周知のように、2月24日のキューバ人民権力全国会議で、59年1月の革命以来キューバの実権を担ってきたフィデル・カストロ前国家評議会議長が退き、実弟のラウル氏が新たな国家評議会議長に選出されました。
06年7月末に手術を受けたカストロ前議長は最高指導者権限をラウル第1副議長に暫定委譲していましたので、既定方針どおりの交代で特段の混乱はなかったようです。
年齢的に見て、次世代につなぐ暫定政権と見られていますが、ナンバー2の副議長にも同じ革命世代のマチャド氏が選出され、また、カストロ前議長を「相談役」に据えて、基本的には従来路線を継承する方針が採られています。
ただ、社会主義体制の維持を条件にしながらも、ラウル新議長は米国との対話姿勢を示しており、また、前議長に比べ現実主義的とされ、特に経済分野で柔軟な政策を推進しています。
このため、新政権は緩やかな変革を志向するとも見られています。
そんな変化が少しずつキューバ社会にも現れているようです。
政治的には、2月28日、66年の国連総会で採択された「市民的及び政治的権利に関する国際規約(ICCPR)」と「経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約(ICESCR)」に署名しました。
これまでは、米国の圧力に屈することを意味するとして署名を拒否していたもので、40年以上にわたる方針の転換となりました。
市民生活でみると、一般市民への販売が制限されていたパソコンやDVDプレーヤーのほか、炊飯器や電子レンジなどの生活家電などの販売が自由化されました。
「電力事情の改善」が理由にされています。
ラウル新議長はこれまでの演説で「キューバには禁止事項や法規制が多すぎる」(昨年12月の国会演説)と述べており、就任演説でも規制緩和を公約していましたので、その線に沿った改革と思われます。
そのほか、これまで禁止されていたキューバ市民の観光客用高級ホテル宿泊も解禁になりました。
ただし、キューバの平均月給は平均400キューバ・ペソ(17ドル)であるのに対し、インターネット接続については特定セクターに制限され、月額200ドルかかるそうです。
また、ホテルの1泊料金は70-100CUCペソ(1CUC=25ペソ=1・25ドル)であるため、一般市民にはまだ高嶺の花です。
それでもキューバ国民の権利が認められたとして、市民には歓迎されているようです。
電化製品の購入も市民は検討し始めているとか。
小規模農家に対する土地貸出の適用拡大も政府では検討されています。【4月11日 IPS】
カストロ・キューバの評価は立場によって分かれるところです。
アメリカにとっては自国の裏庭に刺さった棘で、61年に国交断絶して以来、歴代のアメリカ大統領はキューバの孤立化策を敷いてきました。
ブッシュ大統領は05年1月の一般教書演説でキューバを北朝鮮やイランとともに「圧政国家」と名指しし、対決路線を強めてきました。
今回のカストロ引退に際して、ブッシュ大統領は「カストロ(議長)の交代は民主化への移行期の始まりであるべきだ」と述べ、キューバ民主化への期待を表明していましたが、その後、キューバを「熱帯の強制収容所」と厳しく非難し、また、2月の政権交代を「独裁者が入れ替わっただけ」と糾弾。
「米国が対キューバ政策を変えるときが来たと多くの人が考えたかもしれないが、変わるべきはキューバだ」と語り、経済封鎖を緩和する考えがないこと明らかにしています。【3月9日 毎日】
アメリカの経済制裁も影響して、キューバ経済は物資が不足した状態が続いています。
世界中どこでも見られる現象ですが、このような物資不足を埋めるように中国との貿易が急速に拡大し、その影響が強くなっているようです。
近年の中国との関係強化も、ラウル氏の方針によるものと言われています。
なお、キューバ社会主義のもとでは、物資は不足していますが、医療や教育は無料で受けられます。
カストロ等キューバ指導者が国民の意思を抑圧した“独裁者”かどうか・・・。
フロリダへ亡命した自由主義者たちにとっては、カストロは“悪魔”でしょう。
カストロは、すべての国民に最低限の衣食住を保証し、平等な社会をつくることを最優先にしてきた訳ですが、その社会で許されている表現・行動の自由は、確かに欧米・日本のそれとは差があるのは事実でしょう。
