孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

トルコ  シリア介入で存在感を強めるものの、国内で相次ぐ爆弾テロ

2016-12-17 22:04:44 | 中東情勢

(トルコ中部の都市カイセリで、軍のバスを狙った自動車爆弾の爆発があった現場(2016年12月17日撮影)。【12月17日 AFP】)

不安定なアレッポ退避 撤退先が「次のアレッポ」になる懸念も】
シリア・アレッポの停戦及び戦闘員・住民の退避は、延期されたり、中断されたりと不安定・不透明な状況が続いています。

アサド政権を支えるロシアと反体制派を支援するトルコの間で停戦が合意され、14日にも撤退・退避が行われる予定でしたが、延期され、戦闘も再開しました。

****アレッポで激しい戦闘、撤退合意は履行されず シリア****
シリア第2の都市アレッポ(Aleppo)東部で14日、激しい戦闘が勃発し、反体制派支配地域から市民と戦闘員を避難させるとした合意が履行されないままとなっている。

アレッポから反体制派が撤退するとの合意が前日夜に発表された後、同市では家族を連れた人々が市内からの脱出を期待して、14日の早朝から集合していた。

だが、現地時間の午前5時(日本時間同日正午)に予定されていた第1陣の出発が延期されると、数時間後には激しい戦闘が再び始まった。
 
数年にわたる戦闘の後、反体制派の抵抗に終止符を打つはずだった画期的な合意の行方は、政権と反体制派、さらにそれぞれの同盟勢力が非難合戦を繰り広げる中、不透明さを増している。(後略)【12月14日 AFP】
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理由については、政権側、反体制派それぞれが相手を非難していますが、どれが本当のところかはわかりません。

その後、新たな合意が成立したようで(合意の当事者が誰なのかもよくわかりませんが)、15日には反体制派の支配地から戦闘員や民間人を市外へ移送する作業が始まりました。

****<シリア>アレッポ撤退開始…反体制派、市民も脱出****
内戦下のシリア北部アレッポで15日、政権側が包囲する反体制派の支配地から戦闘員や民間人を市外へ移送する作業が始まった。アサド政権側の支配地域を通って、アレッポ西方の反体制派支配地域に移動する。負傷者や女性、子供の搬送が優先されている。
 反
体制派の撤退が完了すれば、政権側はアレッポ市全域を4年半ぶりに掌握し、全主要都市の支配権を奪還することになるが、アサド大統領は反体制派への軍事作戦を続ける構えだ。
 
アレッポの反体制派は政権側の攻勢で約1平方キロの一角に追い込まれ、数千人の民間人も反体制派支配地域に滞留していた。

反体制活動家によると、15日に政権側が用意したバスや救急車による移送が始まった。反体制派の救助要員ら4人が狙撃されて負傷したが、移送作業は継続中だ。

 一方、北西部イドリブ県でも反体制派の包囲下にある政権側の二つの村から負傷者らの運び出しが始まった。アレッポ撤退を容認する見返りとみられる。【12月15日 毎日】
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ただ、これも“中断されている”とも報じられています。情報は錯綜しており、理由はわかりません。

****<シリア>反体制派、アレッポ撤退手続き中断 理由は不明****
内戦下のシリア北部アレッポで16日、反体制派の撤退手続きが中断された。

中断理由は不明だが、政権側は「反体制派が撤退に関する合意に違反した」と批判。反体制派は「政権側が撤退を一方的に妨害した」と反論している。国連などは早期の撤退再開を求めている。
 
撤退は15日に始まったが、16日に突然中断された。政権側メディアは「反体制派は重火器や拉致した人々を連れて、撤退用のバスに乗ろうとした」と報じたが、反体制派は否定し「政権側が発砲などで避難を妨害した」と反論した。
 
政権側につくイスラム教シーア派民兵は、アレッポ撤退を容認する見返りとして、反体制派が包囲する北西部イドリブ県の二つの村から政権支持派の負傷者らを退避させるよう要求。15日に退避に至らなかったため、アレッポ撤退を妨害したとの見方もある。
 
