孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アメリカ干ばつ被害による食糧価格高騰の懸念

2012-07-26 23:15:46 | アメリカ

(アメリカの干ばつ被害状況 “flickr”より By Materials Risk http://www.flickr.com/photos/materialsrisk/7627878042/in/photostream

穀物の国際価格が急上昇
以前にも少し触れましたが、最近気になるのはアメリカの干ばつ被害と、それに伴う食糧価格高騰の話題です。
小麦、トウモロコシ、大豆の価格を見ると、7月に入ったあたりから急上昇しています。

****穀物が高騰、食卓にも影響か 米国の干ばつ深刻****
米国の干ばつなどの影響で、穀物の国際価格が急上昇している。国際的な指標である米シカゴ商品取引所のトウモロコシの先物価格は、史上初めて1ブッシェル(約25キロ)あたり8ドルを突破。大豆も3日続けて最高値を更新した。穀物価格の上昇で家畜のエサなども値上がりし、食卓にも影響が出てきそうだ。

トウモロコシの先物価格(9月物)は20日、1ブッシェルあたり8.2875ドルまで上がり、前日につけた過去最高値をぬりかえた。大豆も一時、1ブッシェルあたり17.7775ドルに値上がりした。小麦も高値圏で取引が続いている。6月1日時点と比べると、トウモロコシと小麦の価格は5割、大豆は3割それぞれ上昇している。

原因は、米中西部の穀倉地帯で、記録的な暑さと少雨により「56年ぶり」(米メディア)といわれる深刻な干ばつ被害が広がっていることだ。米国は世界最大の穀物輸出国。「秋の収穫量が大きく減るのではないか」との見方から、価格が上昇。世界的な金融緩和であふれかえったお金が、欧州危機で行き場を失い、穀物市場に流れ込んでいることもある。

大豆を原料とする食用油では、日本の大手メーカーが卸業者向けに10%前後の値上げを実施。今後、スーパーなどの店頭価格が上がる可能性が高い。政府が輸入している小麦も、10月の価格改定で上がる公算が大きく、年末ごろから、パスタなどの価格に影響しそうだ。
全国農業協同組合連合会は7~9月の飼料価格を1トンあたり900円値上げした。10~12月も値上げする可能性があり、食肉価格に響いてきそうだ。【7月22日 朝日】
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アメリカ中西部の干ばつ被害は、上記記事にある“56年ぶり”とか、あるいは“ダストボウル以降で最悪”とか言われています。
ダストボウル(Dust Bowl)とは、1931年から1939年にかけてグレートプレーンズ広域で断続的に発生した砂嵐のことです。原因としては、不適切な農業によって草が除去され、日照りが続いて土が乾燥して土埃になり、それが吹き飛ばされたことによると言われています。この被害により、大量の農家が離農を余儀なくされ、350万人が移住したとされています。
ジョン・スタインベックの「怒りの葡萄」はこの時期を背景とした作品です。

“1933年11月11日、強大なダストストームが乾燥したサウスダコタ州の農地から表土を剥がし、同年で最悪のダストストームとなった。
1934年5月11日、ダストボウルの嵐の中でも最悪の二日に渡る強大なダストストームがグレートプレーンズから大量の表土を取り除いた。土埃でできた雲によって遥か遠くのシカゴでは土のゴミが雪のように降り、一人あたり4ポンドもの埃が空から落ちてきた。数日後、同じ嵐はさらに東のバッファロー、ボストン、ニューヨークシティ、ワシントンD.C.に到達し、その年の冬にはニューイングランドで赤い雪が降ったという。
1935年4月14日は"黒い日曜日"とも呼ばれ、ダストボウルの期間を通じて最悪の "黒い吹雪" が20回も発生して広い範囲に災害をもたらし、昼を夜のようにした。目撃者によれば、5フィート前が真っ暗で見えなかったという。”【ウィキペディア】

すさまじい砂嵐の猛威ですが、今回干ばつはそのダストボウル以来最悪のものということですから尋常ではありません。
さすがに、今後も“350万人が移住”といったことはないでしょうが、世界の穀倉地帯を襲った被害は、世界の食料価格を引き上げます。
同じく穀物生産・輸出の有力国であるロシア・ウクライナでも不作が報じられています。

日本なども、冒頭記事にあるような影響が今後出てくると思われます。
TVニュースでは、インドネシアのテンペ(大豆を使った、日本の納豆に似た食品)の価格高騰を報じていました。
テンペは米と一緒に食べれらる必須食品で、重要な蛋白源となっています。インドネシアは大豆の70%を輸入に頼っていますが、アメリカの干ばつで輸入大豆が高騰。大豆の国内価格は過去3週間で33%も値上がりし、一部メーカーが生産の一時停止に踏み切ったそうです。