【カストロ兄弟が別々に居住している住居は、警備こそ厳重であるが、通常の住宅である。旧ソ連・東欧諸国の指導者の贅沢とは比較すべくもない。また、要人が使用している車を見ると、カストロ首相こそ数十年前に寄贈されたベンツを使用しているが、ラウル・カストロの車はソ連製ボルガである。他の党・政府高官は一般国民と同様、クーラーもないソ連車ラーダを使用している。ラヘ官房長官は、日曜日など、子息といっしょに自転車で工場現場を視察に訪れる。ロバイナ外相は外務省まで通常自転車通勤である。ましてや某国のように、黒塗りのベンツが走ってきたら立ち止まって最敬礼をするように教育をされたりはしない。(中略)
食料品についても同じことがいえる。大使館公邸に来る政治局員や閣僚に対して著者は「失礼ですが、閣下のお宅では食料品をどこで購入されますか」と聞くことにしていた。「一般の人たちと同じ場所で、配給手帳で買います。近所の人たちが証人です」との答えが返ってくる。】(宮本信生『カストロ』1996、中公新書。氏は元駐キューバ大使)
“平等”という理想に対してはかなり忠実で、“独裁者”と言う言葉の持つ“国民を力で押さえ込み私腹を肥やす”といったイメージではないようです。
キューバ社会における政治的弾圧などについては全く情報を持ち合わせていませんので、キューバ社会の評価については語るべきことはありませんが、キューバより“不正な”“独裁的な”国家は世界中に溢れているようにも見えます。
アメリカの経済制裁については、国際社会からは、「やり過ぎ」との批判が上がっています。
冷戦が崩壊し、キューバ社会主義体制の「脅威」が縮小したことが背景にありますが、国連総会は繰り返し制裁緩和を求める決議を採択しています。
アメリカ国内でも議会・民主党を中心にキューバとの対話や制裁緩和を求める声が出ているそうで、米大統領選の民主党指名争いを続けるオバマ上院議員は、強権体制の指導者とも対話する「関与政策」を表明しています。
このような動きが、よけいにブッシュ大統領を苛立たせている訳ですが。
カストロが引退し、ブッシュ大統領も退けば、アメリカ・キューバ関係も変化するかも。
また、そのような関係変化、また国内での変革の動きによって、キューバ社会自体が今後更に変化することも考えられます。
そのときカストロの“理想”は?
06年7月末に手術を受けたカストロ前議長は最高指導者権限をラウル第1副議長に暫定委譲していましたので、既定方針どおりの交代で特段の混乱はなかったようです。
年齢的に見て、次世代につなぐ暫定政権と見られていますが、ナンバー2の副議長にも同じ革命世代のマチャド氏が選出され、また、カストロ前議長を「相談役」に据えて、基本的には従来路線を継承する方針が採られています。
ただ、社会主義体制の維持を条件にしながらも、ラウル新議長は米国との対話姿勢を示しており、また、前議長に比べ現実主義的とされ、特に経済分野で柔軟な政策を推進しています。
このため、新政権は緩やかな変革を志向するとも見られています。
そんな変化が少しずつキューバ社会にも現れているようです。
政治的には、2月28日、66年の国連総会で採択された「市民的及び政治的権利に関する国際規約(ICCPR)」と「経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約(ICESCR)」に署名しました。
これまでは、米国の圧力に屈することを意味するとして署名を拒否していたもので、40年以上にわたる方針の転換となりました。
市民生活でみると、一般市民への販売が制限されていたパソコンやDVDプレーヤーのほか、炊飯器や電子レンジなどの生活家電などの販売が自由化されました。
「電力事情の改善」が理由にされています。
ラウル新議長はこれまでの演説で「キューバには禁止事項や法規制が多すぎる」(昨年12月の国会演説)と述べており、就任演説でも規制緩和を公約していましたので、その線に沿った改革と思われます。
そのほか、これまで禁止されていたキューバ市民の観光客用高級ホテル宿泊も解禁になりました。
ただし、キューバの平均月給は平均400キューバ・ペソ(17ドル)であるのに対し、インターネット接続については特定セクターに制限され、月額200ドルかかるそうです。
また、ホテルの1泊料金は70-100CUCペソ(1CUC=25ペソ=1・25ドル)であるため、一般市民にはまだ高嶺の花です。
