孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

フランス  やはりルペン氏は勝てない? ダークホースはマクロン前経済相  仏版「働き方改革」

2017-01-12 22:45:57 | 欧州情勢

(39歳 イケメン 投資銀行出身 公職選挙未経験で仏大統領を目指すマクロン前経済相 【2016年11月17日 AFP】)

フィヨン氏がルペン氏に大差で勝利?】
昨年のイギリスのEU離脱決定、アメリカのトランプ氏勝利という、エスタブリッシュメントの予想・期待に反するような“ポピュリズム”とも言われる流れを受けて、今年の欧州は反EUの動きが大きなうねりとなるのか・・・・が注目されています。

その動向を決定づける大きなイベントがフランス大統領選挙とドイツ総選挙です。

フランス大統領選挙については、4月23日に第1回投票、5月に決選投票が予定されています。
欧州全域における反EU・反移民感情の高まりに沿う形で、極右マリーヌ・ルペン氏の決選投票進出が予想されていますが、もしルペン氏勝利ともなれば、EUは実質的に機能停止・崩壊にも追い込まれる・・・との懸念があります。

****仏大統領選の決選投票、フィヨン氏が大差で勝利の予想=世論調査****
フランス大統領選に関する新たな世論調査で、中道・右派陣営の候補者であるフィヨン元首相と極右政党、国民戦線(FN)のルペン党首が5月の決選投票に進めば、フィヨン氏がルペン氏に大差で勝利する見込みであることが明らかになった。

POPの調査によると、決選投票での得票率はフィヨン氏が63%、ルペン氏が37%となる見通し。ただ、フィヨン氏の第1回投票の得票率は24%が見込まれ、1カ月前の調査から低下した。

今回の世論調査では、4月23日の第1回投票でフィヨン氏の得票率はルペン氏の得票率を1ポイントまたは2ポイント下回るとみられている。しかし、決選投票では第1回投票を通過できなかった他の候補者への票を集め、ルペン氏を抑えて圧勝すると予想されている。

一方調査では、無所属での立候補を表明したマクロン前経済相が予想外の結果をもたらす可能性も示された。マクロン氏は第1回投票で16─20%の票を得て3位につけると予想されているが、中道派のバイル元教育相が出馬しなければ、バイル氏への票の大半がマクロン氏に流れる可能性がある。バイル氏は出馬するかどうかを明らかにしていないが、世論調査によると5%の票を得ると見込まれている。

調査は今月6─8日にオンラインで行われ、有権者946人の回答に基づいてまとめられた。【1月12日 ロイター】
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現段階では、極右に対する国民の抵抗感は根強く、マリーヌ・ルペン氏の決選投票勝利は難しいという“予想”のようです。

“予想”どおりの展開になるかどうかは、第1回投票で敗退することが予想されている社会党候補(14年から首相を務めたマニュエル・バルス氏が有力視されています)を支持した左派有権者を保守派フィヨン氏がどれだけとりこめるのか、また、ルペン氏が保守・中道票をどれだけ取り込めるかによります。

また、難民・移民による大きなテロが選挙前に起きると、反移民を掲げるルペン氏に有利に働くこともありますので、ふたを開けてみるまでは・・・という感もあります。

フィヨン氏は経済的には自由主義、社会的には保守主義の立場ですが、党内予備選挙においては公務員50万人削減、疾病保険民営化、同性婚者の養子縁組反対の姿勢、また外交での親ロシア寄りの姿勢など保守的立場を強くアピールしています。その結果、中道からの支持も厚いアラン・ジュペ元首相、さらに一般党員の人気の高いサルコジ前大統領を抑えて、予想に反する形で予備選挙に勝利しました。

そうした保守的主張への左派の反発もありますが、フィヨン氏も本選挙に向けては中道・左派取り込みのために軌道修正してくると思われます。

なお、“多くの先進国ではリーダー選出に一般有権者が参入するようになると党派性がよりラジカルになる傾向が見られる”【1月10日 吉田 徹氏 Newsweek】というのは、アメリカ大統領選挙の予備選挙段階でも顕著に見られた傾向で、民主主義にとって大きな問題とも思えます。

