孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

男性優位社会で女性に強いられる身体的犠牲「胸アイロン」 男性の性的暴力に関し、女性への責任転嫁も

2017-01-08 22:02:12 | 女性問題

(2011年アフリカにおける“女性器切除(FGM)”分布図 【ウィキペディア】
「胸アイロン」が広く行われるカメルーンは、上図ではFGM実施地域に接してはいますが、北部以外は地域側にあるようです。FGMに加え「胸アイロン」も・・・となると悲惨です。)

男性優位権力に問われる“やる気”】
なんだかんだ言っても、今の世の中が圧倒的に男性優位社会であることは改めて言うまでもないことです。

世界の多くの国々で女性の権利・社会参加は大きく制約されていますが、より直接的・身体的に女性に過度の負担を強いる伝統的慣習も少なくありません。

****生理中で隔離された少女、小屋の中で窒息死 ネパール*****
ネパールの警察当局は19日、ヒンズー教の古い慣習に従って、生理中に小屋に閉じ込められた15歳の少女が死亡したと発表した。
 
一部のヒンズー教徒は生理中の女性を不浄な存在とみなしており、今もネパールのいくつかの地域では、10年以上前から法律で禁止されているにもかかわらず、そうした女性を小屋や牛舎に閉じ込める慣習「チャウパディ(chhaupadi)」が行われている。
 
現地当局の捜査官はAFPの取材に対し、少女は「体を温めようとして付けた火の煙で窒息死した」と話した。
 
チャウパディの慣習では、生理中や出産後の女性は日常の家庭生活から隔離され、家族の男性との接触が遮断される。
 
ネパール政府は2005年にチャウパディを禁止したが、ネパールの国家人権委員会のモハナ・アンサリ氏は、地域の指導者たちが禁止令の実施を強化しなければならないと述べた。【2016年12月21日 AFP】
******************

生理中の女性を不浄な存在とみなす考え方は、日本を含めて世界共通とも言えるほど広く存在します。まったく理不尽な話です。

“地域の指導者たちが禁止令の実施を強化しなければならない”というのは当然のことですが、要は実際にどれだけ実効ある運用ができるか・・・という話です。

法律的“建前”と地域的・伝統的慣習が乖離していることは、女性問題や児童問題などではしばしば見受けられることです。各国の男性優位の権力がどこまで“やる気”を示すのか・・・。

未だに蔓延する“女性器切除(FGM)”】
女性の身体に対する直接的“暴力”として、アフリカを中心に極めて広範囲で行われている痛ましい習慣が“女性器切除(FGM)”です。日本的な感覚からは想像し難いものがありますが、未だに世界の現実です。

***女性器切除、世界で2億人が被害 ユニセフ報告****
国連児童基金(ユニセフ、UNICEF)は、女性器切除(FGM、女子割礼)を受けた少女や女性が世界全体で少なくとも2億人に上るとする報告書を発表した。うち半数は、エジプト、エチオピア、インドネシアの3か国の女性らだという。
 
報告書は6日の「女性器切除の根絶のための国際デー」を前にまとめられた。ユニセフはFGMを子どもに対する明らかな人権侵害とみなしている。
 
報告書によると、FGMの実施率はソマリアやギニア、ジブチが依然として世界最高の水準にある。ただ、FGMが広く行われている約30か国全体でみると低下している。
 
国連(UN)は昨年9月に加盟国の全会一致で採択した持続可能な開発目標に基づき、2030年までのFGM根絶に取り組んでいる。
 
世界のFGM被害者2億人のうち、4400万人は14歳以下の少女だ。ユニセフによると、FGMの実施率が高い30か国では多くの少女が5歳の誕生日を迎える前にFGMを受けている。【2016年2月5日 AFP】
******************

FGM実施国数が減少しているというのは、実に喜ばしいことではありますが、未だ多くの女性がFGMを強いられてという現実の方に重いものがあります。

“女性器切除(FGM)”については、各国での根絶に向けた取り組みとか、非衛生的なFGMの結果死亡した事例などに関する記事をときおり目にします。

男性の性的暴力から娘を守るために・・・
一方、初めて目にした言葉が“胸アイロン”というものです。
こちらも、悲惨さ、おぞましさではFGMと同じです。

アフリカ諸国だけでなく、移民が多く流入しているイギリスなど欧州諸国においても、FGM同様に行われているようです。

****少女の乳房を焼き潰す慣習「胸アイロン」──カメルーン出身の被害者語る****
<女性の性にまつわる忌まわしい慣習は性器切除だけではない。被害者が本誌に語った「胸アイロン」という残忍なレイプ回避法>

日曜の教会の帰り、叔母に「お前の胸をどうにかしなくては」と言われたとき、ビクトリン(ビッキー)・ンガムシャは12歳だった。43歳になった今でも、ビッキーは叔母の次の言葉を覚えている。「大きくなりすぎたんだよ。こっちにきなさい」