政権側は12日までにアレッポ全域をほぼ制圧した。反体制派は支援国のトルコや政権の後ろ盾であるロシアの仲介で、撤退に合意。

国営メディアによると、これまでに8000人以上の民間人や戦闘員がアレッポ西方の反体制派支配地域に避難。さらに数千人以上が避難を待っているとみられる。【12月17日 毎日】
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まあ、ここまで来た以上、なんだかんだあっても、なんとか撤退が進むのでしょう。(反体制派が撤退を拒否すれば、住民を巻き込んだ壊滅・玉砕しかありませんので)

ただし、“多くは近くのイドリブ県にある反体制派支配地域に移送される。ここは残された数少ない反体制派の拠点で、アサド政権側が次に制圧を狙うとみられる場所でもある。反体制派の戦闘員らもここへの移動が認められた。”【12月16日 CNN】とのことですが、シリア内戦が続く限り、撤退先が「次のアレッポ」(シリア問題担当のデミストゥラ国連特使)となる事態も懸念されています。

シリア和平協議でも存在感を強めるトルコ
そうしたなかで、シリア内戦全体に関する新たな、ロシア主導の和平協議が提案されています。

****プーチン氏、シリア全土の停戦目指す 新たな和平協議提案へ****
ロシアのプーチン大統領は16日、東京での記者会見で、露軍が支援するシリアのアサド政権軍が同国北部の要衝アレッポを制圧したことを受け、「次のステップは、シリア全土における完全な停戦合意を達成することだ」と語った。
 
プーチン氏は14日に行われたトルコのエルドアン大統領との電話会談において、アサド政権と反体制派の和平に向けた新たな対話を提案することで合意したとも表明。

カザフスタンの首都アスタナを開催地にする考えを明らかにした。プーチン氏は各勢力が同意すれば、カザフのナザルバエフ大統領に協力を要請すると語った。
 
シリア和平をめぐる協議は従来、国連の仲介によりスイス・ジュネーブで行われてきた。これについてプーチン氏は、「ジュネーブでの協議に対抗するものではなく、それを補完するものだ」と強調した。
 
シリア情勢をめぐってはアサド政権軍がアレッポを制圧したことで、ロシアが外交交渉においても影響力を強めているもよう。露側は来年1月に米国で新政権が発足するまでに、シリア情勢で大勢を固めたい考えとみられている。【12月17日 産経】
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慌ただしい中で来日したプーチン大統領の頭の中は“北方領土返還問題”どころではなかったのでは・・・とも思えます。

アメリカにかわってロシア・プーチン大統領が主導権を握っているのが最近のシリア情勢の流れですが、シリア・イラクに軍事介入して反体制派・スンニ派民兵を支援しているトルコの存在感も強まっています。

****トルコ保護下で延命か=劣勢挽回は困難―シリア反体制派****
シリア北部の中心都市アレッポをアサド政権軍が制圧したことは、2011年に始まった内戦で政権側と戦いを続けてきた反体制派にとって最大の打撃となった。

欧米が軍事支援を控える中、反体制派が劣勢を挽回するのは困難な情勢。今後は隣国トルコの保護下で延命を図る方針とみられる。(中略)
 
こうした中、反体制派の頼みの綱は、シリアの北側に隣接するトルコの存在だ。トルコは今年8月、過激派組織「イスラム国」(IS)掃討を目的にシリア北部への侵攻を開始し、反体制派と共に対IS作戦を進めている。
 
政権側は今後、アレッポ周辺の反体制派支配地域の奪還も図るとみられるが、展開次第ではトルコ軍との本格的な衝突を招きかねず、慎重にならざるを得ない。【12月16日 時事】 
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アレッポの北東40km、トルコ国境の南35kmに位置するシリア北部で東西に延びる幹線道路沿いの要衝でISの実効支 配下にあるバーブをめぐって、トルコ・シリア政府軍双方が進軍しており、衝突の危険もあることは14日ブログでも触れたところです。

