(コロンビアの難民家族 “flickr”より By adrimcm
http://www.flickr.com/photos/99887786@N00/126183660/)
先日、ノルウェー難民委員会という機関から国内難民に関する報告がありました。
****国内避難民は2600万人 スーダン、コロンビア*****
ノルウェー難民委員会は17日、紛争などによる世界の国内避難民が07年末で計2600万人と94年以来の高水準に達したとの推計を発表した。
最も多いのはスーダンの580万人。南米コロンビア400万人、イラク250万人が続く
国内避難民は国境を越える難民と異なり国際支援の手が届きにくい。4月17日 共同】
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スーダン、イラクはわかりますが、コロンビアは?
コロンビアには左翼ゲリラ組織、右翼民兵組織、コカ栽培に関する麻薬組織が存在することは聞いていますが、“あの”イラクをはるかに超える国内難民がいるということは初めて知りました。
コロンビアの人口は約4200万人ですから、10人にひとりが難民状態にあることになります。
日本国内に1割、1200万人の難民が存在するとしたら・・・とんでもない数字です。
なお、国内だけでなく、エクアドル・パナマ・ヴェネズエラへと避難している国外難民も相当数存在しています。
コロンビアにおいては85年以降、政府対左翼ゲリラ、左翼ゲリラ対右翼民兵組織の抗争が国内各地で頻発していました。
さらに90年代初頭の大規模麻薬カルテルの消滅により、左翼ゲリラ及び右翼民兵組織が麻薬を資金源として勢力を拡大したため、紛争が激化した経緯があります。
このため各紛争地域で危険にさらされている農民を中心とした人々は避難を強いられ、周辺都市へと避難しました。紛争終結後も紛争への恐怖心が消えなかったこと及び、農地家屋を紛争によって失ったことから農村部に帰還しない場合が多いため、多くの国内避難民が発生したようです。【外務省資料】
この結果、都市部での生活環境の悪化が進行し、貧困に苦しむ人々の中から“生きる手段”として、麻薬組織や武装組織に関与する者が生まれてくるという悪循環があります。
もともとコロンビアは豊富な石油・天然ガスが存在し、石炭・金などの天然資源にも恵まれた国です。
文化・教育水準も高いと言われており、60年代以降他の中南米諸国が軍政化したなかで、自由選挙に基づく民主体制を堅持してきた数少ない国のひとつです。
コロンビアの国民1人当たりのGNI(国民総所得)は2290ドル(2006年、世銀)で「中高所得国」に分類される水準にあります。
しかし、2006年の『人間開発報告書』によればジニ係数は0.586で、世界9番目に所得格差のある国となっています。
また、人口の1%が土地の50%を所有しているとも言われます。
このような不平等が、激しい左右武装組織の対立、麻薬問題の背景に存在しています。
2002年にスタートしたウリベ政権は「治安の回復」を第一に掲げ、そのうえで「経済成長と社会開発」「汚職・腐敗の撲滅」をはかる“強い政府”を目指しました。
80年代から歴代政権が左翼ゲリラ組織と続けてきた和平交渉が90年代後半に頓挫したことが背景にありますが、ウリベ大統領の父親が左翼ゲリラの犠牲者であることも影響しているかも。
ウリベ大統領は「戦争税」と呼ばれる増税を行い、これをもとに国防・治安関連の予算・人員を大幅に拡大、ゲリラ組織への強硬路線を進めました。
(コロンビア-第2期ウリベ政権の課題 幡谷則子 http://www.ide.go.jp/Japanese/Publish/Latin/pdf/230204.pdf)
その結果、以前は全土の3分の1の地域を実効支配していた左翼ゲリラ組織“コロンビア革命軍”(FARC)はベネズエラ国境付近、南西部ジャングル地帯に追い込まれており、人員もかつての1万8千人から、今は1万人を割る状態に弱体化しているとも言われています。
もうひとつの北部を活動拠点とする左翼ゲリラ組織“民族解放軍”(ELN)も、6500人ほどから3500人ほどへ減少しており、政府と断続的な交渉が続けられています。