帰宅すると、叔母はビッキーのシャツを脱がせて座らせた。「あの時は家にいるのは女ばかりだったから、裸になるのは大して気にならなかった」と、西アフリカのカメルーン北西の町、キアン出身のビッキーは振り返る。「叔母は大きなコーヒーの葉っぱを数枚、焼石の上に置いた。そして熱々になった葉っぱを私の胸に押し当てた」

イギリスのバーミンガムに移住して12年になるビッキーは、人生初となったあの日の経験が「ブレスト・アイロン(胸アイロン)」と呼ばれる処置だったことを、今でこそ知っている。熱した石やハンマーなどを、少女の胸に押し当てたりマッサージに使ったりして、胸の成長を止めるのだ。

忌まわしい慣習
カメルーンの女性人権団体RENATAの2006年度の報告書やドイツ国際協力公社(GIZ)の調査によると、カメルーンで胸アイロンの犠牲者になる少女は4人に1人に上る。

米タフツ大学のファインスタイン国際センターは2012年、同様の慣習は、ベニン、チャド、コートジボワール、ギニアビサウ、ギニア、ケニヤ、トーゴ、ジンバブエを含む西アフリカや中央アフリカ諸国の広い範囲で行われているとする調査報告書を発表した。その中でもカメルーンは断トツに被害が多い。

英下院議員のジェイク・ベリーは、胸アイロンは移民を通じてイギリス国内でも広がっているが、公式な記録やデータがないために問題の実態が覆い隠されていると指摘する。

3月8日の国際女性デーを記念して下院で演説をしたベリーは、バーミンガムやロンドンなどイギリスの都市圏に広がる西アフリカ出身者のコミュニティーでは、何千人もの少女が胸アイロンという「忌まわしい」慣習の犠牲になっていると訴えた。

ベリーが全国のあらゆる警察署や行政機関に文書を送り、この問題にどのような対策を講じているか問い合わせた結果、警察署の72%が「胸アイロンの件については未回答、もしくはその言葉自体を聞いたことがない」と回答した。

ビッキーは、イギリスの警察が胸アイロンについて知らなくても驚かない。カメルーンでは、「女性に関する問題」に当局が口出ししないのは当たり前だ。彼女は10歳の時、近所の男にレイプされた。犯人は逮捕されず、何のお咎めも受けなかった。

「コーヒー畑で遊んでいたら、身なりの良い男が近づいてきて、もし言うことをきかなければ妹のように死ぬぞと脅した」。実際、ビッキーは兄弟姉妹のうち6人を栄養失調で失くしていた。「当時は10歳だったから、何も知らなかった。男は私を地面に倒してレイプした」

「その後、脚の間から血を流しながら母のところへ行くと、母は『おてんば娘ね、オレンジの木に登って怪我をしたのだろう』と言った。何が起きたか母に打ち明けると、母の目に涙が溢れた」

ビッキーが子どもの頃に性的暴行の犠牲になったのは、この時だけではない。だがこの時初めて、女性でいる限り安全ではないのだと悟った。そして少女から大人の女性へと体が成長するにつれ、不安に苛まれるようになった。

思春期の少女に対して胸アイロンが行われるのは、多くの場合、男たちの性的対象から遠ざけるためだ。目的は、結婚前の望まない妊娠やレイプ、性的被害に遭わないようにすること。思春期の少女が性的虐待の標的になりつつあるという恐れが生じた段階で、母親か祖母や叔母など女性の親類が処置をする。

性器切除は知られているのに
叔母が教会からビッキーを家に連れて帰り、初めて胸アイロンを押し当てたのは、ビッキーが12歳でちょうど思春期に差し掛かった頃だった。泣いた記憶はないが、熱した葉っぱが素肌に当たり、焼けるように痛かったのを覚えている。「すごく熱かった。でも叔母はこうすれば美しくなれると言った」

ビッキーは自分のレイプ被害が胸アイロンの直接の引き金になったとは言わないが、少なくともその慣習を自己防衛の一種として認めていた。処置は繰り返され、何回だったかは記憶にないという。

「苦労が多くみすぼらしかった」という子ども時代を過ごしたベッキーは、その後結婚し、夫の仕事の都合で12年前にイギリスへ移住した。

だがイギリスでは胸アイロンはいまだ認知されておらず、政府や行政機関による見解はないに等しい。女性器切除(FGM)については昨年7月、初の年次統計が発表され、イングランドで年間5700件のFGM被害が報告されたのとは大きな違いだ。

そうした行為を、単に宗教や文化的な動機に基づく女性への暴力行為として記録する警察当局のやり方は生ぬるいと、ベリーは主張する。イギリスでは1985年以降、FGMには特定の刑事罰を科し、2015年に厳罰化もした。

「下院で演説してからは、主要都市の警察と緊密に連携し問題に取り組んでいる」とベリーは言う。「警察側はその慣習がイギリス国内で行われていることに、手探りながら気づいている」

