孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ロシア  中央集権体制再構築へ統制色を強めるプーチン大統領

2012-07-14 22:25:10 | ロシア

(5月7日、モスクワ・クレムリンでの大統領就任式に臨むプーチン氏 “flickr”より By IBiAFoddoAbbarad http://www.flickr.com/photos/54496416@N04/7158694518/

外交でも欧米との対立先鋭化
ロシアは、シリアのアサド政権批判を強める欧米に対抗する形で、アサド政権擁護の姿勢を変えていません。
政権側によるとみられる相次ぐ住民虐殺を受け、国連安保理においても、制裁を求めるアメリカとの対立が先鋭化しています。

****露軍艦10隻以上、地中海演習へ…シリア寄港も****
ロシア国防省は10日、海軍の北方、バルト、黒海の3艦隊に所属する駆逐艦や揚陸艦など10隻以上が地中海などでの演習のため出港したと発表した。
インターファクス通信によると、一部がシリア西部タルトゥースにある露海軍補給拠点に寄港、水や食料を届けるという。

シリアによるトルコ軍機撃墜事件後、東地中海では北大西洋条約機構(NATO)軍が演習中で、3艦隊の地中海派遣はこれをけん制する意味合いを持ちそうだ。【7月12日 読売】
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“強いロシア”を誇示する、冷戦時代を思わせるようなロシアの頑なな対応ですが、ロシア国内においても、復帰したプーチン大統領のもとで、統制色の強い施策が相次いで打ち出されています。

民主主義の根幹を締め付ける動きが加速化
****大統領就任2カ月 プーチン再臨 時計の針戻す****
市民団体はスパイ、寄付すれば弾圧 強硬派の側近を重用、改革色薄める

ロシアのプーチン大統領が5月に通算3期目の政権を発足させてから2カ月が経過した。
新体制はこの間にも、反政権派への締め付けや基幹産業の国家管理を強めるための人事を行い、リベラル化を目指したメドベージェフ前政権で一時、緩和された垂直統治型の中央集権体制を再構築しようとする動きを見せている。

プーチン色がにじみ出た政策は次々に打ち出されており、欧米の支援を受けた市民団体を「外国のスパイ」として圧力を加える新法の審議も始まった。
ロシアの社会問題である人権侵害や役人の汚職の実態を告発してきた市民団体の活動に対して、プーチン氏はこれまでも「諸外国の資金援助を受け、外国の利益のために活動している国民がいる」などと非難する発言を繰り返してきた。

しかし、ロシアでは篤志家らが市民団体に寄付していることが発覚すれば、政権から厳しい弾圧を受ける恐れがあり、人権擁護団体「モスクワ・ヘルシンキ・グループ」などの有力団体は欧米からの支援を受けなければ、活動が成り立たない実情がある。

7月に入り、与党統一ロシアが圧倒的多数を占める下院で、こうした市民団体に圧力を加える“NGO監視”法案の審議が始まり、同党議員は、「ロシアの民主主義は国外勢力から守らなければならない」と新法の正当性を説明した。

新法は、市民団体に年に2回、詳細な活動報告の提出を義務づけるもので、違反すれば代表者に約300万ルーブル(約720万円)の高額な罰金が科せられ、「外国のスパイ」の烙印(らくいん)を押される。下院を通過して、上院での審議を終え施行される見通しで、市民団体側からの反発が強まっている。

他にもこの2カ月で、名誉毀損(きそん)犯罪の罰則強化や改正デモ規制法の施行など、表現の自由や集会の自由など民主主義の根幹を締め付ける動きが加速化している。首相になったメドベージェフ氏は「私はリベラルだったことは一度もない」とかつての民主化政策を翻すような発言もし始めた。

一方、プーチン氏は、メドベージェフ氏が打ち出した経済改革色を薄める人事も行った。6月に一旦は政府の要職から解かれたプーチン氏の側近で保守・強硬派のセチン前副首相を、大統領直轄のエネルギー産業発展戦略委員会の書記として復権させた。
セチン氏はエネルギー業界に圧倒的な影響力を持ち、プーチン氏の命を受け、今後、基幹産業である石油・ガス産業の民営化に歯止めをかけ、国の政策と直結した「国家資本主義」路線を推進するとみられる。経済の近代化から逆行する動きに、投資家の懸念も高まり、ロシアの株価指数も下落傾向にある。【7月11日 産経】
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上記記事にある“NGO監視”法案は、13日、ロシア下院で可決されました。
ただ、罰則規定については議会内で賛否があったようです。
“第3読会まで開かれた法案の審議は、最終的に賛成374、反対3、棄権1で通過に至った。上院で承認後、プーチン大統領の署名で成立する。ただ、審議が紛糾した罰則規定については秋の会期に先延ばしされ、これに合わせて発効は120日後と規定された。”【7月13日 時事】