本選挙に向けての軌道修正はルペン氏も同様です。

****極右ルペンが卜一ンダウンした理由****
EU離脱や移民の排斥を訴えて支持を伸ばしてきたフランスの極右政党、国民戦線のルペン党首が軟化の兆しを見せている。
 
先週のテレビインタビューでは、フランスのEU離脱について否定的な考えを示唆。離脱を望むか否かを単刀直入に問われると、「望まない。国民投票による支持を背景に、フランスに主権を取り戻すようEUと再交渉する必要はある」と応じた。
 
さらに、以前から主張していたユーロ圏からの離脱についてもトーンダウン。自国通貨への移行と並行して、ユーロ導入以前に存在した欧州通貨単位(ECU)のようなバスケット通貨を復活させる構想を提示した。
 
軟化の背景には、春に行われる大統領選に向けて従来の右派だけでなく、より穏健な主流派にもアピールしたい狙いがある。

フランスではEU残留を望む世論が根強く、強硬な離脱諭は支持を広げにくい。大統領選の決選投票で対決する可能性が高まっている中道・右派のブイヨン元首相の支持層を取り込むためにも、ルペンは当面、穏健路線を進むことになりそうだ。【1月17日号 Newsweek日本語版】
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もうひとつの“台風の目” 39歳のマクロン前経済相
一方、“予想”を“台風の目”になる可能性は、無所属での立候補を表明したマクロン前経済相にも強くあります。

これまでの“予想”は、保守派候補対ルペン氏の決選投票というものでしたが、ひょっとしたら第1回投票でマクロン前経済相がどちらかを蹴落として決選投票に残る・・・という可能性もあるのではないでしょうか。

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与党・左派陣営にとってのもう一つの波乱要因は、バルス内閣で経済相を務めていた弱冠39歳のマクロン氏だ。彼は16年8月に経済相を辞任、自らの政治運動「アン・マルシュ(前進)!」を立ち上げ、経済リベラル・社会リベラルの旗を掲げて、中道から左派陣営を固める戦略に打って出た。

これは70年代に「フランスのケネディ」と言われ、やはり経済通で鳴らしたヴァレリー・ジスカールデスタン大統領が、中道から保守陣営を固めた選挙戦略とも類似している。

若くてハンサム、さらに既存政治家とは距離を取るマクロン氏に対する若年層からの支持は厚く、本選の第1回投票を見越してどれほど左派中道票を奪うかによって、保革両政党の候補者の戦術は対応を余儀なくされるだろう。【1月10日 吉田 徹氏 Newsweek】
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マクロン前経済相は、国民の“好感度”ではかなり高い数値を示しています。

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・・・今月(2016年12月)行われた世論調査の好感度のアンケート結果によると、前経済相エマニュエル・マクロン氏が49%、右派で元首相のフランソワ・フィロン氏が44%、前首相バルツ氏、ルペン氏が24%の順となっており、今のところは、マクロン氏とフィロン氏が有力そうではあります。

フィロン氏は移民の受け入れにも否定的で、ルペン氏支持層からの票が流れる可能性もある人物。年齢的にも貫禄的にも強いリーダーシップを取りそうな指導者として人気がありますが、到底受け入れられないといわれる歴史的解釈を持ち出して、歴史教師達から反発を受けたり、移民だけではなく、同性愛者に対しても厳しい対応を取ることに懸念を覚える人もいます。

マクロン氏は若くエネルギッシュで、それこそ今までの言動や行動からフランス人が好む「反骨精神」の塊のような存在であり、かなり人気を集めていることも事実。ただ若いこともあり実績があまり残せておらず、年配には不人気な傾向があります。

しかし、経済相であった時には、労働市場と製品市場に必要な構造改革の実現に向け、オランド大統領から幅広い裁量を与えられ、現在進行中のいくつかの改革の中心的な人物であったことは間違いなく、期待度が高い人物でもあります。【12月26日 Japan In-depth】
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マクロン前経済相に関しては、こんなニュースも。

****英語で演説の仏大統領候補に極右から批判****
フランス大統領選に立候補しているエマニュエル・マクロン前経済相(39)が、ドイツの首都ベルリンで行った演説であえて英語を使い仏語を軽視したとして、国内の極右政治家から大きな批判を浴びている。
 