それでもキューバ国民の権利が認められたとして、市民には歓迎されているようです。
電化製品の購入も市民は検討し始めているとか。
小規模農家に対する土地貸出の適用拡大も政府では検討されています。【4月11日 IPS】
カストロ・キューバの評価は立場によって分かれるところです。
アメリカにとっては自国の裏庭に刺さった棘で、61年に国交断絶して以来、歴代のアメリカ大統領はキューバの孤立化策を敷いてきました。
ブッシュ大統領は05年1月の一般教書演説でキューバを北朝鮮やイランとともに「圧政国家」と名指しし、対決路線を強めてきました。
今回のカストロ引退に際して、ブッシュ大統領は「カストロ(議長)の交代は民主化への移行期の始まりであるべきだ」と述べ、キューバ民主化への期待を表明していましたが、その後、キューバを「熱帯の強制収容所」と厳しく非難し、また、2月の政権交代を「独裁者が入れ替わっただけ」と糾弾。
「米国が対キューバ政策を変えるときが来たと多くの人が考えたかもしれないが、変わるべきはキューバだ」と語り、経済封鎖を緩和する考えがないこと明らかにしています。【3月9日 毎日】
アメリカの経済制裁も影響して、キューバ経済は物資が不足した状態が続いています。
世界中どこでも見られる現象ですが、このような物資不足を埋めるように中国との貿易が急速に拡大し、その影響が強くなっているようです。
近年の中国との関係強化も、ラウル氏の方針によるものと言われています。
なお、キューバ社会主義のもとでは、物資は不足していますが、医療や教育は無料で受けられます。
カストロ等キューバ指導者が国民の意思を抑圧した“独裁者”かどうか・・・。
フロリダへ亡命した自由主義者たちにとっては、カストロは“悪魔”でしょう。
カストロは、すべての国民に最低限の衣食住を保証し、平等な社会をつくることを最優先にしてきた訳ですが、その社会で許されている表現・行動の自由は、確かに欧米・日本のそれとは差があるのは事実でしょう。
【カストロ兄弟が別々に居住している住居は、警備こそ厳重であるが、通常の住宅である。旧ソ連・東欧諸国の指導者の贅沢とは比較すべくもない。また、要人が使用している車を見ると、カストロ首相こそ数十年前に寄贈されたベンツを使用しているが、ラウル・カストロの車はソ連製ボルガである。他の党・政府高官は一般国民と同様、クーラーもないソ連車ラーダを使用している。ラヘ官房長官は、日曜日など、子息といっしょに自転車で工場現場を視察に訪れる。ロバイナ外相は外務省まで通常自転車通勤である。ましてや某国のように、黒塗りのベンツが走ってきたら立ち止まって最敬礼をするように教育をされたりはしない。(中略)
食料品についても同じことがいえる。大使館公邸に来る政治局員や閣僚に対して著者は「失礼ですが、閣下のお宅では食料品をどこで購入されますか」と聞くことにしていた。「一般の人たちと同じ場所で、配給手帳で買います。近所の人たちが証人です」との答えが返ってくる。】(宮本信生『カストロ』1996、中公新書。氏は元駐キューバ大使)
“平等”という理想に対してはかなり忠実で、“独裁者”と言う言葉の持つ“国民を力で押さえ込み私腹を肥やす”といったイメージではないようです。
キューバ社会における政治的弾圧などについては全く情報を持ち合わせていませんので、キューバ社会の評価については語るべきことはありませんが、キューバより“不正な”“独裁的な”国家は世界中に溢れているようにも見えます。
アメリカの経済制裁については、国際社会からは、「やり過ぎ」との批判が上がっています。
冷戦が崩壊し、キューバ社会主義体制の「脅威」が縮小したことが背景にありますが、国連総会は繰り返し制裁緩和を求める決議を採択しています。
アメリカ国内でも議会・民主党を中心にキューバとの対話や制裁緩和を求める声が出ているそうで、米大統領選の民主党指名争いを続けるオバマ上院議員は、強権体制の指導者とも対話する「関与政策」を表明しています。
このような動きが、よけいにブッシュ大統領を苛立たせている訳ですが。
カストロが引退し、ブッシュ大統領も退けば、アメリカ・キューバ関係も変化するかも。
また、そのような関係変化、また国内での変革の動きによって、キューバ社会自体が今後更に変化することも考えられます。
そのときカストロの“理想”は?