外国からの資金という点では、日本でも問題になることがあります。
今回のロシア法案では、外国政府や外国人の資金を得て政治活動に携わるNGOは、登録と年4回の活動報告に加えて、出版物やウェブサイトに「外国の代理人」と明記しなければならないというあたりが、この法案の性格を物語っています。

****ロシア:外国から資金援助のNGO 下院で監視法案可決****
ロシア下院は13日、外国から資金援助を受ける非政府組織(NGO)を「外国の代理人」として分類し、活動を監視する法案を可決した。昨年来の反政府デモを「欧米がカネを出して支援している」と非難してきたプーチン大統領が反対勢力の一段の締め付けに乗り出した形で、国内外で懸念が高まっている。

法案によると、外国政府や外国人の資金を得て政治活動に携わるNGOは、当局への登録と年4回の活動報告が義務付けられる。また、出版物やウェブサイトに「外国の代理人」と明記しなければならない。
違反すると最高30万ルーブル(約73万円)の罰金や禁錮刑を受ける。下院(定数450)の採決では、与党・統一ロシアや野党・共産党、自民党の374人が賛成。法案は上院の審議とプーチン大統領の署名を経て近く発効する見通し。

プーチン政権発足後のロシアでは違法デモ参加者の罰金を引き上げる改正デモ規制法が6月に施行され、デモ取り締まり強化に向けた第2弾ともいえる。
統一ロシアは法案について「NGOの公開性を高め、市民社会の利益を守るのが目的」と説明するが、民主派勢力や人権団体は「社会活動の自由を抑圧する」と批判している。

また、米国務省も「NGOの規制強化につながる」と憂慮を示した。これに対し、ロシア外務省は「ロシアの国家機関に対する許し難い干渉だ」と米側を非難する声明を出し、米露関係にも影を落としている。

ロシア下院は11日、インターネットの規制強化法案を可決したばかり。児童ポルノなど有害サイトの取り締まりが目的とされるが、ネット業界などからは「検閲の導入だ」と反発が出ている。
一連の動きは、メドベージェフ前大統領(現首相)が欧米との関係や「インターネットの自由」に理解を示していたのと対照的に、プーチン氏の大統領復帰で国家統制色が強まっていることを印象付けている。【7月14日 毎日】
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6月の改正デモ規制法については以前も取り上げたことがありますが、国内で再燃した反プーチン抗議行動を封じ込める狙いがあるとされています。
プーチン大統領は、英独伊などでのデモ規制法と比較し「それよりも厳しい条項は一つもない」と述べた上で、6月8日に署名しています。

****ロシア上院:デモ規制強化法案可決 罰金、大幅引き上げ****
ロシア上院は6日、国内で広がる反政府抗議運動を封じる狙いで、デモ規制を強化する法案を賛成多数で可決した。野党は法案が「集会の自由」に反すると反対していたが、議会で多数を占める政権与党「統一ロシア」が強引に通過させた。
下院は5日、可決していた。プーチン大統領は早急に署名し、12日に予定されている大規模デモまでに法律を発効させて、抑え込む構えだ。

法案は、暴力など違法行為に発展したデモ参加者への罰金を大幅に引き上げた。現行のデモ参加者500〜1000ルーブル(約1200〜2400円)▽主催団体1000〜2000ルーブルから、法案では参加者1万〜30万ルーブル▽主催団体25万〜100万ルーブル−−へ増額。
また、新たに非公式団体がデモを主催した場合、団体責任者も罰則対象に加える。参加者のマスク着用を禁じるなど、規則を軒並み強化している。