食糧価格高騰による飢え・暴動・社会不安
しかし、一番懸念されるのは、購買力の劣った途上国における食糧価格上昇が社会不安を惹起することです。
実際、2007~08年の食糧価格高騰は、バングラデシシュ・カメルーン・コートジボワール・ハイチ・インド・イエメンなど多くの国で暴動が起き、多くの犠牲者を出しています。

また、2010年の食糧価格高騰による生活苦・国民の怒りが、中東における「アラブの春」を引き起こした背景にあるとも言われています。

2007~08年当時と比べてやや安心できる点は、米(コメ)の価格がインドやベトナム、カンボジア等の増産による供給力増強もあって、比較的安定していることです。
また、中国・インド・韓国・エジプトなどでは相当の備蓄をすでに用意しているとも報じられています。【7月14日 ロイターより】

****米国の記録的干ばつと、食料価格高騰の影響****
・・・・米国は現在、記録的な干ばつに見舞われている。ダストボウル以降で最悪とされるこの干ばつは10月まで続くとみられており、米国の農産物収穫高は大幅に減少する見込みだ。米国はトウモロコシ、小麦、大豆の世界最大の輸出国であり、それらの世界価格はすでに記録的上昇を見せている。

食料価格の上昇は、特に輸入食料に頼る開発途上国の貧しい人々に大きな影響を与える。世界の食料価格は2004年以降、着実に上昇しており、2007年と2010年には社会が不安定になるほどの劇的な急騰があった。

この問題を論じる経済学者たちは、地域における不作、食用作物からバイオ燃料への転換による供給不安、そして「投機」を原因に挙げている。

1990年代の末まで、米国の食料市場は、穀物のバイヤーや農家など、価格に直接の関心がある人たちにほとんど限定されていた。規制緩和によってヘッジファンドと投資銀行の参加が可能になると、市場のダイナミクスが変わり、価格が大きく急激に変動するようになった。(中略)

新しい投機制限は年末までに立法化される予定になっているが、干ばつのために、それでは手遅れかもしれないとバー=ヤム所長は述べている。一方で米農務省は、バイオ燃料のトウモロコシの割当てを縮小する要求をすべて拒絶している。【7月26日 WIRED】
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投機は市場経済の重要な要素ではありますが、昨今のマネーゲームの規模と、それがもたらす結果は、素人的には許容範囲を逸脱しているように思われます。
マネーゲームによって巨額の利益を得る一部の者がいる一方で、食糧を買えずに飢え、社会に暴動が起きる・・・というのは、“効率”と並んで重要な判断基準である“公正さ”を欠いています。
速やかで有効な対策が望まれます。

非遺伝子組み換え農家への影響は?】
なお、日本はアメリカからの大豆・トウモロコシ輸入にあたって、アメリカにおいては少数派となっている非遺伝子組み換え品種を対象にしています。

****栽培方針、干ばつでも変えず=非遺伝子組み換え農家―米****
米中西部イリノイ州のウォーソウで、日本市場向けに遺伝子組み換え(GM)ではないトウモロコシや大豆を栽培する農家のジョー・ズムウォルト氏(35)は24日、時事通信のインタビューに応じ、歴史的な高温・少雨により甚大な打撃が出ているものの、「干ばつを理由に、GM作物に切り替えることはない」と強調した。

米農務省によると、米国では今年のトウモロコシ、大豆の作付面積の約9割がGM品種。GM作物は根の害虫被害を抑え、強い根で土壌から水分を吸収できるため、干ばつにも強いとの指摘がある。

ズムウォルト氏はミシシッピ川沿いを中心とする約1800ヘクタールの農地の大半で、非GMのトウモロコシと大豆を栽培する。同氏は「今年の干ばつは極めて厳しく、GM、非GMの両方に大きな被害を及ぼしている。非GMが今年、面積当たりの収量でGMを大きく下回るとは思わない」と分析。

その上で、「GMに比べ価格が高いため、(今年経済的打撃を受けた)多くの農家から非GM栽培への関心が高まるだろう」と予想。「干ばつを理由に、米国で非GMの供給、作付面積が減少することはない」と指摘した。【7月25日 時事】
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日本にとっては喜ばしい記事ですが、本当にズムウォルト氏の言うような流れになるかどうか・・・。
干ばつの被害実態如何では、今回干ばつを機に、今でも少ない非GM栽培が更に減少することもあるのではないでしょうか。
まあ、そのときは日本も非GMをあきらめるしかないでしょう。
コメント
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