孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

チベット  開発に伴う民族格差 相変わらずの宗教干渉 中国の逆鱗に触れたモンゴル

2017-01-29 22:10:39 | 中国

(ラサ空港の外で来訪者を迎える歴代の中国首脳らが描かれたポスター。この5人を写した写真がチベットのいたるところで見られた【1月29日 CNN】)

伝統的生活様式が消滅 成長の恩恵に民族格差も
中国にとって“チベット問題”は、台湾問題・「一つの中国」原則、新疆ウイグル自治区での「東トルキスタン独立運動問題」、南シナ海問題(九段線・南海諸島)、尖閣諸島問題と並んで“核心的利益”として、“譲ることの出来ない最重要の事柄”とされています。

そのチベットの状況に関する記事は最近はそれほど多くはありませんが、CNNの取材リポートが目につきましたので。

ひところに比べると、中国への抗議を示す“焼身自殺”なども少なくはなってきていると思われ、それなりに落ち着いているのかもしれませんが、チベット関連の情報が多くないのは、中国当局が厳しい取材・情報規制を行っているからでもあります。

CNN取材は、現状について“抗議活動は再燃する一歩手前”とも。

****緊張高まるチベット――10年ぶりの現地取材で見えたもの****
・・・・こうした朝の静寂とは裏腹に、チベットは激動の歴史を経てきた。北京の共産党政府は1951年からチベットを掌握。中国の統治に対する反乱が59年に挫折した後、チベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世はインドに逃れた。

残ったチベット族の間では抵抗感情がくすぶり、時には大規模な蜂起に発展した。活動家らによれば、2009年3月以降、140人以上が抗議の焼身を行ったという。

中国政府はチベットのこうした側面を部外者に見せたがらない。中国政府はすべての外国人旅行者に対し入境許可証の携帯を義務づけているほか、時には数週間にわたり入境を禁止することもある。記者の訪問はめったに許可されない。

だが昨年9月初旬、CNNなど少数の報道陣は5日間にわたり自治区に招かれた。CNN取材班がチベット訪問を許可されるのは2006年以降で初めて。一方、孤立国家と言われることが多い北朝鮮には同時期に十数回にわたり訪問している。

滞在中は政府の世話役による監視の目が始終光っていた。議論を招きそうな場所には近づけず、踏み込んだ質問もできない。

チベット自治区のペンパ・タシ副主席と会見した際は、難しい質問も投げかけることができればと思っていた。だが、チベットの誰もが幸せで満足していると同氏が80分間にわたり一方的に話すなか、取材班は黙って聞き続けることを余儀なくされた。

インドとの国境沿いにあるニンティでは仏教僧院を訪問したいと要請したが、近くに僧院はないとの答えだった。だが少し検索しただけでも、僧院の写真を掲載した中国国営メディアの2週間前の記事が出てきた。

チベットの日常生活を追っている人々にとっては、抗議活動は再燃する一歩手前だ。国際人権団体アムネスティ・インターナショナルの東アジア担当責任者、ニコラス・ベクリン氏は「チベットは、政治的・宗教的な抑圧が最も厳しい中国の地域のひとつだ」と指摘する。

緊張の主な要因となっているのは漢族の流入をめぐる懸念だ。研究者によると、1964年にチベットにいた漢族はわずか3万9500人。人口の3%以下だった。2010年の国勢調査では、漢族の数は24万5000人となっている。

これは人口の10%以下だが、漢族の商人らは主にラサに住み、多くのビジネスを支配しているほか高給の仕事を独占。チベット族の怒りを強める結果となった。

中国政府はチベットを変革するため、インフラなどを中心に多額の投資を行ってきた。取材では、ラサとニンティをつなぐ多車線の新高速道路が建設されているのを目撃した。取材班は泥だらけの、穴の開いた道路を小型バスで進んだが、高速道路が完成すれれば、9時間の移動時間が半分になるという。

多くのチベット族は依然として極めて貧しく、こうした改善を歓迎している。ただ、負の側面もある。伝統的な遊牧民の生活様式が消滅しつつあるのだ。チベット族は漢族ほど成長の恩恵に浴していないとの不満の声も上がっている。

ラサでのある午後、取材班は昼休みの間に政府の世話役を後に残し、滞在先のホテルからそう遠くない裏通りに入っていった。

そこで会ったのは、1度も学校に通ったことがないと語るチベット族の29歳の労働者だ。男性は以前より収入は増えたとしつつも、漢族の同僚に比べると少ないと不満を漏らした。全く同じ仕事やっている場合でも、チベット族の給料は漢族の3分の2だという。

これはチベット族が直面するジレンマの一例だ。そこでは中国政府の統治をめぐる不満と今より楽な暮らしを求める思いが交錯している。

チベットを訪れる中国人観光客が増加するなか、多くのチベット族は自分たちの文化が脅かされているとも感じている。国営メディアによると、去年の観光客数は1700万人と10年前に比べ急増した。当局者によれば、2020年までには3500万人に増加する見込みだという。

ニンティでは世話役から新たに建設された村に案内された。チベット風の外観を持った店舗やレストランが配置される見通しで、近く観光地としてオープンすることが予想されている。村を建設したのは中国企業。入居する店舗の大半も中国系となる見込みだ。

この場所には長年、チベット族の居住地があったが、村民たちは強制移住させられたという。当局者によれば、村人たちも望めば菓子や茶の販売が許される見通しだという。

CNN取材班は、政府の補助金で小さな農場を改修して観光客用のゲストハウスにした女性にも話を聞いた。政府の世話役が取材班の背後を歩き回り、女性の答えをメモに取っていた。

経済開発や漢族の流入がチベット文化に負の影響を及ぼしていると思うかとの質問に対し、 女性は気まずそうな笑みを浮かべるばかりで、分からないと答えた。

この女性のように言葉が少なくなるのはチベットではごく普通のことだ。活動家らによれば、反政府的な発言をすればすぐに取り調べを受けるか、収監される可能性もある。

アムネスティ・インターナショナルのベクリン氏は、最大400人のチベット族が12年以降、宗教の自由の欠如や経済的な不平等に抗議して拘束されたと指摘。「平和的な方法ですら抗議の声を上げる場所が一切ない点は、今後もチベット社会に深い怒りを植え付けていくだろう」と述べる。【1月29日 CNN】
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徹底した宗教活動への干渉も】
中国がチベット地区の開発に取り組んでいるのは事実ですが、それが必ずしもチベット住民の生活向上につながっておらず、漢族との格差を助長する形にもなっているところが問題です。

また、急速な漢族の人的・資金的流入で、伝統的文化が軽視・破壊されることへの不満も強く存在します。

中国当局が住民不満の背景にあると考えるチベット仏教に対しては、徹底した統制・監視が行われています。

****チベット、繁栄とその陰 08年騒乱後、観光開発急進 漢族流入、高級ホテル続々****
海外メディアの自由な取材が認められていない中国チベット自治区を(2016年9月)9~14日、中国外務省が企画した取材ツアーに参加して訪れた。

観光客が10年前の約10倍に急増し、大規模な観光開発やインフラ整備が急ピッチで進んでいた。しかし、漢族の流入や、当局による宗教活動の締め付けなどに不安を募らせるチベット族の視線は複雑だ。
 
「チベットでは天地がひっくり返るような変化が起きた。わずか数十年で、千年以上の道のりを飛び越える奇跡がつくられた」
 
標高3650メートルの区都ラサ郊外。10日夜、「第3回中国チベット観光文化国際博覧会」の開幕式でロサンギェンツェン自治区主席は誇らしげに述べた。
 
巨大な会場では、530企業がチベットの伝統工芸品や医薬品などを展示。1週間の期間中、国内外の観光業者や政府関係者らを含む約20万人が来場した。地元報道によると、博覧会を機に合意した投資案件はチベットとネパールを結ぶ航空会社設立など140件、総額約1千億元(約1・5兆円)を超えたとしている。
 
昨年自治区を訪れた観光客は約2100万人で、2006年の約251万人から約10倍に急増。20年には3500万人を誘致する計画で、自治区の人口の10倍を超える計算だ。06年に青海省西寧とラサを結ぶ鉄道が開通したことや航空便の増加などが背景にある。

 ■「安定には経済」
チベット族による大規模な騒乱が起きた後の08年8月に記者がラサを訪れた時は、市中心部でも壁が焼け焦げ、ガラスが割れたままの建物が残っていた。至る所で武装警察が巡回するなど緊張感が漂っていた。

現在は騒乱の痕跡は消え、チベット仏教の聖地ジョカン寺や歴代ダライ・ラマが居住した世界遺産ポタラ宮の周辺で、大勢の漢族観光客らが散策していた。
 
政府は分離独立運動が続いてきたチベットを安定させるため、地元経済の発展を最重要視する。習近平(シーチンピン)国家主席は昨年のチベット問題に関する重要会議で「国を治めるには必ず国境地帯を治めなければならず、国境地帯を治めるにはまずチベットを安定させなければならない」と指摘した。
 