大統領選の有力候補になりつつある中道派のマクロン氏は10日、訪問先のベルリンで、フランスの政治では異例とも見なされる、欧州連合(EU)を擁護する姿勢を示した他、演説では英語を使いさらに周りを驚かせた。

国家主義者で反EUなどを主張する極右政党「国民戦線(FN)」のマリーヌ・ルペン党首は、こうしたマクロン氏の行動にとても耐えられなかったようだ。
 
ルペン党首は10日、自身のツイッターに「大統領選の候補者であるマクロンがベルリンを訪れ英語で会見を行った。フランスがかわいそうだ」と書き込んだ。
 
マクロン氏の言語能力が、1か国語しか話せない対立候補たちを出し抜いたとの指摘を受け、ルペン氏の側近で国民戦線の幹部フロリアン・フィリポ氏は「彼はわれわれの言語に敬意を持たず、フランスを信じていないことを示しただけだ」と述べた。
 
フランス政府は、世界で2億2000万人以上が使う仏語を断固として守る姿勢を示している。歴代の仏大統領の英語能力は低かったが、同国の若者の間では英語は不可欠との認識が広がりつつある。【1月12日 AFP】
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外国訪問時に実質的世界共通語である英語で演説したことに対し、「フランスがかわいそうだ」とか、「フランスを信じていないことを示した」という反応になるところが、ルペン氏及びその支持層の体質でもあり、笑止千万なところです。
(フランスには全般的にこういう、よく言えば伝統的価値観を重んじる、悪く言えば“尊大・傲慢”なところがあります。)

私がフランス国民なら、ルペン氏を怒らせたということで、マクロン氏に1票入れそうです。

ただ、フランス国民ではありませんので、フランス大統領選挙の話はこれぐらいで。

フランス版働き方改革 「つながらない権利法」】
“伝統的価値観”と言えば、フランス人はプライベートな時間を非常に大切にし、仕事のことは勤務時間中だけと割り切っている・・・・と思っていましたが、どうも昨今はそうでもないようです。

勤務時間外の業務連絡の電話や電子メールからの解放を保障する新法「つながらない権利法」が施行されたそうです。

新法自体はまさに“プライベートな時間を非常に大切する”ものですが、そういう法律を必要とするほど、フランスでも自由時間を仕事が侵食している実態があるということでもあります。

****仏で「つながらない権利法」施行、働き方は変わるか****
フランスの首都パリの航空会社でマネジャーを務め、日々忙しく立ち働くベアトリスさん(50)は、全被雇用者に対し、勤務時間外の業務連絡の電話や電子メールからの解放を保障する新法「つながらない権利法」から得るものがあるはずと期待を寄せている。

本名と社名を伏せることを条件にAFPの取材に応じたベアトリスさんは、「自由時間に緊急の問題が飛び込んできたり、就業時間外に電子メールに返信しなければならなかったりすることはよくあります」と認めた。
「誰かに強制されているわけではありませんが、仕事のメールも自分の携帯電話で受信しています。他のマネジャーらも同じ」と続けた。
 
同国では今月1日から、従業員が50人を超える会社に対し、社員らに認められるべき勤務時間外の完全ログオフ権を定義する定款の策定が義務付けられた。違反した場合も罰則が設けられる見通しはないが、従業員は権利侵害を理由に訴訟を起こすことができる。
 
ベアトリスさんの会社は、従業員に健康問題が生じる危険性は広く認識している一方で、コスト削減に必死だと、ベアトリスさんは言う。結果経営側は、より少ない人員で同じ成果を求めるようになってきている。

■仕事中毒
一方で、夕食時や就寝前にメールチェックをするのは、単に要求が多過ぎる上司のせいばかりではないという見方もあり、就業時間外の働き方を規制することの難しさを物語っている。

業務時間外でもメールをチェックする理由について、職業倫理や野心に駆られてと告白する人もいれば、未読メールを放置しておく意志の強さがないからだと認める人もいる。
 
パリ中心部オペラ地区の文化関連機関に務めるマチルドさん(26)は、メールを必要以上にチェックしてしまうのは、外圧のせいというよりも、単に気になって仕方ないからだと言う。「相手が(返信を)待っていたら、落ち着かない気持ちになります」
 