英内務省は本誌の取材に対し、胸アイロンは児童虐待に該当するため「違法」だと回答した。同省のサラ・ニュートン政務次官は、政治的もしくは文化的な配慮が、この慣習を未然に防ぎ実情を暴くうえでの「妨げになってはいけない」と言った。

女性と少女のための英チャリティ組織で胸アイロンの被害者を支援するCAMEの共同創設者マーガレット・ニューディワラは、主にロンドンやバーミンガムといった都市部で西アフリカ出身者のコミュニティーが拡大していることから、イギリスにおける被害件数が今後も増えそうだとみている。内務省のデータによると、2001〜2015年の間に6972人のカメルーン出身者が、亡命もしくは市民権を得てイギリスへ移住した。

光を当てよ
「痛みとトラウマの両方を一度にもたらす手順は残忍で、大人になっても被害者の人生に悪影響を及ぼす」とニューディワラは言う。「当事者は娘を守るつもりで、良かれと思ってやっている。だがその行為は有害だ。子どもは数カ月にわたり日々の虐待を耐え忍び、英当局は見知らぬ文化に介入するのに及び腰だ。CAMEは英国内で胸アイロンの被害に遭っている少女が1000人規模に上ると推計している」

処置の方法は様々だ。ビッキーが経験したように熱した葉っぱを胸に押し当てたりマッサージに使ったりする場合もあれば、焼いた砥石を使って発育期にある乳腺を潰すケースもある。少女の心理的な傷痕は深く、長い時間を経ても消えない。性に関するコンサルタントでカメルーン人のアワ・マグダレンによると、そうした慣習は「少女がその後の人生で、社会で自己主張するのに必要な自信を奪い去ってしまう」

胸アイロンを失くすための第一歩は、FGMの場合と同様、できるだけ広くその存在を世に知らしめ、理解を広めることだと、ベリーは言う。声に出して話し合わなければ、胸アイロンはまた元の闇に葬られてしまうだろう。【1月5日 Newsweek】
********************

被害者女性側に責任転化する傾向も
“胸アイロン”という残忍な行為が母親など肉親によって行われるのは、結婚前の望まない妊娠やレイプ、性的被害に遭わないようにすること、要は男性側の性的暴力から娘を守るためとされています。

男性側の性的暴力については、日本など先進国を含め、あらゆる社会において“ごくありふれた”現象ですが、“女性側のふしだらな服装などが、そうした暴力を誘発している”と、被害者側へ批判の矛先が向けられることも珍しくありません。

その“ふしだらな服装”は具体的には“西洋風の服装”という形で、欧米文化に対する民族主義的抵抗感とも結びつくことがしばしばあります。

****性的被害は「西洋風の服装のせい」、州内相の発言に批判殺到 インド****
インド南部のカルナタカ州バンガロールで大みそかに行われた祝賀イベントで、複数の女性に対し集団が性的暴行をはたらいたとみられる事件について、治安を担当する州内相が「西洋人のような」服装をしていた女性たちに非があると発言し、批判が殺到している。(中略)

こうした中、カルナタカ州のジー・パラメシュワラ内相はこの事件について、女性らが西洋風の服装をしていた結果起こった「不幸」な暴行事件だったと発言した。
 
パラメシュワラ内相は現地ニュース専門局タイムズ・ナウに対し、「まるで西洋人のような若者たちが大勢集まっていた」と述べ、「彼らは考え方だけでなく、服装まで西洋人を真似ようとしている。すると騒ぎが起きたり、一部の女性が襲われたりもする。こういうことは起こるものだ」と語った。
 
内相は後に自らの発言が誤って引用されたと釈明したが、大きな批判を浴び、中央政府のキラン・リジジュ内務担当閣外相は一連の発言を「無責任」だと断じた。またインド国家女性委員会(NCW)のラリサ・クマラマンガラム会長は、同内相は引責辞任すべきだと非難した。【1月4日 AFP】
******************

“地元警察は5日、容疑者4人を拘束したが、警備の甘さや捜査の遅れも指摘された”【1月6日 毎日】とも。

“インドでは2012年、ニューデリーで起きた女子大生の集団強姦殺人事件を機に「女性の安全」を求める抗議デモが広まった。政府は厳罰化などの対応を取ったが、その後も性犯罪が多発。昨年11月には南部ケララ州で日本人女性旅行者が強姦される事件も起きている。”【同上】

“首都ニューデリーの女性権利団体で働くパドマさんは「インドでは、女性に対し『夜間に外出すべきでない』『男性の目を引かない服装をすべきだ』といった考えが根強くあるが、女性にも人権がある。内相は発言を謝罪すべきだ」と批判する”【同上】

男性側の性的暴力に対し、女性の側が負担を強いられたり、責任を転嫁されたりするのはまったく理不尽です。

「胸アイロン」の話にしても、背景に男性側の性的暴力があり、男女間のトラブルを防ぐために何らかの対応が必要だというのであれば、アイロンで潰すべきは少女の胸ではなく、男性の性器でしょう。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする