孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

勢いを失いつつある新興国経済 中国・インド・ブラジル

2012-07-13 22:06:26 | 国際情勢

(3月29日 インド・ニューデリーで開催されたBRICSサミット 左からブラジル・ルセフ大統領、ロシア・メドベージェフ大統領、インド・シン首相、中国・胡錦濤国家主席、南アフリカ・ズマ大統領 5カ国は、世界人口の43%を占め、合わせた国内総生産(GDP)は世界の約20%とされます。
会議は“欧米の対抗軸としての存在感を確立するほどの強力なメッセージを発するには至らなかった”【3月30日 産経】とされています。
政治的影響力の基盤となる各国経済も、このところ減速・失速が指摘されており、これまでのように政界経済を牽引できるか懸念されています。 写真は“flickr”より By DTN News http://www.flickr.com/photos/dtnnews/7027526349/)

中国:短期的には対応も可能。ただ、長期的には政治的硬直性が壁になるのでは
世界経済を牽引してきた感もある中国経済にかつての勢いがなくなっていることが最近よく指摘されます。
中国を最大の貿易相手国とする日本にとっても影響が大きい問題です。

****中国の4-6月期成長率が3年ぶり8%割れ 欧州危機が圧迫****
中国国家統計局が13日発表した2012年第2四半期(4-6月期)の国内総生産(GDP)は、物価変動の影響を除いた実質で前年同期比7・6%増と、6四半期期続けて成長が鈍化した。8%割れはリーマン・ショックの影響が続いた09年第2四半期以来、3年ぶり。
深刻化する欧州債務危機が輸出や国内消費を圧迫している。中国の成長鈍化は、世界経済にも影を落としそうだ。

今年第1四半期(1-3月期)の実質成長率は8・1%だった。このまま成長鈍化が続けば、政府の通年目標の前年比7・5%を下回る可能性もありそうだ。
成長エンジンである輸出は、中国にとって最大の貿易相手先である欧州連合(EU)向けで、今年1-6月期に前年同期比0・8%マイナスとなった。不動産バブル対策を受けた住宅市場の冷え込みや公共事業縮小などが、消費など内需の足も引っ張っている。

景気減速傾向が明らかになった昨年暮れ、中国政府は政策の軸足を「インフレ抑制」から「成長維持」に移し、預金準備率の引き下げ実施などで金融緩和に転換。中国人民銀行(中央銀行)は6月に、3年半ぶりの政策金利引き下げに踏み切ったが、経済成長の鈍化に歯止めをかけるまでには至らず、今月に入って追加利下げも実施している。

ただ、6月の消費者物価指数(CPI)は前同月比2・2%の上昇と、2年5カ月ぶりの低い水準に収まった。このため金融当局にはさらなる利下げなど、景気回復への一段の金融緩和の余地が広がっている。【7月13日 MSN産経】
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短期的には、最大の貿易相手先であるEU経済の混乱が足をひっぱていることから、中国経済の今後はEU経済の動向に大きく左右されます。
ただ、指導部が交替する党大会を秋に控え、経済が“失速”するような事態はなんとしても避けたい中国共産党指導部でしょうから、一段の金融緩和、財政支出と政府主導の投資による景気刺激によって、そこそこの数字は維持するのではないでしょうか。

しかし長期的に見ると、中国経済の問題は安価な労働力に頼った輸出と設備・不動産投資に過度に依存し、国内購買力が十分に伸びないという体質にあるとも言われており、構造的な変革に触れない、これまでの政策を踏襲した短期的“失速”回避策では、ますます深みにはまってしまう危険があるとも指摘されています。

人口構造的に見ても、生産年齢人口の比率が相対的に最も大きくなる経済成長に最適の人口構成である「人口ボーナス」期が、中国では終わりに近づいており、これまでと同じ発想では限界もあります。
(11年8月27日ブログ「中国 “人口ボーナス”を生かしきれず、“中所得国の罠”に陥る懸念」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20110827