市内には、インターコンチネンタル、シャングリラなど国際高級ホテルチェーンも開業。四川省などから来た漢族が経営する飲食店や商店も目立つ。寺院の周辺を除けば、中国の他の都市と見た目は変わらない。
 
四川省成都から来て4月に料理店を開いた50代の女性店主は「ラサは観光客が増えて飲食店の需要も高い」と期待する。

 ■高速道路開通へ
海外記者団は12日、ラサから自治区東部ニンティにバスで移動した。高い山の谷間を進む国道沿いに工事現場が延々と続き、クレーン車などの重機がうなりをあげていた。

13年に着工したラサ―ニンティ間の409キロを結ぶ高速道路工事だ。来年に開通予定で投資額は約380億元。21年までに両市を鉄道で結ぶ計画も進む。北京や成都と結ぶ高速道路建設計画もある。
 
ニンティはインドと隣接し、国境をめぐる係争地域を含む敏感な土地。しかし、美しい山並みや渓谷などの観光資源が豊富で、各地で大規模開発が進む。広東省の政府機関や民間企業などが約33億元を投じてチベット族の集落をリゾート地として開発した「魯朗国際観光小鎮」では、チベットの伝統建築を模した真新しい町ができていた。
 
周辺の村では民宿経営にくら替えするチベット農民が多く、68戸のうち39戸が民宿を営む。当局の案内で、21の客室を持つ民宿を経営するピンツォさん(68)に話を聞いた。

小麦や野菜を栽培する農家だった98年までの年収は1千~2千元(現在のレートで約1万5千~3万円)。現在は年2千人以上の客を受け入れ、20万~30万元の年収があるという。

十数年前に共産党員になったピンツォさんは、当局者が見守る前で、「チベットが中国軍に解放されるまで道も電気もなかった。農業の時は食べるものにも事欠いた。今の政策に賛成だ」と話した。

 ■現地民族、宗教抑圧に反感
当局主導で進む開発を、地元のチベット族たちはどう受け止めているのか。本音を聞きたくて、当局側が設定した取材の合間に単独でラサの中心市街地を歩いてみた。

表通りの飲食店や商店の多くは漢族が経営していた。民族構成を示すデータは見当たらなかったが、ラサ市内に限れば、漢族が年々増えてきて、今では人口の半数を超えたと住民は口をそろえる。
 
飲食店を営むチベット族女性は「大きな商売をしているのは漢族が多い。チベット族は生活費を稼ぐ程度の小商いばかり」とこぼす。20代の男子学生は「都市部のチベット族はまだしも、大半の農民や遊牧民は貧しいままだ」と話す。
 
同自治区政府によると、域内総生産(GDP)は20年以上も連続で10%以上の伸びを続けている。ただ、その経済発展の果実を、多くのチベット族が実感できていない様子も浮かぶ。
 
また、多くのチベット族が反感を抱くのが、当局による宗教活動への干渉だ。中国政府は、インドに亡命したチベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世を分離独立を目指す「分裂主義者」として敵視している。
 
ジョカン寺周辺で知り合ったチベット僧は「08年の騒乱後、寺院の管理が格段に厳しくなり、地方の僧が修行などでラサの寺院に滞在することは許されなくなった」と話す。寺院間の連絡を絶ち、抗議運動が広がるのを防ぐ目的ではないかという。寺院内には密告者がいて本音を話せないとも語った。彼は数分話した後、周囲を見回し、緊張した表情で立ち去った。
 
路地裏で、同自治区東部から親類を訪ねてきた40代の僧とも話ができた。「みなダライ・ラマを慕っている。インドで会いたいが、我々には旅券が与えられず、国外に出られない」(後略)【2016年9月22日05時00分 朝日】
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チベット現状の評価には、多様な見方も
中国が“見せたがっている”チベットについては、以下のようにも。

****日本の記者団がチベット訪問、イメージとの差に驚く―中国メディア****
中華全国新聞工作者協会の招きで、日本のメディア代表団は胸を膨らませてミステリアスな西蔵(チベット)自治区の地に足を踏み入れた。

産業構造の転換や志の高い発展コンセプト、民族文化の効果的な継承、漢族とチベット族の平和な共存など、これら新たな変化は日本の記者の考え方を一新させた。中国記協網が伝えた。