コロンビアでは既得権益層を代表する強固な二大政党間で政権が担われてきたため、左翼政党が育たず、社会への不満が左翼ゲリラ組織に流れた経緯もあるようです。
06年5月の大統領選挙で、ウリベ大統領は再選禁止規定を撤廃して出馬し再選を果たしましたが、この選挙で左派グループを集めた「新しい民主極」(PDA)のガビリア候補が22%を獲得し次点につけました。
こうした左派政党が育つことも、左翼ゲリラ勢力からの政治的受け皿として必要なことかと思われます。
70年代にはコカ栽培地域を支配する左翼ゲリラ組織とコカイン生産・密輸を行う麻薬カルテルは協調関係にあったようですが、80年代半ばになると麻薬カルテルは農場・農家に直接投資して栽培現場に乗り出すようになり、左翼ゲリラと対立関係が生まれました。
このため、政府のコントロールが及ばない地域での左翼ゲリラからの自衛組織として、右翼民兵組織が麻薬組織・企業・地主層によって育成されました。
94年には政府により合法化され、こうした右派準軍事組織の連合体として“コロンビア自衛組織連合”(AUC)が結成されました。
コロンビアでは何万人もの民間人が拷問を受けたり、誘拐されたり、失踪しています。
これらの人権侵害の大部分は、政府軍の後押しを受けた右派準軍組織により、ゲリラの家族・協力者への対応として犯されたものとの批判があります。
ウベリ政権はこのAUC傘下の準軍事組織と交渉、集団武装放棄を進めています。
このことは社会の安定化に寄与するものと思われますが、一方で“過去の重大な人権侵害行為が不問に付されたばかりでなく、武装解除後も治安要員への再雇用やその通報者として、実質的にはこれまでと同様の活動を続けているにすぎない。”との批判もあります。
左翼ゲリラ組織にしても右派準軍事組織にしても、それらが基盤としているのはコカ栽培から得られる資金です。
農家のコカ栽培を保護(政府軍からの保護、共同体の規則遵守を担保し違反者の逮捕など)するかわりに税金や警護料を取り立てます。
FARCはその収入の60%が麻薬関連であり、“麻薬ゲリラ”とも呼ばれているとか。
(麻薬の国-コロンビア 藤木佳代子 http://www.clb.law.mita.keio.ac.jp/izuokazemi/study/pdf/fujiki.pdf)
このコカ栽培撲滅を柱にした社会再生計画が「プラン・コロンビア」として、パストラーナ前大統領時代の99年から実施されています。
このプランは、コロンビアが南米では数少ない親米政権であること、地政学的にアメリカにとって重要な位置を占める国であること、アメリカ国内向けに“コカイン対策に努力している”ことをアピールする必要があることなどを背景に、コカイン最終消費地のアメリカの全面的支援のもとで行われています。
そのコカ栽培撲滅作戦が“農薬の空中散布”です。
ベトナム戦争の枯葉剤散布を思い起こさせるもので、当然ながら人体及び環境への影響を指摘する批判があります。
また、農薬空中散布はコカだけでなく、他の合法的作物をも壊滅させ、農民を困窮させ難民化し、左翼ゲリラへ追いやるだけだとの批判もあります。
また、いくら散布しても、栽培地域が移動するだけで、栽培は減少していないとの批判もあります。
プラン実施でコカ栽培面積が減ったとする数字、逆に増えているとする数字、両方あってその効果判定はよくわかりません。
第2期ウリベ政権は“第二プラン・コロンビア”へと計画を引き継いでいます。
国内難民対策はこれまでその対策が遅れてきましたが、今後についても厳しい状況にあります。
先ずは、国内治安の回復が大前提になります。
紛争が続く限り、新たな難民が発生しますし、これまでの難民の故郷への帰還もできません。
その治安回復には、紛争の加害者の社会復帰という側面もあり、被害者と加害者の和解も必要になります。
更に、社会・経済を規定しているコカ栽培・コカイン製造に対する対策も併せて行っていく必要もあります。
コロンビア社会の根底にある格差・不平等、貧困の対策も必要です
ウリベ政権のもとで経済は比較的好調に推移していますが、コカ栽培から脱してグローバル経済の中でやっていくことのコロンビア経済に与える影響もこれからの問題です。