企業の合併・買収を担当する、ある仕事熱心な男性銀行員(24)は、会社側が過労防止策として毎晩10時から翌朝6時まで業務関連メールへのアクセスを遮断していると明かした。スーツ姿の同男性は、「携帯をチェックするもしないも個人の自由。切断しろと命令されるのは腹が立つ」と言うと、足早に歩き去った。

■必要なのは全社的取り組み
英ロンドン大学シティー校で労働環境を専門とするピーター・フレミング教授は、多くの被雇用者が、勤務先企業の「勤労主義」に苦しむ一方で、「自身の労働者としてのアイデンティティーへの過度の執着」という問題もあると指摘している。

フレミング教授はAFPに対し、「多くの人にとって、仕事というものが、自分がすることから、自分そのものに変わってきている」「四六時中の電子メールが、その傾向にますます拍車を掛けている」と述べた。
 
そのように考えれば、フランスのように法律で規制するのか、企業が自発的に推進していくのかという違いは別にしても、勤務時間外のアクセス遮断に向けた会社全体での取り組みは歓迎すべきものであり、時には必須でもある。
 
フレミング氏は、ロンドン大のMBA(経営学修士)コースで学ぶ意欲的な学生たちは、自分に対する評価が下がることを恐れて勤務時間外のメール遮断には本能的に反発するだろうとみている。
 
このため、アクセス遮断の取り組みは「個人ではなく全体で行わなければならない。同僚が皆ログオフしていると分かっていれば、自分もログオフするかもしれない」と、フレミング氏は提言している。
 
過労や燃え尽き症候群のリスクが高いのは、特に金融、IT、法曹、医療といった業界とされるが、最近では大企業の中にも、こうしたリスクを認識する会社が増えつつある。 【1月10日 AFP】
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罰則規定はないとのことですが、“従業員50人以上の企業を対象とし、細かい運用規定は各社の判断に任されている。雇用主は法施行後に従業員と話し合ってルールを整備するよう求められ、従わない場合は最高で禁錮1年などの罰則が科される可能性がある。”【1月8日 時事】とも。ルール整備を行わない場合は・・・ということでしょうか。

日本では残業規制が大きな課題となっていますが、それに対し「そんなこといっても、現に仕事がある以上・・・」「かえって勤務時間中に終わらせるというストレスが高まる」という批判・不満があるように、フランスでも同様の反応もあるようです。

****勤務時間外のメール禁止=働き方改革、今月施行―仏****
フランスで今月から、企業が従業員に勤務時間外のメールチェックを強制しないよう義務付ける新たな労働法制が施行された。国民が仕事を気にせずに休養できるよう促すオランド政権版の「働き方改革」だ。

ただ、制度の狙いに反して負担増につながったり、業務に支障を来したりする事態も懸念され、期待した効果が上がるかは不透明だ。(中略)

フランスでは、休日も含めて昼夜を問わず仕事のメールに追われる人が労働人口の37%に上るとされる。このうち約3分の1がストレスを原因とする心身の不調を抱えているとの調査結果もあり、IT機器に「接続しない権利」を求める声が高まっていた。
 
もっとも、勤務時間外のメール使用を厳しく禁じれば逆効果が生じかねない。人事の専門家は「勤務時間中にすべて片付けなければならないというプレッシャーで、昼食時間まで犠牲にするような羽目に陥りかねない」と警告する。
 
パリの建設会社に勤めるステファヌさん(42)も「夜間に取引先のメールが読めなくなれば仕事にならないし、仕事と私用のメールを明確に区別することも難しい」と困惑する。ルール作りには慎重な検討が求められそうだ。【1月8日 時事】 
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もっとも、OECDによると、2014年のフランスでは、労働者1人あたりの年間平均労働時間が1473時間で、日本の1729時間よりはるかに少ない時間数となっています。(日本も、20~30年前に比べると随分“時短”が進みましたが・・・)

働き方改革は、フランスより日本においてずっと喫緊の課題と言えるでしょう。
働き方改革を考えるうえで参考になるのが、年間平均労働時間1371時間で高いパフォーマンスを維持しているドイツですが、そのあたりの話はまた別機会に。
コメント (1)
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