(中略)運送会社のドライバーは漢族で、社長はチベット族、ホテルの社長はチベット族で、スタッフは漢族、こういうパターンも多い。TBSの記者・守田哲深さんは、「漢族とチベット族が深く交流するようになり、互いの依存度も日に日に強くなっている」と感じたという。

代表団は、ラサ市当雄県寧中郷曲才村に住むチベット族の巴魯さんと仁青旺姆さんの家に泊まり、その生活を体験したり、チベット族文化の継承や漢族とチベット族の平和な共存などについて話をしたりした。日本の記者は、「現地取材でたくさんの新たな発見をした。格差はどの国にもあるものだが、チベットでは民族が原因の格差がない」と驚いた様子だった。(中略)

川原田団長は、「これまで、チベットのことは主に日本のメディアが伝えることしか知らなかった。報道の焦点は主に、漢族とチベット族の格差や民族紛争、デリケートな問題などに集中している。その一方で、チベットの経済や社会の発展、民族の団結などに関する報道はほとんどない。

今回の訪問で、私たちが自分の目ではっきり見たものは、チベット族の生活や教育水準が向上していることや現代化されたインフラなどで、今後の報道の視野を広げる助けとなる」との見方を示した。【2016年10月16日 Record China】
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“日本の記者は、「チベットでは民族が原因の格差がない」と驚いた様子だった”・・・まあ、取材旅行を許可された側にも、いろんな事情があるのでしょう。

中国当局主導の投資・改革などで、“負の側面”だけではなく、住民生活が大きく変化しつつあるという点は、チベット問題を考えるうえでは留意すべきでしょう。

ダライ・ラマ14世の訪問を受け入れたモンゴルを力でねじ伏せた中国
チベット問題を象徴するのがチベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世の存在ですが、ダライ・ラマ14世の訪問を受け入れた国は中国から徹底した報復を受けます。

最近、その標的になったのがモンゴル。
昨年11月末に5年ぶり、9度目の訪問を受け入れましたが、“中国側は11月下旬に開催するはずだった両国の議会間の定期会議やモンゴルのフレルスフ副首相らの訪中受け入れや、12月上旬に予定していた外相の訪中受け入れを取り消した。中国とロシア、モンゴルの3カ国で12月に締結する予定だった道路輸送協定も見送りになった。”【2016年12月4日 Record China】

更には“モンゴルから輸入する鉱物に高関税を課し、決まっていた元借款を凍結するなど厳しい制裁”【1月14日 Newsweek】

“モンゴルは中国から何回も侵攻された歴史があり、国民の対中感情は複雑。2005年には「ダヤル・モンゴル運動(汎モンゴル運動)」と名乗る団体が中国系のスーパーやホテルを襲撃する事件を起こしている。”【12月4日 Record China】というモンゴルですが、やはり中国側の圧力は相当にこたえたようです。

“モンゴル駐インド大使が最近、インド外務省に書簡を送ったという。中国の習近平政権によるモンゴルへの制裁を解除するよう、モディ首相から働き掛けてほしいとの内容らしい。”【1月14日 Newsweek】といった動きもあましたが、結局、モンゴル側が「遺憾の意」を表明して関係改善に向かうことになったようです。

****中国、モンゴルと関係修復へ=ダライ・ラマ訪問で冷え込み****
中国外務省によると、王毅外相は24日、モンゴルのムンフオリギル外相と電話協議し、チベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世による昨年11月のモンゴル訪問で冷え込んだ両国関係を修復する方針で一致した。王外相は「モンゴル側は深く反省し、今後、ダライの訪問を許可しないことを明言した」と述べた。
 
中国はダライ・ラマのモンゴル訪問に強く反発し、モンゴルとの経済協力協議を凍結するなど対抗措置を取っていた。ムンフオリギル外相は今回の問題が両国関係に否定的な影響を及ぼしたことに「遺憾の意」を表明。「『一つの中国』政策を断固支持する」と述べ、関係改善を訴えた。【1月24日 時事】 
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中国にとって“核心的利益”というのは分かりますが、「モンゴル側は深く反省し」云々とか、「モンゴルがこの教訓を肝に銘じたことを願う」【1月25日 ロイター】といった尊大な対応が、いつまでたっても、どんなに中国が力をつけても、中国が海外から「大国」としての敬意を受けない所以でもあります。

もっとも、国連対応に関して、「アメリカを支持する国は支援するが、支持しない国は1つ1つ名前を挙げて相応の対応をしていく」(アメリカのヘイリー国連大使)【1月28日 NHK】といった発言を聞くと、中国だけの話ではないようです。
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