国内は徹底弾圧と“テロ地獄” 止まらぬテロの連鎖
“慎重にならざるを得ない”のはトルコ・エルドアン大統領も同じですが、そこまでリスクを冒してシリアに深入りする理由は、反体制派支援とかIS掃討と言うより、トルコ国境付近で勢力を拡大しているクルド人勢力の牽制、具体的には、高度の自治権を獲得して、トルコ国内の反政府クルド人組織と連携するような事態を防ぐことでしょう。

そういう形でシリア領内クルド人勢力との緊張が高まるほどに、トルコ国内における緊張も相次ぐ爆弾テロという形で表面化しています。

以前は“テロ地獄”と言えばパキスタンが連想されましたが、最近ではトルコでの爆弾テロが目立ちます。

****イスタンブールで爆発38人死亡 関与の疑い13人拘束****
トルコの最大都市イスタンブール中心部で10日夜、2度続けて大きな爆発があった。ソイル内相は11日に会見し、少なくとも38人が死亡、155人が負傷したと発表した。死者の内訳は警察官30人、民間人7人、不明1人。

エルドアン大統領は、爆発は「治安部隊と市民を狙ったテロ攻撃」と非難する声明を発表。治安当局はこの爆発に関与した疑いで13人を拘束した。
 
ソイル内相は会見で「捜査では、実行犯としてPKK(少数民族クルド人の非合法武装組織クルディスタン労働者党)の可能性が示されている。ただ捜査中であり、多くを説明することはできない」と述べた。
 
連続爆発があったのはトルコのプロサッカーチーム、ベシクタシュが本拠とするサッカー場周辺。この日はプロサッカーの試合があったが、爆発は試合終了から約2時間後に起きた。(中略)
 
爆発をめぐり犯行声明は出ていないが、トルコでは2015年夏から過激派組織「イスラム国」(IS)関係者やPKKによるテロが相次ぐ。ISは今月5日、広報担当が声明を出し、信奉者に対してトルコ政府関係者への攻撃を呼びかけたばかりだった。
 
イスタンブールでは今年6月、空の玄関口アタチュルク国際空港でIS関係者による銃撃・自爆テロがあり、47人が死亡、200人以上が負傷した。(後略)【12月11日 朝日】
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上記テロについては、反政府武装組織クルド労働者党(PKK)の分派「クルド解放のタカ(TAK)」が犯行を認めています。

治安当局は全土でクルド系政党の関係者らに一斉捜査を行い、500人以上を拘束しています。
議会の第2野党である国民民主主義党(HDP)の党首らは、PKKと関連した疑いですでに収監されています。

****トルコ、クルド系野党の118人拘束 PKKと関連か=国営通信****
トルコの警察当局は、少数派民族クルド人の武装組織「クルド労働者党(PKK)」との関連が疑われるとして、クルド系有力野党の国民民主主義党(HDP)の幹部ら118人を拘束した。国営のアナドル通信が12日、伝えた。

イスタンブールのサッカー場の近くで起きた、38人が死亡し155人が負傷した2回の爆弾攻撃に対し、PKKの分派とされる組織が11日に犯行声明を出したことを受けて、当局が全国規模の一斉捜査を実施した。

同通信によると、南部アダナで夜明け頃、装甲車両やヘリコプターの支援を受けた警官約500人が捜査を開始、HDPの幹部25人を拘束した。

イスタンブールや首都アンカラでは、地元幹部を含む20人と17人がそれぞれ拘束されたほか、南部メルシンで51人、北西部マニサ県で5人が拘束されたという。(後略)【12月12日 ロイター】
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更に、17日にもテロが。