一方、新たな罰則では違反者が罰金を払わないで、社会奉仕活動で償う選択肢を設定しており、与党は当初の規制案から一定の譲歩に応じた。
12日に予定されている大規模デモを巡り、モスクワ市は近く開催許可を判断する。反プーチン勢力は許可が得られなくても、強行する意向を示しており、混乱する恐れもある。【6月6日 毎日】
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“参加者1万〜30万ルーブル”(2万4000円~72万円)というのは幅があり、“違法行為に発展したデモ”の認定のあり方と併せ、運用次第では強力な抑制策になりそうです。
また、上記“改正デモ規制法”成立と同時期(6月11日)、抗議デモで中心的役割を果たすとみられる活動家の自宅などが、一斉に家宅捜査を受けています。

インターネット規制強化法案が可決された今月11日には、誹謗中傷や名誉毀損に関する法案も一気に可決されたようです。

****ロシア議会、インターネット規制の強化法案を可決****
ロシア議会は11日、不適切なウェブサイトをブラックリストに掲載するなどインターネット規制を強化する法案を可決した。与党・統一ロシアが推進する同法案については、以前から活動家らが懸念を示してきた。

あわせて同日の議会では、誹謗中傷や名誉毀損を犯罪行為とみなし、最大で禁錮5年の刑事罰を科すことを可能とする法案も可決された。
  
法案の目的について、野党・ロシア共産党のアナトリー・ロコット議員は「異議を持つ者を一掃するため」と批判。その他の野党議員らも、採決は規制法案の内容に目を通す間もないうちに行われたと語った。
同日議会で可決された2法案に関しては、野党の封じ込めや抗議行動への罰金の高額化などに流用される可能性があると批判されている。
法案はウラジーミル・プーチン大統領が署名した後、11月に発効する見通しだ。 【7月12日 AFP】
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プーチン大統領の意のままに従う議会・・・という感がありますが、7月10日に下院で採択された世界貿易機関(WTO)加盟批准については、賛成が238、反対が208という僅差でした。“反対が多い背景には、脆弱なロシアの製造業や農業に対する各種保護策が打ち切られ、国際競争にさらされることへの危機感がある”【7月10日 毎日】とのことで、議会が全く機能していない・・・という訳でもないようです。
問題によって“党議拘束”のあり方も異なるのでしょうか。

話が横道にそれましたが、プーチン大統領の“強面ぶり”があらわになっています。
逆に言えば、メドベージェフ前大統領の期間は、それなりに控えていたというか、我慢していた・・・とも言えそうです。

ウクライナでの「無礼ぶり」】
ウクライナ訪問時のエピソードも、いかにもプーチン大統領らしい強引さに思われます。
両国の立場の違い、決して対等ではないことをことさらに見せつけた・・・ともとれます。

****プーチン露大統領、ウクライナで首脳会談に4時間遅刻****
隣国ウクライナとの関係強化を掲げて12日に同国を訪問したウラジーミル・プーチン露大統領だが、ビクトル・ヤヌコビッチ大統領との会談に4時間も遅刻する「無礼ぶり」に、友好とは逆効果の訪問となってしまったようだ。
ウクライナ南部ヤルタで設定されていたヤヌコビッチ大統領との会談では、両国間の関係悪化要因となっているロシアからの天然ガス輸入問題の解決策を協議するとみられていた。

すでにスケジュールは押していたが、プーチン大統領はヤヌコビッチ大統領との会談会場に急行せず、バイクライダー団体「ナイト・ウルブス(夜の狼たち)」訪問を優先した。プーチン大統領は過去にも「ナイト・ウルブス」のイベントに参加しており、顔見知りのバイカーらと旧交を温めた後、ようやくヤルタに向かったという。

ウクライナのビクトル・バロガ非常事態相は、プーチン大統領の遅刻について「遅れるにも程がある。バイクライダーや知人の方が優先順位が高いわけだ」と、自身のフェイスブックで批判した。
ウクライナの有力評論家ビタリー・ポルトニコフ氏も、プーチン大統領はバイク愛好家らと会うことで、ヤヌコビッチ大統領に恥をかかせウクライナの独立をおとしめることを意図したものだろうと、ウェブサイト上で怒りを示している。【7月14日 AFP】
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なお、プーチン大統領とヤヌコビッチ大統領の会談では、長年未解決だったアゾフ海とケルチ海峡の国境画定で基本合意されています。
ロシア通信によると、両国が領有権を争ってきた同海峡のトゥズラ島をウクライナ領とする一方、ロシアが海峡の船舶航行権を得る形で妥協したとのことです。


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