派の人々だった。
 
このため、ソーシャルメディアでは犯行を支持する一部の人々の投稿が広がり、当局は取り締まりに乗り出した。

トルコの著名ジャーナリスト、ムスタファ・アキョル氏は中東のニュースサイト「アル・モニター」で、事件について「エルドアン政権が先導したイスラム主義的な不寛容さの『極致』だ」と指摘した。【1月7日 時事】 
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宗教保守的なエルドアン政権支持者とエルドアン政権に批判的な世俗派の分断まで考慮しての犯行だったのであれば、効果的な一撃となったようです。

悪化するアメリカとの関係 ただし、トランプ政権への期待も
一方、外交面ではシリア停戦においてロシアとともに主導的な役割を演じていますが、シリア北部のクルド人勢力をめぐっては、これを敵視するトルコと、対IS戦略のパートナーとするアメリカの間がこじれています。

****空軍基地、使用停止も=対IS戦で米に不満―トルコ****
トルコの大統領報道官は5日、米軍主導の有志連合が過激派組織「イスラム国」(IS)掃討作戦の拠点として使用しているトルコ南部インジルリク空軍基地について、「トルコは閉鎖する権利を持っている」と述べた。

米国に対し、トルコと敵対するシリアのクルド人勢力との協力を中止しなければ、同基地の使用を停止する可能性があると警告したものだ。
 
米国は、シリアのクルド人勢力を対IS戦でのパートナーと見なし、これにトルコは反発してきた。
 
報道官は、トルコ軍が現在進めているIS支配下のシリア北部バーブの制圧戦で、米国から十分な支援を受けていないと不満を表明。トランプ政権になれば、クルド問題がトルコにとっていかに敏感な問題か、米国はもっと考慮するだろうと語った。【1月5日 時事】
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冒頭のクーデター未遂事件をめぐる欧米との不協和音もあります。

ただ、アメリカとの関係は、人権などには関心のないトランプ政権になれば様変わりするのかも。
“トルコ副首相は4日、トルコとしてはトランプ政権との関係については、楽観していると語った”【1月5日 「中東の窓」】とも。
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