孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イスラエル前首相の汚職疑惑裁判とパレスチナ・アラファト前議長のポロニウム暗殺疑惑

2012-07-11 23:29:28 | パレスチナ

(しばし眠りを覚まされることになりそうなアラファト前議長 “flickr”より By jhh510110@ymail.com http://www.flickr.com/photos/54213354@N04/7502664868/

【「ボールはネタニヤフ氏にある」】
中東世界では「アラブの春」を受けての変革・混乱が続いていますが、パレスチナ・イスラエルの和平交渉は行き詰まったまま動きが見えません。

先月8日には、パレスチナ自治政府のアッバス議長が、「パレスチナ囚人の釈放と自治政府警察の武器更新に応じるなら、対話する用意がある」と述べ、事態の打開に向けてイスラエルのネタニヤフ首相との会談に応じるための条件を示してはいますが、その後のイスラエルの大きな反応に関する情報は目にしていません。

****パレスチナ議長「対話用意ある」 イスラエルに条件示す****
パレスチナ自治政府のアッバス議長は8日、「パレスチナ囚人の釈放と自治政府警察の武器更新に応じるなら、対話する用意がある」と述べ、イスラエルのネタニヤフ首相との会談に応じるための条件を示した。訪問先のパリで記者団に語った。

議長周辺によると、ネタニヤフ氏は先月、アッバス氏に送った書簡の中で直接対話を打診。アッバス氏は「そのための意思表示がほしい」と述べ、1994年以前にイスラエルの刑務所に収監されたパレスチナ人約120人の釈放と、警察の銃の更新を認めるよう求めたという。

パレスチナは、イスラエルが占領地ヨルダン川西岸での入植活動凍結と、1967年の第3次中東戦争前の境界に基づく国境画定を受け入れなければ、交渉は再開できないとの立場。だが、交渉中断から1年半が過ぎてもイスラエルが入植活動を停止する兆しはなく、事態の打開に向けて譲歩を迫られた形だ。アッバス氏は「対話は、交渉をするという意味ではない」と強調したが、「ボールはネタニヤフ氏にある」とも述べ、イスラエルの対応を待つ考えを示した。(エルサレム=山尾有紀恵) 【6月10日 朝日】
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起訴はパレスチナやシリアとの和平条約締結を阻止するための陰謀?】
最近のイスラエルの話題としては、オルメルト前首相の汚職疑惑裁判があります。
右派のネタニヤフ現イスラエル首相の前任であるオルメルト前首相の任期中には、イスラエル政府とパレスチナ自治政府のファタハの関係は比較的良好な時期もあり、08年5月にはシリアともトルコ仲介で交渉を行っていることが発表されています。

しかし、オルメルト前首相には汚職絡みのスキャンダルが多く、支持率が低迷して首相辞任に追い込まれ、汚職問題でも起訴されています。

****イスラエル:前首相に無罪判決…汚職疑惑****
エルサレムの裁判所は10日、多額の不正献金受領と出張費の二重請求の罪に問われていたイスラエルのオルメルト前首相に無罪を言い渡した。

前首相は二つの汚職疑惑を理由に08年9月に辞任し、政治生命を絶たれた経緯があり、起訴した検察に対し「民主主義を冒とくした」(ハーレツ紙)などとの批判も起きている。
一方、この2件に比べて微罪とされる、事業参入で知人に便宜を図った背任罪は有罪となった。量刑は9月に言い渡される。さらに別の裁判では土地開発を巡る収賄罪にも問われている。

前首相は過去のインタビューなどで、首相在職中にパレスチナやシリアとの和平条約締結が間近だったと主張している。起訴はそれを阻止するためだったとの陰謀説もある。AP通信によると、アッバス・パレスチナ自治政府議長顧問のハマド氏は「中東和平で双方の立場の差が縮まっていたが、彼の不在で今はすべてが失われた」とコメントした。【7月11日 毎日】
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記事にある“起訴はパレスチナやシリアとの和平条約締結を阻止するための陰謀”という見方の一方で、08年5月にシリアとの和平交渉を公にしたのは、国民の目を汚職疑惑から背けるための政治的保身ではなかったか・・・という見方もあります。
当時のイスラエル国内の世論調査でも、「シリアとの和平交渉の目的は、和平の推進か?それとも首相の汚職疑惑から国民の目を背けることか?」との問いに、約半数が汚職疑惑隠ぺいのためと答えています。

パレスチナ側は遺体の掘り起こしへ
一方のパレスチナ側で最近話題となっているのは、8年前に死去したアラファト前議長のポロニウムによる暗殺疑惑です。
****アラファト議長は毒殺」=遺品からポロニウム検出―衛星TV****
2004年11月にパリ近郊で死去したアラファト・パレスチナ自治政府議長(当時)は、毒性の強い放射性物質ポロニウムを盛られて暗殺された可能性が高い―。中東の衛星テレビ局アルジャジーラは3日、スイス・ローザンヌの放射線物理学研究所による鑑定で、こうした結果が出たと報じた。