おそらく中国の抱える最大の問題は、現在の政治体制の変革につながるような抜本的対応が政治的にとれない・・・という硬直性にあるのではないでしょうか。

インド:進まない構造改革 財政赤字・インフレ・海外資金流失で難しい対応
新興国2番手のインド経済も、失速傾向にあることが報じられています。
中国とは異なり内需中心のインド経済ですが、“慢性的な財政赤字、工業の弱さやインフラの未整備、農業の低生産性による供給制約と、その改善のために必要な資金の不足”という構造要因の克服が難しいようです。

政治的にも“与党関係者による汚職が繰り返し表面化したこともあり、今年初めに行われた重要州での議会選で与党・国民会議派が敗北。2年後の総選挙へ向けてシン首相の政権基盤は弱体化しつつある”【6月5日 産経】ということで、指導力を発揮しずらい状況になっています。

****資金流出・通貨安で内需失速 苦境に打つ手なしのインド経済 ****
インド経済が苦境に陥っている。1~3月期の経済成長率(前年同期比)は5.3%。これは、リーマンショック時を下回る、7年ぶりの低水準だ。
外部の環境変化に強い内需主導の経済を強みとしてきたインドだが、その内需が失速している。

第1の要因は、欧州危機に伴う資金流出だ。原油を輸入に依存するインドは、恒常的な貿易赤字を抱える経常赤字国だ。それ故、国内の資金不足を補うために、海外から資金調達しなければならないのだが、それが難しくなっている。「金が回らず、企業の設備投資が落ち込んでいる。外資系企業に投資を手控える動きがあるのも懸念される」(西濱徹・第一生命経済研究所主任エコノミスト)。

第2が、インフレ率の高止まりである。5月の卸売物価指数(WPI)は対前年上昇率が7.6%と、4月の7.2%からさらに加速。高インフレで個人消費は低迷し、インフレ抑制のための金融引き締めで企業活動も停滞、内需失速を招いている。

さらにルピー安が拍車をかける。欧州債務危機に伴う“リスクオフ”(安全な資産への資金逃避)で、新興国の通貨は軒並み下落しているが、インドは特に顕著だ。5月下旬にはルピーが連日最安値を更新した。このままでは輸入価格が上昇し、インフレを加速させかねない。「ルピー安が成長を妨げ、投資資金が離れることでさらにルピー安が進むという悪循環に陥りつつある」(高山武士・ニッセイ基礎研究所研究員)。

政策は手詰まりだ。景気の悪化で、本来なら金融緩和をする局面だが、インフレが収まらないことにはそれもできない。財政赤字のため、他の新興国のように財政支出による景気刺激策も打ちにくい。財政赤字の大きな要因は燃料補助金や農業補助金で、これらは弱者保護の側面を持つため政治的に削減が難しい。

そもそもインド経済失速の根本要因は、同国が抱える構造問題にある。慢性的な財政赤字、工業の弱さやインフラの未整備、農業の低生産性による供給制約と、その改善のために必要な資金の不足である。政府はこれらを克服するために、歳出削減や規制緩和による外資呼び込みを図ってきたのだが、官僚主義や中央政府の指導力不足といった政治的要因で一向に進まない。これが外資系企業や投資家の失望を招き、資金流出やルピー安につながっている。

欧州危機が一段落すれば、資金流出やルピー安にもある程度の歯止めはかかるだろう。だが構造改革が進まない限り投資家の信頼は戻らず、かつての7~8%という高成長への復帰は難しいとの見方は多い。中国に次ぐ貴重な“成長エンジン”であるインド経済の低迷は、欧州危機に揺れる世界経済にとって大きな痛手となるだろう。
【6月27日 週刊ダイヤモンド】
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“欧州危機の再燃で海外の投資家がリスクに敏感になっているだけでなく、インド経済に対する悲観論が広がり、投資マネーの流出が止まらない。
14年に総選挙を控えた連立政権は非効率なバラマキ政策を改められず、財政赤字が拡大。ルピー安で輸入コストが膨らみ、インフレ懸念も高まっている。
中央銀行は4月、景気テコ入れのため3年ぶりに利下げをしたが、インフレへの警戒感から「追加利下げは難しい」との見方が多い。政府にも財政出動する余裕は乏しく、八方ふさがりの状況だ“【6月1日 朝日】とのことで、手詰まり感が広がっています。