****バス狙い爆発、兵士13人死亡=クルド系のテロと手口類似―トルコ中部****
トルコのメディアなどによると、中部カイセリで17日、兵士らを乗せていたバスを狙ったとみられる爆発があり、トルコ軍は、少なくとも兵士13人が死亡、48人が負傷したと明らかにした。市民が巻き込まれ負傷した可能性がある。カイナック副首相は「自動車爆弾による攻撃だ」と述べた。
 
犯行声明は出ていないが、カイナック副首相は最大都市イスタンブールで10日に起きた連続爆破テロに手口が似ていると指摘。44人が犠牲となったイスタンブールの事件では、反政府武装組織クルド労働者党(PKK)の分派「クルド解放のタカ(TAK)」が犯行を認めた。
 
17日の爆発現場は、カイセリにあるエルジエス大学のキャンパス近く。爆弾を積んだ自動車の横をバスが通り過ぎた際、爆発が起きたもようだ。【12月17日 時事】 
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クーデター未遂事件以後、事件との関与を名目に、欧米諸国の批判も無視する形で、政権に批判的な勢力の大規模パージ・拘束に突き進んでいるエルドアン政権ですが、その矛先はギュレン派、クルド系の議会第2野党だけでなく、広くジャーナリストにも及んでいます。

****拘束・投獄中の記者、中国はトルコに次ぐワースト2****
2016年12月13日、報道の自由の擁護を目的とする国際組織、国境なき記者団(RSF、本部パリ)とジャーナリスト保護委員会(CPJ、同ニューヨーク)は、当局などによって拘束・投獄されている世界各地のジャーナリストに関する最新の報告書を発表、2015年まで2年連続で最多だった中国はトルコに次ぐ2番目となった。仏RFIの中国語ニュースサイトが伝えた。

RSFによると、世界各地で拘束されているジャーナリストやブロガーは現時点で348人に上り、昨年から6%増えた。最多は7月にクーデター未遂があったトルコで、100人以上が刑務所に収容されている。トルコ以外では、中国、イラン、エジプトの3カ国で、投獄されているジャーナリスト全体の3分の2以上を占めている。

CPJも13日、当局によって投獄されている世界各地のジャーナリストは259人に上り、最多はトルコの81人だと発表した。

RSFの数字より少ないのは「統計の対象は当局によって投獄されている人数だけだ」としている。トルコに次いで多かったのは、中国、エジプト、エリトリア、エチオピアの順。イランは2008年以降で初めてワースト5に入らなかった。【12月15日 Record China】
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上記は中国関連の記事ですが、中国はともかく、ジャーナリスト投獄でトルコがワースト1であることは注目すべき事態です。

クルド系野党の存在も実質的に認めず、メディアの政府批判も許さず、国内での徹底した取り締まり、シリアにおけるクルド人勢力牽制に突き進めば、国内が“テロ地獄”と化すのもある意味当然とも言えます。

10日のボーダフォン・スタジアムでのテロを受け、エルドアン大統領は「全てのテロ組織に対する国民の動員」を宣言しています。

****トルコはテロの連鎖を断ち切れるのか****
・・・・与党の公正発展党、第2政党の共和人民党、第3政党の民族主義者行動党の間で対テロ対策に関する党首会談が12月14日に実施され、3党は対テロに関しては一致団結していくことを確認した。

また、同日、エルドアン大統領が「全てのテロ組織に対する国民の動員」を宣言した。

これは、PKK/TAK、IS、7月15日のクーデタ未遂に深く関与していたと言われているギュレン運動、そして極左組織のDHKP-Cなどのテロは治安組織だけでは防ぎきれないので、情報提供など、国民1人1人が積極的に対テロ戦争に協力するという内容であった。

このように、軍、警察、国家情報局(MİT)、そして国民が連帯してテロを防いでいくことが確認された。(後略)【12月15日 Newsweek】
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エルドアン大統領の性格からして、クルド系組織に対しては今後もこれまで以上の弾圧も予想されますので、当分の間はトルコの“テロ地獄”が続くのではないでしょうか。
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