アルジャジーラは、スーハ夫人からアラファト氏が使っていた衣服や歯ブラシ、カフィーヤ(チェッカー模様のスカーフ)の提供を受け、同研究所に調査を依頼した。アラファト氏の血液や唾液、汗などが付着した所持品から高い水準のポロニウム210が検出され、死亡時に相当量のポロニウムが体内に存在していたことを示したという。【7月4日 時事】
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これを受けて、遺体の掘り起こしや、妻による告訴といった騒ぎになっています。

****波紋呼ぶポロニウム暗殺説=アラファト氏、8年ぶりに遺体調査も―パレスチナ****
2004年に死去したアラファト前パレスチナ自治政府議長の死因をめぐり、放射性物質ポロニウム210を使った暗殺説が浮上している。中東の衛星テレビ局アルジャジーラの調査報道が発端だ。アラファト氏暗殺説は数多いが、「暗殺手法」が具体的なことから、パレスチナ側は遺体の掘り起こしや国際調査委員会の設置に乗り出す構え。だが、死後8年が経過しており、真相究明は難航が予想される。【7月9日 時事】
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****毒殺?アラファト氏の妻が告訴へ 毒物検出の報道受け****
2004年に死去したパレスチナ自治政府のアラファト議長(当時)の妻スーハさんが、アラファト氏が毒殺された可能性を示す遺品の検査結果が出たことを受け、死因をはっきりさせるため、フランスで告訴する方針だとロイター通信が報じた。スーハさんの弁護士が10日、明らかにした。
容疑者は特定しないまま告訴する方針。詳細は今月末までに明らかにするという。(後略)【7月11日 共同】
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当時、アラファト前議長は、イスラエル軍によって半壊状態の議長府で軟禁状態にありました。
ウィキペディアによれば、当時の状況は以下のとおりです。
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イスラエルはアラファートをテロ蔓延の原因とみなして敵視を強め、ヨルダン川西岸地区のラマッラー(ラマラ)にあるアラファートの議長府(大統領府)は2001年より長らくイスラエル軍による包囲・軟禁状態に置かれた。

アラファートには軟禁状態に置かれ始めた頃から健康不安が囁かれていた。また多数の敵を抱える状況から、シャロン首相は「アラファトは、ハマスのヤシン師と同様(イスラエルによって)暗殺されるかもしれない」と発言していた。

アラファートは2004年10月10日より体調を崩した10月15日のラマダン(断食月)入りの金曜礼拝では気分不良の為に途中で退出して客人への対応もしなかった。10月19日にはエジプトから医師団が招かれて診察を行った。10月27日より嘔吐を繰り返すようになり、何度か意識消失を起こした。

アラファートは病院に入院している間に大統領府がイスラエル軍によって破壊され、戻って来れなくなる事を恐れていた。10月29日、体調の悪化を理由に治療のためヨルダン政府によりアンマン経由でフランスに移送され、11月11日午前3時30分にパリ郊外クラマールのペルシー仏軍病院で死去した。【ウィキペディア】
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動機を持った疑わしい人物ばかり
放射性物質ポロニウムについては、2006年にロシア連邦保安局(FSB)の元情報局員、アレクサンドル・リトビネンコ氏がロンドンの病院でポロニウム中毒とみられる症状を発症して死亡した際にも話題になりました。この事件後、イギリスとロシアはことの真相を巡り激しく対立しました。

今回の“アラファト前議長のポロニウムによる暗殺”については、ポロニウム210の半減期が138.4日ということで、8年近くもたった今本当に検出されるのか・・・検出されたなら後から誰かが加えたものではないか・・・といった疑問も多く出されています。

半減期云々の問題はよくわかりませんが、ただ、素人でもわかるようなをへまをすることもないのでは・・・という疑問もあります。

仮に、暗殺が事実だったとすれば、誰が?・・・という問題になりますが、当時のアラファト前議長の周辺は、彼に「消えてほしい」敵ばかりでした。
議長府を包囲しているイスラエルのシャロン首相はもちろんですが、和平交渉を進めるうえでアラファトに見切りをつけたアメリカ、ファタハと対立しているハマス、ファタハ内部で台頭してアラファトを批判していたムハンマド・ダハランなど。
アッバス議長にしても、アラファトからの権限移譲を阻まれ首相からの辞任に追い込まれていますので・・・・。

動機を持った疑わしい人物ばかり・・・という状況ですが、そんななかでNHK(BS)が、キャスター氏の個人的見解でしょうが、イスラエルや関係国の線は薄く、むしろファタハ内部のダハランの方がまだ可能性はある・・・といった随分踏み込んだ大胆解説を行っていたのが驚きでした。
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