ブラジル:“借金の限界”で“消費の限界”】
一方、南米の新興国ブラジル経済も減速しており、南米新興国代表の座をメキシコに脅かされる状況にあります。ブラジルの今年の国内総生産(GDP)成長率は昨年が2.7%、今年も2%程度にとどまるのでは・・・とも予測されています。

政府が国民に借金で買い物を続けるように呼び掛ける、個人消費主導経済のブラジルですが、自動車ローン延滞率増加に見るような“借金の限界”、ひいては“消費の限界”が顕在化しており、ここでも“行き詰まり”が見られます

****ブラジルをめぐる主要な政治的リスク****
政権を掌握してから1年半が経つブラジルのルセフ大統領は、停滞する経済という1つの大きな逆風に直面している。与党の労働党の支持率は、経済の発展と共に拡大してきただけに敏感な問題だ。

ブラジル経済は、4四半期連続の低成長となっており、国内外の先行き不透明感から企業も投資を縮小している。エコノミストは今年、国内総生産(GDP)成長率が2%をやや上回ると見込んでいるが、これは2010年の7.5%とかけ離れている。
経済は年後半に幾分か上向くことが見込まれるものの、エコノミストはこれによるインフレ率の加速を懸念する。ブラジルのインフレ率は2011年に7年来の高水準となっていた。

ルセフ大統領の支持率は依然として高いが、債務不履行の拡大などの兆候は、製造業分野と同じく、現時点で消費活動も衰えてきた可能性を示している。
大統領はこの景気減速に対応するため、特定の産業に対する刺激策を相次いで明らかにしている。また中央銀行は景気減速を、歴史的に高水準にある政策金利を引き下げる好機ととらえている。

その一方で、喉頭がんの治療が完了させたルラ前大統領は5月後半、2014年の大統領選挙にルセフ大統領が出馬しない場合は、名乗りを挙げることも検討していると表明。これが波紋を呼び、ルセフ大統領は1期だけで退くとの憶測を呼び起こしている。

 <小売分野も減速か>
ブラジルでは製造業が低迷する一方で、国民の多くは景気減速に鈍感なようで個人消費は健全さを維持してきた。エコノミストはこのいわゆる「二速経済」の持続性に長年懸念を示してきた。
だが現在、消費活動の減速を示す兆候も表れ始めている。5月の借金の滞納は過去最高となっており、多くがぎりぎりの状態で消費活動を続けていることが示された。エコノミストは、失業率も確実に上昇し始めると予想している。

税金の高さや労働コスト、通貨高により、ブラジルの製造業者は安価な輸入品に太刀打ちできなくなっている。ルセフ大統領は税控除やその他のインセンティブを通じて一部の業界に優遇策を導入する一方、オートバイや電子レンジといった特定の輸入品にかかる税率を引き上げた。

だが、エコノミストは製造業の競争力を高めるための税制や労働法規の抜本改革が、ブラジルの産業界を実質的に上向かせる転換点になると指摘する。これらの改革は、動きの鈍い議会であいまいなままになっており、エコノミストは経済を実質的に刺激する策は少ないと指摘する。(中略)

 <貿易障壁が裏目に>
ルセフ大統領の景気支援に向けた取り組みは、対象セクターを海外との競争から保護することにもつながっており、ブラジルを中南米地域で孤立させ、一部の多国籍企業の事業計画を困難なものにしている。

ブラジルは今年初め、メキシコとの貿易協定について再交渉し、3年間にわたって同国からの自動車輸入を制限。これが中南米の2大国の関係を冷え込ませた。アルゼンチンとも自動車や他の分野で貿易抑制に向けた措置を取った。
これらの措置に対して海外の関係者の不満は増しており、ブラジルが措置を継続させる場合には世界貿易機関(WTO)が報復的な措置を求める可能性も高まってる。(後略)【7月5日 ロイター】
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極左ゲリラとして拷問を経験したタフな女性でもあるルセフ大統領は、メディアを使って金融機関、官僚、外国企業を攻撃することで国民の不満をかわし、経済の停滞にもかかわらず、政権支持率は上昇しているとのことです。
しかし、借金による個人消費依存や外国企業狙い撃ちのままでは、ブラジル経済の長期的展望はあまり明るくなさそうです。
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